艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第16話 ~囮~

「不味い………!このままじゃ………!」

 

空母棲鬼が放った鬼火達を視認した事で、朝潮は思わず弱音を吐いてしまう。

先程と違い、敵はこちらがよく見えているだろう。

つまり、第一波で大破した御蔵と屋代の姿や無防備な作業船もその目に入っているはずだ。

敵の攻撃機が、その好機を逃すとは思えない。

 

「沈め……られる………!?」

 

御蔵、屋代、そして作業船の轟沈といった最悪のシナリオを朝潮は想定したが、だからといって回避できるものではない。

もうダメだ………と思った時であった。

 

「こらこら~、旗艦がそれじゃダメだって~。」

「望月………さん!?」

 

敵の攻撃機が、近づいてきた瞬間であった。

突如最後尾の望月の艤装から、黒煙が上がる。

咄嗟に機転を利かせて、煙幕を張ったのだ。

それは突っ込んできた敵攻撃機を包み、攻撃目標を一時的にではあるが見えなくする。

 

「旗艦はちゃんと約束を守らないといけないよ?果たすべき役割は作業船と海防艦を守る事、違う?」

「それは分かっていますが………どうすれば!?」

 

あまりに不利な事態に、指揮が取れなくなっている朝潮は思わず望月に聞いてしまう。

その朝潮や他のみんなを落ち着かせる為に、望月は敢えてゆっくりと落ち着いた声で言った。

 

「島風、両腕空いてるね。速力が更に落ちている御蔵と屋代を抱えて、限界までスピード上げて。連装砲ちゃんは後ろから来る攻撃機の迎撃に集中させる事。」

「そんな事したら、艤装がオーバーヒートするかも。」

「この事態だから、作業船から横須賀に援軍の要請はもうしているだろ?合流まで耐えきればいいよ。」

 

望月の言葉に島風は少し悩んだが、やがて黙って御蔵と屋代を強引に両脇に抱え込み先頭に立って加速し始める。

2人の海防艦娘は突然の事に驚いたが、島風は少しでも軽くする為に手持ち武装を捨てるように言って、更に望月の指示を仰ぐ。

 

「………分かったよ。でも、幾ら連装砲ちゃんでも、攻撃機が次来たら庇いきれないよ?しまかぜと一緒に沈んじゃう。」

「まあ、待てって。次は朝潮。電探はまだ生きているよね?」

「は、はい!」

「作業船と密に連絡を取りつつエンジンを絶対に守る事。山風と2人なら何とかなるだろ。そして、横須賀に連絡を取って援軍を必死に要請する事。」

「ま、待って下さい。望月さんは………?」

 

冷静な指示を聞く中で、嫌な予感がした朝潮に対し、望月はいつもの軽い声で言う。

 

「ちょーっと、あのお姉さんと遊んでこようかね?上手く撒いたら追いかけるよ。」

「それって、望月さんが囮になるって事じゃ!?」

「おっと、そろそろ煙幕が切れそうかな?お互い生き残ろうよ。………んじゃ。」

 

望月は止めようとした朝潮の言葉を聞く前に、反転して黒煙の中に消えていく。

思わず手を伸ばす形になった朝潮であったが、やがてグッと握りしめて堪えると前を向き島風達の後を追いかけていく。

山風がびっくりして、衝突しそうな位な距離まで傍に並んだ。

 

「あ、朝潮………!?望月を置いてくの………!?このままじゃ………!?」

「悲しいけれど………、これが………これが今出来る最善よ!望月さんを信じ………っ!?」

 

その瞬間、朝潮は頬に痛みを感じる。

山風が、思いっきりはたいたのだ。

その顔には涙が流れていたが、瞳には怒りが宿っていて精一杯睨みつけていた。

朝潮も思わず睨み返す。

 

「朝潮の………バカ!最低っ!!」

「じゃあ………どうすれば良かったの!?教えてよ!………案があるなら教えてよっ!!」

 

一転して悔しそうに涙を流し始める朝潮に対し、山風はしばらく黙って睨みつけて………そのまま黙って踵を返して、望月を追いかけて行った。

 

「山風………?」

 

旗艦失格。

そう態度で示された事で、朝潮は呆然とする。

ふらついたまま、思わず山風の後を追いかけようとするが………。

 

「朝潮、しっかりして!横須賀にこの状況を伝えないと!」

「……………。」

「朝潮っ!!」

 

島風が叱咤の声を上げた事で、ようやく朝潮は作業船の後を追いかけていく。

そして、電探を使うと声の限りに叫んだ。

 

「助けて………!司令官!みんな………!誰か、助けてーーーっ!!」

 

感情がグチャグチャになった朝潮の絶叫が、海に響き渡った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

同時刻、横須賀鎮守府の訓練海域では、相変わらず岸波と舞風が切磋琢磨していた。

今日はより練度の高い駆逐艦娘達と演習を行っており、それによって2人はペイント弾で被弾していた。

 

「うわ~、岸波もペイント弾でベトベトだね………。曙さんだけじゃなくて、村雨さんやヴェールヌイさんにも弱いの?」

「舞風、貴女………私を何だと思っているの?この横須賀には私達より練度の高い艦娘が沢山いるわ。逆に言えばそういう強い艦娘と演習を行う事でより練度が上がるのよ。」

「演習というよりもう決闘だけどね………。岸波ってやっぱり脳筋だよ。」

「とにかく………村雨先輩、ヴェールヌイ先輩、ありがとうございます。」

 

岸波はペイント弾の汚れを落とすと、演習に付き合ってくれた2人の釣り仲間でもある艦娘に頭を下げる。

村雨は笑顔で、ヴェールヌイは至極落ち着いた顔で答える。

 

「村雨達も無傷じゃなかったから自信持っていいと思うよ?岸波だけじゃなく舞風もね。」

「確かに………最近舞風の練度は向上しているな。その脳筋の訓練が功を奏しているんじゃないのか?」

「ほ、本当ですか!?何かそう言われると照れるかも………。」

「村雨!!ヴェールヌイ!!岸波!!舞風!!」

 

舞風が、照れそうになった途端であった。

突如大声が響き渡り彼女達だけでなく、近くの訓練海域にいた艦娘達もびっくりする。

見れば、大潮が艤装を背負い血相を変えて走ってきていた。

 

「ど、どうしたの大潮?何か様子が………。」

「ゴメンなさい!今すぐ、4人共装備品保管庫で実弾装備に切り替えて、桟橋に来て下さい!抜錨します!」

「落ち着け、大潮。どうしてそうなった?経過を教えてくれなくては………。」

「走りながら話します!とにかく時間が一刻も惜しいです!」

 

只事じゃない大潮の気配に、岸波達は艤装を装着したまま言われた通りに付いていく。

その途中、大潮は朝潮が護衛している作業船から鬼クラスの深海棲艦に襲われ、援軍の要請が来た事を話した。

更に………。

 

「遅れて朝潮お姉さん………朝潮から錯乱した様子で通信が来たんです!何とか落ち着かせて話を聞いたら、御蔵と屋代が大破して、望月さんと山風が、船と2人を守る為に残ったらしいんです!」

「っ!?それ、本当なんですか!?」

 

大潮の言葉に反応したのは岸波だった。

それはつまり朝潮は………。

 

「提督と大淀先輩は!?」

「別の訓練海域にいる曙と第四駆逐隊を呼んでいます!余裕が無いので駆逐艦9人で抜錨します!すみませんが、力を貸して下さい!!」

 

大潮は朝潮型2番艦だ。

1番艦の朝潮に一番近い妹であるだけに、彼女の危機に一番過敏になっているのだろう。

 

(今の朝潮先輩はまるで、「あの時」の私みたいに………。)

 

記憶の奥底に眠っている過去を思い出しかけた岸波は、被りを振る。

今は、そんな干渉に浸っている場合ではない。

朝潮達を、救いに行かなくてはならないのだ。

そうこうしている内に、岸波達は桟橋に付く。

もうすでに曙、嵐、野分、そして萩風が艤装を背負って準備していた。

更に、提督と大淀も立っていた。

 

「曙達もありがとうございます!司令官、状況は!?」

「変わらずだ。………一番嫌な事が当たったな。」

「とにかく行ってきます!全力疾走しますんで、付いて来て下さい!」

 

挨拶もほどほどに、大潮は抜錨する。

他の駆逐艦娘も、それに続いていく。

単縦陣で、2つの駆逐艦娘達が並んだ。

 

「……………。」

「岸波?どうしたの………?何か………?」

「いえ………大丈夫、大丈夫よ。」

 

岸波は必死に無線で船や朝潮と連絡を取る大潮の姿を見ながら、唇を噛む。

艦隊は最大戦速で、西南西へと向かっていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さーて、そろそろ本気出すっ!」

 

一方、1人で空母棲鬼へと向かっていった望月は、右手で眼鏡を上げ直すと左手の単装砲を敵艦に向ける。

望月の役目は敵の撃沈では無く足止めだ。

とにかく1秒でも長く、敵をその場に釘付けにしておかなければならなかった。

 

「落チロ………!」

「そうは問屋が卸さないんでね!」

 

敵艦の攻撃機は当然望月を狙うが、彼女は最大戦速まで加速して半時計周りに回り込むように動くと、自分の直上に来た攻撃機だけを単装砲で狙い落としていく。

 

「ジャマダ!!」

「おっと………!」

 

簡単に当たってくれない望月にヤキモキした空母棲鬼は、玉座である巨大な顎を開き、喰らいつこうとしてくる。

しかし、望月はそれを飛びのくように下がって回避すると、左腰の爆雷をその口の中に放り込み、更に単装砲を撃ち込む。

 

「はい、爆破ーっ!」

「何ッ!?」

 

玉座である口の中で爆雷を起爆させられた事で思わぬダメージを受けた敵艦は、一時的にだが動きを封じられる。

その隙を狙って、望月は周り込みながら、足首に備わった6本の魚雷を1本ずつ叩きこんで行き、更に玉座のバランスを崩していく。

 

「コ、コンナ駆逐艦ニ!?」

「ほいほい、失礼するよー。」

「!?」

 

望月は玉座が前に傾く隙を狙い、思い切って高波を利用してジャンプし、何とその上に飛び乗る。

そして、彼女はニヤリとあくどい笑みを浮かべると、呆然とした敵艦の生身の身体に向けて思いっきり単装砲を連射する。

 

「それそれそれそれーーーっ!!」

「ギャアアアアアアアアアッ!?」

 

ドス黒い血を流しながら悲鳴を上げる空母棲鬼に対し、望月は笑顔でトリガーを引いていく。

だが、空母棲鬼は再生能力を備えているのか、傷を無視して右手を伸ばすと、何と望月の単装砲を怪力でへし折る。

 

「あ、ありゃ?」

「オノレーーーッ!!」

「うわっ!?」

 

砲撃能力を封じられた望月に対し、そのまま怒りに任せて蹴りを喰らわせる空母棲鬼。

望月は咄嗟に右腕の装甲版で防御するが、吹き飛ばされて海面に派手に着水する。

 

「いってーーー!?マジかよ!?」

「敵機直上………!急降下!!」

「げ!?」

 

起き上がろうとした望月であったが、空母棲鬼は即座に攻撃機を飛ばし、望月に爆弾を落としていく。

使い物にならなくなった単装砲を捨てて、慌てて装甲版で全身を防ぐ望月であったが、爆撃に耐え切れず、ボロボロになる。

主機にもダメージを受け、航行が上手く出来なくなった。

 

「トドメダ!」

「ええい、貰ってけ!!」

「グハッ!?」

 

最後の抵抗と言わんばかりに、ボロボロになってギザギザになった装甲版を左手ではがし、手裏剣のように放り投げて敵艦の胸に突き刺す望月。

しかし、それでもトドメにはならず、空母棲鬼は怒りの形相で爆撃を放ってくる。

 

「だ、ダメかー………これはもう万事休すかな………?」

 

他のみんなが逃げるだけの時間は稼いだかな………と空を見上げながら考えた望月であったが………。

 

「望月!」

「え………?」

 

そこに山風が、手を伸ばしながら突っ込んで来て………。

直後に多数の爆弾が落下し、2人を包んで爆ぜた。

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