艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第104話 ~決断~

「ごめんね………電ちゃん………。本当にごめんね………。」

「どう………して………。」

 

深海初代睦月………初期艦睦月の涙ながらの謝罪に、電は砲身を向けたまま、困惑………いや、動揺していた。

てっきり10年分の、怨嗟の声をぶつけられると覚悟していたのだ。

しかし、それが全く違う物であったのだから、彼女にしてみれば、衝撃を受けるのは当然であった。

 

「何で………何で………!?」

『……………。』

 

震える電に対し、磯風も陽炎も、静かに主砲を初期艦睦月に向ける。

電には失礼であったが、敵艦の罠だと思ったからだ。

だが………その敵艦は、電に奇襲を仕掛けようとはしていなかった。

只の醜い、命乞いにも見えなかった。

 

(どうなっている………?)

 

初期艦睦月は、本当に心の底から後悔している。

そう分かった時、磯風も砲身を向けたままではあったが、疑念を浮かべた。

今の彼女からは、憎悪の感情すら消えているように見えたからだ。

その様子を感じたからだろうか?

元々正気を保てていた深海初代大潮………初期艦大潮が、横たわりながら話し始める。

 

「瀕死になった事で………深海棲艦として根付いていた憎悪が、一時的に取り払われたんだと思います………。」

「深海棲艦としての破壊本能や復讐本能が、消えたという事か?」

「そうです………あくまで一時的ですが………。」

「……………。」

 

初期艦大潮の説明を聞いた磯風は、電を見る。

彼女は青ざめており、しっかり向けていた砲身がぐらついていた。

そして………初期艦睦月の謝罪の言葉が、逆に癪に障ったのだろうか。

彼女は、震えながら思わず叫ぶ。

 

「何でっ!………今更謝るんですか!!元々は、電が悪いのに!?電が3人を殺したから!3人は………!!ずっと………!!」

「違うよ、電………。これは、僕らの自業自得なんだ………。僕らが勝手に人に絶望して………僕らが勝手に電を追い詰めたんだから………。」

 

涙すら流し始める電に対し、深海初代時雨………初期艦時雨もまた、負の感情が消えた状態で、己の罪を認める。

もしかしたら、3人が憎悪を抱きながらも電に固執していたのは、心の何処かで電に謝りたかったからなのかもしれない。

そう考えた時、磯風は、運命というのはとても残酷だと感じた。

 

「電は………電は………また、初期艦の仲間を………。」

「………変わろうか、電。」

「え?」

 

いつしか涙は号泣へと変わり、ポロポロと海面に雫を落とす電を見て、磯風が聞く。

この3人の初期艦に対する介錯を、替わろうというのだ。

 

「で、でも………。」

「初期艦大潮の話が正しければ、この状態は一時的だ。時間が経って深海棲艦としての再生能力を取り戻してしまえば、再び人間や艦娘の敵となるだろう。」

「……………。」

「だから、電が撃てないというのならば、私が………恨まれてでも介錯を………。」

「嫌………です………!」

 

絞り出すような声であったが、電はハッキリと言った。

この3人は、電が仕留めなければならない。

10年越しの狂った運命に、ケジメを付けなければならない。

例え、それがとても辛い道であったとしても。

 

「電は………譲りたくない………だから………。」

「撃ってくれると助かるかな………。もう、間違えを繰り返さない為に………電の手で………引導を渡して欲しい。」

「ありがとうございます、電………。大潮達は、自分で自分を終わらせる事も、出来ないみたいですので………。」

「本当に………ごめんね………。最後の最後まで………苦しめちゃって………。」

 

三者三様の言葉で電に感謝をする初期艦仲間に対し、改めて電は、砲門を向ける。

今度こそ、しっかりと………。

 

「睦月ちゃん。大潮ちゃん。時雨ちゃん。電は………ずっと友達でいたかったっ!」

「僕も………。」

「大潮もです………。」

「睦月も………。」

「忘れないから………絶対に!だから………さよならっ!!」

 

電は決断を下す。

右肩の砲門を3発、しっかり瀕死の3人の心臓を撃ちぬく。

安らかな笑みを浮かべた3人の初期艦仲間は、静かに海の底へと沈んでいく。

 

「ありがとう、電………。僕らを撃ってくれて………。」

 

最期に、初期艦時雨の言葉が聞こえてくる。

 

「でも、僕達は陽動なんだ………。本隊はずっと北に………大群で単冠湾泊地を狙って………。」

 

それで、声が聞こえなくなる。

トドメを刺した電は、右肩の砲身から煙を出しながら、ひたすら静かに泣いていた。

暁が静かに彼女の元に行き、自分の胸を貸す。

電はその中に飛び込み、狂ったように泣いた。

声を殺して………ずっと………。

 

「………色々な意味で、勝利を祝える雰囲気では無くなったな。どうする、陽炎?」

「どうするもこうするも、事後処理で私、佐世保を離れられないわよ。でも、まずは帰投して………いえ、電探で菊月辺りに事情を説明して、電話でこの事を、単冠湾泊地のみんなに伝えて貰わないと。」

 

陽炎は、そう言うと電探を使い、佐世保鎮守府と連絡を取り始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃、豪雪が降る単冠湾泊地の遥か遠方で、3隻の大型姫クラスが動き出していた。

1隻は、長い黒髪と胸の下で結ばれた大きなリボンを持つ鬼女で、下半身は人型とは別に巨大な腕を持つ異形の艤装を持っている。

1隻は、同じく長い黒髪を持つ鬼女を抱えるように、猛獣さながらのような巨人のような艤装が独立しているのが特徴。

最後の1隻は、角は羊のように太く曲がったものが生えており、髪は白の長髪で、頭にはペンネントを鉢巻代わりに巻いている。

それぞれ、水母棲姫、戦艦棲姫、そして防空棲姫であった。

敵艦達は、それぞれ笑みを浮かべると、様々な深海棲艦を、主のいなくなった単冠湾泊地へと侵攻させ始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

佐世保から緊急連絡が来た単冠湾泊地では、秘書艦であり、現在は提督代理である高雄が、艦娘達を集めて急ぎの伝達をしていた。

複数の姫クラスの敵が、わざわざ大量の深海棲艦を伴って泊地を狙うのは、おかしな事ではあるが、ここに関しては納得できる理由があった。

地下に捕獲している、深海棲艦達の存在だ。

恐らく敵艦達は、泊地を潰して、その深海棲艦達を救出しようと試みているのだ。

だから、高雄や不知火は、正直に在籍をする艦娘達にその事情を告白した。

 

『……………。』

 

当然ながら、その事実に、艦娘達は唖然とさせられる。

重要な理由があるとはいえ、深海棲艦を飼っているなんて、思ってはいなかったからだ。

 

「………以上が、敵の本隊が佐世保に陽炎提督を引っ張り出してでも、この泊地を狙いたかった理由よ。」

「あ、あの………いいでしょうか?」

 

真っ先に聞いてきたのは松輪。

彼女は恐る恐る手を上げると、高雄に言う。

 

「それなら………その深海棲艦を逃がしてあげれば、敵の大軍は引いてくれるんじゃないのですか?」

「残念だけど………そう単純じゃないのよね………。」

 

正論を受けた高雄は、深く溜息を付き片手で頭を押さえる。

不知火が前に出ると、冷静に話し出した。

 

「地下の深海棲艦を逃がせない1つ目の理由として………その敵艦達は、艦娘の新装備を開発する為の実験材料だからです。」

「つまり、逃がしてしまうと艦娘を補助する装備の開発に影響が出るわ。………そんな事態になる事を、上が………大本営が許してくれるわけもないの。」

 

言葉を引き継いだ高雄の言葉を受け、集まった艦娘達が、ざわざわと騒ぎ出す。

確かに艦娘に有用な装備の開発に影響するというのならば、確実に待ったが掛かるだろう。

深海棲艦は日々、新種も登場している以上、新しい武装の開発も滞りなく行われなければ、何処かで誰かが苦しむのは、目に見えていたからだ。

 

「2つ目の理由は、運ぶ手間ね。あの地下室から深海棲艦を動かすには、特殊なクレーンとかで時間を掛けなければいけないわ。」

「つまり、全て運び終える前に、確実に泊地は占拠されてしまいます。」

 

続いて2人が語った理由は、逃がす為に必要とされる時間。

溜め込み過ぎた深海棲艦を全て運び出すには、数週間は必ず必要とする為に、その間に泊地の防衛機能は失われてしまう。

言葉や意志の通じない深海棲艦相手に、待ってくれと言って待ってくれるはずも無いのだ。

 

「最後の理由として………、素直に逃がした所で、そのまま引いてくれる可能性は皆無に等しいという事です。」

「深海棲艦が、こちらの要求を、素直に聞いてくれるわけは無いでしょうね。それこそ「バカめ………!」と言われるのがオチだわ。」

『……………。』

 

最後のごもっともな理由を聞いた事で、全員が静かに黙り込んでしまう。

敵の艦隊が、仲間である深海棲艦達をモルモットにしていた泊地を、許すはずが無い。

必ず復讐を果たすために、更地へと変えてしまうだろう。

 

「………戦うしか………無いんですね。」

「ごめんなさいね、そうなっちゃって。」

 

意を決したような春雨の言葉に、高雄は素直に謝る。

こうなった以上は、今残っている全員で戦って、泊地を守るしかない。

 

「正直戦力は心許ないわ。陽炎ちゃんに五月雨ちゃん、春風ちゃんは佐世保。浦風ちゃんと谷風ちゃんも呉。人数も少なくなっている。でも、守らなければ彼女達が帰る場所が失われる。」

「そ、それじゃあ………あんまりだから………。」

 

浜波が俯きながらも、両拳を握り呟く。

他の面々も、うんうんと頷いた。

その中で、神風が前に出て、手を振りかざして言う。

 

「司令官がいないからって舐めている奴らは、許さないわ!いいわね、朝風、松風、旗風!」

「勿論よ!この日の為に、再トレーニング苦労したんだから!」

「久々にボクも腕が鳴るよ!鍛えた練度、見せる時さ!」

「神風型の力………見せるときですね、神姉様!」

 

朝風も松風も旗風もやる気満々だ。

駆逐艦だから、元々、それだけの闘争本能を持ち合わせているのだろう。

高雄は、今はその頼もしさが有り難いと思った。

そして………少し申し訳なさそうな顔をすると、真剣な顔をしていた浜風に告げる。

 

「………それじゃあ、浜風。悪いけれど、泊地で択捉と松輪を見ていてくれないかしら?」

「え………?」

 

浜風は、彼女から告げられた事を受け、思わず驚く。

だが、冷静に考えれば当然だとも思った。

海防艦の松輪は、無理やり艦娘にされた経歴があり、恐怖心から海戦で実戦を行った事が無い。

同じく海防艦の択捉も、恐怖心こそ松輪よりも無いものの、練度はお世辞にも高くは無い。

そして、浜風はまだ、PTSDを完全に克服出来てはいなかった。

とてもでは無いが、現時点では、今回の実戦に赴ける力量は持ってはいない。

 

「私は………。」

「あ、あの………!私も出撃させて下さい!」

「松輪!?」

 

突如響いた幼い声に、択捉が驚いたような声を上げる。

思わず叫んでいたのは、松輪であった。

彼女は皆の視線が集中した事で、一瞬尻込みするが、それでも高雄を見る。

高雄は、身を屈めて松輪を覗き込んだ。

 

「松輪ちゃん………気持ちは嬉しいけれど………。」

「わ、私………この泊地の事は何にも分かって無いし………敵艦と戦うのは怖いです………。でも………!」

「でも?」

 

涙ぐみ、口をへの字に曲げながらも、松輪は視線を逸らさなかった。

 

「私………この泊地が好きです!みんなが優しくしてくれる………この場所が………!だから、守りたい………!」

「………敢えて、厳しい事を言うわ。死ぬかもしれないわよ?」

「そ、それでも………自分だけ、何もせずに隠れているなんて………嫌です!」

 

松輪の正直な言葉に、高雄は溜息を付く。

だが、ネームシップである彼女にしてみれば、何が何でも役に立ちたいという松輪の気持ちは、痛い程分かった。

故に、彼女をどうするべきか悩む。

その間に、彼女の言葉に触発されたのか、択捉も具申してくる。

 

「高雄さん。択捉も………択捉も出撃させて下さい!」

「貴女達ねえ………。」

「松輪は、私が見ています!私達も………戦わせて下さい!」

「……………。」

 

こうなると、安易に否定できなくなる。

海防艦だって、闘争本能を持ち合わせているのだ。

それを否定したら、艦娘の否定に繋がる。

 

「………高雄。彼女達を艦隊に組み込んだらどうだ?」

「神州丸?」

 

そして、そこに意外な所から後押しが入った。

泊地の中では、最も冷静に判断を下すはずの神州丸が、松輪達の味方をしたのだ。

 

「貴女がどうして………?」

「本艦は揚陸艦だ。水上偵察機等は使えるが、陸の者故、お世辞にも戦力になれるとは言えない。だから、松輪や択捉の気持ちは分かるつもりだ。」

「でもね………死んだら元も子も無いわよ?」

「陸から本艦が、水上偵察機を飛ばして援護をしよう。長期戦になる以上、艤装を付けて船渠(ドック)を管理している者も必要だからな。」

 

神州丸の言葉を受け、高雄はまた溜息。

ここまで真剣に複数人に具申されたら、断るわけにもいかない。

高雄は最後に、浜風を見る。

彼女は笑みを浮かべながら、松輪達の頭を撫でていた。

 

「ここまで来たら、貴女も出るって言うでしょうね………。」

「はい。PTSD云々と、言っている場合ではありませんから。」

「悩む時間自体が無駄ね………。」

 

根負けした………と言わんばかりに、高雄も少し苦笑を浮かべると、すぐに真剣な顔になる。

深海棲艦警報が鳴ったからだ。

敵の艦隊は、もうそこまで近づいている。

決断の時であるだろう。

 

「艦隊を2つに分けるわ!1つは、龍鳳、春雨、神風、朝風、松風、旗風!もう1つは、私………高雄、不知火、浜風、浜波、択捉、松輪!神州丸は陸から援護して!」

『了解!!』

 

艦娘達は、出撃の為に庁舎を飛び出し、工廠(こうしょう)で艤装を装備して、海を見る。

しきりに降り注ぐ雪によって、視界は白く染まっていた。

浜風は、まるであの時の霧の中の海戦に近いと感じた。

 

「龍鳳航空隊………発艦します!」

 

その中を、龍鳳が弓に矢をつがえて、次々と艦載機を飛ばしていく。

一方で他の面々は、順番に海に抜錨していった。

 

「各地の鎮守府や警備府、泊地に援軍の要請はしているわ!増援が来るまで耐えて頂戴!」

「さて………不知火達を怒らせるとどうなるか………思い知らせてやりましょう。」

 

艦娘達が、その奥底に秘めた闘志を燃やす。

単冠湾泊地での………決戦が始まった。




佐世保での海戦の完結。
そして、新たなる単冠湾泊地での決戦の始まり。
最後の最後で謝られてしまったら、誰でも錯乱はするでしょう。
それでも、電は最後まで譲りたくなかった。
優しさ故か、傲慢さ故か、はたまた両方なのか…。
とにかく確かなのは、1つの海戦が終わって、新たな海戦が始まる事。
長かった磯風編も、いよいよ最終章に移ります。
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