感想100件ありがとうございます記念、1日2話投稿です
『む、むむむ! 大吉ですっ! ラッキーアイテムは、一番親しい女性! 運命的な幸運が舞い降りるでしょう……』
『救いはあるのですね~!』
人物をアイテム扱いしていいのかは謎だけれども。
なんとなく気になって受けてみたが、運命的な何かを感じる。
『もしかして、福引とかも……?』
『それが運命ならば――――勝ちます! たぶん』
そんなこんなでスズカを誘った。
「スズカー、ちょっと買い物に付き合ってくれ」
「はいっ。帰り道に寄りますか? それとも帰ってから…?」
いやまあ確かに制服の女子を連れまわすのはよろしくないが、福引に行くだけなので大丈夫だろう。
「商店街までだし、そのままでいいよ」
「? じゃあ帰りにご飯作りますね」
そんなこんなでやってきました商店街。
いつも来ているだけあって、有名人のスズカは口々に声を掛けられている。
「おや、ワキちゃん。今日は旦那さんとデートかい!? いい鰻が入ってるよ、精が付くやつ!」
「おばさん……そうですね、お兄さんには元気でいてほしいですし」
ちょっと恥ずかしそうなスズカの反応に、ヒューヒューと無駄に囃し立てられる。
それうまぴょい的な意味と、夏バテ的な意味ですれ違ってない…?
「じゃあその、鰻を……」
「はいよ、サービスしとくからね! あとこれ、福引券。ペアの温泉旅行もあるから、沢山買って引き当てて、旦那をしっかり捕まえとくんだよ! まだ出てないからね、今がチャンスだと思うわよ!」
「あんたたち、ワキちゃんに精の付くものと福引券を!」
「おうとも! ほら小僧、財布出せ!」
俺の扱い雑じゃない…? と思うが、まあスズカは可愛いので仕方なし。
スズカのお陰で財布も潤ってるので、特に文句もなく支払っていく。なんか普通よりかなり盛って福引券を渡されてる気がする。
「温泉……」
ちらり、と上目遣いに窺ってくるスズカ。だが実は狙い通り。
「三冠のお祝いにいいかもな、温泉」
「………いいんですかっ」
そんなわけでけっこうな枚数の福引券を押し付けられ。
下手な鉄砲なんとやら。いくつかのティッシュを受け取った後、転がり出てきた金の玉に盛大にベルが鳴った。
「………み、耳が……」
「大当たり~! 野郎ども、ワキちゃんが当てたぞ~!」
「っしゃあ、小僧を胴上げするぞ!」
「ちゃんと部屋の温泉つきにしといたからね!」
「いやー、まさか本当に当てるとはなー」
「おら年貢の納め時だぞ!」
「ワキちゃん泣かせたら東京湾に沈めるからな」
騒ぎが大きくてよく聞こえなかったが、何か凄いこと言ってる人もいたような…。
で、宣伝のために写真が撮られ。
何故かスズカのサインが特賞の代わりの目玉として設置されることになった。ある意味温泉よりも宣伝効果あるかもしれない…。
………
……
…
チームリギルの合宿場――――それは海辺にあるリゾートホテルである。
三冠ウマ娘を擁するチームリギル、そして国民的エンターテインメントであるトゥインクルシリーズの中心たる中央トレセン学園ならではだろうか。
そこに行くまでには、メンバーが多いこともあり観光バスで行くのだが。
当然のように隣り合わせで座っているスズカがおり。おハナさんは諦観の籠った目で言った。
「ちょっと、完全に負けてるじゃない」
「いやその、ははは」
だって、なんか大人の女性と並んで座ると緊張しない? しないか……。
おハナさんもなんやかんや美人なので、正直ワキちゃんの方が気楽だったりするのである。別にワキちゃんがいないとなんとなく寂しいとかそういうわけではない、はず。
「お兄さんの隣は譲りません…!」
「ドヤるな」
が、正直言われて嬉しくないわけではない。
なんとなく肩に寄りかかってきてご満悦なスズカのシートベルトをちゃんと締めてやる。
「ほら、もし万が一事故でもあったら困るからな」
「……はい」
「あの、お兄さん」
ちょい、ちょい、と手で裾を引っ張ってくるのは手を繋いでほしいアピールか。
しょうがないので手を繋ぐと、安心したのかすぐに眠りに落ちた。
――――――――――――――――――
というわけで、俺以外はスク水に着替えて集合。
さて、アニメでスピカトレーナーこと沖野Tが海で全然海が関係ないトレーニングをさせているシーンがあったがあれもまあ全く間違っているわけではないと思う。
そもそも砂浜は全く芝と状態が違うので、まず慣れることが大切であり。そのためにはあえて普段通りの動きをしてみて差を感じてもらうというわけだ。
「――――というわけで、これが目標タイムだ」
持ってきたホワイトボードに描かれたのは、三段階の目標タイム。
それぞれ「これくらいはできてほしいタイム」「できたら満足なタイム」「高めの目標タイム」の三つだ。
おハナさんに一部指導を委任されたのは、スズカの他にタイキとグラス。お目付け役としてシンボリルドルフも加えた超豪華メンバーである。短距離から長距離まで制圧できそう。
「砂浜を目標タイムでクリアできたら、ご褒美がある。まずこれ、罰ゲーム回避。その上のタイムまでクリアしたらスイーツバイキング参加。更に上のまでできたら夏祭りに連れて行ってやる」
「夏祭り……」
「スイーツ……」
「罰ゲーム、ですか」
一応、クラシックとジュニアで目標タイムは分けてある。
罰ゲームはとても健康にいいクソまずドリンクことロイヤルビタージュースである。
「お兄さん」
「なんだスズカ」
「浴衣……」
「貸し出しあるらしいぞ」
さっそくやる気になったらしいスズカは軽く足元を確かめ、何度か左旋回してからビーチサンダルを脱いで裸足になる。
……脚細いなー。しかし張りがいい。ガラスの脚と言われるだけあって芸術品のようである。つい視線がスズカの脚に向いてしまうが、どこぞの妖怪トモ撫でトレーナーよりは無害だと思いたい。
「お兄さん」
「……な、なんだ?」
「触りますか?」
「…………触んねーよ!?」
「そうなんですか? スぺちゃんが、知らないトレーナーさんに脚を触られたって……」
「不審者かな」
「ふむ、厳重に注意しておくとしようか」
既におハナさん繋がりで犯人に心当たりのあるらしいルドルフが怖い。
それでトレーナーは脚を触りたいものだと思ったのか。
まあ怪我した後とかは熱感や腫脹を確認するために触らせてもらうが。脚のマッサージとかやるとなんかこう……うん。なんでウマ娘の脚ってあんな脚力なのにしなやかで柔らかいんだろうね。
というか普通に脚を見ていたのは気づかれていたらしい。
一応、トレーナーとして見ていたのも半分くらいはあるので許してほしい。
「いえ。お兄さんのマッサージはむしろ好きですし……最近してくれないから」
「トレーナーさん! スズカのご褒美に脚のマッサージも追加しまショウ!」
「あらあら」
「いやそれは流石に――――」
「行ってきますね!」
なんとなく顔が赤い気がするスズカが、凄い勢いでカッ飛んで行った。
咄嗟にストップウォッチを作動させると、タイムは既にスイーツバイキング基準までは来ていた。
それを見送ったグラスの目も闘志が燃えている。
「……速い、ですね」
「あれが無敗の二冠ウマ娘だからな。まあ、幼少期から砂で鍛えさせてたし」
「努力の結果……ということですね。私も、行ってまいります」
芝と変わりなく爆走するタイキシャトルがいきなり目標タイムを全クリアするのを見送ってから、グラスも走る。砂に脚を取られて加速が得られていないし、足趾のグリップもまだ弱い。
「逆説的に、まだまだ伸びしろがあるってところだな」
末恐ろしい。これが栗毛の怪物。
ハイペースの維持と、そこから何故か繰り出されるハイレベルな末脚が特徴的なスズカと比べてすさまじい切れ味の末脚に特化した走り。
グラスの特色である徹底マークと組み合わせれば大抵の相手は成すすべなく切り払われるだろう。
怪我さえなければ毎日王冠で、エルコンドルパサーと共にスズカに追従できるかもしれない。
と、凄まじくスズカ贔屓な自分を自覚してため息を一つ。トレーナーとしてはきちんと平等に見なくては。
「でもなぁ、ホントはワキちゃんでサイレンススズカに勝つつもりだったし……」
見知らぬ原石のウマ娘を育てて本人に勝つつもりだったので、割と笑えない黒歴史である。若さゆえの過ち。サイレンススズカ並の逸材というかサイレンススズカなんだよ。
ともかく三冠、菊花賞の長距離は未知の道のりという他にない。
いつもの中距離よりは抑えたペースになってしまうので他のウマ娘に競りかけられたらピンチだし、あの時のフクキタルは本当に強い。
幸いにも砂浜なら比較的脚への負担も少ない。
疲れるまで走らせてから、次は波打ち際。水の抵抗を存分に感じてもらいつつ推進力を鍛えてもらう。
今日はもう午後なので、あまり練習時間は取れないがそれでもがっつりと鍛えさせて貰おう。
もちろん水分補給は大事なのでリギル特製スポーツドリンクも用意しておく。
そうして夕食前まで徹底的にトレーニングし、バテて動けなくなったタイキとグラスにロイヤルビタージュースを与えて復活させ。
二人が飲まされる姿に何を思ったのか、スズカも動けなくなったフリでビタードリンクを飲むなんてこともあったが、とりあえず元気そうである。
――――――――――――――――――――――
「――――お兄さん、遊びに来ちゃいました」
そんなわけで、夕食後。
風呂上りのスズカが浴衣で押しかけてきた。
一応、消灯時間までは一緒にいるという約束だったので仕方なくドアのチェーンを開けるとこんな場所でもプレゼントした尻尾リンスは使っているらしいスズカの香りになんとなく気恥ずかしくなる。
「お兄さん、仕事ですか?」
「そう。タイムまとめて今日の反省点から明日のメニューの調整をな」
パソコンでちゃんと管理しておかないと、しっかり効果が出ているのか判別が難しい。間違ったトレーニングを続けるリスクを減らすためにも大事なことだ。
「コーヒー、買ってきますね」
「……ありがと。財布やるから何か好きなの買ってこい」
「はい」
そんなわけでスズカのタイムに満足したり、タイキの万能っぷりに戦慄したり、徐々に良くなっているグラスのタイムに手ごたえを感じていると急に耳元に吐息が。
「お兄さん、好き―――なコーヒーありましたよ」
「お、おう」
多分ウマ耳があったらバレているくらいには破壊力がありすぎる。
そういえばさっき部屋に入れたので鍵を持って行ったのだろう。
しっかりいつも飲んでるコーヒー、ついでにあったかい方なのによく見てるなと感心する――――んん?
スズカが手に持っている派手派手しいピンクの缶のジュースには、『うまぴょいドリンク』なる謎の名前が。
「ちょっと待て、ワキちゃん」
「はい?」
「なにそれ」
「うまぴょいドリンク……みたいです」
みなぎる活力! 精力芝4000! ノンカフェイン! 精力剤だコレ!?
一体何の自販機で売っていたのか。というかなんでそんな怪しい自販機がこんな立派なホテルに!? 完全に名前で買ったな、と半目でワキちゃんを見るが。
「ホテルにお兄さんの好きなコーヒーが無かったので、昼間見かけた隣の民宿の前の自販機から買ってきました」
「……今夜だから、次外に出るときは必ず呼ぶように」
俺のせいでした。
「変な人がいたら逃げ切りますけど……」
「ワキちゃんはもうちょっと自分が美人なことに自覚持とうな」
熱心かつ執念深い変態がいてもおかしくはない。
変態なら対ウマ娘に特化した変態もいるかもしれないし。
そこはかとなく納得してなさそうなので、もう一押し。
「一緒に歩くのが嫌なら別にいいけど」
「お兄さんと外の景色見たいです」
「じゃあ明日な」
「はい……」
カシュっ、とちょっと忘れかけていたうまぴょいドリンクの音。
瞬間、スズカが鼻を押さえて急激にバックした。
「――――!? お、お兄さん、くひゃいです……」
「あ、うん。そうかもな」
成分表記を見るとずいぶん色々入ってるみたいだし。
えーと、何々。絶対負けない夜のレースを走りぬく活力。ナイターで長距離レースはないと思うよ。
激臭で鼻がやられたのか、勝手に俺の荷物に顔を突っ込んですーはーしているワキちゃんはともかく、この劇物はどうしたものか。
なんとなく、捨てるのは駄目という一般常識が俺たちにはあった。
死にそうな顔で人のバックに入ってたティッシュを鼻に詰めて飲む準備をしようとするスズカに、仕方なく一気で飲み干す。
こんな味わいはー、はーじめてー…。
ロイヤルビタージュース並のゲロマズ具合にやる気が下がった。そして無駄に身体の底から湧き上がってくる元気的なもの。
「よし、結果オーライ。これなら仕事は捗る」
「お兄さん……」
申し訳なさそうなスズカが気にしないよう、努めて明るい声でパソコンに向かい。さりげなくコーヒーを飲んで口直し―――――いやこれ飲み合わせ悪いな!?
ぐつぐつと燃えるような熱を仕事に昇華させ、目とかがギンギンになったのを意識しないように……と、ふいにさらさらした尻尾が鼻の前に。
「その、せめて臭いだけでも……」
「……あ、ありがとな!」
尻尾リンスの香り……爽やかなハーブ系のそれに合わせて、何故かちょっと甘い匂いがするような気がする。
掛かってしまっているかもしれません。
少し息を入れるタイミングがあればいいのですが。
「お、お兄さん? 何だか顔色が……少し休んだ方が」
「いや元気が有り余ってるんだ、ここはやっぱり仕事しかない」
鋼の意志、鋼の意志…ッ!
なんとしてでも目的を、この娘をあらゆる困難から守って夢を叶えさせる。それが、この娘に夢をもらった俺の返せるものだ。
ライスのお兄さまさん、カレンのお兄ちゃんさん、俺に意志を貫く力を――――ッ!
「……あの、本当に大丈夫ですか…? お兄さん、やっぱり横になった方が」
「いや、急にトイレに行きたくなった」
気が付くと俺は、スズカの尻尾の匂いをすーはーしていた。
超能力とか、そんなチャチなものじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…。
ので、トイレに行った。
あの謎ドリンクが悪かったのか、それともコーヒーと一緒に飲んだのがダメだったのか。
そうして少しすっきりした俺は、部屋に戻ると何故かベッドでスタンバイしているスズカに気づいた。
「お兄さん、消灯時間ですね」
「ん? ああ、約束の時間だな」
消灯時間まで一緒にいる。そういう約束である。
………なんで残ってるのかな?
「消灯時間なので、帰れません」
「…………ァァン?」
わざとドスドスと足音を立てて近寄ると、自信ありげだったスズカの耳がへにょりと萎れる。
「か え れ」
「そんな………私、眠れないです」
「俺が眠れないから帰れ」
「………私、そんなに寝相悪いですか…?」
いや、悪くはないけど。ウマ娘が寝相悪かったら一緒に寝たやつ死ぬぞ。
「俺、教師。お前生徒。さあ帰れ」
「で、でも――――」
ぴんぽーん。
部屋のベルが鳴った。
思わず凍り付いた俺は、そういえば消灯時間後に軽くおハナさんと明日のメニューだけ確認する約束をしていたこと思い出し。
咄嗟にスズカをベッドに、布団の中に押し込むのだった。