艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第10話 ~泥を被る覚悟~

「何よ………これ………。」

 

それから約30分後であろうか。

遅れて深雪や第六駆逐隊と共に援護にやって来た曙は、事態が呑み込めないでいた。

海上には大破した野分と戦意喪失して座り込んでいる舞風がいた。

更に、誰かに殴られたのか顔に傷を残している吹雪と初霜と那珂の3人。

そして………。

 

「お前のせいでっ!お前のせいで萩はーーーっ!!」

 

怒りに任せて岸波を何度も殴りつけている嵐の姿であった。

異常事態だと感じた曙はすぐさま一番近くにいた吹雪に説明を求める。

彼女は援軍が何とか間に合い、敵艦隊を沈めて駆逐水鬼も撃沈させたと話した。

だが………。

 

「駆逐水鬼を沈めた岸波ちゃんに対して、嵐ちゃんがぶち切れちゃって………。」

「何で止めないの!?」

「止めようとしたんだけど、鎖が外れた獣のような状態なんだよね。軽巡である那珂さんですら頭に血が上ってぶっ飛ばしちゃっているし、それに………。」

「それに!?」

「岸波ちゃんが………抵抗しないから。」

 

吹雪の言葉に曙がハッとして見てみれば、岸波は本当に殴られるがままだ。

 

「何で萩を沈めた!何で萩を殺した!萩は、萩はーーーっ!!」

「……………。」

「萩は仲間だったんだぞ!?大切な仲間だったんだぞ!?それを、それをーーーっ!!」

「……………。」

「仲間を殺して………!仲間殺しをしやがってーーーっ!!」

「いい加減にしなさい!この大馬鹿艦娘っ!!」

 

エスカレートしていく様子に耐えられなかった曙は、横合いから思いっきり拳を叩きこんで嵐を殴り飛ばす。

水面を何度か転がった嵐は起き上がろうとするが、脳震盪を起こしたのか海面にうつぶせになったままだ。

 

「一体、どれだけの人に迷惑を掛ければ気が済むのよ!?人に当たる位なら、自分の無力さをまずどうにかしなさい!!」

 

曙の叫びを受けて、嵐は水面に拳を叩きつけながら涙を流す。

少しだけ冷静さを取り戻したのか、悔恨の言葉を呟き始めた。

 

「………ゴメン。………本当にゴメンよ、岸波。でも………でも………萩は戻れたかもしれないんだ………元に………艦娘に………!」

「何を言って………?」

 

嵐の言葉が理解できない曙に対し、初霜が更に補足説明をする。

海戦中に駆逐水鬼は萩風としての意識を取り戻す瞬間があったのだと。

だが………その願いは自身を沈めてくれという事であり、岸波が敢えて泥を被ったのだと。

 

「だったら………だったら猶更殴られる必要は無いでしょ!?岸波!?」

「………いいんですよ、ぼの先輩。」

 

水面に仰向けに倒れながら、ボロボロになった岸波は虚ろな表情で呟く。

 

「私、慣れてますから………。こういう役目………。」

「アンタ………。」

「これでいいんです………。これで………。」

「……………。」

 

何も言えなくなった曙に対し、横須賀鎮守府と長距離通信を取っていた那珂が顔の傷を気にしながら喋る。

 

「とりあえず戻ろっか。私が先導するから、みんなで倒れている子達の曳航を手伝ってね。」

「はい………行くわよ。」

 

曙はそう言うと、岸波を起こすのを手伝った。

任務は無事完了し、横須賀への危機は去った。

だが………全員、心は晴れなかった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

朝日が昇る頃、横須賀へと戻った艦娘達は、提督によって船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)の許可を貰った。

本来ならば、第四駆逐隊の面々は重い罰を受ける事になるのがセオリーだ。

しかし、3人共心神喪失状態であった為、とてもじゃないがそれすら難しいだろうと判断した提督によって、しばらくそれは保留する事になった。

傷を治した岸波は、那珂と吹雪と初霜と共に、執務室に呼ばれる事になる。

 

「………横須賀を救ってくれた事に対し、礼を言わせて欲しい。特に岸波………汚れ仕事、ご苦労であった。」

「気にしないでください、何度も繰り返しますが、慣れていますから。………只、部屋はそろそろ変えて貰った方がいいですね。」

「………分かった。」

 

今は軟禁という状態になっている、同部屋の嵐の事を気遣ったのだろう。

岸波の申し出を提督は受けた。

 

「しばらくは1人で過ごせるように部屋を手配しよう。」

「感謝します。」

「それでは………。ん?」

 

そこで、無線が繋がった事で提督は確認を取る。

 

「こちら朝潮です!」

「どうした?宿毛湾泊地復興の為の遠征を頼んでいたはずだが………。」

「実は………。」

 

ボソボソ声になった朝潮からの連絡を聞いた提督の目が見開かれる。

彼は、大淀に素早く指示を出す。

 

「大至急、第四駆逐隊や曙達を桟橋に連れてきてくれ。」

「了解しました。」

 

大淀が素早く歩いていく様子を見た岸波達は、立ち上がった提督の言葉を聞く。

 

「さて、お前達も桟橋に集合だ。」

「どういう………?」

「行けば分かる。」

 

それだけを言うと提督は岸波達4人を伴って執務室を出た。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

桟橋には嵐・野分・舞風・曙・深雪・暁・ヴェールヌイ・雷・電・赤城・加賀・愛宕といった艦娘達が既に集まっていた。

 

「こんなに艦娘を集めて何を………。」

「そろそろ朝潮達が見えないか?」

「え………あ、見えました。アレは………。」

 

岸波は見る。

何故か先頭で興奮気味に手を振る朝潮の後ろには、大潮と村雨が同じく笑顔でいる。

そして、更にその後方では、気怠そうな顔をした2人の艦娘が頭まで毛布にくるまれた艦娘を気遣いながら曳航していた。

片方は、癖のある緑色の長い髪を高い位置でハーフアップにして黒いリボンで結んだ艦娘。

もう片方は、ロングヘアの明るめの茶髪に赤のアンダーリムの眼鏡をした艦娘。

確か岸波の記憶が正しければ、佐世保から出向してきている、改白露型2番艦山風と睦月型11番艦望月である。

 

「何で毛布にくるむほどケガをしているのに笑顔で………。」

 

そう言いかけた嵐の目が見開かれる。

その後ろにいた野分と舞風も………である。

提督はそんな3人の後ろに立つと静かにしゃべり始める。

 

「俺は基本的に神の存在という物を信じない。提督ならば、何処の腐った性根の持ち主でも同じ事を言うだろう。」

 

毛布にくるまれた人物は、かなり遠慮気味に手を振る。

何か恥ずかしい様子で。

 

「だが………艦娘と深海棲艦という実態が暴かれていない存在がいる限り………、「奇跡」という言葉は稀にだが存在するのかもしれないな。」

 

その様子がじれったいと感じたのか、山風が思い切って頭に被っている毛布を取る。

中からは古代紫色のセミロングの髪を持った艦娘が顔を覗かせた。

 

「アレは………!?」

 

その姿に、岸波を始めとした他の艦娘達も目を見開く。

見間違えるはずがない、彼女は………あの写真の………。

 

「萩っ!!」

「萩風!!」

「萩風ーーーっ!!」

 

嵐・野分・舞風の3人が涙を流しながら喜ぶ中、陽炎型17番艦萩風は帰投する。

桟橋に付いた途端、3人は一斉に萩風に抱き着いた。

 

「これ………どういう事?」

「宿毛湾からの帰りに………横須賀の近くの海岸で漂着しているのを見つけたの………。」

 

驚いた曙の質問に、山風が答えていく。

 

「何故なのかは、分からない………。でも、間違いなく萩風だった………。」

「轟沈してからかなりの日が経つのよ?服とかは………。」

「着てないよ、裸だった………。だから毛布にくるんでるの。でも………。」

「これを大事そうに手に持ってたんだよね。」

 

言葉を受け継いだ望月が、何かを取り出す。

それは、ボロボロの紫色の髪留め用のリボンであった。

そう、駆逐水鬼が持っていた………。

 

「萩風、まさか………。」

「ゴメン………なさい………。」

 

曙の言葉に抱き着かれて困惑していた萩風は、顔を落とす。

 

「沈んだ所から記憶があやふやだけれど………あの戦いだけは覚えているんです。みんなを苦しめて………そして………。」

「司令………この後、萩風はどうなるんでしょうか?」

 

僅かながら駆逐水鬼としての記憶がある萩風の様子を見て、野分が提督に問う。

彼は包み隠さず答えた。

 

「鎮守府を含め、艦娘の台所事情があるからな。極刑にして一から艦娘候補を見つけて育て直すという無駄な時間を食うよりは、艤装の適正検査をもう一度行って再び艦娘として起用させる方が現実的だろう。」

「じ、じゃあ………萩風は………!」

 

野分の言葉に、提督は咳払いをしてハッキリと告げる。

 

「言っておくが、楽な道のりでは無い。艦娘に再び戻る事を強いられるのだからな。曙、引き続き第四駆逐隊の面倒を見て貰う事になるがいいか?」

「誰に言っているんですか、提督!一度引き受けた事は貫きますよ!」

 

奇跡を目の当たりにした曙は、興奮気味に力強い声で応える。

その頼もしい様子を見て萩風は思わず涙を流す。

 

「ありがとうございます………司令、皆さん!これも岸波のお陰よね。」

「そうだ!俺、岸波に謝らないと!本当にゴメン!岸波………?」

 

振り返った嵐は困惑する。

さっきまでそこにいたはずの岸波が、大淀と共にいなくなっていたからだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………感謝や謝罪の言葉は素直に受けるべきでは無いですか?」

「いいんですよ。萩風が帰投出来た事で、第四駆逐隊が再び活気を取り戻すんですから。」

 

その頃岸波は、大淀と共に駆逐艦寮の自室で荷物を整えていた。

この部屋は再び萩風が戻ってくる事になるだろう。

これで嵐も過去の罪から解放されて道を間違う事も無くなるはずだ。

 

(良かったのよ………この結末で。)

 

岸波は心の中で感情に整理を付けると、大淀に連れられ新しい部屋へと向かう。

そこは提督の言った通り、まだ誰も使っていない部屋であった。

岸波はその入り口の表札入れに自分の名前のネームプレートを付けると、中に入って適当に荷物を置き、布団に寝込む。

思えば昨晩は出撃をしていたので眠っていなかったはずだ。

久々に何も考えずにゆっくりと眠りに付ける………そう思った岸波はゆっくりと目を閉じた。

だが………。

 

「何で萩を沈めた!何で萩を殺した!萩は、萩はーーーっ!!」

 

「萩は仲間だったんだぞ!?大切な仲間だったんだぞ!?それを、それをーーーっ!!」

 

「仲間を殺して………!仲間殺しをしやがってーーーっ!!」

 

(ダメ………か。)

 

数時間後、目を閉じていた岸波は、洋上での嵐の怒声が耳から離れず額を手で押さえる。

嵐が悪いわけじゃない。

誰が悪いわけでもない。

全て覚悟の上で沈めたのだ、駆逐水鬼を………萩風を。

それでも………割り切れなかった。

 

「私は………沖姉………。」

「失礼しま~す!本日より、舞風!この部屋の住人になりま~す!宜しくね!」

「……………。」

 

扉が開かれ掛かって来た元気な声に、岸波は不機嫌そうな顔をして起き上がる。

見れば、入り口の方で舞風がくるくると回りながら踊りを披露していた。

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