艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第12話 ~もう1人の怠惰艦~

風呂を済ませた岸波は、自室で支度を整えると駆逐艦寮を回り、磯風・長波のネームプレートが入った部屋を見つける。

 

「ここが………長波達の………。」

「岸波、ガンバって!」

「ねえ、何で貴女まで付いてきているの………?」

 

岸波の隣には風呂と食事を終えた舞風がいた。

どうやら第一士官次室(ガンルーム)で嵐に事情を聞いたらしく、風呂を済ませた岸波を部屋で待ち構えていて、こうしてくっついてきたのだ。

 

「だって、岸波だけじゃ会わずに終わりそうだもん。今だって、相手が会いたくないから止めた方がいいんじゃないかって思ってるんじゃないのー?」

「………貴女、意外と直感に優れているわね。」

 

図星であった。

他者を避けていたとはいえ、岸波が今まで気付かなかったという事は、長波達も彼女が気付かないように振る舞っていたという事になる。

そういう意味では、部屋の前まで来たとはいえ遠慮するべきでは無いか?と思ったのは事実なのだ。

会うべきか、会わぬべきか………。

 

「岸波こそ、意外と勇気無いよね。ノックしないなら、私がするけれど?」

「分かったわよ………。」

 

舞風が来た時点で、腹を括る場面なのだろう。

そう思う事にした岸波は、平静を装って扉をノックする。

すると、中から声が聞こえた。

 

「ん~、誰だ?長波サマに用があるのは?」

「長波………岸波よ。貴女と磯風が横須賀に居ると知って挨拶をしに来たわ。」

「……………。」

「会いたくないならばこのまま帰るわ。磯風が中にいるのならば、相談して決めて。」

「………ちょっと待ってくれ。」

 

長波はそう言うと、部屋の中で何やら会話を始める。

結構長い時間、話が繰り広げられた。

 

「………長波って威勢のいい性格のはずだけれど、結構悩んでるね。」

「私に会うのに抵抗があるのは、2人の中だと磯風の方なのよ。」

「そうなんだ。磯風姉さんも武勲艦って言われる程の人なのに………。」

 

舞風と会話をしている内に、やがて部屋の扉が開き中から腰まであるウェーブの黒とピンクの髪の艦娘………長波が出てくる。

彼女は何処かバツの悪い顔をすると岸波に言う。

 

「入れよ。磯風が………って舞風もいるのか?」

「第二十六駆逐隊の押し入り女房よ。多分、待っていろと言っても聞かないと思うわ。」

「随分賑やかなヤツが艦隊に入って来たな。………ま、じゃあ2人で入って来いよ。」

「お邪魔しまーす!」

 

長波は少しだけ笑みを浮かべると手招きする。

岸波はなるべく感情を出さずに、舞風はなるべく明るく振る舞いながら部屋に入っていく。

基本的には岸波達の部屋と変わらなかったが、布団等の散らかり具合でどちらが使用しているか分かりやすかった。

 

「磯風………。」

「岸波か………第二十六駆逐隊嚮導艦への就任おめでとう。本当は………もっと早くこちらから会いに行くべきだったのだが………。」

 

窓辺に黒の長いストレートヘアの艦娘………磯風が俯いて座っていた。

普段は凛々しい姿を見せる為に、実は隠れファンも多い彼女であったが、岸波の前に居た彼女は、その振る舞いからは信じられない程に小さく見えた。

 

「い、磯風姉さん………どうしたの!?」

「すまないな、舞風。不甲斐ない姉で………。」

 

そのネガティブな姿に、何か悪いものでも食べたのではないか?と舞風は心配になり、思わず声をかけてしまう。

岸波はそんな舞風の肩に手を置き、少し黙って欲しいと無言で頼むと、磯風に言う。

 

「磯風………私は貴女を恨んではいないわ。むしろ貴女に………いえ、貴女達にトラウマを残してしまった事を後悔している。」

「その根本的な原因を作ったのは私だ。私の無謀な行動が無ければ………。」

「だから、長波と共に第二十五駆逐隊の開放を提督にお願いしたんでしょ?でも、私に会えなかったから、長波にもお願いして身を隠して貰った。」

「そうだ………私はまだ………心が弱いままだ。」

「大丈夫よ、少なくとも私よりは強いから。」

 

岸波はそう言うと、今度は舞風の頭に手を置く。

舞風はうわっと声を上げるが、気にすることなく岸波は発言した。

 

「1つ決めた事があるの。私………この押しかけ女房の嚮導になるわ。」

「っ!?舞風の………か?」

「ええ。萩風不在だったとはいえ、第四駆逐隊の中では一番危なっかしかったから。彼女が一流になるまでは、第二十六駆逐隊の旗艦でいようと思う。」

「岸波、お前は………。」

「これでも逃げてばかりの私を受け入れてくれた艦娘だから………ね。だから磯風も長波と共に、貴女を包んでくれる艦娘………探してみて。」

 

それだけを言うと、岸波は磯風の返答を待たず、舞風の手を取り部屋の出口に向かう。

最後にこれだけ伝えた。

 

「後、これからは食事とか風呂とか身を隠さなくていいから。長波も辛いだろうし。」

「……………。」

 

そして、部屋を出ると自室へと戻ろうとする。

すると………部屋から長波が出てきて岸波達の横に付いた。

 

「待ってくれ。せめて送らせてくれよ。」

「長波………。」

「「長姉」って呼び名………結構気に入っていたんだけどな。」

「ゴメンなさい。そこまではまだ………。」

「まあ、いいさ。」

 

そう言うと、長波は先導していく。

どうやら岸波達の部屋は前から把握していたらしく、道を間違えずに駆逐艦寮内を進んでいく。

 

「舞風も悪かったな。陽炎型の姉の情けない姿を見させて。」

「え?い、いいんだけれど………。何であんなに………?アレじゃまるで………。」

 

言い方は悪いが、まるで岸波に負い目を感じているかのように、彼女に対して弱くなっている。

そんな磯風の姿を見た後なのか、舞風の方は只々困惑する。

長波は頭の後ろで腕を組むと嘆息する。

 

「一時期の嵐みたい………か?まあ、人それぞれ事情やトラウマはあるのよ。」

「えっと………長波は………磯風を支えてあげてるんだよね?」

「これでも夕雲型だと四女だからな。鳳翔さんとかにも頼って対応を考えてるんだけれど、やっぱり最後は本人次第になってしまって………ね。」

「……………。」

 

舞風の頭に、沖波という艦娘と「姉殺し」という岸波の過去を形容した言葉が浮かぶ。

磯風もまた、そこに関係してくる艦娘という事なのだろうか。

出来ればこの機会に長波に色々と聞いてみたかったが、素直に過去話をしてくれるわけが無いと思ったし、何より自室に付いてしまったので、彼女とはそれで別れる事になる。

部屋に入った舞風は布団の準備をする岸波を見て質問する。

 

「膝枕………またする?」

「今は大丈夫よ。只、明日はまた早朝訓練をするからちゃんと寝ておいて。」

「……………。」

「それとも………磯風と何があったか、聞きたい?」

「………ううん、今はいいよ。岸波も辛くなりそうだし。」

「ありがとう。じゃ、お休み。」

 

岸波はそう言いながら寝間着に着替えると、眠りに付く。

舞風もまた、眠る準備をして部屋の電気を消した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌朝、舞風と共に早起きをした岸波は、早朝訓練を行う為に準備運動をする。

そして、部屋を出て駆逐艦寮を進んでいった所で………妙な物を見る。

癖のある緑色の長い髪を高い位置でハーフアップにして黒いリボンで結んだ不機嫌そうな艦娘が、ロングヘアの明るめの茶髪に赤のアンダーリムの眼鏡をした制服を着たままいびきをかいている艦娘の首根っこを掴みながらずるずると引っ張っていっているのだ。

 

「アレは………。」

 

岸波は2人の顔に見覚えがあった。

確か、不機嫌そうな艦娘が山風。

いびきをかいている艦娘が望月である。

2人は前に萩風が帰投した際、彼女を曳航してきていたはずだ。

 

「山風先輩………望月先輩………何をやっているんですか?」

「貴女達は………岸波と舞風?見ての通り………ねぼすけを引っ張ってる………。」

「むにゃむにゃ、もう5分~………。」

「……………。」

 

この時間に引っ張っていくって事は、岸波達と同じく早朝訓練でもしようと思ったのだろう。

だが、恐らく同部屋の住人である望月が一向に眠ろうとする為、仕方なく着替えさせた彼女を曳航?しているようだ。

 

「うわ~、岸波以外にも怠惰艦っているんですね。」

「舞風………流石に私はああいう怠惰ぶりは見せないわよ?」

「でも、嵐が初めて岸波を見た時は望月さんみたいだって言ってた気がするけど………。」

「……………ところでどんな早朝訓練を行うのですか?」

 

後ろから覗き込むように素直な感想を言った舞風に対して誤魔化し気味に答えた後、岸波は山風に訓練内容を問う。

もしかしたら参考にできるかもしれないと思ったのが正直な気持ちだ。

只、そこで山風から反って来た答えは意外なものだった。

 

「朝潮や島風と共に、新人研修をするの………。だから本当は………もっとしっかりした所を見せないといけないけれど………そろそろ………えい。」

「ふぎゃ!?何するんだよ!?暴力反対!!」

 

流石に引っ張っていくのが面倒になったのか、山風は望月の顔を軽く踏みつけ強引に覚醒を促す。

最悪の目覚めを体感した望月は、ギャーギャー喚くが、首根っこを掴んだ手が離された事で今度は床に後頭部を打ち付け、あいたっ!?と押さえ込む。

 

「文字通り踏んだり蹴ったりじゃないかよ~………。」

「いいから………後輩達に、しっかりした所を見せて………。あたし、望月のお母さんじゃないし………。」

「んあ~………?何だ、岸波に舞風もいたんだ。じゃあ………そろそろ起きるか~………!」

 

起き上がり思いっきり伸びをするマイペースな望月に山風は大げさに溜息を付く。

とてもじゃないが、早朝訓練に向いているタイプでは無い。

しかし、岸波はそれを置いておくと望月に質問をする。

 

「望月先輩、新人研修とは………?練度の低い駆逐艦に講習を行うのでしょうか?」

「お、岸波達も教える側で参加する?あたしは負担が減るから大賛成だけど?」

「また、そうやってサボろうとする………。でも、朝潮の負担は色々な意味で減るかも………。」

「あ、いえ………私達も早朝訓練をしようと訓練海域は抑えているのですが………。」

「どれどれ………あ、丁度あたし達の海域と繋がってるじゃん。じゃあ、共同で使おう、そうしよう!」

「はあ………。」

 

余程人手が欲しいのか、望月の提案で強引に決まる。

結局岸波達は4人になり、装備品保管庫で艤装を準備して、訓練海域へと向かう。

 

「ちなみに新人の艦娘の名前は?」

「御蔵と屋代だね。」

「変わった駆逐艦娘の名前ですね。」

「岸波………勘違いしてるみたいだから言うけれど………、2人は駆逐艦じゃないよ?」

「え?」

 

驚いた岸波に対し、望月と山風と舞風はそれぞれ顔を見合わせると言う。

 

「ねえ、岸波。海防艦って知らないの?」

「海防艦?………リンガでは見なくて。舞風?どういう艦種なの?」

「幼い艦娘。」

「………幼い?」

「んー、睦月型のあたしよりも見た目は幼いね。というより実際に見た方が早いと思うよ?」

「駆逐艦よりも幼い艦娘とは一体………?」

「遅いですよ!講師役が遅刻してどうするんですか!?」

 

そんな4人に怒声が掛かる。

見れば、訓練海域には既に朝潮と島風がいた。

 

「悪かったって。その代わり訓練海域の拡張と講師の増援を掴んだから我慢してよ。」

「岸波達を巻き込んだのですか?………まったく、望月さんは………。」

 

就役の時期に関しては望月が大先輩なのか、朝潮は彼女に対してかなり丁寧な口調だ。

怠惰な様子に反して大ベテランなのだろうな、と思った岸波は見る。

島風と共に訓練海域に抜錨している、艦娘達を。

片方は長い銀髪を後ろでツインテールに結んだ艦娘。

もう片方は桃色がかった茶色のロングヘアと太眉が特徴的な艦娘。

そして何より驚きなのは、駆逐艦娘達よりも小さな………明らかに幼過ぎる容姿であった。

 

「貴女達は………。」

「初めまして、御蔵型1番艦海防艦御蔵です。小さな身体ですが、力の限り務めます。」

「御蔵型6番艦海防艦屋代です。どんな辛い訓練でも頑張り抜きます。」

 

彼女達が、駆逐艦よりも幼い海防艦と呼ばれる艦娘達。

岸波はその姿に只々呆然とするばかりであった。

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