Fate/outsider   作:EUDANA

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1ヶ月以内に2話投稿目指したけど、イベントとサムレム走りながらは流石に無謀だった。
あと今回急ぎ目に書いたから所々内容が薄いなとも


11.最初の夜明け

 

 12月25日

 未だ地平線に陽も登らぬ時刻。

 

 漏れ出る息も白に染まるこの季節。

 誰もが眠りたいであろうこの時間に、しかし見受けられる影は(まば)らに。

 

 

 ここニザラムにおける高山家の人間が、まさにその筆頭だ。

 

 表向きにはニザラム出資の代表として。

 しかしその裏では、この地の管理者(セカンドオーナー)として。

 

 聖杯戦争によって発生した被害を補修、調整することで、戦いの隠蔽を担っているのだ。

 

 このような自発的な活動は、高山家の在り方に由来する。

 それは彼ら彼女らにとっては、もはや日常といえるだろう。

 

 

 

 

 

 かくして寝静まったニザラムの街、薄暗い空の下に彼らの姿はあった。

 

 そこは今から数時間ほど前に、セイバーとアサシン、そしてキャスターが相対していた場所だ。

 

 神社に仕える神職のような姿で身を包むのは、高山家に身を置く者たち。

 

 今まさに陰陽道を由来とする魔術の1種を行使し、街並みの修復を行っていたところだ。

 

 

 作業を始め、はや数刻。

 瓦礫や破壊痕の抹消、倒壊した木々の後処理。

 

 あらかた作業を終えたのだろう。互いに目配せし、背後で見守っていた少女に歩み寄る。

 

「代表、こちらの作業は問題ないかと」

「そうですか……ありがとうございます。では──」

 

「…………」

 

 

 報告に来た配下の者たちが相手であっても、礼節は欠かさず。

 代表と呼ばれた少女───高山(たかやま)蓮華(れんか)は頭を下げながら次の指示を出す。

 

 

 そんな蓮華のすぐ側に控える、一人の少年。ほんの数時間ほど前に召喚され、彼女と再契約を結んだばかりのサーヴァント、ライダーだ。

 

 

 黙って様子を見届けていたライダーは、蓮華が指示を終えるのを待って声をかけた。

 

「ウラルトゥ───いや。アルメニアの修復はありがたいんだが……幾つかいいかなマスター」

「ええ、構いませんが。……なんでしょう、ライダー?」

 

 こちらへ振り返るマスターから、会話の時間があることを確認して。

 

 まずは。そう前置きしてから、ライダーは最初の疑問を口にする。

 それは今なおひっきりなしに行われている、高山家の人間たちの作業だ。

 

「聖杯の影響でルールは理解したつもりだけれど……彼らが今しているのは『教会』とやらの管轄じゃあ?」

「ああ、その件ですか」

 

 そう。それは本来であれば、聖堂教会(せいどうきょうかい)から派遣される監督役が行う作業。

 

 教会は代々、魔術師たちと魔術の行使や秘匿を巡り、今なおつづく水面下の争いを繰り広げてきた。

 

 だが神秘の秘匿を第一としている都合、聖杯戦争では魔術や神秘の痕跡を遺さないことを主としているハズなのだ。

 

「たしかに。本来であれば彼らの監督不行き届き、と言えますが──」

 

 

 今回の監督役はマスターを有してる。そしてその事実を、表立って隠すような真似もせず。

 

 故に彼らを信用できない、という都合もある。

 そうした敵対するマスター同士の都合というものを説明するべく口を開く蓮華だったが───。

 

 

 急速に、この場の空気が冷え込むような。そんな悪寒に近いものを感じ取った。

 

 まるで背後からなにかが迫ってきているかのような、そんな直感。

 

 

 現に。本能が鳴らす警鐘を肯定するかのように、槍のような武器を手にしたライダーが蓮華の背後を防ぐように立ちはだかる。

 

 どうしたのかと疑問を言葉にすることなく、蓮華もまた悪寒の正体を相手に武器を手にする。

 

 懐から取り出したるは、陰陽道の基盤が書き記された呪符。

 

 それぞれの武器を手に臨戦態勢に入った2人に、わずかに遅れて配下たちも身構える。

 

 

 全員が向ける意識の先───まだ薄暗い路地の闇から、いくつかの人影が歩み寄る。

 

「朝カら性ガ出ますネ」

 

 この場にいる者へ声をかけたのは、歳半ばにも満たない少年少女たち。

 

 どこかカタコトな言葉を発する子どもたちだが、その姿を注視すれば妙な点が疎らに見受けられる。

 

 

 ひとつは示し合わせたように、神父やシスターのような聖職者の格好をしていること。

 

 そしてもうひとつは、その全身が生身のものではない───即ち、人工物で造られていること。

 

 

 生気のない瞳やパーツが見えやすい関節といった箇所は特にわかりやすく、人間として違和感を覚える外見。

 

 それが自発的に動いて喋るとあっては、魔術とは無縁の者であっても薄気味悪さを拭えはしないだろう。

 

 

 無論、高山家の人間たちは彼らが日常側の存在ではないことも、そしてその正体も知っている。

 

「聖堂教会の連中、ならばアレが……」

機巧の聖歌隊(ドールズ・クワイア)か、噂には聞いていたが」

「なんて悪趣味な……」

 

 知らぬ者の疑問に答えるように。背後から耳に入るのは、配下たちの小さな声。

 

 

 今回の監督役に就任した葬儀屋(アンダーテイカー)の代表

 クリムス・サーディアル

 

 彼が護衛として用意した、葬儀屋の保有兵力のひとつ。

 それが彼らの正体、『 機巧の聖歌隊(ドールズ・クワイア)』だ。

 

 

 人造の機械人形でありながら、しかしその立ち振舞はまるで本物の人間のようで。

 

 代表である蓮華も直接見るのは初めてだが、やはり初見の衝撃は強烈なもの。

 

 

 しかし、だからといって。

 異形のそれを恐れることも、ましてや倒さなくてはならない相手という同情も必要ない。

 

 なにせ彼らはすでに、多くの魔術師たちを葬ってきた戦闘兵器なのだ。

 

 子どもの姿に油断するようでは、この聖杯戦争を生き残ることも、ましてや神樹シロウの狙いを阻止することも不可能だろう。

 

 

 余計な思考に区切りをつけて、蓮華は彼らに会話という名の通達を試みる。

 

「こちらの作業はすでに終えました。今更来ても、お仕事はもうありませんよ」

 

 教会の遅い動きに、皮肉の1つでも言い聞かせるように。

 

 子どもの姿を模した人形たちと視線の高さを合わると、作業はすでに終えた旨を報告する。

 

「いえイエ」

「本日はほんノゴ挨拶でス」

「姉さンも主人(マスター)モ忙しいノデ」

 

 だが機巧の聖歌隊は、隠蔽作業の実行を口々に否定する。

 今回の目的は、あくまでも顔合わせでしかないのだと。

 

 

 つまるところ。クリムスは仕事をするつもりなどなかったと、堂々と自白しているのだ。

 

 なんとまあ、目的しか興味がない男なのだろうか。

 

 あっけらかんとしたサボり宣言に、蓮華はそう呆れ果てるしかなかった。

 

「……連絡役を寄こすだけで、下げる頭すら見せませんか」

 

「ハハ、僕ラの主人ハ忙しイのでス」

「配慮なンテ無いのデス!」

「性格モ悪いしネ!」

 

 思わずついた蓮華の愚痴。それにつづくのは意外にも肯定、それと主人への悪態。

 正すどころか違いないと返せば、機巧の聖歌隊たちは、カタカタと音を立て一斉に(わら)いだす。

 

 薄気味悪いその光景を前に、蓮華の隣や背後に控えていたライダーたちは、思わず怪訝な視線を向ける。

 

 なにが面白いのか、独特な反応をひとしきり示せば、シスターの格好をした個体が1機、蓮華の前へと躍り出る。

 

 服の裾をつまみ上げると、美しくも丁寧な───まさに機械的な動作で一礼する。

 

「それデは皆々サま、本日はゴ機嫌よウ」

 

 そう言い残した個体が踵を返す。

 路地の方へと歩いて行けば、残る個体たちもぞろぞろと後へ続く。

 

 遠ざかり、さらに小さくなる機械仕掛けの子どもたちの背。

 敵であることに変わりはないが、しかし蓮華は不意打ちすることなく呪符を戻す。

 

 

 すでに夜明けが近いこの時刻、今更戦闘したとて人々に見つかるのは必至。

 

 そうでなくとも、不意打ちしたとてさしたる意味もない。

 アレは今回の監督役の兵力、その1つでしかないのだから。

 

 

 そうして敵を安々と見逃して。

 蓮華は視線を外すことなく、背後のライダーに声をかける。

 

「甘いと思いますか?」

「いや? 機械、それも敵とはいえ子どもを傷付けるのも忍びない。彼らを造ったやつはいい性格をしてるようだ」

 

 蓮華の言葉に返すように、ライダーもまた握っていた武器を手放し霧散させる。

 

 ややあって周囲を見回し、それにと付け加えて、肩をすくめ笑う。

 

「せっかく綺麗にしたというのに、また壊してしまったら意味がないじゃないか」

「……そうですね」

 

 ライダーの気遣いとも言うべき言葉にふふっと笑い返す。

 

「さて。彼らの来訪で聞きそびれたが、聞きたいことがもうひとつ」

 

 蓮華から緊張が抜けたことを確認すれば、ライダーはさきほどの続きをうながす。

 

「『この聖杯戦争は世の命運すら左右する』、君の言葉が意味するのはそうだろ?」

「ええ。故に我々は、貴方を見つける事ができた。とも言えます」

 

「ならば、この聖杯戦争にはルーラーとやらも召喚されていいハズだ。なのにこの聖杯戦争で現れたサーヴァントには不在。どうしてなんだ?」

 

 

 

 裁定者(ルーラー)

 それは聖杯戦争において、異常が発生したとき、本来の運営へと正すために召喚されるサーヴァント。

 

 各サーヴァントの真名を知れる『真名看破』

 保有する令呪を各騎に行使できる『神明裁決』

 これら通常のサーヴァントと比べて、より強力で破格なスキル、特権を与えられて召喚されるのがルーラーだ。

 

 

 そんなルーラーだが、通常の聖杯戦争で呼び出されることはない。

 召喚にはある程度の条件が定められているのだが、主な条件としては2つ。

 

『形式が特殊で、結果が未知数となる場合』

 

『それ自体が世界に歪みを発生させる場合』

 

 ───となっている。

 

 

 この戦いもすでに、セイバーが2騎召喚されるなど特殊な事例とはなっているが、その程度であれば問題ない。

 

 しかし蓮華が語った、『この世に影響が出る』という話。

 

 これが聖杯戦争によって引き起こされる事態ならば、ルーラーが召喚されるのが道理のハズ。

 

 にも関わらず。ニザラムの地に現れたサーヴァントはセイバー2騎を含めたとしても8騎。

 そこにルーラーの姿など影も形もない。

 

 

 ライダーが抱いた疑問を聞いた蓮華は、どこか心苦しそうな顔を見せると頬に手を当てる。

 

「それが、我々にも測りかねないんです」

「……というと?」

「本来、我々の神託は世界規模であっても時間さえかければ読み解けます。今回もそう、世界の危機が見えて、そのさきの原因が見える───ハズでした。しかし……」

 

 会話を途中で区切ると、蓮華は天を仰ぐ。

 

「───見れなかったんです、その異常に関しては何故か」

「見れなかった……?」

 

 思わず聞き返すライダー。それに小さく頷くと、未だ青さを取り戻すことなき空を見上げる。

 

 数年前、この地に起こる災いを覗き行った神託。奇っ怪極まるその光景を思い返した。

 

「ニザラムの街が出来ることも、聖杯戦争が起こることも、そして彼が滅び(それ)をもたらすことも、観測することはできました」

 

「? ならば───」

「しかし、世に起こる異変と聖杯戦争を結び付けることが出来なかった」

 

「それは神樹なる男が、なんらかの方法で抑止力を回避し世界に危機をもたらす……と言うことか?」

 

 抑止力、世界を正しく運営するための力を潜り抜けて世界に危機をもたらす。

 

 にわかには信じがたいことだが、神樹シロウは根源に接続しているという。

 となれば、不可能ではないのかもしれない。

 

 だが、どうにも腑に落ちない点が多い。

 ライダーもまた、マスターと同じように薄暗い空を見上げて現状をまとめる。

 

「うーん……世界に危機が訪れるのは間違いなくて、けれどそれを正す動きは一切ない。それでも主催は聖杯戦争の開催はできた……?」

 

「或いは、聖杯戦争の結末をもって世界に影響を与えるのか……確かなことがあるとすれば、『抑止力は世界の危機を救う動きを行おうとしていない』という事実だけです」

 

 

 混沌とした空を並んで見上げる2人。

 視線の先は、まるで世界の行く末のよう。

 

 暗く、先が見えず、まるで世界に見放された闇の中のようで……。

 

 

 

 聖杯戦争終結まで、あと───。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

『いいかい▇▇▇▇。これから先、君はなにがあろうともその名を名乗ってはいけないよ。それが───』

 

 ───それが、この国のためなのだから。

 

 

 真っ白なローブに身を包み、どこか不思議な雰囲気を漂わせた男。

 

 彼は小舟に乗せた少年にそう言い残すと背を向ける。それと同時に、舟はひとりでに海へと漕ぎ出していく。

 

 少年は、まるでそうはさせまいと藻掻く。

 だがその動きは、まるで生まれたての子鹿のよう。自由に動くことが叶わないのだ。

 

 

 精一杯の力を振り絞って。

 金糸のような髪から翠の瞳を覗かせる少年は、去りゆく男と遠ざかっていく島をより一層強く睨みつける。

 

「──ぁ」

 

 振り絞るように、縋り付くように。

 吠えるように、唸るように。

 

 少年は声高に叫ぼうとする。

 しかしそんなことをしたのは初めてかのように、少年は言葉を発することすらできない。

 

「───!」

 

 そうこうする間に少年を乗せた小舟は、発った島が小さく見えるほどの距離まで流されていた。

 

 穏やかな海流は、少年を島から遠ざけようとするようにゆったりと流れ続ける。

 

 

 運命を受け入れたのか、漂流を覚悟したのか。思わず顔を下げてうつむく少年。

 

 だがやがて、意を決したかのように息を大きく吸い込む。

 

「────」

 

 先の男を見てやり方を学んだかのように。

 声を(ほとばし)らせて、思いの丈を言葉として刻み込む。

 

「ぜったいにゆるさない……! おれをうんでおきながらひていするおまえたちを、おれはぜったいに……!」

 

 

 人に、島に、そして世界に。

 怒りを、憎しみを、そして呪いを。

 

 

 そんな怨嗟に呼応するかのように、澄んだ青の穏やかな海が荒れ始める。

 

 水平線の果てから生まれた津波は、少年ごと島へ流れ込もうと段々大きくなりながら迫る。

 

 背後から近づく、激流の壁。

 呑まれればひとたまりもないソレを前にしても、しかし少年は抵抗しない。

 

 その流れに身を任せれば、呆気なく波に絡み取られていった。

 と同時に、押し寄せた波は彼を飲み込むと変化が現れた。

 

 黒へと塗り潰されて淀みを孕んだような、荒れ狂う嵐のように変貌した海原。

 

 後には転覆し、乗員を失った小舟だけが残された──。

 

 

 

 

 

▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇

 

 

 

 

 

 ──今は昔、ずっとずっと昔のこと。

 まだ、ソレが『▇▇』になる前のこと。

 

 

 

 ソレはそこで、大海を征く船に乗っていた。

 身を乗り出すように外へ視線をやり、きらめく星々が照らす海を見つめるなか、船は進みつづけた。

 

 まるでその光を掻きわけるかの如く。

 まるで宛もなく彷徨うかの如く。

 

 そんな行き先もわからぬ大きな船の周囲には、まるで親に群がる小魚のように、荷物を乗せた小舟が取り囲む。

 

 そうして船団はいつものように、零れ落ちた涙のような軌跡を描きながら航路を進行していた。

 

 

 

 すると遠くから、小さな蒼白い光が見えた。

 

 ソレが光に興味を引かれたことなど知る由もなく。

 そこへ吸い込まれるように、何隻かの小舟が舵をとって離れた。

 

 

 何故だかわからないが少しだけ、ほんの少しだけ。あの輝く光へと向かう舟を───。

 

 

 無意味な思考の果てに、ソレは小舟が見えなくなるまで見送った。

 

 

 それから少し間をおいて、光も小舟も見えなくなったあと。

 ふたたび星々に視線をやっていると、さきの光が放たれていた場所から、さらに強く輝く白い光が立ち昇っていた。

 

 

 その光に気付いて振り返るのと、光が船へと降り注ぐのはほぼ同時だったと、ソレは認識した。

 

 気付いた時には既に遅く。

 眩い光に目を奪われていたソレは、次の瞬間には船から投げ出されていた。

 

 小舟に助けられることもなく、そのまま海へと真っ逆さま。

 船に手を伸ばしてみたものの、船は何事もなかったように航路を進みつづけた。

 

 まるで取り零したものなど、さして重要ではないかのように。

 まるで代わりなど、いくらでも用意できると言わんばかりに。

 

 

 

 ───ずっと共にあった船から見捨てられたのだと、ソレにはすぐ理解できた。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 朝10時

 

 寒さに屈しそうになりながらもベッドからゆっくりと起き上がった跡奈は、寝ぼけた様子のまま目を擦る。

 

(なんか…………いっぱい情報流れてきた気がするんだけど……?)

 

 民宿に設けられた自室に辿り着くなりセイバーに見張りを任せると、そのまま倒れ込むように爆睡した跡奈。

 彼女はそのまま、眠りに落ちると同時に奇妙な夢を見た。

 

 白昼夢のように妙に現実味(リアリティ)を帯びたそれを視て、しかし跡奈に困惑や驚きはない。

 

 サーヴァントとパスを繋げたことで、座に刻まれたセイバーの記憶でも垣間見たのだろう。

 それは聖杯戦争にてマスターの身に起こる現象として予め記憶している。

 

 しかし、跡奈が気になるのはその内容。

 

 誰かの記憶らしきものを見た直後、今度はふわふわとした現実味のない、それこそ本当の夢のようなものを視たのだ。

 

 

(小舟に乗せられていた少年がセイバーだとは思うんだけど、じゃあその後の夢は何? あっちは大きい船に乗ってたけど……?)

 

 エラーで違う英霊の記憶でも入り込んだか、あるいは本当に自分が見た夢でしかなかったのか。

 

 

 ───このセイバーは変な所が多すぎる。

 

 

 妙に甘い香りに誘われて、隣のベッドにチラと視線を向ければ、そこには布団の中へ突っ伏すセイバーの姿があった。

 

 先日は気付かなかったが、髪に隠れた箇所には鋭い傷痕が残っている。

 この傷も幼き日に受けたものだろうか。

 

 

 国のため───。

 

 

 彼に何があったのかはわからない。

 

 だが、そう言われて海へと追放されればその国に───恐らくブリテンだろうか───恨みを抱くのも無理はないのかもしれない。

 

 どこか同情的な気持ちになるのと同時に、跡奈の内には違和感がふたたび芽生える。

 

 だが今度は、記憶がどうといったものではない。

 

 そう。それは、睡眠を必要としないハズのサーヴァントが、呑気にベッドで寝ているという事実。

 

 

「ッ───! セイバー、なに呑気に寝てるのよ!」

 

 跡奈の咆哮からわずかに遅れて、クッションが宙を舞って少年の頭に直撃した。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 クリスマスの朝を迎えたこの日、この地球に生きる全ての者たちに等しく朝が訪れる。

 

 

『先方にはそう話をしていきますので──』

「はい……はい、ありがとうございます」

 

「そうそう、それでさぁ」

「えーマジ?」

 

「メリクリ~」

「今年もよろしく」

「まだ早えだろ」

 

「それでは現地にいるラウスさんにお聞きしてみましょう。ラウスさん、そちらの様子はどうですか?」

『はーい、こちらニューヨークではクリスマスムード真っ盛りです! 残念ながらホワイトクリスマスとはなりませんでしたが──』

 

 

 

 

 賑わいを見せるニザラムの街。

 道行く人の他愛ない会話や、街頭のテレビから流れる映像。

 そんな人通りの多い場所を歩く跡奈とセイバー。

 

 二人はある目的のために、こうして昼前の街を散策することにしたのだ。

 

「にしても人が悪いわ。『別に顔見ただけでタダって訳ないでしょ』って……そういうのは先に言いなさいよね」

「でもそれだけで僕も泊まれるんだ。文句は言えないよ。こうして服まで貰っちゃったし」

 

 朝起きて真っ先に突き付けられたお使いにボヤく跡奈と、それを(たしな)めるセイバー。

 

 その言葉の通り、今のセイバーは宿主に提供された現代的な服装へとちゃっかり着替えていた。

 

 グレーのジャケットの下に青いシャツ、それにベルトを巻いたジーンズ。鎧のまま出るのと比べればかなりマシな姿となっている。

 

 

 それだって前金みたいなものでしょ。

 

 

 割と気に入ってるのか悪くない表情を見せるセイバーにそう呆れながら、跡奈は出かける直前に渡された紙切れを取り出す。

 

 そこに書かれている物を買うのが今日の目的───ではなく。

 こちらはあくまで必要経費のためのオマケに過ぎない。

 

 本来の目的は街巡り、と言ってもただの観光というわけでもない。

 

 サーヴァント同士で戦うならどの辺りか、霊地となり得る場所───敵のマスターが潜伏するならどこか。

 

 今回は、それらを見極めるための行動だ。

 

 敵情視察も兼ねた散策、これも聖杯戦争に勝ち残るのに重要なことなのだ。

 

「というわけでまずは───」

「本屋って言うのか、あそこ気になるな」

「……セイバー貴方、結構楽しんでない?」

 

 いきなり出鼻をくじくように、セイバーは街並の中から気になる店舗を見つけたようだ。

 

 不機嫌な表情と、朝見せた寝ぼけた表情。

 兜の下に隠していた顔が、それ以外の一面を見せるのは珍しく。

 

 そう感じてか、跡奈は溜息を付きながら薄く笑う。

 

 

 きっと本当に楽しんでいるんだろう。

 

 

 アサシン───カッサンドラはもちろんのこと、ランサーやキャスターの情報も仕入れたい。

 

 そうなれば、本屋という選択も悪くない。

 その旨を伝えると、セイバーはすぐさま歩みだす。

 

 興味の赴くままに先行するセイバーの背後を小走りで追いかけて。

 まあこんな関係の保ち方も悪くないだろうと、そう跡奈は己に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 

 ニザラムの街の一角。その中に佇む店に居るのは、ラフな格好の少年とスーツを着た伊達男。

 ランサーとそのマスターのリカルド・ルーカス、2人の姿があった。

 

「うーん……親父、これちょっと高くないか?」

「いやいや! こいつぁ貴重なモンだよ、なにせ───」

 

 ガラスでてきたショーケースの中を指差しながら、リカルドは奥にいる店主を睨む。

 

 わかりやすい値切りの交渉が始まったなか、ランサーはというと、興味無さげに店内を見渡す。

 

 店中のショーケースの中には、なにやら茶色いものが所狭しと並べられていた。

 

(こんな土塊みてぇな骨が……18万ドラム……日本円7万だぁ?)

 

 ドラムも円もランサーにはとんと縁が無い。しかし聖杯からの知識で凡その価値はわかる。

 

 それを踏まえても尚。口には出さずとも、ランサーの顔には呆れに近いものが浮かび上がる。

 

「ホラ、このレベルなら相場は15万ドラムだろ!」

「〜〜ったく、兄ちゃんには参ったね。持ってけドロボー!」

 

 日本で使われる単語を口にしながら、店主はリカルドの要求を飲み会計を行う。

 

 

 それから数分。店を出たリカルドは人通りの少ない路地に滑り込むと、満足げな様子で伸びをする。

 

「よぉし、これでなんとか予備も買い揃えれたな!」

「……どうでもいいがよマスター、これにそんな価値あんのかよ?」

 

 リカルドの抱えていたバックから抜き取ったのはさきほど買った商品。

 ケースの中に厳重に保管されたそれをヒョイとつまみ上げて、ランサーは訝しむように覗き込む。

 

「うるっさいな、俺の礼装に使うんだからいいだろ別に! ……ウチの家系の魔術は結構金喰うんだよ、悪いか」

 

 ランサーの物言いに起こりながら、彼が持っていた戦利品を引ったくりカバンにしまい込む。

 

「『化石魔術』、ねぇ。んな骨で戦えるもんなのかね」

「もちろんだ。いいか、化石ってのは太古から脈々と受け継がれたモノ。ましてや恐竜ともなれば旧霊長類と言っていい。神秘はそりゃあもう凄いもんさ!」

 

 鼻を鳴らして腰に手を当てる。

 そうして誇るような様子でランサーに言い聞かせると、(くだん)の化石魔術に関する話をする。

 

「コイツは、ウチの()()()()()使()()()()()()と同じ原理の下に行使する魔術だ。しかもそこに死霊魔術やらを含めてるから、より高度なんだぞ!」

「…………」

「おい。『なら案外大したことねぇな』、とか思ってないだろうな?」

 

 ムキになって問いただすマスターの言葉に、さてどうやらとそっぽを向く。

 

 やれこれには、複数の魔術を応用したものがと食って掛かるマスターに、ランサーは言葉をかける。

 

「いいか、俺はたしかにアレかもしれないが、これでも五───」

「それより情報収集だろ? カフェに寄るとか言ってなかったか?」

「───あ、あぁ。『Magician(マジシャン)』だろ、覚えてるとも」

 

 急に話を逸らされて、リカルドはなんとか己を落ち着かせる。

 これから向かうMagicianというのは、このニザラムに居を構えるカフェの名だ。

 

 その名の通り、聖堂教会のお膝元たるニザラムでは数少ない、魔術師の憩いの場所───と聞いている。

 ならば客の大半が魔術師。情報を得るには都合がいい、というワケだ。

 

 地図を懐から取り出しその場所を確認すると、ここから案外近場なのが見て取れる。

 

 あらかじめ引いておいた線に沿って、2人の主従は歩みを進める。

 

 

 

 

 路地を歩くこと3分。

 ビルの地下につづく階段、そのすぐ側に設置されているのは、店名が描かれた看板。

 

 

『CafeBar Magician』

 

 鮮やかな書体で描かれるそれは、人目を引くには十分……だと言うのに。

 リカルドはふとした拍子で、この看板を見落とすところだったと冷や汗ひとつ。

 

 おそらく看板……それどころか、階段からそのさきまで、認識阻害の魔術をかけられているのだ。

 一般人ではとてもではないが、ここへ辿り着けやしないだろう。

 

 そうして、ここが目的の場所だと確信を得られれば、リカルドはランサーを連れてツカツカと階段を降りる。

 

「カフェバー? んだそりゃ」

「昼にカフェ、で夜はバーになるタイプの店がこう名乗るんだよ」

 

 身の振り方を理解してるってワケか。

 

 そう納得して付いて行くランサーの前を行くリカルドは、Magicianと描かれた赤い扉の前に立ってゆっくりと開く。

 

 

 

 カランカランと、店内に響く鈴の音色。

 

 妙な雰囲気に包まれている……ということもなく、如何にもといった様子のカフェバーだ。

 

 カウンター席以外は、すべて仕切りを挟んだボックス席となっている内装。

 そんなシンプルな店内は、一番奥のカウンター席にひとり座っているだけで、他の客は誰も居ない。

 

(先客か。夜になれば増えるかもと思って昼のうちに来たんだけどな……)

 

 とりあえず席に座ろう。

 入口手前側のカウンター席に2人並んで座ったところで、カウンター内から店主が姿を見せる。

 

「おーおー、今日は随分と───」

 

 手をおしぼりで拭きながら現れた店主は、しかし新しい客をひと目見て動きを止める。

 

 目を細めてカウンターに座る客を───否、ランサーを凝視する。

 

「おいおい、サーヴァントのお客さんなんて聞いてねぇよ?」

「え、あぁ……どうもすいません」

「こりゃどうも、悪いねオヤジさん」

 

 しどろもどろになるリカルドと、軽い調子で挨拶するランサー。

 

 こういうところで素養やらが出るんだろうなと内心不機嫌な気分になりながらも、リカルドは店主からメニュー表を貰う。

 

 さてなにを頼もうか。そう悩むリカルドを他所に、ランサーはじっと店主を見つめる。

 店主は少々バツが悪そうにチラチラと、何処かへ視線を向ける。

 

 その視線のさきにランサーが気付くのとほぼ同時に、店主は意識を向ける先へと声を掛ける。

 

「おいどうするんだよ。ゴタゴタが始まるからって、またツケを貯めるんじゃないだろうな? よぉ───」

 

 店主が名前を呼ぶ直前、席を立ったランサーが槍を取り出した。

 

「───()()()()()()

 

 と、同時に。

 カウンター席の奥を遮るように、光とともに巨体が姿を表す。

 

「!?」

「この気配───バーサーカーか……!」

 

 大柄で筋肉質な肉体を誇る、しかし美しくも出るところが出たボディーラインの戦士がそこに居た。

 

 突然の事態に、完全に呆けたまま視線が釘付けとなるリカルド。

 そんなマスターの不甲斐なさか、はたまた相手の悪さか、チッと舌打ちして槍を構える。

 

 その一方で、カウンター席の奥に座っていた客───アイリッシュ・クロムハーツはというと。

 熱っとこぼしながらコーヒーに口を付け直すと、バーサーカーを手で静止する。

 

 マスターの意思を汲み取ってか、バーサーカーは今にも襲いかからんとするほどの闘気を一度収める。

 

 すぐさま交戦、という事態が回避されたのを確認して、ランサーもまた向こうの出方を伺うようにクールダウンする。

 

 双方の動きに一旦の仕切りを見れば、アイリッシュはカップを受け皿においてようやく口を開く。

 

「落ち着けよバーサーカー。今飲んでるだろ」

「マスター、貴様こそなにを落ち着いているのだ。敵が目の前にいるのだぞ?」

 

 バーサーカーの言う通り、狭い店内に2人のサーヴァントとマスター。

 人目が付かないこの場所でなら、交戦を行ったとしても注意喚起が飛ぶこともないだろう。

 

(本職の連中にそのやる気があれば、の話だけどな)

 

 聖堂教会側が動くとは思えないと、当たりを付けていたアイリッシュが内のなかで愚痴る。

 

 まさに一触即発の状況だが、しかし事態が動くこととなったのは、第三者の言葉だ。

 

「お前ら殺り合う分には止めないがな……とりあえず、店の外でやって来い」

 

 気不味さから一転して、始まっちまったもんは仕方ないと見守ることにした店主がそう口にする。

 

「あ……は、はい」

「そりゃそうだわな、悪ぃなおやっさん」

 

 予想外の横槍に、完全に水を差されることとなった両者。

 

 とりあえずは、霊体化していたバーサーカーも含めた4人がカウンター席へと座り直す。

 

 この勝負は夜半へ持ち越しだ、と。そう暗黙の了解を交わして……。

 

 

 

 

 

   ✴          ✴

 

 

 

 

 太陽が地平線の向こうへと沈み始める夕刻

 

 クリスマスということもあり、暇を持て余していた人混みも、疎らに減り始めたニザラムの街並み。

 

 

 

 そんな緩んだ空気に包まれて訪れた、少しだけ特別な日常の終わり。

 

 クリスマスケーキ完売と描かれた看板を掲げた店の扉を開いて少女が街へ踊り出る。

 

「いやったー! このケーキ食べたかったんだーホントありがとね、()()()()()()♪」

 

 店のロゴが刻まれた袋を持った少女は、遅れて開いた扉の先に視線を向ける。

 

 

 

 そして───その先に、『ソレ』はいた。

 

 この場にそぐわないような、真っ白な和服とそれを包む拘束具のようなローブ。

 

 妙な組み合わせと言えるが、服装だけ見ればまだなんてことはない。

 

 だがそれでも。

 人通りも少なくなったこの場にいる者たちは、ソレへ奇妙なものでも見るような視線向けていく。

 

 そのすべてに意も返さず───否、物理的に見ようともせず。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で視界を覆い尽くしていたソレは、しかし足取りもたしかに人混みを避けて飛び出した少女に付いて行く。

 

「ねー、ウチで一緒に食べない? ……あーでもアネキがうるさいか」

 

 人目など一切気にすることもなく。

 朗らかな笑顔のまま大声で叫んだかと思えば、思い出したかのように曇る少女。

 

 彼女は先走る自分から少し遅れていると気づいて、ソレに駆け寄ってくる。

 

「ねーねー、聞いてよセイバーくん! うちのアネキがさぁ、泊まってる旅行者にお使い頼んだけど、もし買えるならデート中にケーキ買ってきてって言うの。酷いと思わない!?」

 

 言うだけ言うのに詰め込みすぎたのか。息切れしながらソレに語るのは、年頃の少女───それも、いわゆるギャルとでも呼ぶべき存在だ。

 

「ね、セイバーくん、次はどこ行きたい? やっぱりウチ? 激しい夜でも迎えちゃう!?」

 

 一方的に喋り倒す少女を相手にして。

 ここまで黙り続けていたソレはようやく言葉を紡ぐ。

 

「───鈴代(すずしろ)永星(エスタ)、さっきから言おうとしていたんだがな」

「ん? どしたの?」

 

「───俺に名などない。気安くセイバーと呼ぶのはやめろ」

「えー。だって、あの真っ黒な人にそう呼ばれてたじゃん! ちょっと待ってよー!」

 

 少女を追い越して、ソレは静かに人混みをかき分けて歩いて行く。

 そんな得体の知れないモノを追わんと、少女も歩む速度を早めるのだった。

 

 

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