Fate/outsider   作:EUDANA

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新年あけましておめでとうございます(一週間遅刻)
前回からおよそ半年……リアルがバタバタしてたとはいえ、これは酷い。


10.悲劇の予言者

 

 口内に鉄の臭いが広がって、息苦しさに思考が乱れる。

 

 こうなることなどわかっていた、こんな終わりが来ることも。

 だが、運命が変わることはなかった。

 

 

 すすよごれた布切れのような服を深紅に染めて、うすれゆく意識の中で窓からのぞく空をみやる。

 

 空にきらめく太陽は、何一つ変わることなく地上のすべてを照らしていく。

 

 そんな太陽を怨敵のごとく睨みながら。

 死に逝く少女は、かつて知った『二度目』の光景を前にひとりつぶやく。

 

 

 

 ──ああ。あんな忌々しい太陽など消え去ってしまえばいいのに、と。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 ニザラムの路地と路地とを結ぶ広場。

 セイバーの一撃を受けその中心へと引きずり出されたアサシンは、不慣れな動きのまま片翼で羽ばたく。

 

(尾行は失敗ですか……相手が違えど、やはり直感のスキル持ちは厄介ですね)

 

 心のなかでそう独り言ちて、相対するように着地。

 突然の事態で呆けている相手マスターの首へ。

 狙いをさだめ、アサシンが間髪入れずに羽ばたき加速する。

 

 

 

 アサシンの尾行はおざなりと言わないまでも、しかし完璧には程遠かった。

 それは彼女のアサシンとしての適正が低いことに起因する。

 

 サーヴァントに備わるスキルの中には、クラスそのものに付随するクラススキルというものがある。

 

 そのうちの一つ、アサシンのスキル『気配遮断』は、文字通り相手に察知されないようになるモノだ。

 しかし平時の彼女は、このランクがE-と最低値なのだ。

 

 もうひとつ挙げるならば、本来彼女は戦場に立つような英霊ではない。

 そのためサーヴァントとしての戦いや立ち回りといった知識も、聖杯から得た情報に依存せざるを得ない。

 

 生前の彼女が知る戦争も、強靭な肉体を持つ者かあるいは、才ある者にしか出来得ぬものばかりであったためなおさらだ。

 

 そして戦闘に不慣れなアサシンが開けた場所に出てしまえば、戦場でつちかったものと感じ取るスキル、双方の『直感』を持つセイバーへの追跡や奇襲が成功するはずもない。

 

 

 

 闇夜に沈む広場。

 ガキンと鋭い音を反響させて、剣を握る騎士と十字架を手にした奴隷の少女が相対する。

 

 一撃を弾かれたアサシンはすぐさま後退。

 セイバーと距離をとるように、街灯のそばに着地する。

 

 

 一方で、突然の襲撃者に驚くのは先制を仕掛けたセイバー。

 気配を感じて放った攻撃から飛び出したのは、マスターとそう歳が離れていないような少女だった。

 

 これまで見てきたサーヴァントはランサーしかいないのだ。

 鎧なども身に着けず、戦場とほど遠い印象すら与える少女の登場に、迎え撃たんとしたセイバーは困惑する。

 

「なんなんだ、この子……」

「まさかアサシン!?」

 

 対して跡奈は、聖杯戦争に参加したマスターに与えられる視覚情報から、襲撃者の素性を知る。

 

(あーもう、何なのよ次々と……!)

 

 ──ランサーに関しては自分から首を突っ込んだせいだが。

 

 しかし、今は明確にその命を狙われている。

 

「跡奈、彼女……アサシンって!?」

 

 辟易(へきえき)としたマスターの心情など知るよしもなく、セイバーは敵方への反応をみせた跡奈に答えを問う。

 

「マスターでいい! アサシンはマスターを奇襲し殺すことに特化した英雄……それはもう、ナメクジみたいに陰湿なクラスよ!」

「随分な言いぐさですね、否定はしませんが」

 

 跡奈は相変わらず物を知らないセイバーに、的確だが偏見が入り混じった説明を返す。

 

 それを受けてのアサシンは、当然のように不服を見せつつ。しかし自覚はあるのか軽く受け流した。

 

 

「……」

 

 あらわれた襲撃者へ兜から困惑の視線を送り続けるセイバーだったが、ふとアサシンの視線がこちらへ向けられていることに気付いた。

 

 それは命を狙おうとしている者の視線──ではなく。今まさに自分が浮かべているのと同じもののようにも感じた。

 

「なあ、君は──」

 

 何のために戦おうとするんだ、と。

 

 聖杯戦争においてはもっとも無意味と言ってもいい質問を投げ掛けようとして、しかしその言葉はさえぎられた。

 

「貴方こそ本当に何なんですか? 確かに騎士然とした風貌こそアーサー王から遠からず、といった感じですけど……()()が狂うことなんて、今までなかったのに」

 

 

 アサシンは遠方からセイバーたちを見張っていただけ、故に彼らがなにを話していたのか……彼の出自に関わる話を聞けていなかった。

 これが本職のアサシンなら完璧にこなせたのだろうな、と。自らの能力の低さに嘲笑すらおぼえる。

 

 そんなわずかな呆れを疑問の中に混ぜ込みながら、アサシンは浮かんだ疑問を──予言で得た知識との違いを、そのままセイバーにぶつけることにしたのだ。

 

「────」

「ああけれど。あのクズの力が盛大に外れたという事実には、少々愉快な気分にもなりますかね」

 

 自らが得ていた結果と異なっていたというのに、アサシンはどこか嬉しそうな雰囲気を滲ませる。

 

 対するセイバーはというと、さきほどの疑問だらけの様子とはうって変わり、不思議なくらいに黙り込む。

 思わず下げた視線は、アサシンから外れてしまうほどだ。

 

 

 

(今アイツ、アーサー王って言った……!? 私だってさっき知ったばかりなのに!)

 

 その一方、サーヴァント二騎とはまた違った思考、緊張が跡奈に走る。

 

 セイバーはここに至るまで、自分を除けばランサーとしか会っていない。さらにセイバーの身の上を知ったのは、本人が語ったからだ。

 

 にも関わらずあのアサシンは、セイバーがアーサー王と(えん)ある人物だと言い当てた。

 

 セイバーに尾行がバレるほど気配遮断を苦手とするアサシンだ、廃病院での戦闘からずっと観察していたというのも考えづらい。

 

(けどなんだろう、あの女の言葉はこう……胡散臭い。それに会話が聞こえる距離にまで潜んでいたとは思えない。ならまさか──)

 

 そこまで考えて。

 アサシンに謎の疑惑を抱きつつある跡奈の脳裏によぎったのは、サーヴァントにとっての一つの選択肢。

 

 それらしい物を持っていないと語るセイバーを除いたサーヴァントならば、誰しもが持っている。

 それは奇跡の一種にまで昇華された逸話、力──すなわち、宝具。

 

(それ以外にない! アサシンは何らかの知りたい情報を知ることができる、あるいは……)

 

 アサシンの言動、そのカラクリに目星を付けた跡奈だったが、ここでようやく彼女も異変に気付く。

 

「……どうしたのよ、セイバー?」

 

 アサシンから疑問をぶつけられてからというもの、微動だにしないセイバー。

 その背に声をかけるも、セイバーがマスターに返事をすることはない。

 

 そのまま静かに、しかし圧をともない、セイバーはゆっくりと顔を上げる。

 ギリギリと獲物を握る力を強め、顔をあげてひとり話を続けるアサシンを見すえる。

 

「余計なことまで話しましたね。自分でもこんなに気分がよくなることなんて予想外で──」

「君、アサシンだっけ?」

「?」

 

 

 セイバーとしてアーサー王が呼び出される。

 宝具でその情報を得たアサシンだが、彼女は知るよしもない。

 それはマスターの跡奈もついさきほど知ったばかりのこと。

 

 今この場にいるセイバーは、『ブリテンのアーサー王と円卓の騎士たちを、反吐が出るほど嫌っている』という事実。

 

 だというのに。

 マスターだけに飽き足らず、敵にすら円卓の騎士に──それも後者からはアーサー王と間違われた。

 

 無論アサシンは二人が別人なことはわかっている。

 だがセイバーからすれば、『自身とアーサー王の比較』という行為そのものが、これ以上ないほどの地雷。

 

 つまるところ。

 一度は心にしまったイラ立ちを蒸し返された少年騎士は今、非常に機嫌が悪いのだ。

 

 最初は自身のマスターであったために怒りをぶつける事はしなかった。

 だが今度は正真正銘、自分たちの敵。

 

 ──遠慮する必要はない、ということだ。

 

 

「君はさ──僕を、誰と間違えたんだ?」

 

 

 

 危険を感じたアサシンがとっさにその場から離れるのと、セイバーが膨大な魔力を両手剣へ放出するのは同時だった。

 

 アサシンの動きから一瞬遅れて、彼女が立っていた場所へ激流のような魔力が勢いよく叩き付けられる。

 

 衝撃をものがたる数メートルほどの痕を作りながら、セイバーは逃げるアサシンを視線で追う。

 直接の戦闘を苦手とするアサシンは当然、再び奇襲を狙うために闇へ身を潜ませようとする。

 

「なんだろうな。さっきから不思議と耳を貸す価値もないって思えてくるんだけど……なによりそれ以上に、ひたすら不愉快だ……!」

 

 木々の中へと逃げ込むアサシンの姿を捉えると、吐き捨てたイラ立ちとともに剣を握る力を強める。

 刀身に幾度目かの水流をまとわせれば、再び斬撃を放つ構えをみせる。

 

「逃がすか……!」

 

 敵が逃走するなら、逃げ場を奪っていくだけ。

 

 一発、また一発と。

 その刃から水の斬撃が絶え間なく放たれる。

 

 両断、そして倒壊。

 

 伐採された木々が瞬く間に宙へと舞い、闇を物理的に晴らされていく。

 

「ッ──!」

 

 轟音飛び交う木々の向こう、ほんの小さな隙間のさきで、黒い羽が舞う様がみえる。

 

 捉えた。

 判断するや、セイバーはさきと同じ魔力放出の構えをみせると、焦る敵へ一気に接近しようとする。

 

 

 

「宝具よ! それで未来を知っていたんだわ!」

 

 するとその背に、再び跡奈が声を投げかける。

 アサシンと相対していたときは怒りで聞き取れていなかったが、今度は彼の耳に届いたのだ。

 

「……未来?」

「そう、おそらくアサシンの宝具は『未来を知る能力』」

 

 まだアサシンが自身の追撃を許す範囲内であるのを確認して。

 跡奈がつかんだであろう相手サーヴァントの情報に耳をかたむけんと、セイバーは続きをうながす。

 

「よくわからないけど、そう言える根拠は?」

 

 まるで円卓の騎士たちと間違えられてすぐの、路地を歩いていたときと同じように淡々としていて。

 圧すら感じさせるセイバーの態度に臆すことなく、伝えるべき情報の共有に徹底する。

 

「アサシンは貴方の事を不自然なくらいに言い当てていた。となれば残りはそれくらいよ……それに、()()()()に心当たりがあるってだけ」

 

 最後に余計なことを話したと感じて口を閉じながら、跡奈はアサシンの特徴をいくつか挙げていく。

 

 奴隷のような、ボロボロのみすぼらしい姿。

 確かな語り口、だというのに妙に信じられない。

 未来を知る力を持つ偉人。

 

 

(同じ太陽神に罰を与えられた者同士で足りない霊基を補いあったもの、それが翼だと仮定すれば……!)

 

 情報をまとめきれなかったランサーと違い、アサシンの真名はかなり絞られる。

 故に、跡奈はアサシンの真名の答えをすでに見つけ出していた。

 

「これだけ情報があれば十分、私が知る限りでも一人だけ。アサシンの真名は───」

 

 

 セイバーのマスターがその名を告げる。

 

 予言の巫女として生きながら。

 しかし誰からも信用されることなく、無惨に命を散らした一人の少女の名を──。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 それはまだ、ギリシャが神々の時代であった頃のこと。

 

 かの地には『オリュンポス十二神』と呼ばれる神々が存在した。

 彼らは各々の意思によって国や個人をときに見守り、ときに争いに肩入れしていた。

 

 そのなかの一つ、トロイアにて彼女……後に悲劇の予言者と呼ばれる少女──

 カッサンドラは生を受けた。

 

 トロイアの国王プリアモスを父に持つ王女カッサンドラは、ある神の巫女となるよう申し付けられていた。

 

 その神こそは、オリュンポスに君臨する十二の神の一柱 太陽神アポロンである。

 

 カッサンドラとしても、偉大なる神に仕え寵愛を受けられることに誇りを抱き、その命に従った。

 そしてアポロンの巫女として選ばれ、彼に寵愛の証たる予言の力を授けられ──。

 

 

 

 ──彼女の人としての生は、そこで終わりを迎えた。

 

 

 

 アポロンのみならず神々とは、根本的に人間とは違う感性を持ってる。

 そして、それは愛情もまた同じであったのだ。

 

 彼女は、崇拝し愛していたアポロンにそう遠くないうちに捨てられる未来を知った。

 故に彼女は咄嗟に、アポロンの寵愛を拒絶したのだ。

 

 だがこれに怒ったアポロンは、彼女の予言の力はそのままにある呪いをかけた。

 それは『すべての人間が、彼女が口にした予言を信じなくなる』という呪いだった。

 

 以後、彼女の進言も忠告も、誰も耳を貸そうとはしなくなった。

 それはカッサンドラが、『存在しながらも存在し得ない者』となったことを意味していた。

 

 

 

 彼女の知った通りに、二人目の兄であるパリスは審判者に選ばれた。

 もっとも美しい女神にアフロディーテを選択し、 ヘレネーを妻とするために誘拐した。

 

 結果としてギリシャ連合たるアカイア軍とトロイアの争い──後に語られる『トロイア戦争』が勃発することとなった。

 

 

 彼女の知った通りに、一番上の兄ヘクトールはアカイア軍きっての戦士アキレウスとの一騎打ちに応じ敗死した。

 さらにオデュッセウスが指揮したトロイの木馬を、パリスは愚かにも城内へと運び入れてしまった。

 

 そして彼女の真言を無視したパリスをはじめとしたトロイア兵の多くが、木馬から出てきたアカイア軍によって討ち取られた。

 

 イーリオスは陥落、カッサンドラもまた奴隷として捕らえられ、小アイアースより凌辱を受けることとなった。

 

 

 彼女の知った通りに、戦乱の中で双子の弟ヘレノスはトロイアを逃げ出し、やがてアカイア軍へ降伏した。

 

 パリスの死後、ヘレネーを巡って親兄弟たちと揉めていた彼はアカイア軍に与すると、トロイアの内情のすべてを明かして裏切ったのだ。

 

 

 そして彼女の知った通りに、奴隷として彼女をミュケーナイへ連れ込んだアカイア軍の将軍アガメムノンは、妻と情夫によって暗殺された。

 

 カッサンドラもまた巻き込まれる形で殺害され、その生涯に幕を閉じた。

 

 

 ──否。

 彼女にとっては、アポロンに力を与えられた時点で死んだも同然であったのだ。

 

 

 故に彼女は太陽を嫌う。

 皮肉にも、アポロンから与えられたその力──自らの宝具の発動や強化に必要でありながら。

 しかし、彼女が自らの意思で日の下へその身を晒すことはないだろう。

 

 

 

 

 

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「アサシンめ、さきほどから何をしている……! うかつにも気取られただけに飽き足らず、余計なことをベラベラと……!」

 

 アサシンの失態を使い魔越しに傍観するロイドは、握りしめた拳をテーブルへと叩きつける。

 

 酔いつぶれ熟睡する妻をうっかり起こしてしまったかと心配するも、彼女が寝たままだと確認するとすぐさま打開策を思案する。

 

 気付かれるだけならばまだしも、こちらの真名を知られてしまえば悪手。

 撃破されれば最悪だと言わざるを得ない。

 

(元はといえばランサーとして持久戦に優れた戦士ヘクトールを召喚し、籠城戦へ持ち込む算段だったというのに……!)

 

 元々アサシンの召喚自体がイレギュラーであったこともあってか、ロイドの怒りはかなりのものだ。

 

 だが召喚してしまった以上文句も言ってはいられない。

 今ロイドが取るべき択は、ここからどのようにアサシンを撤退させるかだ。

 

 使い魔から見える光景は、まさに一方的な蹂躙。

 やはりセイバーはそれなりの手練れであったのか、アサシンの気配を感じ取って迎撃し、そのまま一方的な追撃を続けている。

 

 駆ける水の刃が闇を裂き、路が開かれればセイバーがアサシン目掛けて飛来する。

 アサシンはといえば逃げ惑い、避けられぬとわかった一撃は防御に専念するくらいだ。

 

 魔力放出を含めれば、セイバーの最高速度はアサシンを超えている。

 隠れる場所すら晴らされては、単騎での離脱はまず不可能。

 

 ならば今、ロイドが取れる戦術は一つだけ──。

 

「こうなっては仕方あるまい……! キャスター、お前から奴に援護の一つでも──」

 

 イラ立ちを隠すことなく、ロイドはキャスターに命令を下す。

 だがまたも、キャスターからの返答が来ない。

 

 この期に及んでなにをサボっている。

 忌々しいと業を煮やすも、ロイドが振り返ったその視界には、突っ伏すサキ以外に誰もいない。

 

「なに……?」

 

 支配下たる工房中の気配を探っても、そこにキャスターは居なかった。

 

 まさかと可能性が過るロイドは、街に飛ばした他の使い魔の視界を接続する。

 繋がったパスを頼りにそこを見やれば、今まさに夜の街を見窄らしい男が疾走している最中だった。

 

 

 

 

 

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 ロイドと視界を共有した使い魔が捉えたそのさきで。

 キャスターは自らのテリトリーとするべき魔術工房から抜け出し、アサシンの下へと向かっていた。

 

「やーっぱこうなんのよね」

 

 敵は最優のサーヴァントたるセイバー。

 様子を見る限り、アサシンはそう長くは保たないだろう。

 

(あね)さんは戦闘なんてできないんだから、俺が加勢してあげなきゃなんだよなー」

 

 愚痴りながらも、しかしキャスターは己の全速力で駆けていた。

 

 その疾走はとても軽やかで。

 強烈な追い風が味方するように吹き荒んでいたこともあってか、ひととびで建物数件を飛び越えていく。

 

 生前から体力が必要となる場面が多かったが故に、だろうか。

 基本的な同クラスのサーヴァントたちよりも運動神経と体力が培われていたことも、彼にとって幸運だった。

 

 

 するとそこへ、一匹の鳥が飛んできた。

 このタイミングでの不自然な動き、心当たりなど一つしかない。

 

『キャスター貴様、私の指示を聞かずに独断で動くとはどういう了見だ!』

「あー、すんませんね旦那。あっし今ちょっと忙しいんで後にしてもらっていいです?」

 

 やはりというか、念話によってマスターの怒声が霊基に直接響く。

 それに雑な返事を口でしながら、キャスターは追い風とともに駆ける足を緩めない。

 

「いやあしかし、姐さんたちの場所が南の方面でよかった。これならなんとかギリギリってとこすね」

『貴様……! 向かうこと自体は構わん。だがそれらは私に話を通してからというのが筋であって──』

 

 未だつづくお小言をすべて聞き流して。

 そうそう、と思い出したような様子を見せると、手にしていた古ぼけた本を使い魔越しにマスターへ見せつける。

 

「このまま宝具(コイツ)のもう一方を発動して突っ込みますけど、かまいやせんよね?」

『なにを勝手に決めている! スキルならまだしも、認められるかそんなもの!』

「なら令呪を使って止めればよろし。それでセイバーから二人揃って撤退できると思えるんであれば」

 

 ふざけたような仕草さをしまい込み、有無を言わさずピシャリと。

 キャスターがそう宣言すれば、むむむとたじろぐロイドの声が。

 

 この隙を逃すこともない。

 舌戦に持ち込み無理にでもロイドを納得させるべく、キャスターは追い打ちをかける。

 

「なーに詠唱を聞かれるわけでもねぇんだ、すぐに真名がバレるこたぁありませんよ」

『……だが、宝具を発動したとしても相手はセイバー。対してこちらは本調子でなければ争いとは程遠いアサシンとキャスター。勝てる算段はあるか?』

 

 

 確かにロイドの言う通り、この選択は危険が伴う。

 

 なにせキャスターというクラスは、『陣地作成のスキルで生み出した工房に籠城し、圧倒的に有利なフィールドを展開し持久戦で相手を迎え撃つ』のが定石なのだ。

 

 もともとキャスターの陣地作成のスキルランクはそこまで高くはない。

 しかし、今のままで強みを活かせるかと問われれば、当然否だ。

 

 

 それでもなお彼が走るのはなぜか。

 

 自らの味方が減ることへの懸念か?

 あるいは、セイバーの戦いぶりをこの目で見ておきたいという願望か?

 

 ──あるいは。

 破滅の運命から逃れられなかった彼女を放っておくことはできない、という哀れみか。

 

 

 その真意を知れる者は、果たして──

 

 

 

 

 

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 眠りをもたらす月の下。

 

 闇夜に響く破砕音に、しかし街の誰もが気に留めない。

 

 それはこの街の仕組みによるものか。

 魔術的、科学的に組み込まれたものか。

 

 それはわからないが、今はそれで構わない。

 眠る街は、未だ眠りにつくままで。

 

 

 不自然なまでに静まり返る周囲へと気を向けていた跡奈。

 その眼前で繰り広げられる戦闘は、一つの決着を迎えようとしていた。

 

「っ……!」

 

 構える十字架の防御をそれごと弾かれ、アサシン──カッサンドラは体制を崩して地面に滑り落ちる。

 

 その隙を逃さんと、セイバーが魔力放出によって水を纏い、猛烈な速度で飛来する。

 

「これで──!」

 

 跳躍し、天に一筋の水流を描きながら。

 地へと失墜した女王に、セイバーが剣を振り下ろさんとする──

 

 

 

 ──まさにその瞬間、世界が光りに包まれた。

 

「「!?」」

 

 敵にトドメを刺さんとしたセイバーも。

 勝利を確信し、気が抜けていた跡奈も。

 

 互いに、突然の自体に対応できなかった。

 

 光に阻まれながらも、最低限の役割を果たしていたセイバーの視界。

 その目前にて、倒れ込んでいたボヤケた影──カッサンドラの翼が光に包まれたかと思えば、その身をかき消すように消失してしまった。

 

「な──」

「ちょいさーっ!」

 

 直後、気怠げな声とともに、側面から衝撃。

 完全に不意を点かれる形となったセイバーは、突如現れた乱入者に迎撃されることとなった。

 

 

 天に明かりは灯されたまま。

 緩やかに弱まる、偽りの太陽の光。

 

 徐々に色を取り戻しはじめた跡奈の視界に、微かに映った光景。

 

 それはカッサンドラを仕留めようとしていたセイバーが、逆に地面に墜落する瞬間だった。

 

「セイバー!? 一体なにが──」

 

 勝利を確信していたというのに、あっという間に追い込まれたのは自分たち。

 その事実に困惑を浮かべながら視線をセイバーから外せば、大きな変化が一つ。

 

 叩き落としたカッサンドラの姿はすでになく。

 尚且つ、彼女が倒れていたその場所には、見知らぬ男が立っていた。

 

 褐色の肌に見窄らしい身なりに、それに見合う古ぼけた本と手斧を携えた男がそこにいた。

 

 跡奈が男に注視すれば、その襲撃者の正体はすぐにわかった。

 

(どうしてキャスターがこんなところに……いや、そもそも!)

 

 キャスターが自身の領域から出てきたことはまだいい。

 漁夫の利狙い、ということもあるだろう。

 

 だがこのタイミング。

 アサシンであるカッサンドラを追い込んだ、まさにこのタイミングで。

 

 もし彼女を隠したのもキャスターであったなら、それは──

 

(あれじゃあどう見たって、共闘関係じゃない!)

 

 味方サーヴァントを救うべくやってきた、それ以外には考えられないだろう。

 

 嫌な事実を突き付けられると同時。

 撃墜されていたセイバーが起き上がると、何事もなかったように砂埃を払い除ける。

 

 様子を見る限り、致命傷を受けたわけでもないようだ。

 

「…………次は、君が相手するのか?」

「いやいや、あっしはごらんの通り、しがないない身でして……ほら、週末にやってくる廃品。アレよろしく、アサシン殿の回収にうかがっただけのことですよ。ブリテンの騎士様に挑もうだなどとは、とてもとても」

 

 倒すべき敵を庇い、入れ替えに現れたキャスターにイラ立ちを隠すこともなく。

 セイバーは新たに現れた敵へ狙いを定めるように問う。

 

 対しキャスターは、まるでまくし立てるように言葉の羅列を紡ぐ。

 それが時間稼ぎなのか、はたまた彼の素なのかは見て取れない。

 

「よく舌が回る奴だな。ソレ、切り落とそうか?」

「そんなぁ、ご勘弁してくださいよ騎士様、あっしは善良な市民ですぜ? まさか素晴らしくも誇り高き騎士様が市民に手を下す、なんてマネはいたしませんでしょう?」

 

 ウザったい発言を聞いてか両手に込める力を増すセイバーと、彼を前にケラケラと(わら)うキャスター。

 

 ──あの様子では、キャスターの素はアレでまず間違いないようだ。

 

 そんな戯けた様子を崩すことなく、キャスターはひとしきり関係のない話を持ち出して、一方的に語るばかり。

 

「そうだ、舌といえば。この聖杯戦争の大本があるニホンのおはなしじゃ、悪さをしたスズメさんの舌を切り落としたそうじゃあないですかい。酷い話でございますよねぇ。……おお、怖っ」

 

 誇り高きブリテンの騎士、などと称されてすでにスイッチが入ったのか、キャスターへの殺気を感じさせるセイバー。

 

 カッサンドラのときといい、アーサー王や円卓の騎士、引いてはブリテンの話題を振られるだけで怒りを爆発させる。

 

 そんなセイバーに、どう指示を出したものかと、跡奈が考えていたその時。

 

 敵である二人の反応と様子を観察しつづけていたキャスターはパンと手を叩くと、いきなり大きな声をあげた。

 

「姐さーん、今日のところは一度退きましょうや!」

 

 晴らされて、もはや見る影もない森の跡。

 その中心から響くのは、とぼけたキャスターの声。

 

 そこからややあって、姿を消したカッサンドラの声がどこからか反響する。

 

『……すでに私の真名がバレてます。ここで逃げるのは、あまり得策とは──』

「まーまー、ここはあっしの顔を立てると思って!」

 

 この場から忽然(こつぜん)と姿を眩ませたカッサンドラ。

 そんなことができた理由に、跡奈は心当たりがないわけではなかった。

 

 彼女は太陽神アポロンから与えられた予言の力に呪いを──あらゆる人間が彼女の言葉に耳を傾けない因果を結び付けられた。

 

 故に国民は愚か家族たちさえ、彼女を意識の外へと追いやった。

 

 つまりカッサンドラはいま、確かにここにいる。

 ただ跡奈たちが見えていない──否、無意識下に見ようとしていないのだ。

 

 太陽の下、予言の力を行使できるこの状況では、誰も彼女を捉えることが叶わない。

 恐らくそれは、この盤面を創り出しただろうキャスター本人でさえ。

 

 

 カッサンドラの提案に有無を言わせず。

 撤退を図らんとするキャスターは、半歩ほど足を引いて距離をとる。

 

「みすみす、逃がすわけないだろ……!」

 

 セイバーの言葉とともに、剣に水の魔力が纏われる。

 しかしさきほどまでと比べて、その勢いは失われつつあった。

 

 空に浮かぶ疑似太陽のせいか、とも思えるその答えは、しかし単純。

 

 ランサーからつづく、戦闘に次ぐ戦闘。

 マスターである跡奈から彼へと供給される魔力が減っているのだ。

 

 生前には存在しなかっただろうその違和感を受けて、戸惑がセイバーの動作をほんのわずかに遅らせる。

 

 

 だがキャスターにとっては、自分たちが撤退するのに必要な時間などそんなもので充分だった。

 

 手にしている本を開いて魔力を通せば、そこから光が放たれる。

 

 そうはさせるかと、両手に力を込めてセイバーは駆ける。

 魔力放出に頼れないとわかれば、両足での全力疾走を選択。

 それでも本来であらば、今のカッサンドラやキャスターたちを追うのに事足りる脚力。

 

「そうそう、鳥と言えば」

 

 キャスターの言葉に続いて、彼の背後で魔力が形を得る。

 命を持ったかのように飛び立つそれは、無数の群れとなってセイバーたちの視界を覆い尽くす。

 

「!」

「か、カラス……!?」

 

 自分たちの視界を覆い尽くさんと、次々と現れるカラスの大群。

 セイバーは思わず、足と攻撃の手を止めて防御を選択する。

 

 彼が取った咄嗟の行動。

 それを黒い雨からひとしきり観察して、キャスターは両者の耳に届くよう声を上げる。

 

「なんでもカラスは、ニホンやイギリスだと神聖な生き物だそうでございますよ。ニホンでは神の御使いとして。そしてイギリスでは、『カラスに変えられた騎士王の化身として敬われている』、とか」

 

 耳に残響する声を聞いて。

 動きを止めていたセイバーはイラ立ちのままに、残る魔力を纏わせて横薙ぎに一閃。

 

 水の圧が、セイバーを中心に周囲へ解き放たれる。

 その勢いでカラスたちが塵芥を散らして消し飛ばされ、次々と痕跡を消滅させる。

 

 だがすでに、キャスターたちの姿も気配も、もう何処にもなかった。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 セイバーたちと争った場所から離れた路地裏に二つの人影。

 パチンと、いっそ小気味よい音を立てて、カッサンドラの平手がキャスターに直撃する。

 

「いてっ」

「いてっじゃありません、どういうつもりですか……!」

 

 さきの煽られたセイバーに勝るとも劣らない怒りにワナワナと震わせながら。

 カッサンドラは恩人とも言えるキャスター相手であろうと食ってかかる。

 

「だってあの状況でしたら、ああでもしなきゃ姐さんやられちまってましたよ。なんで事後承諾って形で、姐さんの宝具の発動条件を満たさせてもらいました。いやあ上手く行ってよかったよかった!」

「余計なお世話です! 紛い物とはいえ、太陽(あんなもの)の下に身を晒す羽目に……!」

 

 心底嫌や思いをしたと、その場でしゃがみ込むカッサンドラ。

 そんな彼女にどう声をかけたものかと頭をぽりぽりとかくキャスター。

 

 そんな彼に殊更機嫌を悪くしながら、カッサンドラは顔を上げてさらに言葉をぶつける。

 

「大体アナタだって、()()()()()()()()()()()()()クチでしょう。それをよく平然としていられますね」

「そうは言われましても、あっし別にアポロン神に恨みがあるわけじゃありやせんし。なんならむしろ……いや、今この話題は止しましょうや」

 

 一方的に繰り広げられる争いに区切りを付けてさせると、キャスターは本をパラパラとめくりカッサンドラの背に回る。

 

 その中の一ページを開いて魔力を通し、空いた片手をカッサンドラの黒い翼に添える。

 

「? なにを──」

「最初からこうしときゃあよかったんでしょうがね。いやこんな状況にでもならなきゃ、あの旦那が許しやしませんかね」

 

 しばらくの間なにやら唱えたと思えば、終わりましたよと声をかけるキャスター。

 怪訝な表情を浮かべていたカッサンドラは、自然に背中から生えた翼に視線が向く。

 

 英霊として、そしてサーヴァントとして。

 あまりにも出力が足りない自身の霊基を補うべく習合されたソレ。

 

 

 アポロンに仕えていたが水を汲む仕事をサボり、星へと上げられた折に永遠の罰を与えられたモノ

 

 アポロンの恋人にして医神アスクレピオスの母コローニスの密会を伝え、怒りを買ったことで美しい白銀の姿と声を奪われたモノ

 

 

 彼女にとっては何処か他人に思えない、しかし顔を合わせたこともない存在。

 そこから由来するソレに、段々と変化があらわれる。

 

 汚れたような黒い翼は、キャスターが触れた場所から徐々に色付いていく。

 まるで神話で語られた原初、すでに失われた美しい白銀の色を取り戻すように。

 

「これは……エンチャントですか?」

「ご明察! あっしの宝具の中からピッタリなもんを姐さんに付与させてもらいあした。これで少なくとも、姐さんの言葉は人間のソレだ。誰であっても耳を貸すことでしょう」

 

 事もなげにそう言い放つキャスターに目を丸くして、カッサンドラは困惑する。

 今しがたこの男は、命を救った自分に感謝どころかぶたれたばかりだというのに。

 

「どうして……?」

「どうって言われましても。姐さんは王女なんですし、これくらい着飾ったほうがいいですよと」

「…………余計なお世話です」

 

 何を考えてるのかよくわからないキャスターの、本心なのかすら伺いしれない言葉を聞いて。

 

 それにどう返すべきか分からぬまま、銀に変わった翼をひるがえしたカッサンドラ。

 

「あ、待ってくださいよ姐さん。旦那への謝罪ならあっしも一緒に考えますんで……おーい!」

 

 路地のさらに奥に待つ夜闇に溶け込む彼女を追うように、キャスターもまた霊体化し姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 疲れた。

 ただひたすらにそれだけ。

 

 度重なるセイバーの魔力放出による、肉体的疲労。

 サーヴァントとの会敵による、精神的疲労。

 

 もとよりサーヴァントの様子を見るだけのつもりだった跡奈のそれは、すでに頂点に達していた。

 

「それで、このまま引き下がるのかい?」

「当たり前でしょ。そりゃアサシンを逃すのは惜しいけど、キャスターを含めた二騎と戦うにはなにもかもが足りないわ」

「僕なら倒せると思うけど」

「ハァ……ま、万全ならそうでしょうね。でもその前に私が倒れて、そのままふたりともおしまいよ」

 

 そうでなくとも疲労困憊なのだ、いい加減休ませてほしい。

 気心の回らない奴、心のなかでセイバーにそう評価を下すことにした。

 

 重い足取りで、しかし追撃を恐れてすばやく。

 

 不満気ながらもついてくるセイバーを連れて広場を離れ、ふたたび裏路地へ足を踏み入れる。

 

 そうして歩き続け十分ほどかけて、本来の目的の場所であった跡奈が滞在する民宿にたどり着く。

 

 表札に『SUZUSHIRO』と書かれた民宿の玄関の前に立ったころには、すでに夜中の二時を周っていた。

 

 これといって目立つ外観なわけでもなく。

 シンプルな二階建ての、いかにもニザラムの街にある民家といった装いだ。

 

 そんな民宿の中で、宿主はまだ起床しているのか一階に電気が灯ったままだ。

 

「……失礼しまーす」

 

 恐る恐る、そしてゆっくりと扉を開いて。

 綺麗に整えられているが、一般家庭の玄関と対して変わらないそこへ足を踏み入れる。

 

 霊体化できないセイバーを不法滞在させるのは気が引けるが、いまはそうも言ってられない。

 

 まずはすばやく部屋に上がり、今後の身の振り方を考える。

 食費を削るなどして一人分を賄えるか、いっそセイバー一人に野宿させる道具を用意できるか。

 

 今後の計画を脳裏に浮かべては消しながら静かに靴を脱ぎ、並べられた二足分の靴の邪魔にならないように端に揃える。

 

 セイバーを玄関に入らせると、宿主の目を盗めるか確認するために、当人が居るであろうリビングを覗き込もうとして──。

 

「──あっ」

「遅い。まったく、どこほっつき回ってたんだか」

 

 跡奈がドアノブへ手を掛ける直前。扉が部屋の内側へと開いて、宿主が姿を見せる。

 

 青っぽいショートの髪に、この地ではそう珍しくもない日系の顔立ち。

 二十代前後と思われる、どこかサバサバとしたクールな印象を漂わせる女性だ。

 

 タバコを片手に気怠げな様子を隠すこともなく、宿主はドアノブを掴み損ねたまま停止する跡奈へ小言を聞かせる。

 

「す、すいません。余計な心配をおかけしてしまったようで……」

「こんな時間だからね。心配はするよそりゃ。……と、それより」

 

 首をクイッと曲げて自身の後方を示す宿主のジェスチャーに、跡奈はしまったと感じながらゆっくりと振り返る。

 

 もちろんそれが、自身の背後でよくわからぬまま突っ立っている、鎧を全身に身に付けた不審人物を示しているのは一目瞭然だ。

 

「あー、僕ですか?」

「……男?」

 

 兜越しから聞こえる男の声に心底意外そうに、そして驚きながら。

 宿主はセイバーと跡奈を交互に見てしばらく考え込むと、なにか己を納得させたように目を伏せうんうんと頷く。

 

「あー……うんまぁ。そういうこともある、か?」

「あの、変な勘違いしてません? いやこの際訂正は面倒なのでしませんけど」

 

 どのように説明するべきか。

 とりあえずリビングに入るように言う宿主の背後をトボトボと歩く跡奈と脚部の鎧を外そうともがくセイバー。

 

 疲労が溜まった頭をフル回転させる跡奈は、なんとか言い訳を考えるのだった。

 

 

 

 それから大体十分ほど。

 リビングの椅子に二人ならんで座らせられた跡奈とセイバー。

 跡奈は反対側で面接官のように座り、両者を吟味する宿主に言い訳を続けた。

 

 道に迷い、挙げ句財布をスられた哀れな旅行者。

 彼と出会いなんだかんだ世話する事になり、さてどうしようかと思っていた。

 

 そんな土壇場に思いついた嘘を聞いて、タバコを灰皿に押し付けて火を消す宿主。

 

 ハァと大きく溜息をつきながら、ここまで黙って聞いていた宿主は跡奈へ顔を上げ口を開く。

 

「一ついい?」

「なんです?」

「……嘘付くならもう少し真面目に考えたほうがいいよ?」

「うっ……」

 

 やはりというか、こんな拙いもので誤魔化し切るのは無理だったか。

 最悪、荷物を纏めて新しい宿を探すしかない。そんな不安を他所に、宿主は隣のセイバーに指差す。

 

「君さ」

「な、なんでしょう」

(ソレ)取ってよ。それで考えてもいいよ」

 

 意外なことに宿主側から示された、譲歩の提案。

 

 予想外なそれを聞いてからの跡奈の行動は早かった。

 すぐさま立ち上がったと思えばセイバーの席の背後にまわり、兜から生えている山羊の角の様な部位を掴んで無理矢理引っ張り上げる。

 

「これ取りなさい、今すぐに!」

「うおぉお……!? やめてくれ、顔を見せる気はない……!」

「ははは、よいではないかよいではないかー」

 

 クールな装いに反し、ゲラゲラと笑ってその様を見届ける宿主の目前にて。

 セイバーに組み付いた跡奈が、それは凄まじい形相で兜を外そうと試みていた。

 

 一人分の滞在費が浮くかもしれないチャンス、実際跡奈は必死だ。

 

「おおあ……!!」

「いい加減に……取れッ!」

 

 数分の格闘の末。

 跡奈が兜を取ろうとする角度とセイバーが押さえようとする角度が対となる、骨が折れかねないそのタイミングで。

 

「──わかった、わかったよ……!」

 

 セイバーの口から降参が宣言されると同時、ガシャガシャと音を立てて角を中心に兜が変形しはじめる。

 予想外の開き方で弾かれ手放した跡奈が、引っ張る勢いのまま後方へと倒れた。

 

 そのまま兜は変形を繰り返し、鎧の中へと収容する形で一体化し、その素顔が開放される。

 

 なんだかんだ気になってはいたのか、倒れていた跡奈は起き上がると、宿主のすぐ隣へ滑り込むように移動する。

 

「おぉ〜!」

「……へー」

 

 そうして二人分の視線のその先、収納されていた兜の下。

 

 金の髪を揺らし、碧の瞳を持った童顔の少年が、不服そうな表情のままその姿を覗かせた。

 

 





一年近くかけてようやく一日目の戦闘が終了、このペースだと六年はかかりかねない……。

水を出すセイバー顔
当初は居ないから出そって感じだったなかでサムレム発売決定&ヤマトタケル登場でヤバババってなったのはココだけの話。
どこかの鬼を斬る炭焼き小屋の長男のパクリみたいにならないか不安になりながら執筆してたのを、本家がサラッと超えて来た。


▽以下、本編に関する設定を含んだ話▽

未来を知ることができる人物が三人もいて、書いてる自分ですらややこしく感じる。

当初の予定では神樹シロウと高山蓮華の二人だけ。
最初に下位互換の蓮華視点での未来が語られ、その後真相の開示などを神樹視点で行う、という流れだった。

ところが登場サーヴァントの採否で最終的にアサシンが残り、それら設定のすり合わせやら差別化で統合した、というのが真相。

こんな具合で非常にややこしくなったので、公式の未来視キャラの設定とか読んでは落とし込んでの四苦八苦という有り様。
具体的な設定はあとから変更される可能性がありますが、劇中で得られる未来の差はこんなもの、と大まかにまとめました。



アサシン カッサンドラが予言で知った未来は、
『神樹シロウの干渉を除き、本来訪れるはずだった未来の自分から見た記憶の断片』
聖杯戦争で召喚された時点で起こりうる未来の断片が頭の中に流れ込む。
例えるならば、未来から送りつけられる映像。

断片を知るだけで、実際その目で見るまでは具体的な様子や流れはわからない。
宝具であり、太陽が昇っているのが発動条件。
また、サーヴァントとなったことで生前より能力が低下している。

状況をみる限りセイバーはアーサー王、と認識していた。


ライダーのマスター 高山蓮華の神託の正体は、
『神樹シロウの干渉の規模を逆算、算出した未来の可能性』
現状起こり得る可能性をイメージを見ることができる。
例えるならば、薄ぼんやりとした景色を顕微鏡で覗き込む作業。

街や一族程度の可能性なら問題ないが、大国や星レベルになると離れ、ボヤけてしまい時間をかけなければ事細かな詳細を見れない。
逆に個人程度の小さいものでは、遠すぎて見れない。
例外として神樹のように一個人であっても世界に与える影響、干渉が大きいと「なにかが起こる、なにか起こそうとしている」といった大雑把なものがわかる。
そうして時間をかけて得た情報から推測、修正で線引を行って回答を導くのが彼女たちの役目。

セイバーはアーサー王ではなかろうか、と推測している。


聖杯戦争の開催者 神樹シロウの視ている未来は、
『自身の干渉を含めて動いた末の世界』
自身を含めた行動や過程、結果といったすべてを終わりまで閲覧できる。
例えるならば、世界を本として読むようなもの。

能力の都合上、彼の場合はすでに起こることが確定したものを視ている。
しかし本人はこの未来が覆ることは決してない、とは考えていない。

視たセイバーは仮称メドラウトではなかった。


同じくらいの知見でも、アサシンは自身の知り得る範囲であれば個人レベルで知ることができるが、蓮華は災害クラスの例外でもなければ知ることができない。

神樹の未来視と蓮華の神託は、互いに同じ情報を得ているが、それを覗く精度が段違いで蓮華の延長に当たるのが神樹。

根源とそれに通ずる神霊から直接という点で、アサシンと神樹の情報の精度、正しさはほぼ同じ。
しかし近代では神霊の干渉が弱まり人の影響力が強く、サーヴァントであるアサシンの知る未来には限りが設けられている。

以上から未来視の規模や精度、正確性は大雑把に
『神樹>(時代と上限の壁)>アサシン>>蓮華』
となっている。
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