「――――頼む! 一生のお願い! お前が来てくれるなら来るって女の子がいるから!」
「お前それ新婚に頼むことじゃないよね」
――――合コンに来てくれ。
同期の持ってきた頼みへの俺の返事はNO一択であった。
最低限スズカ同伴ならまあ……って感じだが、今日は確か友達と用事があるとか言っていたし。なんてタイミングで頼んでくるんだ。
絶対嫌だという意志が伝わったのだろう、ちょっと顔色悪くなってきた同期はこっそり小声で言った。
「頼むよ……色々言えないけど事情があるんだよ……」
「どんな事情だよ……」
「終わったら全部説明するから!」
「嫌だよ。スズカに妙な誤解されてからじゃ遅い」
「じゃ、じゃあ電話で聞いてみてくれよ! 俺も説明するから!」
……なんか怪しいな、と思いつつスズカに電話すると、すぐに繋がった。しかも妙にご機嫌らしい。いやいつも電話するとご機嫌だけど。うーん…? これは更に怪しい。
『あ、お兄さん。どうしたんですか?』
「いやなんか同期が合コンに来いってしつこいからスズカから『絶対ダメ』って言って欲しいなって」
たっぷり十秒くらい沈黙。
『――――そ、そうなんですか。お食事会ってことですか?』
「……まあそうだな」
『いいですよ。私もちょうどタイキたちと食事に行くので――――』
こ、こいつ……あからさまに話題逸らしやがった…。
何かしらのドッキリだろこれ。と同期を睨むと目線を逸らして下手な口笛を吹いていた。というかスズカ、お前嘘が下手すぎるのでは? 普段なら「合コン……合同コンサート?」とかボケをかましてきてもおかしくないところだぞ。
そんなわけで、あからさまに怪しい合コンに誘われたのだが――――。
「ココットです。――――宜しくお願いするね。ふふっ、こういうの初めてだからすっごく楽しみだったんだー」
おまファインモーション。
なんか変装して大人っぽくしているがよく見るとファインモーションでしかない謎のウマ娘。横を見れば気づいてなさそうなファイトレ。気づけ!?
続いて謎のミステリアスな黒髪美女が、スッと立ち上がると堂々と宣言した。
「――――カルストンライトオ、最速です」
「待って待って待って」
名乗ったぁぁあああ!?
お前それ「トレーナーが合コンで何するのかチェックみたいなドッキリ」じゃないの!?流石のファインモーションも――――いや表面上上品に笑ってるけどちょっと引きつってる!?
「なんですかトレーナー。私はトレーナーが彼女を求めて合コンに参加すると聞いたのでこっそり参加すれば全く恥ずかしくない上にこれは告白チャンスなのでは? とか想像していましたがバレなければ一切問題ありません」
「言ってる言ってる!」
「それでは今夜のレースは任せて下さい。私にかかれば54秒も不要です」
「お願いだから待って!? 最早カンパイ(フライング。スタートやりなおし)だから! 置いていかないで!?」
「分かりました。カンパーイ!」
「速いッ! 飲み物まだ頼んでないよ! というかそっちじゃないよ! フライング!」
濃いなぁ…。
とか思っていると見覚えのありすぎる小柄で上品なウマ娘が――――超特徴的な縦ロールでなくふんわりした髪型で名乗りを上げた。
「――――ハギノです。今宵はどうぞ宜しくお願いいたします」
いやダイイチルビーだよね。
ルビトレが「まるでルビーみたいな凄まじい美少女がいる……もしかして彼女はルビーの親戚なのかもしれない」とか考えてそうな顔してるが気づこう!?
な、なんだこの混沌とした席は……隣のテーブルを見れば超かわいいウマ娘に囲まれて同期がニヤニヤしている。いやもうニチャニチャしている。あいつ……許せん…。いやまあ俺は超美少女な嫁がいるからいいんだけど。
そして最後。
黒髪で、スタイルが良くて、なぜかそれなりに胸があるウマ娘がスズカそっくりな顔で頭を下げた。
「サンデーです。よろしくお願いします」
いや声がスズカなんだけど。
なんなら耳カバーもスズカなんだけど。いや隠せよそこは。多分変えるの嫌がったんだろうけど……。なにこれどういうこと? というかサンデーは隠す気ないよね。
というかこれは――――俺の好みに合わせてきている!?
いや浮気チェックなのかもしれないけど、本人がやるのは反則だよね。
そんなの好きに決まってるじゃん。
自信ありげにニコニコしているワキちゃんだが、そっちがそのつもりならこっちも相応の対処をさせてもらおう。
そんなわけで最早混沌しかないことになった合コンは始まってしまった。
ウマ娘勢は全員お酒が飲めない(年齢)ため、トレーナー勢を煽てて巧みにお酒を飲ませようとしてくる。酔わせて本音を引き出す作戦か…?
「へぇー、それじゃあトレーナー君は外国語の勉強も頑張ってるんだね♪ すごーい!」
「乾杯! さあ飲んでください! 遅い……遅すぎる! そんなことでは話になりませんよトレーナー! 酔いが回り切ったらレースが待っていますのでさあ!」
「では、まず一献」
とりあえずライトオのトレーナーには次水のジョッキを運んでもらうよう店員に頼んでおいて。ファイトレは上手くノせられてもうデレデレと完全に掌握されてるのでもう助からなそう。俺はアイルランド国籍トレーナー(近い将来)と同席しているのかもしれない。
ルビトレは……なんとなくお嬢様オーラ薄めのルビーにデレデレだった。あれはもうダメかも分かんね。まあ幸せならヨシ!
「――――トレーナーさんはお酒、好きですか?」
「それなりに。昔から好きな子がいるけど、最近までその子が恋愛に興味が無くてね。飲まなきゃやってられなかったかな」
「へ、へぇー。そうなんですね……」
「まあ大事な子なんだ」
「……私より、可愛いですか?」
真剣な目だった。
いやまあ、浮気が心配になったんだろうなーとかはわかるんだけど……。
嫁と本人を比較するのはちょっと…。スズカ=サンデーだぞ? どっちが上でもない。
「仕方ないな、ならこちらも語らねば無作法というもの―――」
「えっ」
………
……
…
「――――で、寂しくなって『暇なら遊びませんか…?』ってゲーム持ってくるのが可愛いんだよワキちゃんは!」
「……え、えっと……」
「レースの時のカッコよさとのギャップがまたいい。走る時は走ることしか考えてないのに、普段は甘えることしか考えてないと思う」
「……そ、そんなことは……ないと思いますよ?」
「――――つまりワキちゃんは可愛いんだよ」
「………ぅぅ」
………
……
…
「―――わたしのほーがお兄さんのことがすきです!」
「いや俺の方がスズカのことが好きだね」
むっすー、と妙に微笑ましい感じで真っ赤な頬を膨らませたスズカだが、お前どう見ても酔ってない? お酒は間違いなく口にしていないスズカはこちらの膝をぺしぺしと叩きながら宣言した。
「わたしはお兄さんのためなら――――おはようからおやすみまでずーっといっしょです!」
「お、おう。ところでなんで膝の上に乗ってるの?」
「えへへー、ちゅー」
突然頬にキスを決めてきたワキちゃん(なぜか膝の上にいる)を思わず抱き寄せると、満足気に全身でしがみついてくる。
酔いが……醒める……!
「なあワキちゃん」
「なんですか、お兄さん?」
「もう変装いらなくない? こっちの方がやっぱり好きだよ」
スッとウイッグを取ると、いつもの綺麗な栗毛が露になる。
確かに黒髪は好きなんだけど、それはそれとしてスズカはやっぱり栗毛だよね。
「……わたしもお兄さんが好きです」
「知ってる」
「浮気しませんか?」
「毎日惚れ直してる。ぶっちぎりで大逃げしてる大切な人がいるから、目を離せそうにないよ」
「………ほんと?」
「むしろワキちゃんに見捨てられないか心配なんだが」
「…………こんなに大好きなのに、ですか?」
「うん。大好きだから、もし嫌われたらどうしようか不安になる」
「……いっしょですね」
「うん、一緒だ」
レースと一緒だ。
恋と“逃げ”で信じられるのは自分とパートナーだけ。
見えないライバルに追い立てられて、ペースが正しいのかもわからなくて。それでも乗り越えられたら、きっと最高のパートナーになるだろう。
実は逃げ切りシスターズの歌ってけっこう深いのかもしれない。
「だから、ありのままでいいんだよ。俺はいつものスズカが大好きだから、こんな無理しなくて――――」
と、何気なく明らかに盛られた胸に触れて。
なんか思ってたのと違う、なんかすごい幸福な感触がした。
「――――ワキちゃん、これは一体…?」
「タキオンさん曰く『しばらく巨乳になる薬』らしいです」
「―――――さて。そろそろ家に帰るか!」
「あの、お兄さん…?」
「お代は適当に頼む」
「お兄さん!?」
適当に多めに万札を叩きつけ、ワキちゃんを抱えて帰宅へ。
「大丈夫。本人相手なら浮気じゃないから」
「うそでしょ。掛かってる…!?」
スズカさんに盛るのは邪道だと思ってたけど――――まあ実際違和感は凄かったわけだけれども――――でも好きな相手ならどんな姿も嬉しいものだった。
なお拗ねたワキちゃんはしばらく許してくれなかった。
だいたい(エアプ)ライトオがしたかっただけの話
私にもライトオ下さい♡
やめろ! スズカさんに盛るな! といいつつ目の前に盛られたスズカさんがいたら耐える自信がない系。
なおどのくらい盛ったのかは各自の想像と好みにお任せします。