艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第107話 ~凶弾~

「う………うぅ………。」

 

自分の代わりに砲撃を受けた2人の仲間を見て、浜風は泣いていた。

これでは、沖波の時の繰り返しだ。

浜風自身の為に、また、大切な仲間が犠牲になってしまった。

 

「これじゃあ、あの時と………私は、何も………。」

「………浜風………何か勘違いをしとらんか?」

「谷風さん達を、勝手に沈めてもらっちゃあ、困るよ。」

「へ………?」

 

俯き涙を流す浜風の両肩に、2人の手が置かれた事で、彼女は思わず顔を上げる。

そう言えば、2人の艤装の背中部分は火を噴いていたが、いつまで経っても浮力が失われる気配が無い。

 

「何が………?」

「もう、沖波の二の舞を繰り返してはいけんけぇのぉ。」

「この時の為の………岸波特製のパワーアップってヤツよ!」

「ええ!?」

 

浦風と谷風の自慢するような言葉を受け、思わず浜風は手持ちの主砲と機銃を仕舞い、海水を2人の背中の艤装に掛ける。

そして、そこでようやく気付く。

浦風の艤装の右から左に掛けて。

谷風の艤装の上から下に掛けて。

丁度、基部を守るように、二振りのバルジが括りつけられているのを。

 

「ば、バルジ!?そんな装備、貴女達は付けられないんじゃ!?」

「じゃけぇ、岸波特製のパワーアップだって。」

「遅くなってしまったけど………谷風さん達も、前に進む時が来たってわけよ!」

「そがいな事!」

 

浦風と谷風は、説明する。

呉に行って根本的な強化をする為に、明石の弟子入りをしている岸波に対し、装備の追加を頼んだのだ。

そこで、彼女が2人に施した追加装備の1つが、基部を守る為の中型バルジであった。

更に、足首に補助動力としても使える、対地攻撃用の小型船舶も追加したらしい。

浦風は、特型内火艇。

谷風は、戦車付きの大発動艇。

今回、この補助動力を駆使し、缶とタービンの強化と合わせて、先行して浜風の危機に急行してくれたらしい。

 

「き、岸波は、呉で何を学んでいるんですか!?滅茶苦茶ですよ!?」

「まあ、ここまで上手ういくまでに、文字通り数百回は失敗したけどのぉ。」

「辛抱強く付き合ってくれた岸波には、感謝しかないねぇ。」

「………な、成程。」

 

苦労して増設した、自慢の装備を見せびらかす浦風と谷風。

浜風にしてみれば、2人が沖波の悲劇を繰り返さなくて済んだという安堵でいっぱいだった。

そこで、また彼女は気付く。

自分の背中の艤装にしがみ付く形で、同じように泣いている存在がいる事を。

浜風自身が庇った、択捉と松輪だった。

 

「うええええええ………!」

「ごめんなさい………怖い思いをさせてしまって………。」

「ち、違うんです………浜風さんが………無事で良かったって………!」

「え………?」

 

泣きながら答える松輪の言葉に、浜風は驚く。

確かに、自分は死にそうになった。

………というか、浦風と谷風がバルジで庇ってくれなければ、確実に轟沈していた。

今更ながらに、その真実が浜風を身震いさせる。

 

「まだ………乗り越えられてないですね。死の恐怖から………。」

「………完全に乗り越えられんでもええんじゃ。」

「浦風?」

「死ぬ恐怖を抱えていないと、無謀な行動に繋がるからねぇ。」

「谷風………でも、私は………。」

「ま………だから、その時の為の「家族」であり「戦友」ってわけよ。」

「家族で………戦友………。」

 

谷風の笑みを見て、浜風は考え込む。

掛け替えの無い「家族」を手に入れた岸波。

何にも代えがたい「戦友」を手に入れた磯風。

思えば2人共、完全に沖波の悲劇を振り払えたわけでは無いだろう。

そもそも過去や罪を、忘れていいわけでは無い。

そういう意味では、浜風のPTSDは、一生付き合っていくべき物なのかもしれない。

 

「いつか………私も、この「罪の証」と付き合いながら………変われるのでしょうか?」

「心配しんさんな。その為のうち達じゃし………岸波達じゃ。」

「岸波………?」

「浜風………安堵しすぎだって。気付いてないのかい?」

「あ!?」

 

浜風は今更ながらに、自分を狙っていた戦艦棲姫の事を思い出して、慌てて前を向く。

見れば、巨人の艤装を従える鬼女は、こちらを狙う余裕を失っており、7人の駆逐艦娘達に振り回されていた。

 

「みんな、覚悟はいい?仲間のやられた分は?」

「はーい、やり返す………だね!燃えて来たー!」

「はあ………豪雪地帯だと眠い。」

「望月………参報なんだから、それらしく振る舞ってよ………。」

「あはは………あ、高雄さん!みんなで加勢に来ましたよ!」

「今はとにかく、厄介な姫クラスを撃退しないとね!」

「対空砲火も欠かしません!腕の見せ所ですね!」

 

それは、岸波、舞風、望月、山風、薄雲、朧、初霜………第二十六駆逐隊の面々だ。

彼女達は、敵艦の周りを高速で回りながら、砲撃を躱し、逆に雷撃などを撃ち込んでいた。

一方、対空砲火で龍鳳の相手をしていた防空棲姫に対しては、突如中距離から、強力な砲撃が飛来してくる。

 

「敵艦、捕捉したよ!砲撃開始!………って、加古!?」

「望月じゃないけど、眠いんだよなぁ………。」

「いや~、盛り上がりますね~。こりゃ、新聞の記事も良い物が手に入りそうです!」

「青葉………貴女も相変わらず、マイペースね。」

 

古鷹、加古、青葉、衣笠の強力な重巡勢である。

口では呑気な事を言いながらも、砲撃は容赦が無い。

更に、水母棲姫に対しても、機動力の高い駆逐艦がかき回していく。

 

「島風じゃないけれど、遅いわね。こんなの妙高姉さんに比べれば、大したもの無いわ。」

「初風、貴女はいつもそれよね………。」

「でも、あたし達にも出番あって良かったね~!」

「島風も速さなら負けないよ~!」

「陽炎型とかって………個性的よね。」

『夕雲型に言われたくない!!』

 

こっちは、初風、天津風、時津風、島風、そして早霜だ。

敵艦を嘲笑うかの如く、くるくると舞いながら対空砲火を妨害して、龍鳳の攻撃機の援護をしていく。

そして、浜風達の下には、駆逐艦娘が4人集まった。

 

「修理が必要な艦娘は、ここに来て!」

「夏雲が、何とかしてくれますからね~!」

「予備の装備品も持ってきました!」

「応急処置を施しますから、遠慮なく来て下さい!」

 

朝雲、山雲、峯雲、夏雲の第九駆逐隊である。

彼女達は、修理兼護衛役としての役割を任されているらしい。

最後に………南の方角から、龍鳳の物とは別の攻撃機が、幾つも飛んで来る。

 

「これは………空母や軽空母も来てくれたのですか?」

「あー………悪い、龍鳳さん。俺達止めたんだけれど………。」

「本人は、何かやる気満々で来るって聞かなくて………。」

「本当に、ごめんなさい!」

「え………?」

「うふふ………貴女と一緒に飛べる日が来るなんて、嬉しいわ。」

「は、はいーーーっ!?」

 

電探で、嵐、萩風、野分が必死に謝るのを見て、何事かと思った龍鳳は、聞こえて来た母性溢れる声に、思わず素っ頓狂な悲鳴を上げる。

それは艦娘ならば、誰だって守りたい存在であり、海戦に出てくるのを躊躇う、軽空母だったからだ。

横須賀で皆の憩いの場となる酒場を経営しており、最古の秘書艦として振る舞っていた存在。

そう、その艦娘は………。

 

「忘れたの?私も改二なのよ?」

「ほ、鳳翔さーーーん!?」

 

誰にでも、直立不動で敬礼をしているのが分かる位には、緊張した声を上げる龍鳳の姿を思い起こし、思わず浜風達は頭を抱えた。

そう、軽空母鳳翔。

電達、初期艦の面倒を見ていた艦娘。

彼女達の辛さを文字通り初期の頃から知っており、それ故にその心を弄んだ存在に、静かな怒りを抱いたのだ。

だから、横須賀の提督に無理を言って、わざわざこんな北の僻地までやって来たのである。

そんな彼女は、電探で龍鳳にちょっと困った声で聴く。

 

「それとも………迷惑だったかしら?」

「滅相も無いです!若輩者ですが、ご一緒させて下さい!!」

 

今度は誰にでも、気分が高揚しているのが分かるような声で、ハッキリと言った龍鳳の姿を思い浮かべながら、浜風は苦笑する。

どうやら、横須賀や呉の援軍は、無事に来てくれたらしい。

 

「どうやら、うかうかしてられなくなったわね、浜風ちゃん。」

「はい………って、わ!?」

 

高雄の苦笑に応えた浜風は、両腕を左右から握られる。

浦風と谷風が、両側から優しい笑みを見せていたのだ。

怖かったら、さっきみたいに、自分達を頼りにしろと………。

弱くても、協力し合えば、何でも乗り越えられるのだから。

 

「………行きましょう、浦風、谷風!私も………私達も戦いましょう!!」

『勿論!!』

 

いつの間にか日が暮れていた単冠湾泊地の激闘は、まだまだ続いていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「な、何なんだ、これは………!?」

 

その夜遅く、磯風達は、飛行機を乗り継ぎ、トラックで内陸を走り、そして海を渡った事で、ようやく目的地へと辿り着いていた。

最悪の光景すら思い浮かべていた彼女達であったが、実際は違っていた。

相変わらず続く猛吹雪によって、景色は分からないが、深海棲艦の多くは撃沈しており、3隻いると思われる姫クラスは、皆、艦娘達の猛攻の前に苦戦をしていた。

 

「神風御姉様達が、勇ましく戦っておられます………!?」

「木曾さん達や初風ちゃん達までいるわ………!?」

「あれ、水母棲姫だよね?何か、みんなが凄い猛攻で追い込んでいる………!?」

「岸波達もいる………。どうなってるの………?」

「鳳翔さんまで参戦しているなんて………信じられないのです!?」

 

第二十五駆逐隊の仲間達が、次々と驚きの声を上げる中、陽炎と五月雨が、電探で確認を取ろうとした。

すると………。

 

「遅いですよ、陽炎!」

「わ!?不知火!?お、大声を出さなくてもいいじゃないの!?」

「出したくなります!早く泊地内に戻って、指揮を取って下さい!神州丸さんがヘトヘトです!」

 

どうやら、みんな疲弊しているらしく、次々と船渠(ドック)入りを繰り返しながら、耐え続けているらしいのだ。

かなり苦労を掛けている事を自覚した陽炎は、磯風達に言う。

 

「悪いけれど、泊地までまず送ってくれない?どうやら、私、海戦に参加しちゃダメみたい。」

「まあ、陽炎提督だからな。とりあえず送ろう。」

 

不満そうに口を尖らせる陽炎に対し、磯風達は苦笑しながら、彼女を泊地へと護衛する事になった。

 

「マ、マタ増援ダト!?」

「何デ、コチラガ、痛ミヲ、知ラナイトイケナイノ!?」

「オカシイ!?オカシイ!?」

 

一方で、敵艦達は、姫クラスを中心に混乱していた。

最初こそ、圧倒的な物量で押し切れると思っていたのに、何故か次々と増援がやって来るのだ。

戦力の逐次投入が有効手段で無いのは分かっていた為、逆にこの増援のタイミングが深海棲艦達には理解できなかったのかもしれない。

しかも、駆逐艦中心の増援である為、深夜になればなる程、砲戦は不利になる。

その焦りもまた、姫クラス達を混乱させる原因になっていた。

 

「コイツ等ハ、何デ………ギャアァァァァアアアア!?」

 

ここで、一番鈍重だった戦艦棲姫の再生能力が尽き、抱えられている鬼女に、第二十六駆逐隊の一斉砲撃が炸裂する。

その砲撃を受け、遂に姫クラスの一角が撃沈する。

 

「ガ………ガァァァァァァァァァァッ!!」

 

しかし………生物的な艤装は沈みながらも、最期の抵抗をした。

断末魔の叫びと共に、砲撃を放ったのだ。

何処に向けて撃ったのかは、沈みゆく戦艦棲姫にすら分からない。

只、確かなのは、この猛吹雪の中で視界不良に陥っている為、飛来する紅蓮の砲撃の軌道が読み取れないという事なのだ。

そして、それは「運悪く」………。

 

「え?」

 

磯風は、呆然とする。

轟音と共に振り向いた途端………その凶弾が、彼女の腹部を貫いたからだ。




今回のサブタイトルは、最初の浦風と谷風の事…に見せかけて、最後にドゴンです。
PTSD等の精神的病気は、簡単には克服できず、それこそ一生付き合うべき物。
だからこそ、皆と協力して、少しずつ乗り越えていく必要があると思いました。
そして、満を持して改二が実装された鳳翔さんも、戦場に殴り込みです。
普段温厚そうな彼女を本気で怒らせたら、どうなってしまうのでしょうかね?
それこそ、神通や龍田といった強者すら、乾いた笑みを浮かべる程なのかも。
さて、物語も終盤…驚愕の次回を、お待ちください。
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