艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

101 / 109
第101話 ~今だけでいいから~

磯風と暁が捕まっている頃、佐世保の港では、陽炎が様々な艦娘から情報を収集し、同時に皆を励まして回っていた。

未帰還の艦娘を出してしまった事で、出撃組だけでなく、留守番組も精神的ダメージが大きく、メンタルケアが必要であったからだ。

特に川内は、中破のダメージを受けたにも拘らず、申し訳なさで、提督とはいえ駆逐艦である陽炎に頭を下げてばかりであった。

 

「私がもっとしっかりしていれば………!これじゃあ………水雷戦隊旗艦失格だ!!」

「落ち着いてください、川内さん!………轟沈している所は、誰も見て無いんですね?」

「でも、捕まったのは確かだと思うの………。何も出来なかった………私達………。」

 

そう陽炎に告げながら肩を落とすのは、雷だ。

右肩から出血をしていたヴェールヌイは、強制的に船渠(ドック)入りをさせている。

 

「………電の事を考えれば、簡単に沈める真似はしないと思うけれど。」

「電さんをおびき寄せる為に、人質にしている可能性が高いのですか?」

「ええ。少なくとも、今日の夜の出撃までは、待ってくれると思うわ。」

 

陽炎の元には旗艦が捕まったという情報を聞いて、第二十五駆逐隊の春風達が集まっていた。

春風は勿論、巻波、如月、初雪………いずれも磯風の事を想うと、不安で仕方が無かった。

 

「磯風………これ以上、無茶していないといいんだけれど………。」

「暁ちゃんを守る為に、変な考えを持ってそうだし………。」

「……………。」

 

各々が自分達の旗艦を心配する中、初春が陽炎の元に走って来る。

 

「初春、まさかと思うけれど………。」

「目覚めた電が、暴走仕掛けておる!子日と若葉を殴り飛ばして、強引に再出撃しようとしておるわ!」

「分かった。ちょっと見て来る!」

 

陽炎と初雪達が走っていくと、電は文字通り大暴れをしていた。

艤装を外されていた為、そんな怪力は発していなかったが、止めようとした子日や若葉を同時に相手にして、振り払える位の大乱闘を繰り広げていた。

 

「離すのです!早く………早く暁ちゃん達を取り戻さないと!!」

「電!少し落ち着きなさい!子日や若葉に当たっても、何も変わらないわよ!?」

「邪魔しないで欲しいのです!電のせいで………電のせいで、第六駆逐隊の仲間が!?磯風ちゃんが!?」

 

完全に錯乱している電には、何をしても聞く様子が無かった。

陽炎は、溜息を付くと、一旦、自分の艤装を外して、付いてきた雷に持って貰うと、今にも飛び出しそうであった雷の顔面に強烈な拳の一撃を叩き込んだ。

 

「か、陽炎………ちゃん?」

「今は提督だけれどね。………でも、それも関係無いわ。そんなにケンカがしたいなら、私が付き合うから掛かって来なさい!」

「ち、違うのです!電は………電は………撃てなかったから………。」

「撃てなかったなら、猶更行くのは自殺行為じゃないの!?」

 

恐らく自分でも、何を言っているのか分からないのだろう。

敢えてファイティングポーズを取り、ケンカを受けて立つ姿勢で立ちはだかった陽炎を前に、少しだけ正気を取り戻した電は、青ざめた顔で辛そうに言う。

 

「電は、撃たなければならなかったのです!でも、撃てなかった!もう絶対繰り返さないと誓ったのに………!第六駆逐隊の絆も壊して………!電は………電はもう………!」

「電………。」

 

雷が辛そうな顔をする中、電の目からは涙が出て来る。

 

「深海棲艦を撃てなければ………電は深海棲艦なのです!そんなの許されないのです!守りたかったものも守れず………!」

 

電はそこで止まった。

拳を握っていた陽炎が、静かに近づき彼女を抱きしめたからだ。

まるで泣く子をあやすように、頭を撫で始める。

 

「電………アンタは少し、甘える事を覚えなさい。」

「ふ、触れたら………ダメなのです!電は………味方殺しで………許されなくて………!」

「贖罪も大事だけれど、今のアンタは視野が狭くなりすぎているわ。それじゃあ、ヴェールヌイも雷も居たたまれないじゃないの。」

「でも、でも………!」

 

電は完全に罪の意識に囚われて、そこから抜け出せなくなっていた。

また同じ過ちを繰り返すのではないかと、恐怖を抱いていた。

このままでは、電の人格が本当に壊れてしまう。

それを後ろで黙って見ていた初雪は、意を決した表情で、涙ぐむ電に語り掛ける。

 

「電………暁は絶対大丈夫だよ。」

「どこにそんな保障が!?」

「磯風がいるから………。磯風は………電の罪の意識を理解できるから。」

「無理なのです!幾ら磯風ちゃんでも………!」

「………そうやって、殻に閉じこもっているな!電!!」

「!?」

 

初雪は息を吸うと、普段の寡黙さがウソのような大声を上げる。

その言霊の威力を前に、一瞬だが、電が呆ける。

 

「電………!自分だけが咎人だと思うな!磯風も、私も大切な仲間を沈めている!それでもやり直す事は出来るし、まだ希望がある内は諦めてはいけないんだ!」

「初雪ちゃん………でも、電はもう………。」

「それでも………それでも、第六駆逐隊失格だって言うのならば!………第二十五駆逐隊で罪を償え!電!」

「は、初雪さん!?」

 

いきなりの言葉に巻波が仰天するが、初雪は後ろの3人を振り返ると頭を下げて、しかし力強い瞳で言った。

 

「ゴメン………みんな。でも、磯風なら、絶対にこうする………!電の気持ちが分かるから………!電の過去を知っても、戦友だって言い切る!!」

 

最初こそ唖然としていた第二十五駆逐隊の面々であったが、やがて春風も頷き、陽炎に抱えられている電の傍まで行き、手を差し出す。

 

「わたくしは………電さんの手が、赤い血で汚れていても構いません。」

「何で………?」

「電さんの過去は清算できませんが、今の貴女は、よく分かるからです。わたくしと出会った時、貴女は初期艦を侮辱した事に、激昂しました。」

「でも、実際は………。」

「その想いを胸に、わたくしの姉妹艦を救ってくれました。それは、過去の贖罪の精神からなのかもしれませんが………わたくしの歩みを進めてくれた事に変わりはありません。」

 

秋に春風が暴走して横須賀に来た時から、電は彼女に道を示してくれた。

そういう意味では、掛け替えの無い戦友なのだ。

今更、それを疑う理由は無いはずだ。

その話を静かに聞いていた如月も、同じように前に出て、手を出す。

 

「あの地下室にいたから、電ちゃんが辛い過去を抱えているのは、手に取るように分かるわ。だからね………他の初期艦のみんなにも言える事だけれど………泣きたい時は泣いていいと思うの。」

「そんな資格無いのです………。電は迷惑を掛けてばかりで………。」

「もう!それを言ったら、如月だって、佐世保のみんなや初風ちゃん達、それに磯風ちゃん達にどれだけ迷惑を掛けたか。………でもみんな、元の姿に戻るのに、付き合ってくれた。深海棲艦に片足を突っ込んでいた私を。」

 

如月はそう笑みを見せると、最後に巻波を見た。

だが、彼女は困ったように頭をかいて悩んでいた。

それもそうだろう。

初雪のように、共感出来るような過去を抱えているわけでも無いし、春風や如月のように海戦を共にした経験も無いからだ。

それ故に、ある意味、一番ニュートラルな目線で電を認識できる存在であった。

 

「……………。」

「嫌ですよね………味方殺しの艦なんて。」

「うーん………抵抗が無いって言えば、そりゃ、嘘だけれど………。」

 

正直に答えつつ、悩みに悩んだ巻波は、雷を見て言う。

 

「でも、それってさ………。ずっと仲間でいてくれた第六駆逐隊のみんなに失礼じゃない?」

「う………。」

「あと………電ってさ。機械の腕は嫌?」

「嫌って、何が………です?」

「そっか。」

 

本気で首を傾げる電の姿を見て、自分の機械化された左腕を見せていた巻波は、何処か安心した顔をする。

 

「私は味方殺しじゃないけれど………こんな腕だし、その前は隻腕だったから、奇異の目でよく見られてたんだ。ほら、人って自分と違う異端の存在は、同じじゃないって言いたくなるじゃん。」

「その通りならば、巻波ちゃんは電の事………。」

「勿論、すぐには納得できないよ?でも、私、間違える事もよくあるから………。」

 

そもそも片腕を無くしたのは、過去に水母棲姫に無謀な突撃を試みた事が原因なのだ。

身から出た錆で苦しむ点で言えば、自分と電は案外同じなのかもしれないとも、巻波は考えていた。

そして、だからこそ………。

 

「私は知ってるよ?みんなで協力すれば、一からやり直す事が出来る事も。」

「人を殺した電も………ですか?」

「それ言っちゃったら、今度は磯風に失礼だよ。後、暁達を取り戻すチャンスはまだあるのに、電が無策に走ってどうするのさ。」

「それは………。」

「だから!」

「わわ!?」

 

ポンと器用に、生身の手と機械の手を合わせて叩いた巻波は、陽炎から電を強引に奪うと………初雪、春風、如月が重ねた手の上に彼女の手を置き、自分の手を重ねる。

 

「磯風を含めて他のみんなは、何か電に恩義があるみたいだし、その分、甘えちゃおう!初期艦で色々苦労してたんだから、ここで我儘言ってもいいんだって!」

「そ、そんな………!?」

 

思わず電は手を抜こうとするが、巻波が一番上から機械の左手を強引に重ねた為、駄目だった。

そんな彼女の正面にいた初雪が言う。

 

「電………怖がらないで。前を向けば………、きっと見つかる事があるから。」

「……………。」

「今だけでいい………。私達、第二十五駆逐隊を………信頼して。」

 

電は恐々と顔を上げて、回りの面々の顔を見てみる。

初雪も、春風も、如月も、巻波も、力強い瞳で電を見ていた。

 

「電は………皆さんを利用するだけなのかもしれないのです。それでも………付き合って下さいますか?」

「言い出しっぺだからね………。」

「構いませんよ。」

「遠慮なく言って頂戴。」

「渡りに船だからね。」

「………ありがとう………本当に、ありがとうなのです………。」

 

遂に、感情が堪えきれなくなったのだろう。

涙が本格的に止まらなくなった電は、何度も感謝を述べた。

今これより、取り戻す為の戦いが始まる………大切な仲間達を。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

廃船の中では、時の経過が分からない。

只、親切に初期艦大潮が、大体の時間を教えてくれたので、磯風は困る事は無かった。

食べ物は流石に無かったが、水分は積もった雪を溶かして持ってきてくれたので、1日くらいなら、耐え忍ぶ事が出来た。

そして………。

 

「出撃シマス。」

「………情が移ったかな。君には、逃げて欲しいと思ったが。」

「ソウモ行キマセン。決着ヲ付ケナクテハ。」

「……………。」

 

初期艦大潮………深海初代大潮は、深海初代時雨と深海初代睦月と一緒に深海棲艦を引き連れて出撃していく。

部屋にはタ級が1隻残った。

 

(何とか外の状況が分かればいいが………ん?)

 

そこで、磯風は気付く。

右隣で思考を封印していた暁が、こっそり左人差し指で磯風の背中を小突いているのだ。

その独特の叩き方が、モールス信号だと気づいた彼女は、暁が索敵に優れている事を思い出し、暗号を読み解く。

 

(交戦開始………か。昼に何もなかった所を見ると、陽炎達は、この夜に戦力を整えて来たのかもしれない。)

 

だとしたら、自分達も用済みにされる前に、行動を起こすべきだろうと思った磯風は………タ級が余所見をした一瞬の隙を見計らって………バネのように飛びかかった。

 

「ガァ!?」

「磯風!?」

 

飛び掛かった磯風を長身から発せられる力で押し戻し、髪と一体化した主砲と副砲を喰らわせようとするタ級であったが、磯風も無策では無かった。

彼女は懐に仕舞っていた鉄扇………出撃時に、雪避けとして初春から貰ったスペアを首筋に突き刺し、黒い血を溢れさせる。

タ級は抵抗したが、意表を突かれた事で、成す術もなく倒れた。

 

「む、無茶苦茶よ………!」

「このまま囚われの姫になっているつもりは無いのでな。………脱出するぞ。武装を急いで付けてくれ。」

 

磯風は、暁に連装砲を渡すと、自身の装備も整えていった。




思えば、磯風の元には特殊な経歴の艦娘達が集まった感じです。
姉妹艦を救う為に、最初から暴走していた春風。
深海棲艦に呪われて、そちらの世界に片足を突っ込んでいた如月。
片腕を義腕に変えて、奇異の目で見られていた巻波。
過去に仲間を失い、人間に絶望していた初雪。
味方殺しの汚名を背負い、贖罪の為に生きていた電。
これも全て、磯風の経歴と、そこから培った力故なのかもしれませんね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。