艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第105話 ~ちょっとした魔法~

一方その頃、佐世保鎮守府では磯風や陽炎達が帰投していた。

………と言っても、勝利を祝える状態では無かったので、彼女達はすぐに菊月に、状況の確認を取る事になる。

 

「神州丸から電話で伝わって来た話だと、交戦を開始したらしい。幌筵泊地、大湊警備府、佐世保鎮守府、呉鎮守府から増援が来てくれるらしいが………。」

「………それまで、どれだけ耐えられるかよね。参ったわね………私も本当ならば、帰りたいけれど………。」

 

大規模な海戦が行われると、その為の事後処理にも時間が掛かる。

特に今回は、最初だけとはいえ、佐世保鎮守府に爆撃が行われたのだ。

提督代理を務めている陽炎は、被害状況等を纏めないといけない。

本来の提督を管理している単冠湾泊地の事は気になったが、すぐに帰られる状況では無かった。

 

「行きと同じで、飛行機には乗れないのか?アレならば、速いと思うのだが………。」

「チケットを取るのが大変なのよ。荷物も極秘に運ばないといけないし………。」

「そこに関しては心配ない。お前達が戻って来るまでの間に、私が手回しをしておいた。」

「え………?」

 

磯風と会話をしていた陽炎は、驚く。

別の所から響いた男の声に振り向いてみれば、何とそこに、佐世保の提督がタクシーから降りてきていたからだ。

当然、爆撃の傷は残っており、ギブスに松葉杖、包帯と痛々しい状況だ。

 

「し、司令官!?大丈夫なのですか!?」

「これ位、心配はいらない。痛くないと言えば嘘になるが………まあ、事後処理くらいはやらせてくれ。」

「司令官………。」

「よく佐世保を守ってくれた。大きな借りを作ってしまったな………。」

 

父性に満ちたその目を受け、陽炎は思わず照れ臭くなる。

この提督は、女性に対する悪癖さえなければ、立派な親になれると思う位には、父親としての力を持っていると彼女は思った。

そんな彼は、陽炎に飛行機のチケットを渡す。

 

「残念ながら、今からだと8枚が限界だった。連れて行く面々は、お前が決めてくれ。」

「はい!じゃあ、私と五月雨と、後6人は………。」

 

陽炎は、後ろを見る。

その視線は、磯風達に集中していた。

 

「………いいのか?磯風達で。」

「第二十五駆逐隊は今、丁度6人でしょ?春風にとっても黙っていられない事態だし、いいと思うんだけれど?」

「ん?6人?」

「そうでした。磯風さんは、まだ知らないのでしたね。電さんが、この奪還戦から、第二十五駆逐隊に転属したのです。あ、でも………。」

 

そこまで言って、春風は言いよどむ。

確か、電の転属は一時的な物であったはずだ。

つまり、正式加入では無い。

暁達が戻って来た以上は、第六駆逐隊に戻るべきかもしれなかった。

実際に電本人も、俯きながら悩んでいる様子であった。

しかし………。

 

「………行ってきなさい、電。」

「雷ちゃん………?」

 

雷の言葉を受け、電は驚いたような顔を見せる。

彼女は、優しい顔をしていた。

 

「でも、電は………。」

「気持ちが揺れ動いているのだろう。だったら、奥底の本音に従うのが一番だ。」

 

ヴェールヌイも、穏やかな笑みを見せながら、電の背中を後押しする。

その様子は、決して電を邪険に扱っているわけでは無い。

 

「いいの………でしょうか?」

「いいじゃないの。第六駆逐隊兼、第二十五駆逐隊って事にしておけば。………私達の分も、舐めた真似をしてくれた敵の本隊をぶっ飛ばしてきて頂戴。」

「暁ちゃん………。」

 

最後に暁が、電に対して満面の笑みを見せながら、ハッキリと言った。

電の初期艦仲間である友を、陽動に使ったような本隊なのだ。

だったら、電自身もケリを付けに行くべきであろう。

彼女は僅かに俯き………しかし、顔を上げて磯風を見ると、手を伸ばす。

 

「過去を含めて………電を受け入れて………くれますか?」

「………どうやら、私の戦友達は、私の思った以上に私を理解しているらしい。歓迎する、電。宜しく頼む。」

 

静かにしっかりと手を取った事で、周りから拍手が起こる。

その様子を満足そうに見ていた陽炎は、すぐさま指示を出した。

 

「船渠(ドック)入りを終えたら、すぐに出発するわよ!ここから先は時間との勝負!一刻も早く、単冠湾泊地に向かいましょう!」

 

力強く頷いた第二十五駆逐隊の6人は、すぐに準備を始める。

目指すは、磯風にとって思い出の深い北の泊地。

その地を救う為に、彼女達は行動を始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「落ちなさい!!」

「沈め!」

 

その単冠湾泊地では、豪雪の中、艦娘達の必死の交戦が続いていた。

重巡故に火力のある高雄の砲撃や、陽炎と同じく雷撃戦に長けた不知火の魚雷が、叫びと共に飛んでいく。

前者は近づいてきたエリート級リ級を2隻纏めて吹っ飛ばし、後者はエリート級雷巡チ級を3隻爆破した。

2人が次の弾や魚雷を装填している間に素早いエリート級軽巡ト級やエリート級軽巡ニ級が接近してくるが、浜波が択捉や松輪と共に弾幕を張り、近づけさせない。

その隙に、浜風が素早く動き、敵を射抜いていく。

 

「ト級とニ級撃破!………皆さん、残りの弾数は?」

「高雄よ。まだまだ弾数はあるけれど、三式弾を撃っている余裕は無いわ。悪いけど、対空迎撃を任せてもいいかしら?」

「不知火です。………魚雷を半分使いました。消耗戦だと不利ですね。」

「は、浜波………。みんな弾はあるけれど………そ、そろそろ………択捉ちゃんと松輪ちゃんが辛そう………。」

「事態はあまり好転してませんね………。」

 

質問に対して返って来た様々な報告を受け、浜風は思わず頭が痛くなった。

まず、ヌ級やヲ級の攻撃機が飛んで来る以上、対空迎撃は、磯風と同じく乙改の浜風が何とかするべきだが、そうなると物量戦を仕掛けてきている敵艦の迎撃が間に合わない。

今の所は、神州丸の水上偵察機で、上手く攪乱して貰うしかなかった。

次に、駆逐艦の生命線とも言える魚雷の残り。

不知火は次発装填装置を付けて16門の魚雷を持っていたが、それでも残り8門。

全部使い切るのも、時間の問題であった。

そして、海防艦である択捉と松輪のスタミナ。

ここまでは、浜波と一緒に牽制役として貢献してくれていたが、そろそろ一旦休ませてやりたかった。

だが全て、敵の圧倒的な数の中だと許されない。

 

「龍鳳さん、しばらく任せられないですか?」

「ごめんなさい。こっちも精一杯で………。春雨や神風達も、魚雷が残り少ないみたい………。」

 

電探越しでも疲労が溜まっているのが分かる龍鳳の言葉を受け、更に浜風は、頭が痛くなる。

これでは押し切られて全滅するのも、目に見えていた。

まだ、敵の大将の姿もまだ見えないのに、どうしようもない。

元々敵の大規模攻勢の前には、無謀であったのかもしれないとすら思った。

 

「じわじわと削られているわね………疲労が溜まったらあっという間よ。」

「順番に船渠(ドック)入り出来るだけの、サイクルが組み立てられればいいのですが………。」

 

高雄や不知火も、苦い顔をしながら悩む。

これ以上長期戦になるのならば、海戦中でも船渠(ドック)入りをしなければならなかった。

しかし、味方の増援が来ない事には実質不可能であった。

その増援………恐らく最初に来るのは幌筵泊地と大湊警備府だが、要請からまだ時間が経って無いので、そう簡単に到着するとも思えなかった。

 

「防衛ラインを下げますか?」

「これ以上下げたら魚雷が泊地を直撃するわ。これが限界よ。こうなったら多少強引でも………。」

「待って下さい。北側で何かが………!?」

 

万策尽きたか?と思われたが、その時、不知火の言葉と共に北側で爆発が起き、複数の深海棲艦が吹き飛ぶ。

そして、電探に新たな声が聞こえて来た。

 

「楽しい事になっているじゃないか。俺達も混ぜな!」

「木曾………貴女、今はそんな好戦的になっている場合じゃ無いでしょ?」

「貴女達は………?」

 

驚いたような言葉を呟く高雄。

甲標的を喰らわせた幌筵からの増援………木曾は、水色の偵察機を飛ばして、ヌ級に対し弾着観測射撃を試みるゴトランドと共に、この海戦に殴り込みをして来ていた。

5人で、単縦陣でやって来ていた彼女達は、気合十分である。

しかし、ここで不知火が疑問を提示する。

 

「到着時間が、予測よりも明らかに速いです。両舷一杯で来たとは思いますが、どうやってここまでの時間短縮を………?」

「そこは、ちょっとした魔法だよ。まあ、缶とタービンを強化して、無理やり飛ばして来ただけだけどね。」

「そちらは、かなり疲労していると思ったから、装備の出し惜しみをしなかったのよ、幌筵の提督は。」

 

レーベとマックスが、機銃で対空迎撃をしながら説明する。

つまり、最初から速力を強化する装備を優先的に付けて、急いでやって来てくれたのだ。

この単冠湾泊地を救う為に。

 

「有り難いですが………そちらの泊地の防衛は大丈夫ですか?」

「同志ガングートと阿武隈さんと宗谷さん、それにまるゆがいるから、大丈夫だよ。後、この助言は大湊警備府とかにも伝えていたから、恐らくそろそろ………。」

 

魚雷をヲ級に対して放つタシュケントの言葉と共に、南側でも砲撃が起き、複数の戦艦ル級や重巡リ級が撃墜されていく。

振り向いて見れば、そちらにも5人の艦娘達が、手を振りながらやって来ていた。

 

「こんにちはーっ!バルジ生活卒業!缶とタービンを強化して、スリムになった阿賀野でーす!」

「ぴゃあ………阿賀野ちゃん、お腹のバルジは取れてないよね?」

「余計な事言わないの、酒匂。………じゃ、みんなやるわよ!」

 

阿賀野と酒匂が軽い気持ちで挨拶をするが、その目は笑っていなかった。

こう見えても、水雷戦隊を束ねる軽巡。

それも、最新鋭の阿賀野型なのだから、実力は備わっていた。

その後ろから、風雲、秋雲、潮の3人が付いてくる。

彼女達に対して、不知火が聞いた。

 

「急いできてくれたのは嬉しいですが………こんなに沢山、警備府の艦娘が来て、大湊は大丈夫なのですか?」

「冬月や神鷹さん達が居てくれるから、守りに関しては大丈夫よ。………さて、お返しと行きましょうか!」

「いや~、この機会、駆逐艦として腕が鳴るね~。スケッチしたいくらいだよ!」

「秋雲………アンタは、少しは真面目にやりなさい!」

「け、ケンカしている場合じゃ無いですよ!とにかく、高雄さん達は、一旦船渠(ドック)入りを!」

 

潮の言葉を受けて、高雄や龍鳳達は、これで船渠(ドック)入りのサイクルが何とか出来ると踏んだ。

しかし、来てくれたばかりの増援艦隊に、いきなり防衛線を丸投げしてしまっていいのか?と思ってしまう。

だが………。

 

「うーん………ちょっと迷っている暇はなさそうですよ?」

 

阿賀野の軽そうで………しかし真剣な言葉を受けて、単冠湾泊地の面々はハッとする。

龍鳳の放っていた攻撃機が、突如複数吹き飛んだからだ。

 

「あれは………!?」

 

龍鳳が目を凝らしてみれば、そこには得意の対空砲火で攻撃機を軽々と撃ち落としている、水母棲姫と防空棲姫の姿が。

更に、艤装部分の巨人の咆哮を上げながら、戦艦棲姫が近づいて来ていた。

 

「強力な姫クラスが………複数………ですか………。」

 

敵艦の親玉の登場に………嘗ての霧の中での海戦の記憶が刺激された浜風は、知らぬ内に冷や汗を流していた。




遅くなりましたが、これで電が正式加入です。
磯風編の最初から登場していた彼女の転属は、紡いできた物語の長さを感じさせます。
それだけ私も、色々とありましたが、投稿を続けて来たという事ですからね。
さてさて、決戦という事で、様々な艦娘達が再登場を果たしています。
磯風編で出た艦娘だけでなく、岸波編で出た艦娘達も。
彼女達が必死に戦う中で、磯風達は果たして間に合うのでしょうか?
また、浜風に関しても、試練の時になりそうですね。
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