艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

100 / 109
第100話 ~悲痛な願い~

深海初代時雨の右の大型単装砲が向けられた事で、電は死を覚悟した。

いや………もしかしたら、最初から心の奥底では、自分はこれを望んでいたのかもしれない。

自分は、絶対に許される事の無い咎人なのだから。

そう思った瞬間、電は審判の時を前に安らぎすら感じた。

だが………。

 

「エ!?」

 

砲撃しようとした深海初代時雨の右の砲門が、突如爆発を起こす。

何事かと思った敵艦は、再生しようとした砲門が、上手く形を成さない事に気付かされる。

見れば、細かい鉄の板のような破片が、至る所に突き刺さっており、艤装の再生を邪魔していた。

 

「ナンダ、コレ………ガァ!?」

 

その深海初代時雨が、思いっきり蹴り飛ばされる。

倒れている電が身を起こしてみれば、傍に初春が立っていた。

何時も手に持っている扇子は、今は無い。

 

「マ、マサカ………!?」

「すまんのう………その投げつけた扇子、鋼鉄製の特注品なんじゃ。後、わらわの「さまーそると」は華麗じゃったかの?」

「キ、貴様!?」

「子日!」

 

初春が砲撃体勢を取ると同時に、子日が横から倒れている電を掻っ攫って行く。

 

「ま、待つのです!?電は………!?電はこのままでは………!?」

「ごめんね、今は黙ってて!」

 

子日は電が抵抗すると見るや、迷わず鳩尾に拳を叩き込む。

完全に意表を突かれた電の目から、光が消えて気絶する。

 

「撤退する………川内さん、頼む。」

 

若葉が反対側から子日と共に電を曳航していき、川内に具申。

彼女は迷わず電探で撤退命令を出した。

 

「逃げるよ!負傷艦を曳航しつつ急いで!」

「サセルカ!」

 

気絶している関係で、遅れている電達だけは何としても沈めようと、深海初代時雨は残った左の大型単装砲で砲撃を仕掛けようとするが、立ちはだかった初春が煙幕を発した。

 

「クッ!逃ゲルナンテ!電ノ卑怯者メ!………ッ!?」

 

レ級達と共に煙幕の中を突き進もうとした敵艦だったが、そこに、突撃する影を見る。

その白い影は、煙幕を突き破ると、肩の連装砲を深海初代時雨の左の単装砲に叩き込み破壊する。

 

「クッ………誰ダ!?」

「ヴェールヌイ。………いや、今は第六駆逐隊の響だ。」

「味方殺シノ電ニ、付キ従ウ愚カ者カ!?」

「悪いね。完全撤退まで時間を稼がせて貰うよ。後………仲間を侮辱されて憤らない駆逐艦はいないんだ。」

 

静かな怒りと共に、ヴェールヌイが単騎で深海初代時雨に対して、雷撃を叩き込む。

再生能力で左の大型単装砲を復元させていた敵艦は、更なるヴェールヌイの猛攻を防げず悲鳴を上げる。

見れば、追いかけようとした深海初代睦月に対しては、雷が足止めをしており、攻撃機を飛ばそうとしていた深海初代大潮に対しては、暁が砲撃を集中させていた。

第六駆逐隊の仲間達が、電を逃がすために、敢えてしんがりを務めていたのだ。

 

「ソコヲドクノデス!」

「嫌よ!雷様を侮らないで!せい!!」

「ニャガ!?」

 

最速で迫ってくる深海初代睦月の勢いを逆利用し、雷が装甲板を構えてそのまま体当たりを喰らわせる。

体当たり勝負は、覚悟があった分、雷の方に軍配が上がり、転がった敵艦にそのまま雷撃を喰らわせていく。

 

「OKよ!暁、響!」

 

深海初代睦月が炎に包まれてのたうち回っている間に、暁とヴェールヌイが反転して一気に離脱を図ろうとする。

 

「ソウ上手クイクト………思ウナーーー!!」

 

ところが、ここで深海初代時雨の怒号が響き渡ると同時に、残っている4隻のレ級と3隻のネ級、1隻のタ級と共に一斉に砲撃を浴びせる。

強力過ぎる戦艦の砲撃を掻い潜る第六駆逐隊であったが………。

 

「ぐっ………!?」

「響!?」

 

激しい砲撃で、荒波が立った影響であろうか。

運悪く、バランスを崩したヴェールヌイが、右の装甲板を弾き飛ばされ、右腕を負傷する。

そのまま敵艦は、彼女に集中砲火を喰らわせていく。

 

「絶対ニ貴様ハ、沈メテヤル!電ニ絶望ヲ!!」

「逃げるわよ、響!掴まって!」

 

雷が何とかヴェールヌイを曳航していくが、滅茶苦茶に飛んで来る敵艦の砲撃を前に、完全に回避する手段が無くなる。

だが、そこに2人を横切り砲撃や機銃を乱発する影が出て来る。

 

「磯風!?」

「無茶をする!今の内に引け!」

「貴女ね!沈むわよ!?」

「電には、恩義があるんだ!借りを返す場をくれ!」

 

磯風はそう言うと、魚雷を残弾全て撃っていく。

しかし、雷撃は当たらず代わりに長射程の砲撃が幾つも飛んで来る。

 

「何とか第六駆逐隊だけは………!」

「てやああああああああああああ!!」

「あ、暁!?」

 

ここで磯風は、仰天する事になる。

深海初代大潮から逃げていた暁が、突如反転すると増速し、何と正面から身を投げ出すように敵艦にぶつかっていったのだ。

思わず手を伸ばした磯風は、電探で確かに、暁の………泣きそうな声を聞いた。

 

「お願い………電は必死に罪を償おうとしてるから………もう奪わないであげて………!」

「!?」

「ウ、ウワアアアアアア!?」

 

突然の体当たりにパニックに陥ったのか、深海初代大潮の飛ばしていた攻撃機が、至る所に爆撃を落としていく。

それは、敵味方関係無く、追撃しようとした深海初代時雨や深海初代睦月にも炸裂する。

 

「大潮!?シッカリ!?」

「危ナイヨ!?」

 

混乱し始めた敵艦であったが、尚も深海初代大潮の無差別爆撃は続く。

 

(これは………まさか!?)

 

磯風は、ある1つの可能性を抱きながらも、四方八方から滅茶苦茶に降り注がれる爆撃に困惑する。

文月が撤退した以上、彼女だけで耐えられる物では無かった。

やがて、爆撃の炎を受けて………磯風は気を失った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………ここは………。」

 

目を覚ました時、磯風は壁に背を預ける形で座り込んでいた。

そして、驚愕する。

目の前には、深海初代艦娘達を含んだ敵艦が、多数存在していたのだから。

 

「何が………!?暁!?」

 

更に、磯風は驚愕する。

右には自身にもたれかかるように、暁が倒れ込んでいた。

その目は開いていたが、光を失っていた。

 

「貴様等!!暁に何をし………!?」

「落チ着イテ下サイ。彼女ハ、錯乱スルノヲ防グ為ニ、自分ノ思考ヲ封ジテイルノデス。」

 

思わず怒りのままに立ち上がろうとした磯風は、眼前に深海初代大潮の砲門を突き付けられ、動きを止められる。

そのまま睨みつける形で再び座り込んだ磯風に対し、深海初代大潮は、立て膝を付き、説明を始める。

 

「下手ニ暴レラレテモ困ルノデ、私達ノ知ッテイル情報ヲ提供シマス。質問ヲドウゾ。」

「ここは………何処だ?」

「アノ海域ノ近クノ、廃船ノ中デス。佐世保攻略ノ為ノ、根城ニシテイマス。」

 

質問をしながら、磯風は自分達の装備を確認する。

手持ちの高角砲と機銃、艤装の埋め込み式の高角砲は外されていた。

爆雷は、多分爆撃を喰らう瞬間に、咄嗟に投棄したのだろう。

暁も同様に右肩の2門の連装砲が外されていた。

2人の電探は壊れたのか壊されたのか、何処にも見当たらなかった。

 

「みんなは………どうなった?」

「貴女達以外ノ撤退ハ、成功シタト思ワレマス。」

 

武装が何処にあるか確かめようと目を動かすと、部屋の角に集められているのが分かった。

再生能力を失ったタ級が門番を務める形で立っており、取る事は不可能であるらしい。

 

「私は………どれ位眠っていた?」

「4時間程。」

「その間、暁は………。」

「拷問等ハシテイマセン。………静カニ泣イテ………ヤガテ、心ヲ閉ザシマシタ。」

「……………。」

 

磯風は、呑気に気絶していた自分を殴りたくなった。

その間、暁は敵艦の群れの中に1人でいて、絶望に近い恐怖を感じていたのだから。

もっと早く目を覚ましていれば、彼女が心を閉ざす事も無かっただろうに。

そんな磯風の元に会話が聞こえてくる。

 

「大潮チャン!ヤッパリ、首ヲ狩ッテ、電チャンニ見セビラカスニャ!」

「彼女達ノ亡骸ヲ見セテ、絶望ヲ覚エサセタ方ガ………!」

 

ゾッとする会話をするのは、深海初代睦月と深海初代時雨だ。

暁はこんな恐怖に耐えていたのか………と思うと、磯風は猶更申し訳なく感じた。

そんな中、深海初代大潮はこう言う。

 

「コノ2人ハ、人質デス。2人ガ居ル限リ、電ハ、マタヤッテキマス。………恐ラク、今夜マタ。」

 

深海初代大潮は、2人にそう言うと、他の深海棲艦に休むように告げた。

 

「2人ハ、大潮ガ見テイマスノデ、少シデモ体力ヲ回復サセテ下サイ。特ニ、時雨。艤装ガ直ラナイ以上ハ、今マデト同ジ動キハ出来マセンカラ、注意ヲ。」

「………分カッタヨ。」

 

深海初代時雨を始め、他の深海棲艦達がぞろぞろと去って行く。

その様子をじっと見ていた磯風は、静かになるのを見計らって、思い切って告げる。

 

「深海初代大潮………いや、初期艦大潮。貴様は………君は、本当に深海棲艦なのか?」

「深海棲艦デス。少ナクトモ、アノ2人ト同ジク、電ニ沈メラレタ初期艦ノ仲間デス。」

「だったら………何故、暁の願いを聞いてくれたんだ?パニックになって、無差別爆撃をしたわけじゃないだろう?」

 

暁の悲痛な願いは、確実に、この初期艦大潮に届いたはずだ。

でなければ、都合よく初期艦時雨や初期艦睦月の足止めがされるわけが無い。

第六駆逐隊のヴェールヌイと雷は、確実に沈んでいたであろう。

 

「………興味ヲ持ッタカラデス。」

「興味?」

「暁デスカ………。彼女ガ………イエ、貴女達ガ、自分ノ身ヲ犠牲ニシテマデ、電ヲ救オウトシタ理由ガ。」

「………私は、電のお陰で過去を乗り越える事が出来たからだ。」

 

初期艦大潮の言葉を受け、磯風は思い切って説明する。

幌筵で自分が過去に縛られ、単縦陣が使えなかった時、電は強引ではあったが、自分を立て直す切っ掛けをくれた。

そうでなくても、彼女は厳しいながらも、磯風を鼓舞してくれていた。

 

「今回の事を聞くまでは………私は、電は強い艦娘だと思っていたよ。だが………実際には、彼女も辛い過去を抱えている。だから………力になりたいと思っただけだ。」

「………暁ハ、ドウナンデショウネ?」

「実は、そこまでは聞いてなくて………。」

「………庇って貰った事があるの。」

「暁!?」

 

磯風は驚く。

それまで、思考を閉ざしていた暁が、少しずつではあるが喋り出したのを。

もしかしたら、今までの事から、目の前の深海棲艦………初期艦大潮は安心できる存在だと感じたのかもしれない。

彼女は、僅かに笑みを浮かべると、静かに話し始めた。

 

「まだ私が彼女の事を味方殺しだと思っていて信頼していなかった頃………、任務で油断しちゃって………。そしたら、庇われていた。背中に傷を負って、血を吐いて重傷を負ったのに………、あの子、最初に何を言ったと思う?」

「………何ダッタノデスカ?」

「「味方殺しの返り血を浴びせて申し訳ないのです」。………それ所じゃないのにね。」

「……………。」

 

暁に気を配っているのだろうか?

手に備え付けられた連装砲を後ろに隠して、立て膝を付いて彼女の目線の高さにまで静かに座り込む初期艦大潮は、悲しそうな顔をしていた。

磯風は本能的に察する。

この初期艦大潮は、間違いなく艦娘としての情を持ち合わせていると。

それにしても、電の精神力は恐ろしい物だ。

逃げたくなる罪を抱えながらも、約10年間、ずっと贖罪の為に艦娘として戦う道を選んでいたのだから。

 

「電は………第六駆逐隊の絆を大切にしているのだな。」

「ええ………。でも………だからこそ、私は不安なの………。私が捕まった事で、きっと電はまた壊れそうになる………。第六駆逐隊の絆を壊した自分を責めるわ………。」

「………電ハ、モウ立チ直レナイト?」

「立ち直れるさ。」

「………磯風?」

 

不安に陥る暁と初期艦大潮であったが、磯風は真剣な表情で告げた。

 

「この磯風が、情けないどん底から立ち直れたんだ。岸波だって、姉を捨て艦にした罪から立ち直る事が出来た。………電だって、立ち直れるさ。」

「信ジルノデスネ。」

「それも、電から強さだと学んだ。第二十五駆逐隊の旗艦として………必要だって事を。」

「そうね………あの子ならば、きっと………。」

 

今度は磯風達が、電の奮起を期待する番である。

絶望のような寒さを感じる中で、磯風達は信じる決意をした。




祝・100回目の投稿達成です。
………ですが、それ故にこんな話の内容で申し訳ありません。
さて、今回は初春が扇子を飛び道具で使って、敵艦の砲撃を封じていました。
春風の時もそうでしたが、伊達や余興で遊具?を持っているわけでは無い。
だからこそ、きっと初春の扇子も鋼鉄製の特注品なのだな………と感じています。
きっと海戦では、打撃武装として扱う………って設定も面白いかなと。
尚、艦娘の近接戦闘に関しては、漫画「水雷戦隊クロニクル」を元に構想しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。