「うーん、誕生日かぁ……」
さて、誕生日。
生まれて来てくれてありがとう、という気持ちを伝える日である。
馬のサイレンススズカがいたから見られた夢がある。ウマ娘のサイレンススズカさんがいたから楽しくなった日々が、知ることのできた熱いレースがある。
ワキちゃんがいてくれたから、こうして共に夢を見て、叶えて、見ることのできた最高の景色がある。
それはもう盛大に、魂を込めて祝いまくりたいところなのだが――――。
誕生日プレゼントで大事なのは何か?
気持ち、思い出、まあ色々あるわけだが。
――――一番嬉しいのは、もちろん喜んでもらえること。
何渡しても喜んでくれるんじゃね? という疑問はある。あるが――――でもどっかのスズカさんみたいにコンビニ袋で「ガムと充電器と……あと塩コショウ」とかやったら流石のワキちゃんでも困るのでは? あれは相手がフクキタルだから許されたのである(許されたとは言っていない)。
じゃあ好きなもの渡せば? という話なのだが、まず好きなことは走ることなのでそれ関係――――靴はいつも使ってるお気に入りのメーカーがスポンサーで送り付けてくるし、アクセサリー系は走るのに邪魔なので指輪以外付けそうにない。
スポーツウェアとかタオル………うーん、まあ実用的だが新婚の嫁へのプレゼントとしては疑問符がつく。エアグルーヴあたりがくれるし。
好物でいうとイチゴ大福だが、それはもう誕生日に毎年イチゴ大福を手作りしているので別腹である。
というか以前と比べるとスポンサーが桁違いだし、そもそも頭サイレンススズカなだけあって走っていれば満足なのであんまり物欲もない。
悩ましい……しかしベストを尽くしたい。
つまり――――足で稼ぐか!
「えー、スズカへのプレゼントぉ? ……トレーナーが渡せばなんでも喜ぶでしょ?」
「だってテイオーならブランドの紅茶とか詳しそうだし……センスも抜群なんだろうなぁ。なんてったってあの圧倒的な(ダジャレの)センスを誇る皇帝を継ぐ帝王だし」
というわけで、スぺちゃんに頼んでスズカの面倒を見てもらって……スぺちゃんの面倒を見てもらって? いる間にやってきましたトレセン学園トレーナー室。
ここはやはり頼りになるテイオーだろう。
アヤベはふわふわジャンキーだし、ゼファーは風マニア、カフェはコーヒー党でスズカは苦いものそんなに好きじゃないし、グラスは……なんかほら、微妙にズレた和風を提示してきそうな偏見が……。
「ま、まぁねー。分かってるじゃん! しょーがない。ここはプレゼント選びでも最強無敵のテイオー様が一肌脱いであげちゃうもんね!」
「おおー(ぱちぱち)」
―――――(移動中)
「まあここは無難にハンドクリームとかじゃない?」
「ああー、消えものは安心感あるよなぁ」
アクセサリーとかは重たい感じするし……いやワキちゃんが重たさとか気にするかと言われたらノーだけど。
「何でも喜ぶのに何渡したらいいか悩むって、要するに自信が無くて不安なんでしょ? じゃあトレーナーが安心して渡せるのがいいよね」
「テイオーお前……やっぱ天才はいるな、悔しいが」
たくさんの瓶が並んだ店内でも自信満々、さすがはテイオー。
なんなら即座に選び取ったりできそうなくらいに見えるが、たぶんそこは空気を読んでやってくれなさそうである。
「で、スズカの好きな匂いわかる?」
「え? うーん、落ち着いた匂いの方が好きそうなんだよなぁ……芝の香り?」
「好きそうだけど! 好きそうだけど、もうちょっとこうおしゃれな感じの無いの? あ、そういえば尻尾リンスいっつも同じのだけどトレーナーがあげたやつ?」
「……そうかも?」
「もうちょっと種類あげれば? すっかりスズカの匂いだなーって感じだけど、みんな季節で使い分けくらいするよ?」
「………そっかあ」
じゃあこれからのあったかい季節に向けて、涼し気なのをプレゼントするべきか…。
「あるじゃんちょうどいいプレゼント」
「さすがですテイオー様」
そんなわけであっさりプレゼントが決まってしまったので、新品の尻尾リンスの瓶を持ってテイオーにはちみーをかため多め濃いめで奢り。
……うーん、せっかくだし他にも無いだろうか。
――――――――――――
「――――は? 初心者にお勧めのふわふわを教えて欲しい?」
「うん。スズカの誕生日プレゼントにどうかなって」
「じゃあ布団乾燥機を買いましょう。アイリスオー〇マがいいと思うわ」
「誕生日プレゼントだしなんか可愛らしい感じのない?」
「…………仕方ないわね。じゃあこの部屋着メーカーをおすすめしてたわ。カレンさんが」
「うわカワイイ」
ふわふわである。
白いもこもこした部屋着だが、なぜか兎の耳がついたウサ娘部屋着(ウマ耳対応)なるメルヘンでキュートな感じのやつ。
「見た目もふわふわだから、たぶん効果は倍増よ」
「アヤベは持ってるの?」
「私は要らな――――まあ、似合わないから必要ないわ」
「ふーん」
とりあえず一着アヤベにもお礼として送り付けとくか…。
妹ちゃんが喜びそうだし。
――――――――――――――――――
そんなわけで、4月30日の夜――――。
いつもは早寝早起き、独りで寝られないという致命的な弱点こそあるものの規則正しい生活をしているスズカであるが――――何を思ったか遠足直前の子どもみたいにワクワクして寝付く様子もなく。
「――――……あのさ、ワキちゃん。そろそろ寝ない?」
「…………んぅ………あと30分だけ………」
もうほぼ寝てるよね、という具合だが、何を思ったのか首に抱き着いてぐいっと顔を近づけてきて。
「……ぇへへ………おはようの……ちゅ~……」
俺の目は覚めるけども!
肝心のワキちゃんは満足げにそのまま目を閉じたかと思うと、寝息を立て始めた。
「………おやすみ」
まあ誕生日(直前)だし、このくらいは許してあげよう。
伊達に生殺しを何年も食らっていないのである。
…………………
………
…
「――――……いさん。………お兄さん」
ゆさゆさ。
遠慮がちではあるが、容赦なく揺すってくる誰か―――生憎と今生での心当たりは一人しかないのだが。
「起きてください、お兄さん…!」
「…………あと5分」
「んぅ。……お兄さーん。おきてー?」
軽い吐息とともに耳元に声が――――。
ぐわああああ!? 耳がぁぁぁ!? いや脳が!?
あまりの破壊力(いい意味で)に飛び起きると、満足気な顔でワキちゃんはカレンダーを指さした。
「おはようございます、お兄さんっ! 今日、5月1日ですよ」
「誕生日おめでとう……」
言った瞬間抱き着いてきたワキちゃんは、そのまま顔を上向けると目を閉じて唇を尖らせた。
「お兄さん、プレゼント下さい」
プレゼントというかキス待ちだよねこれ。
ほぼ間違いなくスルーしてプレゼントなんて出そうものなら拗ねるのが目に見えてるのでとりあえずハグすると情熱的にそのまま唇を合わせてくるあたり、この子が大人になったのを実感させられる。
「はい、それはそれとしてプレゼントな」
「………んっ…。ありがとうございます、お兄さん!」
受け取った瞬間、尻尾と耳を嬉しそうに動かしてすぐに包みを開け始めるあたりはまだまだお子様なのだが。
「あっ、尻尾リンス。……いい匂い。嬉しいです――――ちゃんと、後で塗ってくださいね?」
「お、おう」
俺が塗るの? と目で問いかけるが微笑みを返された。
………なんだろう。一向に大人っぽくならない俺よりオトナなのでは…?
「あとこれは――――部屋着、かしら?」
「ワキちゃんが着たら可愛いかなって」
「………ふふっ、お兄さんあんまり好みを教えてくれないので嬉しいです」
「え、そう?」
しかしこれを着てるワキちゃんを想像すると……とてもいい。
そんなことを言っているあたり早速着てくれるあたりサービス精神旺盛なワキちゃんである―――めちゃ可愛い!?
スズカって目鼻立ちがクールだけど意外と童顔で可愛らしいからこういうファンシーなのもすごく似合う……めっちゃ似合う……。
「あ、あの……お兄さん?」
ふわふわしている……ついでにスズカの声でもふわふわする……。
「おかしい……ワキちゃんの誕生日のハズなのに俺が幸せになってる気がする……」
「ふふっ。……でも、私の方が幸せですよ?」
正直いつもと大差なくて申し訳ない気もするのだが。
「一緒にいてくれるだけで、いつも幸せですから」
「……うん。まあ、それは俺もだな」
「お兄さんが素直なの、ちょっと不思議な感じですね」
意外とスズカの中の俺の評価って低い…?
いやフクキタルよりは上のハズ………。
「誕生日おめでとう。――――生まれて来てくれてありがとう、スズカ」
買いに行ってたときの話
スズカ「たぶん誕生日プレゼントを買いに行ったと思うの」
スぺちゃん(バレてますよスズカさんのお兄さん!?)
スズカ「普段は寂しいの嫌なんだけど……やっぱり嬉しいわね、プレゼントって」
スぺちゃん(すごい高速で左旋回してますけど!?)
スぺちゃん「そ、そういえば何か欲しいものとかってあるんですか?」
スズカ「うーん……ペアの温泉旅行券、とかかしら…? 後は一日一緒にいてくれる券とか……お兄さんのお布団とか……タオルケットとか」
スぺちゃん(一緒に寝ているのにお布団を…?)
スズカ「寂しい時にこう、被っていると落ち着くというか……」
スぺちゃん「今かぶりましょう! 今! 回転早すぎます!」
思い出になるレース
スズカ「お兄さん、せっかくだからレースをしませんか?」
お兄さん「え。原チャリとかでいい?」
スズカ「いえ。相手はタイキとフクキタル達に頼んでいるので……」
お兄さん「うん?」
スズカ「お兄さんは応援です」
お兄さん「嫌な予感しかしないが!? 何!? 俺はまた叫ばされるの!?」
タイキ「せっかくなのでリギルのみんなも参加デース!」
フクキタル「大勢の参加が吉とでました!」
お兄さん「うそでしょ」