「何故………!?何故!?生キ返ッタ!?」
「死ンダハズナノニ!?死ンデ無イ!?」
不可思議な現象………応急修理女神と呼ばれる奇跡によって、現世に戻って来た磯風の姿を察知したのだろう。
水母棲姫と防空棲姫は、明らかに混乱していた。
深海棲艦側からしてみれば、折角沈めたはずの艦娘が死の淵から蘇って来たのだ。
動揺しない方がおかしい。
「有リ得ナイ!?沈メ!」
当然ながら、水母棲姫は幻では無いかと思い、攻撃機を第二十五駆逐隊に飛ばしてくる。
しかし磯風は、初雪から、彼女が拾ってくれた主砲と機銃を受け取ると、輪形陣を指示する。
そして、自身がその真ん中に立つと、砲門を全て、空中の攻撃機に向ける。
「悪いな。今の磯風は、「磯風だけの魂」で成り立っているわけでは無い!!………撃てっ!」
号令と共に放たれた対空砲火は、迎撃を得意とする磯風がいる事も有り、その全てが吹き飛び、第二十五駆逐隊まで届かない。
その能力を見た水母棲姫は、更に錯乱する。
「ナ、何ナンダ!?アノ、艦娘ハ………アアアアアアアアアッ!?」
「隙を見せすぎです!」
「容赦はしませんよ!」
響き渡る絶叫。
無理に第二十五駆逐隊に狙いを絞ってしまった事で、水母棲姫は得意の対空迎撃を疎かにしてしまい、逆に無防備になった所に、龍鳳と鳳翔の沢山の攻撃機の爆撃を許してしまった。
「神風さん!雷撃戦行きます!」
「了解!みんな、いいわね!」
「勿論!この為の駆逐隊よ!」
「ボク達も、見せ場を作らないとね!」
「嵐さん達も宜しいでしょうか?」
「おう!俺達もやらせてくれ!」
「萩風、狙いを定めました!」
「さあ………トドメよ!」
更に、炎を上げた所に、春雨、神風、朝風、松風、旗風、嵐、萩風、野分が一斉に残った魚雷を全て叩き込む。
これには水母棲姫も耐え切る事は出来ず、派手に爆発をしながら沈んでいく。
「嘘ヨ!?各艦、トニカク、アノ駆逐隊ヲ!」
「あら、随分焦っているのね?悪いけれど、邪魔はさせないわ!」
「連装砲くん!ぶっ飛ばしてあげて!」
「魚雷もサービスするよー!」
「攪乱は、島風にお任せ!」
「古鷹さん、お願いします!」
「任されました!三式弾を撒き散らします!」
「ふああああ………さて、いっちょやるか!」
「すみませんねー、ちょっと加減効きませんので!」
「衣笠さん達の力、見ちゃってよね!」
初風、天津風、時津風、島風、早霜が軽巡ツ級を掻きまわしながら迎撃。
そこに、古鷹、加古、青葉、衣笠が三式弾の雨を振りまき、纏めて沈めていく。
「雷巡の力も見せる時だな!本当の雷撃ってヤツを見せてやる!」
「軽巡もいい物よ?スウェーデン製の砲撃力、喰らいなさい!」
「じゃあ、あたしは、ロシア製の一撃を!」
「僕達は、ドイツ製だね!マックス!」
「ええ、レーベ。私達も駆逐艦だものね!」
「うーん、いいわね!阿賀野型も張り切っちゃおうかしら!」
「ぴゃあ!何かみんな盛り上がってるもんね!」
「仲間を傷つける人は………潮が許しません!」
「秋雲、今回ばかりは本気を出しなさいよ!」
「風雲ー。秋雲は、そんなふざけてないよー?やる時は………やるからね!」
重巡ネ級の雷撃を躱した木曾、ゴトランド、タシュケント、レーベ、マックスが得意の攻撃を叩き込んで怯ませる。
その隙を逃さず、阿賀野、酒匂、潮、風雲、秋雲が一斉砲撃を当てて撃沈する。
「置いていかれるわけにはいかないわね!」
「陽炎、特別に加勢を許可します。」
「不知火ー、何か立場逆転してない?ま………いっか!」
「択捉ちゃんや松輪ちゃんも付いて来て!」
「は、浜波達に合わせてね!」
「はい!砲撃を仕掛けます!」
「みんなと一緒なら………頑張れます!」
「こちら、神州丸。陸より援護をする!」
「陽炎型と組むとは………負けられないわね!」
「朝雲姉、燃え過ぎよ~?でも、本気は出さないとね~!」
「第九駆逐隊も負けていられないもの!」
「夏雲、応急修理だけでない所を見せます!」
雄たけびを上げながら近づく戦艦タ級には、高雄、不知火、陽炎、五月雨、浜波、択捉、松輪、神州丸がそれぞれの持ち味を出して追い込んでいく。
そして、朝雲、山雲、峯雲、夏雲が連携して、左のアームガードから魚雷を撃ち出し、爆発させる。
「浦風達も、ここが一番力を入れる所じゃのぉ!」
「磯風を傷つけた罪は、大きいからねぇ!」
「ホント、ビックリしましたよ………お返しです!」
「第二十六駆逐隊………一斉攻撃用意っ!」
「はーい!舞風も、成長してるからね!」
「………んじゃ、老練の睦月型の力、見せますか!」
「やっと、やる気になったの………?薄雲、望月の姿勢どう思う………?」
「うーん、私達は、私達のペースでいいんじゃないのかな?」
「朧達は、どう転がっても朧達だからね!」
「私達も同じように、岸波さんに惹かれたって事実は変わりませんから!」
複数の軽空母ヌ級に対して、浦風、谷風、浜風が砲撃を次々と叩き込んで爆沈する。
空母ヲ級が最期の抵抗をするが、岸波、舞風、望月、山風、薄雲、朧、初霜の第二十六駆逐隊が、発艦した攻撃機も纏めて破壊して、海の藻屑にする。
数々の仲間………戦友達の援護によって、もう、残った防空棲姫は裸の王様と化していた。
「道が開いたな。さて、単縦陣で突撃するぞ!」
「磯風ちゃん………。」
「………どうした、電?」
「初期艦の方の時雨ちゃん達は………。」
「何が何でも、電を助けてくれって言っていた。だから、私に生きる力を貸してくれたよ。それだけ、前に進み始めた君の事を心配してくれていたんだ。」
「………ありがとう、なのです。」
不安そうに声を掛けてきた電に対し、磯風は笑いながら話す。
その顔に、本来の3人の初期艦達の気配を感じ取った電は、思わず泣きそうになり………しかし、我慢をして前を向く。
「初雪に関しても同じだ。初代艦娘の方の深雪達は、君の助けにずっとなりたかった。」
「そう言ってくれると………嬉しいな。そして、磯風を救ってくれた事も………。」
「本当に、いい「艦娘」だ。私は彼女達………戦友達に出会えた事を、誇りに思う。」
「いい言葉だよね………、その戦友。」
少しぎこちなく笑みを浮かべながらも、初雪も喜びを見せる。
そして、彼女は心の中で改めて、大切な嚮導艦である磯風を生き返らせてくれた友に、感謝を述べた。
「何か艦娘の絆っていいよね!………磯風は、昔はダメダメだったんでしょ?それを乗り越えた今、どんな気分?」
「そうだな………過去は変えられないが、全てを糧にして今があると考えると、何一つとして無駄では無いと思えるようになった。」
「………うん、私もその考え、大事だと思う。私は会った事無いけれど、沖波も喜んでくれるんじゃないのかな?」
「そうだといいな。磯風も祝福してくれるような艦娘なのだから………。」
嘗て過去に隻腕になり、そして今、機械の義腕になって辛い目にあった事を、色々と思い出しているのだろうか。
巻波もしみじみと考えながら、磯風の言葉に賛同する。
「ふふ!磯風ちゃんも岸波ちゃんに負けないくらいには、いい艦娘になったわよ。プレイガールかも!」
「プレイガールって………磯風も岸波もそんなふしだらな艦娘であるつもりは無いが………。」
「いい意味で言ったのよ。貴女………本当に前向きになったのだから。」
「確かに北方で過去を乗り越えるまでは、この単縦陣も使えなかったからな。自分でも不思議なくらいだ。」
冗談めいた事を言いながらも、磯風の成長を見て来た如月は、優しい笑みを浮かべる。
今思えば、深海棲艦に片足を突っ込んでしまっていた自身を、包み込んでくれた彼女を見た瞬間から、変われる兆候があったのかもしれない。
「磯風さんは………皆様との出会いの中で、本当に色々な壁を乗り越えて来たのですよね。………少しだけ妬いてしまいますかも。」
「春風。………その切っ掛けを作ったのは、他ならぬ君だぞ?君が暴走して横須賀に来なければ、全ては始まらなかった。」
「あ、あら?確かにあの時は、焦りのあまり………本当にすみません。」
「いいんだ。あの頃の磯風を知る者として、電と共にこの駆逐隊にいてくれれば。」
思わず春風は、顔を赤らめて俯いてしまう。
彼女の存在から、磯風の物語が始まったのだから、運命とは不思議な物である。
磯風は、そんな春風の頭を軽く撫でると、防空棲姫を見据える。
「さて………仕上げと行こうか!砲撃、雷撃用意!!」
防空棲姫は、もう滅茶苦茶に叫びながら攻撃を繰り出してくるが、周りの戦友達が攪乱してくれている。
第二十五駆逐隊は、面舵を取ると、一斉に砲門や魚雷を向ける。
死を悟った防空棲姫が、最期に叫んだ。
「オマエハ………!?オマエハ、何ナンダ!?」
「私は………第二十五駆逐隊嚮導艦、磯風だ!!」
最後に放たれた攻撃が、極寒の地での海戦の終わりを告げた。
――――――――――――――――――――
厳しい冬が過ぎると、春の訪れを迎える。
麗らかな春の日差しが刺し込み、積雪は解け、桜のつぼみが花開こうとしていた。
横須賀鎮守府では、祭りのシーズンを迎えようとして、戦いの合間に艦娘達が準備を始める。
そんなある日の事………磯風達、第二十五駆逐隊の面々は、艤装を背負って桟橋に立っていた。
「結局………幻の戦になったか。」
そう海を見据えた磯風が、静かに呟く。
佐世保や単冠湾泊地の海戦は、艦娘や深海棲艦の重大事項に繋がる為、あの後、情報統制が敷かれる事になった。
電の友であった深海棲艦化した艦娘の事や、武装開発の為に保管されている鹵獲された深海棲艦の事は、一般市民までには噂が流れる事にはならなかったのだ。
当然と言えば当然であるし、元新聞記者である青葉の言葉を借りれば、生きる上で世の中には知らなくても良い事があるというわけだ。
「浜風達も、元気にしているみたいで良かった。」
横須賀の駆逐艦寮で受け取った沢山の手紙の内の1つを見て、彼女は少しだけ笑みを浮かべる。
浜風は、あの後も単冠湾泊地で、浦風と谷風と一緒に、PTSDの克服をしようと奮闘している。
完全には払拭する事は出来ないが、幻と消えた海戦を機に、軽減をしていく事は出来るだろう。
彼女は、その手紙を防水性の袋にしまう。
「そろそろ時間だな………。」
「本当に行くのね、南に。」
「ああ。」
振り返れば、そこには岸波達、第二十六駆逐隊の姿があった。
今は呉にいる彼女達だが、今日だけは見送りの為に、横須賀にやって来ていたのだ。
そう、磯風達、第二十五駆逐隊の新たなる旅立ちの見送りに………。
「本土や北方は、色んな場所を駆け巡ったからな。ならば、南に行くのも悪くない………って話をみんなでして、司令に転籍許可を貰ったんだ。」
移動範囲だけで見れば、岸波達に匹敵する磯風達は、更に練度を高める為に遥か南のパラオ泊地へと出向する事になった。
これまでに、共に戦ってきた皆との一時的な別れの挨拶は済ませている。
後は、岸波達が最後であった。
だから、横須賀の提督に代わって、第二十六駆逐隊に出向いて貰う形になった。
岸波は、力強く笑みを見せる磯風を見て呟く。
「本当に変わったわよね、磯風。」
「岸波も、それを言うか?………いや、確かに横須賀で最初に出会った時とは雲泥の差だと、自分でも思うが。」
過去の罪の意識から、長波に頼んで、岸波から隠れて過ごしていたような磯風なのだ。
それが今、数々の仲間………磯風の言葉を借りれば、戦友と共に、充実した日々を過ごしている。
「貴女も私も、陽炎先輩みたいに欠番の駆逐隊を解放して貰って………色々と変わっていって………。」
「待て。勝手に物語が完成されたようにしないでくれ。」
「あら?」
ここで、磯風が手を出して止めた事で、岸波は首を傾げる。
磯風は、戦友達を見渡すと、改めて言う。
「岸波はまだ、明石さんの元で修業を積んでいるんだろう?」
「そうね………。そういう意味では、私達はまだ伝説になって無いわ。」
「私達もそうだ。そもそも、そちらの「家族」は7人であるのに対し、こちらの「戦友」は6人。まだ、1人足りないじゃないか。」
「そういう所で張り合わなくても………。」
「まだまだ新しい出会いを、楽しみにしているという事だ。」
磯風は、思い描く。
次に出会う艦娘達は、どんな存在なのだろうか?
もしかしたら、何かしらの闇を背負っているのかもしれない。
だが………1人でいるのならば、戦友達と過ごす良さを教えてあげたかった。
その磯風の意図を、察したのであろう。
岸波は、前に出ると静かに右手を出した。
「貴女達の旅路に、海の英霊達の加護がある事を。」
「ああ。そっちも、達者でな。」
磯風も右手を出し、固く握手を交わす。
海の英霊達が誰なのかは、もう言う必要は無い。
彼女達は、その罪や想いを、纏めて背負って生きていくのだから。
握手を交わした磯風は、桟橋から抜錨し、戦友達に言う。
「第二十五駆逐隊、出航する!単縦陣だ!!」
「ふふっ………分かりましたわ!」
「行きましょう!」
「任せてよっ!」
「みんなと一緒に………ね!」
「はい………なのです!」
応えた戦友達と共に、第二十五駆逐隊は、第二十六駆逐隊に見送られて、海を疾走していく。
この先の海での出会いを、皆で楽しみにしながら。
過去に大事な仲間を沈める原因を作った事で、岸波も磯風もトラウマを背負ってしまい、マイナスに振り切れてしまった。
だが、岸波は、舞風、望月、山風、薄雲、朧、初霜という掛け替えの無い「家族」と出会った事で、怠惰艦としての自分を変えられた。
磯風は、春風、如月、巻波、初雪、電という掛け替えの無い「戦友」と出会った事で、ネガティブな自身を乗り越えられた。
欠番の駆逐隊に揃った家族と戦友。
それは、今後の彼女達の人生にも良い影響を与えるであろう。
彼女達、艦娘は………人は、掛け替えの無い存在と共に、己と戦えるのだから。
~完~
長きに渡る岸波と磯風の物語も、この109話で完結です。
今回の話を書くにあたり、サブタイトルに「最終話」という表現を使おうか迷いました。
しかし、本文でも書いた通り、岸波達の物語も磯風達の物語もまだ完結していません。
その事も踏まえ、敢えて「109話」…続きが記せる状態で終わらせました。
振り返れば、岸波も磯風も、マイナスからのスタートを切る事になりましたね。
それがここまで、立派になったのを思うと、ちょっと目頭が熱くなりました。
最後に何で、この話を書こうと考えたのかを、話しておきます。
実は、ハーメルンを見てみた時に、岸波の長編話が無い!?という事に気付いて…。
だったら、自分が最初に書いてやろうと思い、作り始めたのが切っ掛けです。
磯風編も含め、ここまで楽しんでくれた方がいるのならば、作者冥利に尽きます。
では…また、次回作で会いましょう!
本当にありがとうございました!