艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第106話 ~弱さを受け入れられる自分~

一方その頃、電車を伝って大湊まで到達した横須賀と呉からの増援は、駅に降りると、すぐさま荷物運搬用のトラックと共に、東の海岸線まで移動していく。

ここからは海路である為に、艤装の出力が肝心になる。

幌筵の提督からの提案は、鎮守府にも届いており、全員が缶やタービンを強化しており、両舷一杯で飛ばせば、その日の夕方までには単冠湾泊地に着く計算であった。

 

「随分、滅茶苦茶な任務だよなー………。」

 

その1つのトラックの中で、艤装を付けながら装備を確認するのは横須賀からの増援の1人である嵐。

彼女は、萩風と野分と共に、第四駆逐隊として出撃を命じられていた。

缶とタービンを強化する以上、どうしても遠方からの増援は、駆逐艦中心になってしまう。

守りに関しては、横須賀は、扶桑姉妹や愛宕、那珂等が居るから心配は無かったが、ここまで駆逐艦娘を東西に送り込む事は珍しいと感じていた。

 

「愛宕さんは、高雄さんの事を心配していたから、私達で何とかしないといけないわね………。」

「それもそうだけれどよ………、俺としては何というか………。」

「あら?私が行ってはいけなかったのでしょうか?」

「い、いえいえ!?そんなわけありません!」

 

響いてきた大人の声に、野分が慌てて嵐の口を塞ぎ、乾いた笑みを見せる。

舞風が第二十六駆逐隊にいる関係で、3人になった第四駆逐隊に混じる形で、今回、ある「特別な艦娘」が一緒に同行していた。

彼女が行く事になった時は、流石に提督も含め皆が止めようとしたが、今回ばかりは参戦させてくれと聞かなかったのだ。

そのある意味大物がトラックの荷台に一緒に乗っているのだから、3人は緊張していた。

やがて、萩風がその人物に対し、恐る恐る聞いてみる。

 

「あの………何で今回、提督に無理を言ってまで………?」

「許せなかったからでしょうか?」

「許せなかった………ですか?」

「はい。電ちゃん達の想いを弄んだ深海棲艦が………。」

「何ていうか………色々な事情があるんすね………。」

「ごめんなさいね、無茶言っちゃって。」

『い、いえいえ!』

 

両手を振って慌てふためく3人の駆逐艦娘に対し、その人物はただ静かに笑みを見せながらも………集中力を高めていっていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

佐世保では、磯風達が飛行場に辿り着き、搭乗手続きを終えて飛行機に乗り込んでいた。

いきなり増えた訳の分からない乗客の姿に、周りの視線は釘付けになっている。

特に、義腕を装備していた巻波は、こういう所では、必ず目を向けられていた。

 

「………大丈夫?」

「慣れっこだから大丈夫。それより………今どんな状態だろ?」

 

心配する如月の言葉に、ケロッとした様子を見せた巻波は、今頃激戦が繰り広げられているであろう、単冠湾泊地を思い浮かべる。

………と言っても、彼女は実際に赴いた事が無いので、その具体的な姿が分からない。

 

「詳しい事が分からない以上、祈るしか無いわね………。何も出来ない自分が、歯がゆいけれど………。」

 

陽炎が歯ぎしりをしながら、フライトの時間を待つ。

無茶ではあるが、早く飛び立たないかと思ってしまう程だ。

そして、それは磯風達全員の願いでもある。

やがて、飛行機はゆっくりと滑走路に向かい………まずは東の羽田空港に向けて飛び上がった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「阿賀野型には、こういう戦い方もあるのよ!」

 

単冠湾泊地では、大湊組の旗艦である阿賀野が、左足から観測機を飛ばして戦艦棲姫に対し、弾着観測射撃を狙っていた。

しかし、速力に優れる防空棲姫がそれに気づくと、素早く前に出て迎撃をしてくる。

 

「何ヲシタイノ?」

「相変わらず面倒ね~………でも!」

 

阿賀野はその間に酒匂と共に、「前に引きずり出した」防空棲姫に高速で接近すると、副砲も交えながら、砲撃をガンガン喰らわせていく。

 

「痛イ想イヲ………シタイノネ!」

 

至近弾を受けて、防空棲姫は一瞬怯むものの、すぐさま怒りを露わにして、下がりながら艤装の口部から大量の魚雷を放つ。

更にどうやら入れ替わりで潜水艦カ級が3隻ほど加勢に現れたらしく、その本数は明らかに多い。

 

「………仕方ない………わね!!」

 

躱しきれないと悟った阿賀野は、単縦陣を指示。

自身を先頭にして敢えて1本の魚雷に突撃すると、何とバルジも無いのに腕を交差させて盾になる。

当然、自身の魚雷や爆雷は投棄するが、それでも阿賀野は一気に大破する。

だが、後ろにいる仲間達は無傷だ。

 

「あ、阿賀野さん!?」

「げ、げほげほ!………気にする暇あったら、潜水艦落として!」

「は、はい!」

 

思わぬ行動に潮が心配をするが、阿賀野の号令を受けて、素早く風雲や秋雲と共に前に出る。

 

「沈めます!!」

「やってくれたわね!!」

「覚悟してもらうからねっと!!」

 

3人が爆雷を落としていった事で、カ級は撃沈するが、阿賀野を船渠(ドック)入りさせなくてはならない。

彼女を支えに行っていた酒匂が、思わず心配の声を掛ける。

 

「ぴゃあ………阿賀野ちゃん無茶しすぎ………。」

「げほ………一応はネームシップだもの。旗艦として、皆を守るのは当然でしょ?」

 

血反吐を吐きながらも、阿賀野はまだまだ戦う意思を見せる。

酒匂はその姿を見て、木曾に電探で確認を取る。

 

「木曾ちゃん、そっちの状況はどう?」

「あまり良く無いな………。敵がとにかく多いから、魚雷がそろそろ底をつきそうだ。後、水母棲姫の攻撃機で地味にダメージが積み重なっている。」

 

酒匂が目を凝らして見てみれば、確かに木曾達の幌筵組は、水母棲姫に苦戦していた。

水中から攻撃機を鎖で引きずり出している敵艦は、まだまだ余裕がありそうだ。

どうやら姫クラス3隻は、再生能力を備えているらしく、傷を与えてもすぐ復元してしまうらしい。

そこで、単冠湾泊地から通信が聞こえてくる。

 

「こちら龍鳳です。艦載機の補充と船渠(ドック)入りを終えました!すぐに再出撃します!」

「お、速いな!」

「工廠(こうしょう)の人達が、危険なのに色々と頑張ってくれているんです!艦載機を出来る限り飛ばしますんで、その間に一度、木曾さんや阿賀野さんも船渠(ドック)入りを!」

「そうさせて………貰うわね!………高雄さんは?」

「こっちも今終わったわ。待たせてごめんなさい。」

 

泊地から大量の攻撃機が飛んできた事で、防空棲姫や水母棲姫の注意はそちらに向く。

更に、龍鳳や高雄達の艦隊が出て来た事で、木曾や阿賀野達が入れ替わりで引いていく。

横須賀や呉の増援が来るまでは、このサイクルを繰り返さないといけない。

地味に辛い作業であったが、それでも、耐えないといけなかった。

 

「……………。」

「浜風、大丈夫ですか?やはり、姫クラスと遭遇してから、かなり辛そうに見えます。」

 

再出撃した時に、冷や汗を流している浜風に気付いたのだろう。

高雄の艦隊にいた不知火が、声を掛けてくる。

浜風は笑おうとして………思わず吐きそうになった。

 

「浜風!?」

「だ、大丈夫です………。正直に言えば、やはりあの、霧の中の海戦が蘇ります………。」

 

分かってはいる。

もう、浜風自身に瀕死の傷を負わせた南方棲戦姫はいない。

あの戦いの傷も、沖波の残留思念が皆を癒してくれている。

でも一方で、またああなってしまったら………?という恐怖もある。

その感情を振り払えない限り、浜風は前に進めない。

 

「浜風ちゃん………。貴女はここで散々努力をしてきたわ。」

「高雄さん………。」

 

前に出ている高雄が主砲で、深海棲艦の群れと、こちらを狙い始めた戦艦棲姫に反撃をしながら言う。

 

「貴女は、隠れて震えていたわけじゃない。前に進む為の準備を、確実にして来た。後は気持ちの持ちようよ。」

「分かっています。ですが………。」

「………もしも、本当に怖かったら私を盾にしなさい。出撃を許可したのは、私だから。」

「そ、そんな………!?」

 

高雄の覚悟を決めた言葉に、浜風は思わず動揺する。

確かに重巡の高雄は、駆逐艦の浜風よりも肉体も艤装も強靭だ。

だが、それでも安易に盾にしていいわけが無い。

 

「い、嫌です!何でそんな事言えるんですか!?」

「情が移ったのかしらね?この地で、自分と戦い続ける艦娘達に。」

「情って………。」

「確かなのは、神風ちゃん達も、春雨ちゃんも、松輪ちゃんも、そして、貴女も………自分に打ち勝てるだけの強い艦娘って事よ。」

「自分に………?」

 

空中から襲ってきた攻撃機を三式弾で落とした高雄は、一瞬だけ振り向く。

その顔は、少し笑っていた。

浜風は自分が本当に強いのか、分からなかった。

 

「弱さを素直に受け入れられる自分は………明らかに強いわ。………大丈夫。身近で見て来た私が保障する。きっと、磯風ちゃんや浦風ちゃん、谷風ちゃんも同じ事を言うわ。」

「私は………。」

「さて………悩んでいる時間も終わりね………来るわよ!」

「あ!?」

 

高雄の警告で、遠距離から飛んできた砲撃を、浜風は咄嗟に躱す。

戦艦棲姫が、巨人の艤装から砲撃を繰り出しながら、迫って来ていたからだ。

鈍重な動きであったが、装甲の厚い艤装を従える鬼女の笑みが、あの南方棲戦姫の邪笑に重なる。

途端に動きが鈍りそうになるが、首を振って浜風は突き進む。

潜水艦や駆逐艦が妨害をしようとしたが、前者は択捉と松輪が、後者は不知火と浜波が、油断なく沈めて行く。

 

「雷撃………放ちます!!」

 

面舵を切った事で、T字有利になった艦隊の駆逐艦娘達が、一斉に魚雷を放っていく。

その雷撃の束は、戦艦棲姫に吸い込まれ、大爆発を起こす。

しかし………ここで、予想外の事が起こった。

 

「ゴアァァァァァァァァァァァァッ!!」

『!?』

 

戦艦棲姫の、生物的な艤装による咆哮。

吹雪のカーテンが吹き飛び、空気が震える程の振動が艦娘達を襲ったのだ。

その強力な振動を受け、皆が一瞬動けなくなる。

 

「シ・ズ・メ!!」

 

鬼女の指示を受けた巨人が、そのまま無防備な艦隊に向けて砲撃を放つ。

 

(不味い………!?)

 

その狙いが、隙だらけになった択捉や松輪だと気づいた浜風は、自身の記憶を刺激される。

海防艦に敵戦艦の砲撃が炸裂したら、どんな無残な事になるか。

身を持って経験していた浜風は、吠えた。

 

「う………あああああああああああ!!」

 

無理やり身体を動かし、海防艦娘2人の前に立つと、そのまま両腕を広げて盾となる。

恐怖心が、消えたわけでは無い。

だが、それ以上に………あの時の自分の繰り返しになるのが嫌だったのだ。

弱さを自覚しているからこそ芽生えた………悲劇を繰り返したくないという想いが、浜風にあった。

 

(これが………高雄さんの言っていた………私の強さだったのかしら………?)

 

あの時と同じく自身に迫る砲撃が、今回はやけにスローに見えた。

高雄が、不知火が、浜波が、択捉が、松輪が何かを叫んだが、それも聞こえない。

只、走馬灯というのは、こういうものなのか?と感じた。

 

(死ぬ間際というのは………こんなにも静かなのね………。)

 

浜風は、静かに目を閉じる。

その砲撃は着弾して………爆発を起こした。

 

(……………?)

 

だが………幾ばくかの時が経ち、浜風はまだ、極寒の寒さを感じていた。

砲撃が着弾した時に起こる、熱さや焼け焦げた匂いも。

 

「私は………生きてる?」

「われも、無茶をするなぁ………。」

「ホント、危ない事をするねぇ………。」

 

そこに、慣れ親しんだ声が響き渡る。

姉御風の広島弁と、明るい江戸っ子口調。

その声を聞いた途端、浜風の目が見開かれた。

 

「あ………ああ………!?」

 

そこには、こちらを向いて、背中の艤装から炎を出しながら浜風を庇っている、2人の艦娘が立っていた。

見間違えるわけが無い。

大事な第十七駆逐隊の仲間の、浦風と谷風。

 

「何で………何で………!?」

 

浜風に、悲劇は繰り返されなかった。

だが、代わりに呉から舞い戻って来た2人に、残酷な一撃が………。

 

「何で貴女達が、犠牲にならないといけないのですかーーーっ!?」

 

衝撃を受けた浜風は、思わず泣き叫んでいた。




現代社会において、鬱病などの精神的病気を抱えている人は多いです。
その病気を抱えるのは、弱さからではなく優しさからとも言われています。
そして、時間の経過と共に、いつかは向き合っていく事が出来るものだと。
この泊地の浜風は、自身の病気と闘ってきました。
高雄はそれを知っているからこそ、浜風達を強いと感じたのかもしれません。
余談ですが、この話を書いている時点で、地道にですが次回作も考えています。
今度の主役は「あの艦娘」で考えていますので、宜しくお願いします。
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