Fate/outsider   作:EUDANA

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この数カ月間、わかりやすい文章の書き方を調べたけど読めば読むほどわかりやすいのかわからなくなってきた今日この頃。

中途半端なまま執筆したり塔イベしたりの結果、まだイベント完走できてない始末だったんで一旦これでよしとしました。


09.フー・アー・ユー?

 

 ランサーが姿を消し、セイバーと跡奈は一先ずの休息を得た。

 いつまた襲撃を受けるかわからないと廃病院から抜け出し、街へと続く入り組んだ裏路地に滑り込む。

 

 しかし跡奈にはやるべきことが残っていた。情報共有、それも『サーヴァントや聖杯戦争とは何か』といった初歩的なことからだ。

 

 

 召喚されたサーヴァントは、現界した際に聖杯から知識が与えられるため本来であれば不要なのだが、ことこのセイバーになると話は別だ。

 

 勿論、跡奈も聖杯戦争の裏の裏まで理解出来ている訳ではない。最近になって噂され始めた聖杯戦争の本来の目的──御三家による根源への到達などの知識までが精々だ。

 

 基本以前なことで足元を掬われては話にならない。故に拠点代わりの民宿に着くまでの間に、跡奈は先導しつつセイバーに軽く説明することにしたのだった。

 

 

「──つまり聖杯戦争っていうのは、魔術師にとって願いを叶えるチャンスの争奪戦ってワケ。理解できた?」

 

 自身が知り得る最大限、必要な知識を語り終え、そこで一区切りした跡奈はここまで聞きに徹していたセイバーへと振り返る。

 

 自身の責任でないものの、この事態を引き起こしたとも言えるセイバー。

 普通ならば荒唐無稽なこととしか受け取られない跡奈の説明を聞いて、しかし甲冑越しに顎に手を当て自分の中で情報を処理していた。

 

 

「聖杯ってそんなに凄いものなんだ……道理で」

「? ……と言っても別に本物じゃないわ、形が似てるのかだって怪しいし。ただ願いを叶えるための象徴(レガリア)として選ばれたのが『聖杯』ってだけよ」

 

 説明して尚も理解されなかったらどうしようかと不安だった跡奈だが、意外にもセイバーは聖杯云々の話はすんなりと理解してくれた。

 

 ……否、むしろ自然すぎるほどに受け入れていた。道理で、と呟いた際の様子も『ランサーとの戦いでマスターたちの必死さが伝わった』というよりも、それはまるで──。

 

 何処か引っかかる物の正体を確かめるように、跡奈はセイバーに一つの疑問を投げかける。

 

 

「セイバー、貴方やっぱり聖杯を知ってるの?」

 

 彼の反応のソレは『かつてより聖杯の存在を知っていた』、という方がしっくりくるのだ。

 

 様々な時代から英霊が呼び出される中で自身に関する事実を当てた跡奈。対するセイバーは表情がわからなくともその疑問が伝わるほどに不思議がる。

 

「なにさ、やっぱりって……なんでそう思うんだい?」

「だって、聖杯の力を疑いもしなかったもの。なら聖杯という物を知ってるってほうが説得力あるじゃない」

 

 図星を点かれたのか、セイバーはどこかバツが悪いように反応した。その一方で跡奈はというと、引っかかっていた物が腑に落ちて確信に変わったのか、安堵した様子を見せる。

 

(何をそんなに納得してるんだろう)

 

 心の内で疑問を抱くセイバーを置き去りにしたまま、跡奈はふと召喚時のゴタゴタで名乗る機会がなかったことに気付いた。

 

 一つの安心を得て余裕が生まれたことで浮かれ始めていた自分を戒めた跡奈は、前提知識をあら方教えきったので話を変えるという意味も込め、ごほんと咳払いを一つ。

 

「そういえば自己紹介がまだたったわね。私は藤宮(ふじみや) 跡奈(あとな)。この聖杯戦争に参戦したアナタのマスターだから、よろしく」

「え? あー、えーとセイバーです。うーんと、よろしく?」

 

 主導権は自分にあるのだという余裕を示すべく簡素に済ませた跡奈。

 平静を取り戻す彼女と先の質問からの切り替えに困惑しているのか、セイバーはどこかぎこちない様子で返した。

 

 少しは胸を張ればいいのに、と。そんな彼に呆れに近いものを抱きつつも、記憶にエラーがあるからと納得した跡奈は彼に指摘する。

 

 ……互いの認識、そして何よりも価値観のズレに気付くことなく。

 

 

「もっとしっかりしてよ、貴方それでも──」

 

 

 セイバーという英霊の詳細を知らない跡奈にとって、それはただ活を入れるのに等しい言葉。

 

 だが彼女はまだ知る由もない。それはセイバーにとって、彼の人生の根幹を嘲笑しているに値する言葉だと。

 

 

「──()()()()()なの?」

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 廃病院での戦闘が終わったのとほぼ同時刻。

 キャスターのマスターであるロイド・リーゼンブルムは、ニザラムの街の一角に構えた魔術工房の中で戦況を確認していた。

 

 街へ飛ばした使い魔から映る光景は、彼にとっても中々興味深いものだった。

 

「ほう、ランサーが撤退したか」

「みたいだね〜」

 

 どこからか持ち込んだ酒で晩酌を始めるサキの相槌を耳にしながら、ロイドは机に敷いたニザラムの地図に魔力を通す。

 

 込められた魔力によって生み出されたのは剣士、弓兵、槍兵の三種類の映像(ヴィジョン)

 簡易的な投影魔術で作り出されたそれらは、地図上に出現すると先程の戦いを簡略化して再現を始める。

 

 

 

 ロイドは当初、使い魔を用いての偵察だけを予定していた。初日から手の内を明かすのは避けたかったためだ。

 

 しかし直前になって、その計画(プラン)に修正を加える事が起こった。アサシンの進言だ。

 

 彼女は太陽が最も高く昇った時、このようなことを語り出した。『日付が変わる前後、三騎のサーヴァントが姿を見せ殺し合う』と。

 

 

 

「アサシンが何か言い出した時はなんだと思ったが、まさか本当に三騎ものサーヴァントが現れるとはな」

『だからそう言ったではないですか。これが私の宝具だ、とも。それを一蹴して……』

「ふん、それにしてはセイバーの件は全く違っていたがな。やはり貴様の預言など信用ならん」

 

 使い魔越しに聞こえるアサシンの零す愚痴にロイドは辛辣に返す。不自然なほどに信憑性を感じられない彼女の進言──否、宝具は正当に評価されることはないだろう。

 

 というのもアサシンは当初、騎士然とした男装の麗人のセイバーが召喚されると語っていた。

 ところが実際に召喚されたのは、甲冑で顔を覆ってこそいるが、どう捉えても男としか思えないサーヴァントだった。

 

 そうした預言と現実との食い違いを理由に、ロイドはアサシンへの信用を事更に下げて接することにしたのだ。

 

 

『……まぁ、いいです。こういうのにも慣れてますから』

 

 外れている箇所もあるとはいえ、それ以外は概ね当たっていたのだ。多少は評価されて然るべきだろう。

 

 だが他でもない彼女自身がそれを理解している。これこそが、彼女に付与された呪いそのものなのだと。

 

 だがそれはそれとして、不当な判断に不貞腐れるアサシン。そんな彼女を他所に、ロイドは地図上で変わらず戦いを再現しているサーヴァント達へと意識を移す。

 

 

 

 真っ先に姿を見せたアーチャーとランサー。

 

 二騎の戦闘に巻き込まれ、命を狙われた少女。

 

 かと思えば、その少女の手で既に退去したと噂されたセイバーが新たに召喚された。

 

 

 三騎のサーヴァントが夜の街(戦場)に姿を現す。一夜目にしては随分と派手な初動と言えるだろう。

 

 だがそんな中でも使い魔越しに得た一つの情報、『セイバーの召喚』はアサシンの進言を抜きにしても特に想定外であった。

 

「セイバーが姿を見せるどころか()()()()()のはやはり心底意外だったがな。となればセイバー脱落の報はマスターの策略か、或いは……」

 

 

 ──神樹シロウによる偽報か。

 

 

「ふ、全能と称される割には小賢しい真似をしてくれる。やはり奴も人の子というワケだ」

 

 自らの中での危険性をある程度下げて辛辣な評価を下し、しかし神樹シロウという男を心底から軽視するつもりはない。

 

 背後に支援者がいる可能性が高いだろうとはいえ、単身でこれだけの規模の準備、そして聖杯に変わる『何か』を用意して見せたのだ。用心に越したことはない。

 

 時計塔においても神樹シロウの目的は一切把握できていない。

 創始たる学院長やバルトメロイ率いる法政科をはじめとした三大貴族の勢力、広い視野を誇る天体科のマリスビリーならばまだしも、一介の講師止まりの自身では大凡の当たりすら付けられない。

 

 だが焦る必要はない。得体の知れない箱庭(ニザラム)の主が自らの領土で、それも聖杯戦争を催してまで企む目的など、やがて知ることとなるのだから。

 

 

「……いやしかし、物事には順序があるのだから。ならば今考えるべきは、そうランサーか」

 

 情報が錯綜する今、不確かなままの考察は頭の片隅に置いておくべきだろう。

 そう切り替えれば、ロイドは今後の方針──即ち敵へ如何様な切り込みを入れていくかを考える。

 

 突然現れたセイバーと早々に戦線離脱したアーチャーは現在情報が少ない。故にそれらへの対抗は後回しにするほかない。

 

 となれば、十分な考察が可能なのは能力を幾つも発動しているランサーだろう。手を組みながら工房内を歩き、当面の標的が見せたその能力を振り返る。

 

 

 第一に硬質化の能力。

 攻撃を受けた瞬間に発動される物で、オンオフを切り替えることが出来る一工程(シングル・アクション)の一種と思われる。

 

 これは宝具による効果と見てまず間違いない。

 

 

 第二に突然現れ、そして消え失せた能力。

 基本的にランサーは、アサシンのような気配遮断のスキルを所持していない。

 にも関わらずこちらに感知されることなくアーチャーと接敵し、更にはセイバーたちから撤退してみせた。

 

 こちらも宝具の可能性もあるが、状況から見て魔術のような戦闘技能とも取れる。

 

 

『硬質化は厄介ですが、認識或いは警戒していない限り発動はしない。気配遮断は攻撃直前に効果が切れますが、その前に霊核に一撃与えられれば……』

「意見など求めていない。お前はただ事実だけを述べればいい」

 

 使い魔越しに意見するアサシンの考えを、ロイドは理不尽にも一蹴する。そして思い出したかのように、ここまで静観している者に声をかける。

 

「キャスター、お前の見解はどうだ?」

 

 アサシンと違い工房内に待機させていたキャスター。性格はアレだが賢人とも云われる彼の言葉にも耳を傾けたほうがいいだろう。

 

 そう思い立ってキャスターに意見を仰ぐが、彼からの返事はなかった。

 

 視線を落とせば、床一面に積み上げられたコミック本の山。その中心で寝っ転がったまま、一冊手に取ってパラパラと捲る人影が一つ。

 

「アッハハハ……あー、なんか言いました?」

 

 膝を叩いてゲラゲラと笑っていたキャスターは、仰向けになったまま顔だけこちらに向ける。その顔は「何か用ですか?」とでも言わんばかりだ。

 

「貴様ァ……何をしている? 七騎揃った今、聖杯戦争は始まったのだぞ」

「いやーしかしそうは言いますがね旦那ァ。人間って生き物は面白いもんで、興味を引かれる事にしか集中することが出来ない(サガ)を持つもんなんでございますよ。となれば、あっしがこのコミックってのを読み耽るのは当然のことかと」

 

 言うだけ言って、再び目線をコミック本に落とす。そんなキャスターのマイペースさに、ロイドはこめかみをひくつかせる。

 

「それに今の聖杯戦争なんて序盤も序盤。みーんな手抜いて戦うんだから、面白みもないでしょ」

 

 召喚に応じたにも関わらず、聖杯に興味を示していないのかそんなことを宣うキャスター。

 

 だが聖杯戦争に参加している以上、彼にも願いがあるのは自明の理。ロイドはそこを指摘し、否が応でもキャスターをこの戦いへと引っ張り出さんとする。

 

「敵サーヴァントの情報を手に入れ有利に立つのは当然のことだろうに。大体貴様とて、聖杯に叶える願いがあるはずだろう」

 

 流石に願いの話を持ち出されては真面目にやらなければならないと観念したのか、キャスターは溜息混じりに身体を起こすと、胡座をかいてコミック本を山の上に積む。

 

「別にあっしは聖杯だなんだに興味があるわけじゃないんですがね……まー確かに、相手さんにまつわる情報の共有ってんならそろそろ腰を上げる必要もありますかね」

 

 そうしてキャスターは、「どっこらしょ」とわざとらしく口に出して立ち上がる。ポケットに手を突っ込んだままテーブルに近付けば、地図上で繰り返されている再現映像を様々な角度から覗き込む。

 

 軽薄な態度を抑えようやく聖杯戦争に真面目に向き合う態度を見せれば、ややあって自らの主人へ一つの見解を提示してみせる。

 

「仮定の話ですが宜しいですかい? あの二つの能力は同じ類かもしれねぇって話なんですけど」

「……というと?」

 

 ポキポキと骨を鳴らしながら大きく伸びをし、キャスターは先のランサーの戦いから基づいた説を挙げる。

 

「えーと、予め仕組んでいたもの発動させるってのは一工程でしたっけ? (やっこ)さんは同じようなもんを自分の体に仕込んでるんでしょう、それも複数。そのうちの一つがあの出現と撤退の能力……という説ですよ」

「ならば、あの防御もまたその一つだと?」

「いんや。防御が発動するときに奴さん、ほんのちょっと発光してましたよね」

 

 キャスターの指摘とともに映像が変化、アーチャーやセイバーの一撃を喰らう瞬間に巻き戻る。

 

「恐らくは宝具の合図で弱点の一つ。光そのものが詠唱に相当するもんで、アレは複数の能力を束ねることで発動出来る。けどその分だけ規模が大きくなっちゃって、反動や予兆の出来上がりーっと」

 

 見れば確かに彼の言う通り、ランサーは被弾する直前僅かに光を放っており、その時に受けた攻撃は殆ど通じていない。

 

 逆にセイバーが召喚されてすぐに喰らった不意打ちの折には光が放たれていなかった。

 

「なるほど……」

「そんでもって逆に、各能力を単独発動する場合はそんな大きい反動は特に無いんで、あそこまで強く発光はしないのでは〜っというのがあっしの推測ですよっと」

 

 戦闘の最中でさえ漫画を読み耽っていたようだが、そんな様子でもちゃんと戦況自体は確認していたのかと少しばかり感心する。

 

(いや、それならば最初からやる気を出しておけ)

 

……と、そう心の中で毒づきながらもロイドはキャスターの説に納得し一考する。

 

 

『それにしてもあの防御、アキレウスの奴を思い出しますね。忌々しい』

「ははぁ、あの音に名高き神速のアキレウスですかい? まあ姐さんからすりゃ嫌な思い出でしょうねそりゃあ」

 

 

 ランサーの能力を心底毛嫌うような発言をするアサシンと茶々を入れるキャスターの会話を聞き流す一方で、ロイドは心当たりのある魔術系統を模索していた。

 

「ならばあの魔術の系統とそのルーツを洗い出せば、自ずとその正体を察せるというもの……」

 

 

 一工程で簡単に発動できる魔術。

 仮にもロイドは魔術師が跋扈(ばっこ)する時計塔で一流講師を務める男。その正体にも大凡の見当を付けていた。

 

 それは時計塔に於いて、『神代ならばいざ知らず現代では貧弱である』と判断され、見向きもされず廃れた魔術──

 

 と、扱われたのも今は昔。現在では一人の冠位の人形師によって研究、再評価された魔術系統。

 

 それこそは正しく、神話の時代より語り継がれし北欧の──。

 

 

 

『セイバーとそのマスターが動きましたが、如何がしますか?』

 

 思い当たる魔術系統を脳裏に浮かべた時、使い魔越しから不機嫌な態度を(にじ)ませたアサシンから一報が入る。

 

 む、と様子を見れば、セイバー陣営が廃病院から出ていく光景が映っていた。

 つい数分前まで命懸けの戦いを繰り広げていたのだ、本来であれば警戒を解くことなど早々ないだろう。

 

 だがあの戦いと指揮を見る限り、セイバー陣営……特にマスターはズブの素人。魔術師と相対したことなど一度もないのだろう。

 

「奴らの潜伏先を割り出せる良い機会だな。しかしこれしきのことで油断するとは、所詮は素人か」

 

 ここまで酒を飲み続けて出来上がっているサキをチラと確認し、指示を出せる状態でないと判断するロイド。

 

 その目に野心のような光を灯し、彼女に代わりアサシンにも聞こえるよう指示を出す。

 

「ならば教えてやろうではないか、サーヴァント(それ)は子供には過ぎた玩具だとな」

 

 

 

 これは聖杯戦争。

 誰もが理想のために身を投じる戦いの舞台。そこへ上がった以上、命を賭けなければならない。

 

 それは子供であろうと例外ではない。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 円卓の騎士と呼ばれたセイバーはその場で立ち尽くし、マスターをじっと見つめていた。

 

「円卓? どうして、僕が?」

 

 甲冑で表情は伺えず、話し方もまた落ち着いているためセイバーの内面は分かりづらい。

 

 だが僅か。ほんの僅かにではあるが、その言葉の節には怒気が含まれていた。

 

「ああ。見せてなかったわね、私が触媒に使った物」

 

 一方でそんなセイバーの機敏な変化に気付かなかったようで、跡奈は自身と彼を結びつけた触媒を教えていなかったことを思い出す。

 

 言うが早いか跡奈は小さなバッグに手を突っ込むと、ガサゴソと漁って布に包まれた何かを取り出した。

 

 包を掌の上で慎重に開封すると、その内側から白い破片が姿を覗かせた。

 

「それは──」

「そ、()()()()()。ある人からの貰い物で、流石にどの箇所かは分からないけど間違いなく本物。召喚されるのは当然、その席に着いていた円卓の騎士の誰かってワケね」

 

 説明を終え、跡奈は円卓の破片を再び包んで大事にしまい込む。

 そしてこれが『セイバーを円卓の騎士だと確信した判断材料』、その一つ目という意味で人差し指を立て、続けざまに次の材料を突きつける。

 

「次に身体能力とスキル。特にスキルとして選ばれるあの規模の『魔力放出』は、現代の英霊じゃ中々成立するものじゃない。つまり神代の英霊の能力。勿論、アーサー王がブリテンに君臨していたのは神代」

 

 セイバーの魔力とスキルを理由の二つ目として挙げ中指を立てれば、次に挙げる薬指はその最後、三つ目の判断材料。

 

「そして貴方は聖杯を知っている。聖杯を求めて円卓の騎士たちを派遣したアーサー王の配下なら、知ってて当然よね」

 

 そうして証拠を出し終えて、跡奈は自分で立てた指を満足気に見ながら、うんうんと唸って一人結論を出した。

 

「まあつまり? トラブルはあったけれど、私はちゃんと目当てのサーヴァントを──」

 

 

「いや違うさ」

 

 

 だが。確信を持って導き出したその答えは、他でもないセイバー自身によって否定された。

 

「僕は円卓の騎士なんかじゃない」

「──は?」

「安心してくれ。別に彼らと比べて実力が劣ってる、とまでは言わないから」

 

 ハトが豆鉄砲を食ったよう。とはよく言ったものであるが、今の跡奈がまさにそうだろう。

 

 一方のセイバーは、振り返ったままフリーズしている跡奈に一瞥することなく、その横を早歩きで通り過ぎる。

 

「ちょ、ちょっと待って……いや待ちなさい! 嘘でしょ!?」

「嘘なもんか。大体あんな人でなしと、好きで尻に敷かれる連中と一緒にされるなんて心外だね」

 

 崩れかけた口調の大声をなんとか堪え、先に進むセイバーの後を追いかけると、跡奈はその顔を覗き込むように並んで歩く。

 

 跡奈の追求で更に機嫌を悪くしたのか、セイバーは歩く速度を早めながら円卓の騎士たちへの罵倒まで行う始末だ。

 

「な、なにもそこまで言わなくても……。ならアナタは誰? その口振り、円卓の騎士達の事は知ってるんでしょ?」

「……まあ、ね」

 

 ムキになり必要ないことまで喋り過ぎたかと感じたか、セイバーは歯切れの悪い返事だけ返す。

 そんな不審な彼に眉をひそめつつ、跡奈はジッと顔を見つめたまま。改めて素性を名乗るのを待っているのだ。

 

 

「「………………」」

 

 

 それからは言葉を交わすこともなく。押し黙ったまま進む二人は路地を抜けて、少しばかり開けた広場に出た。

 夜の静寂に包まれた路地とを結ぶ広場。人工的に植えられた葉のない木々は風で揺らめき、中央に備えられた噴水は小さな水音を立てて重力に従って水面へと還る。

 

 

 街灯に照らされたその場所をしばらく歩き、セイバーは未だなお覗き込んで付いてくる跡奈に観念すると、溜息をついて首を落とした。

 

「なら『メドラウト』とでも名乗っておくよ。お察しの通り、ブリテンの騎士の一人さ。一介の、だけどね」

「……露骨に偽名なのね」

「そんな顔しないでくれないか。名前なんて無いんだから」

 

 名前は無いと答える『自称メドラウト』ことセイバー。何かを隠していることは、跡奈でなくとも勘づくことができるだろう。

 

 もちろん跡奈としては、この聖杯戦争を勝ち抜くためにサーヴァントの情報は把握しておきたいのが正直なところだ。

 だが当のセイバーが自らへと踏み入ることを拒否してくる以上、その意思は尊重しなくてはならない。

 

 令呪を使う、という選択肢もないではないが、初日から切り札を切っているようではこの戦いを勝ち抜くなど到底無理だろう。

 それに跡奈にとってのセイバーはビジネスパートナーだ。その関係性に影を落とすような真似をしたくはない。

 

 

 この秘密主義者なセイバーのプライバシーを尊重し、跡奈はこの場での深入りを断念することにしたのだった。

 

「怒らないんだね」

「貴方が不具合のある召喚をされた時点で真名が聞けるか怪しかったもの。今はおおよその情報が知れただけ良しとするわ」

 

 こうは言ったものの、疑問はまだ残っている。

 本来聖杯から与えられるはずの知識はない。にも関わらず、自身の生い立ちや円卓の騎士、聖杯は問題なく覚えている。

 

 もしこれが本当に召喚の不備だというのなら、なんとも都合のいいエラーだろうか。それはまるで──

 

(──まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいね)

 

 そう悪態の一つでも吐きたくなるのを、しかし跡奈は堪えた。

 今はそれでいいと納得し、跡奈はそれ以上の詮索をすることもなく話題を打ち切った。

 

 

 

 差し込む街灯の光を見上げて一度立ち止まった跡奈は、合わせて歩みを止めたセイバーにこれから向かう場所を教える。

 

「今から私が使ってる拠点へ目指す訳だけど、取り敢えずここで霊体化して。民宿で広いわけじゃないし……それに一人分の料金しか払ってないし」

「レータイカ……?」

 

 流石に現地で男を連れて入り込めば、第三者からどう見られるかは考え付く。

 不健全な関係を疑われる位ならば問題ない。だがその情報を敵のマスターに知られれば、自身がマスターであるとバレるかもしれない。

 

 ……そして何より、懐が寂しい今二人分の料金を払うのは財政的に厳しいという世知辛い事情もある。

 

 そういう訳で最後だけボソッと小さくなりながら、セイバーに霊体化を指示する。だが肝心のセイバーはというと、自身の出した指示にまたも首を傾げる始末だ。

 

「……まさか?」

「霊体化って何?」

「嘘でしょ……」

 

 実際、悲嘆することこの上ないだろう。

 マスターは常にサーヴァントへ魔力を供給するが、いざというときに魔力が切れては元も子もない。

 そのため、戦闘や諜報などの必要な状況以外では、常に肉体を魔力に溶け込ませた実態を持たない『霊体化』と呼ばれる状態にさせておくのがセオリーだ。

 

 さらに言えば、魔術とは無縁の一般人の前にセイバーの姿を───全身に甲冑を纏った剣士をひけらかすという、嫌でも目立つ行為を回避できるのだ。

 こちらに関しては本物の服を着させればいいだけだが、一人分の滞在費で精一杯の跡奈がそのような余分な資金を用意できる訳もなく。

 

 

「うーわ……どうしよう」

「どうしようか」

 

 頭を抱えてしゃがみ込む跡奈。そんな彼女に何処か他人事ながらも、とりあえず申し訳なさそうに返答するセイバー。

 いくら考えても知識が無いと思しき彼に案など出せる訳もないだろう。

 

「あーもう、ホントなんで貴方みたいなサーヴァント呼んじゃったんだろ」

「そう言われてもね。円卓(そんなもの)を使ったからじゃないかな」

 

 どれだけ恨み辛みを込めても、状況を理解できていないセイバーには伝わりはしないだろう。

 多少歪んだ方向であると自覚しながらも、沈む気持ちに無理矢理活を入れ、跡奈は次の動きを考える。余りに遅くなったら、民宿の主人に不審に思われるだろう。

 

 

 取り替えず考え付く限りの対処をセイバーに施そうとして頭を上げて彼へ視線を向け───。

 

 ふと、甲冑の中から覗かせるセイバーの視線が鋭くなったように見えた。

 

 

 跡奈は致命的と言えるミスを犯した。

 それはまだ安全とは言い切れないにも関わらず、敵を自らの潜伏場所へと案内しそうになったこと。

 

 だが彼女にとって幸運だったのは、この広場では隠れる場所が限られていたことと、セイバーがBという高い直感を所持していたことだろうか。

 

 

 

 それからのセイバーの動きは早かった。

 彼は素早く鞘から両手剣を引き抜くと、魔力放出によって発生させた水の刃を、後方の木々の闇の中へと放った。

 

「何してるのセイバー!?」

「……外したか!」

 

 困惑する跡奈の眼の前で、高出力の水は幾本の木をあっさりと伐採する。木々が生み出した闇が晴れるその中で、一つの影が跳躍し二人から十mほど離れた距離に落下する。

 

 

 静かなる殺気に見やれば、見窄らしい少女と目があった。

 

 所々が汚れボロボロな白い囚人服に身を包んだその少女の両手は、真っ二つに割れた枷をはめたままだ。

 カラスを思わせる漆黒の片翼を生やし、光る十字架のような物を手にした異形なシルエットをしたサーヴァントがそこに居た。

 

 

 




ハーメルンの方で本作に『アンチ・ヘイト注意』といったタグを最初の頃につけてた理由の一つは、基本的にセイバーがアーサー王(アルトリア)否定派だからです。
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