艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第13話 ~海防艦娘~

「朝潮先輩………。艦娘の適性検査って、その………身体の成長が未成熟であっても可能なのですか?」

「可能であるらしいわ。………あの子達がその証明でもあるんだし。」

 

思わず小声で問いかけて来た岸波の言葉に、朝潮は返答しながらも肩をすくめる。

艦娘というのは志願制である。

只、その事情は個人によってかなり様々で、裕福な家庭だと人類を深海棲艦から守るという崇高な使命に駆られて志願をする事が多いが、貧困だと文字通り日々の生活で食べていく為に志願する事が多い。

しかし………どの選択にしろ、一定の年齢に達して身体が成長していないと、十分に艤装を扱えないという問題を抱えてしまう為、大抵は駆逐艦娘の年齢が最低ラインとされるのが暗黙の了解だ。

ところが、そのラインを下回る海防艦という艦種が本土では出現していた。

彼女達がどういう事情で艦娘に志願という形を取ったのかは分からない。

実は捨て子で生活に困った結果なのかもしれないし、そうでなくても家庭環境に問題があって艦娘という身体を張って給料を稼げる生活を目指さざるを得なかったのかもしれない。

1つ言えるのは、どういう選択肢であったとしても、少女としての青春を謳歌する前から生死の境をさまよう生活を強いられるのは、普通では無かった。

 

「あまり、艦娘の黒い部分を考えるのは止めましょう。今はとにかく、戦う事になった以上は、轟沈しないようにしっかりと鍛える事を第一に考えないと。」

「はい………。ちなみに海防艦の装備は?」

「爆雷がメインよ。後は手に持った単装砲と付属の迫撃砲、そして対空用の連装機銃ね。」

 

朝潮の言葉に岸波が改めて御蔵と屋代の装備を見てみると、確かに手持ちの単装砲の後部には迫撃砲が備わっており、右太ももには小型の連装機銃が備え付けてあった。

そして、スカートにはベルトがまかれており、左側には幾つもの爆雷が装備されていた。

 

「魚雷は無いのですか………?」

「無いわ。………調べてみたのだけれど、海防艦は対潜水艦専門らしいの。」

「潜水艦専門!?じゃあ、普通の深海棲艦は………。」

「基本的には小型の単装砲で対処するしかないみたい。と言っても、駆逐艦と違って速力も無いから近づくのも困難みたいだけれどね。」

「……………。」

 

ここまで来ると、岸波は絶句するしかない。

幾ら潜水艦に強いと言っても、一般的な深海棲艦に対してここまで弱かったら、轟沈の危険性も高くなる。

何の考えも無しに、海に連れて出るわけにはいかない。

朝潮もそれは分かっているのか、どうしたものかと考えてしまっていた。

 

「司令官は、強力な水雷戦隊や駆逐隊等の艦隊に組み込んで練度を上げるのが一番安全だって言っていたわ。私達も対潜水艦の露払いは、役目の1つだもの。」

「朝潮先輩も大変ですね………。」

「他人事じゃないわよ?出撃する時は色んな艦隊を回していくって言っていたから、第二十六駆逐隊も彼女達を教育する役割を担うかもしれないわ。」

「そうですか………。では、今回の機会に参考にさせて貰います。」

 

とりあえずは協力して陣形練習や的当てを行う事になり、朝潮を中心にして早朝訓練が始まる。

御蔵と屋代は彼女達の指導の下、単装砲や迫撃砲の使い方、敵の配置に伴った陣形の使い方を叩きこまれていく。

だが………ここで幾つかの問題が出てくる。

 

「おっそーい!主機をもっと加速させないと付いていけないよ?」

「ご、ゴメンなさい!」

「でも、これでも主機は全開なんです!」

「うーん………しまかぜ、一応、速力抑えてるんだけど………。」

 

まず、速力が遅い為に航行した際に遅れが出て陣形が乱れてしまう。

駆逐艦と比べる方が悪いという考え方も出来るが、大きく艦列が崩れると即座に陣形の変更が出来なくなる上に、場合によっては戦闘への参加が遅れるという致命的な弱点がある。

こうなると、速い方が遅い方に合わせるしかなくなってしまう為、必然的に艦隊全体の動きが後手に回ってしまい、被弾率が上がってしまう。

 

「輪形陣や複縦陣になる時も、遅れが出てるねー。これじゃ、下手したら衝突するよ?」

「慣れてないのもあると思うけど………即座に陣形を変更できないと………、敵航空機が来た時に対処が遅れる………。主機は?」

「ひ、悲鳴を上げています。」

「悔しいですが、苦しいです。」

「どれどれ………あちゃー………島風みたいに加熱し過ぎてる。何か身体も辛そうだし、マジで休んだ方がいいね。」

「すみません………。」

「不甲斐ないです………。」

 

それでも御蔵と屋代は文句を言わずに必死に訓練に励んでいたが、ここで2つ目の問題点。

幼い容姿故にスタミナが駆逐艦よりも無く、すぐに疲労が溜まって体力の限界を迎えてしまうという弱点があった。

こうなると集中力も下がってしまう為、訓練も休み休み行わなければならず、効率が下がる。

だからといって、無茶をしながら行うと艤装も含め耐えられなくなってしまうのだ。

 

「根性や負けん気の強さがあるのは認めるけれど………色々な意味で脆いわね。」

「ねえ、岸波。それだけどさ………あの子達、耐久力はどれだけあるんだろ?」

「少なくとも駆逐艦よりは無いでしょうね。身体が未成熟な所を見ると、下手したら潜水艦娘よりも脆いかもしれないわ。」

「それ、一発で轟沈しちゃうよ………。」

 

3つ目の問題点は、艤装と生身の耐久力の低さ。

当然ながら、被弾したら危ういのは言うまでも無い。

駆逐艦娘ならばそれを補う機動力があるし、潜水艦娘ならば水中に隠れるという技があるのだが、海防艦娘にはそれを補う方法が無かった。

むしろ、身体に大量の爆雷を巻き付けている以上、誘爆の危険性がある為、速力が遅いのに被弾出来ないというジレンマを持っていたのだ。

 

「朝潮先輩、全体的な評価はどうですか?」

「初日だもの。根性以外は全部下の下の下よ。ここからどう上げていくか………ね。」

「んー、とりあえず朝飯食わない?食べた後で今度は岸波達の訓練を参考にさせて貰おうよ?」

「そうですね、望月さんの言う通り、岸波の訓練を参考にしようと思います。」

「………それ、貴女達も私と舞風の訓練に参加するって事ですか?」

 

怪訝な顔をした岸波に対して、朝潮達は顔を見合わせて至極真面目に頷く。

実は、朝潮達も本格的に嚮導艦になった岸波の訓練方法には興味があったのだ。

だから、聞いてみたのだが………。

 

「分かりました、午前の訓練を一緒に行いましょう。」

 

岸波が言う中で、舞風だけが何とも言えない表情で虚空を眺めていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

 

朝食を食べた一同は、訓練海域に戻って唖然とする。

その空にはこれでもかという程、訓練機が飛び交っており、空を覆いつくしていた。

海上では赤城と加賀が、次々と弓に矢をつがえて発艦させていっているでは無いか。

 

「赤城さん、加賀さん。訓練を受けるメンバーが増えましたが、本日は宜しくお願いします。」

「大丈夫よ、岸波。でも、本気でいいのよね?」

「はい。全員、覚悟は出来ていますから。」

「分かったわ。容赦はしないのでそのつもりで。」

 

岸波が2人の空母に挨拶をする中、思わず朝潮達が舞風に問う。

 

「舞風、まさか………あの航空機の中を逃げ回るつもりなの!?」

「はい………。岸波曰く、対空戦闘でヌ級やヲ級、姫クラスや鬼クラスに負けない為の訓練が必要だって………。」

「い、嫌だよ………あたし!?あんな中逃げ回れるわけないって………!?」

「流石にしまかぜも遠慮したいかなぁー………って。」

「山風、島風………腹括ろうよ………もう赤城さんも加賀さんもやる気満々みたいだ………。」

 

久々に鍛えがいのある生徒が来たと思ったのか、赤城も加賀も静かに闘志を燃え上がらせている。

岸波はというと、自分の機銃や連装砲の調子を確認して、自身が企画した鬼のような訓練への対処法を考えている所だ。

 

「だ、大丈夫ですよ!岸波曰く、攻撃機は狙う瞬間に自分に機首を向けるらしいから、先読みをして全周囲を見渡せば爆撃でも魚雷でも先読み出来るって!」

「そ、それで………躱せる物なの?」

「後、高確率で背後から狙ってくるから、自分を迂回しようとしている航空機には要注意ですって!」

「………ちなみにそれを成し遂げた艦娘っているの~?」

「あ、姉である高波さんが無傷でやってのけた事があるって言ってました!」

 

必死に岸波譲りの前向きなアドバイスをする舞風であるが、他の面々はゲンナリである。

しかし、一度頼んだ以上今更断れるわけもない。

結局覚悟を決めて挑むことになる。

 

「御蔵と屋代は見学していて。対空戦闘がどういう物か、よく分かるわ。」

「は、はい!」

「き、気を付けて下さい!」

 

こうして訓練海域の端で見学する事になった2人の海防艦は数分後、恐ろしい光景を見る事になる。

次々とペイント弾を撃ち込まれて、苦しむ駆逐艦娘達の姿を………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『あ、ありがとうございました………。』

 

数時間後、全身ペイント弾まみれになった6人の艦娘達は赤城と加賀に礼をする事になる。

一番覚悟のあった岸波が、結果的に一番被弾が少なかったが、それでもかなりベトベトにさせられていた。

舞風は腕を組んで何がいけなかったのか気にしている様子であり、朝潮は真面目に振る舞いながらも流石に嘆息しており、山風はべとついた髪がかなり嫌な様子であり、望月は眼鏡を海水に付けてペイント弾を落としており、島風は自身と共に被弾した対空迎撃用の連装砲ちゃん達を気にかけていた。

 

「少し………やり過ぎたかしら?かなり本気で行ってしまったから………。」

「訓練ですからこれくらいがちょうどいいです。沈んでからじゃ、遅いですし………。」

「そうね、岸波の言う通りだわ。しばらく海水で汚れを落とすといいわ。………貴女達も早くこんな先輩達になれるといいわね。」

『は、はい!』

 

加賀が思わず直立不動になってしまっていた御蔵と屋代を気遣った事で、2人は思わず敬礼をしてしまう。

それだけ凄惨な物を見せつけられた為に、衝撃が隠せないでいたのだ。

だが、それと同時に改めてこんな困難を乗り越えようとする先輩駆逐艦娘達に憧れを抱く。

 

「正直、凄かったです。航空機の脅威に立ち向かっていくなんて………!」

「私達も様々な経験をして、いつか皆さんと同じ舞台に立ちたいです!」

「朝潮先輩、カッコよかったみたいですよ?」

「今回は岸波でしょ………?でも、貴女は嚮導として魅力的ね。」

「………そうでしょうか?」

「ええ。脳筋だけれど、何というか絶対に仲間を沈めないという強い信念が見えるわ。」

「……………。」

「今は海防艦の面倒を見ているけれど、第八駆逐隊の旗艦をやっている私が言うのだから確かよ。舞風を大切にね。」

「はい………。」

 

まだ自身の嚮導としての才能に実感が無いような感じの岸波であったが、朝潮はニコリと笑みを浮かべるとポンと彼女の肩に手を置いた。

こうして岸波達は、午後は朝潮達と別れて訓練を行う事になる。

横目で隣の訓練海域を見てみると、朝潮達はやはり御蔵と屋代の教育に苦労している様子であった。

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