艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第17話 ~フラッシュバックする記憶~

約1時間後………最大戦速で飛ばした岸波達の前に、横須賀へと逃げようとする作業船の艦影が見えて来た。

見た限り、船自体に損傷は無い。

しかし………。

 

「島風!?御蔵!?屋代!?………朝潮お姉さん!?」

 

先頭にいた大潮が、驚愕した声を上げる。

作業船の後ろにいた島風は、ボロボロの状態に大破した御蔵と屋代を両腕で抱えていた。

更に、海防艦娘とはいえ2人を抱えて飛ばした為か、背中の艤装にかなり無茶が掛かっており、プスプスと白煙が上がっていた。

朝潮は連装砲ちゃん達と共に、周りを警戒していたが、大潮達を視認した途端、大粒の涙を流してその場に座り込んでしまう。

 

「曙達は島風達を頼みます!………しっかりして下さい!朝潮お姉さん!」

「大潮………私、失格だ………。」

「あ、朝潮………?」

 

うわごとを呟きながら涙をこぼしていく姉の様子を見て、大潮は愕然とする。

恐らく、普段の朝潮の様子からは信じられない程、精神的に不安定になっているのだろうと岸波は推測した。

そんな朝潮は、大潮以外は視界に入って無いのか、手で顔を覆いながら彼女に呟く。

 

「私………旗艦としてやっちゃいけない事やっちゃった………。望月を………山風を………置いてきちゃった………。」

「しっかりして、お姉さん!」

「私は2人を沈めてしまって………。」

「っ!?………勝手に仲間を沈めるな!朝潮っ!!」

 

そこで大潮の………とてもいつも礼儀正しい大潮の物とは思えない怒声が響く。

岸波達すら怯ませる叫びには、ネームシップを支える2番艦としての力強さがあった。

 

「簡単に諦めるな!朝潮型ネームシップは周りの手本になるような艦娘だろう!?陽炎型や夕雲型にも負けない力があるだろう!?違うのか!?」

「で、でも………電探で通信を送っても………もう反応が無くて………!」

「だから沈んだと決めつけるのか!?お前は!?」

 

混乱している朝潮と、瞳に怒りが宿る大潮との会話は続く。

その様子を見ていた岸波は………突如頭痛に襲われた。

 

「うっ………。」

「岸波!?」

 

舞風が心配して駆け寄るが、岸波の意識は一瞬、彼方に飛んだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

(私は………。)

 

気付けば、岸波は1人海上に突っ立っていた。

目の前には、1人の少女が同じように立っている。

少女は自分とよく似た艤装と衣服を纏っており、何故かずり落ちそうな眼鏡を付けていた。

 

(まさか………!?)

 

少女の名を呼ぼうとした岸波であったが、その艦娘は何処か泣きそうで………しかし、はにかんだ優しい笑みを浮かべると、反転して虚空の影を睨みつける。

そして、そのまま最大戦速で前に向かっていき………。

 

(待って………!待って………!)

 

岸波は追いかけようとする。

だが、足が金縛りにあったみたいに動かない。

手だけを必死に伸ばし、やがて少女は見えなくなり………。

 

(待って………!沖姉ーーーっ!!)

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………波!岸波!」

「舞………風?」

「どうしたの!?急に海上にうずくまって!?」

「ゴメンなさい、何でも無いわ。それより………。」

 

岸波は、再び大潮達を見る。

大潮は朝潮から、望月と山風が確実に轟沈した所を見ていないという事を確かめると、電探を使い横須賀の提督に無線で連絡を取っていた。

 

「今すぐ、望月と山風の捜索許可を下さい、司令官!………ダメ!?何でですか!?」

「空母棲鬼は強敵だ。恐らく交戦するとしたら夜戦になるとはいえ、駆逐艦娘だけで対処できるものではない。」

「じゃあ、本当に見捨てろって言うんですか!?今ならまだ間に合うかもしれないんですよ!?」

 

電探の無線越しに聞こえてくる横須賀の提督の冷静な声に、大潮は叫び返す。

確かに今から行って、2人が見つかる可能性は低い。

だが………確率はゼロでは無いから、大潮は進軍の許可を取ろうとしている。

しかし、提督から見れば博打なのだ………今の状況での進軍は。

だからこそ、岸波は大潮の元に行く。

 

「貸して下さい、大潮先輩。」

「岸波?」

「………提督、本土沿岸部周辺に被害の報告は何か入ってきていますか?」

「岸波か、今は無いな。」

「それはつまり、望月先輩と山風先輩がまだ敵の気を引いてくれているという証拠では無いですか?」

「だから捜索するべきだと?危険すぎる。その代償で駆逐艦娘が大量に失われれば、それこそ取り返しがつかない。」

「成程………分かりました。」

 

岸波は無線から耳を離すと………静かに西南西の方角を見つめて言い切る。

 

「勝手に行きます。命令違反は鎮守府何週ですか?それとも独房ですか?」

「………本気か?」

 

岸波の言葉に、朝潮や大潮の瞳が見開かれる。

提督は、ほんの少しだが驚いた様子で岸波に言った。

 

「敢えて聞こう。この鎮守府に来た時に、人との関わりを避けたいと考えていたお前が、人を救う為とはいえ、命令違反を犯してまで人と関わろうとするのは何故だ?」

「このまま2人が沈めば、朝潮先輩は取り返しのつかない罪を抱えて生きないといけない。私はそれが、見過ごせないだけです。」

「そうか………。」

 

何処か納得をしたような提督は軽く嘆息をすると、岸波にハッキリと言う。

 

「条件付きだ。連れてく面子は志願制で旗艦はお前が務めろ。そして、必ず全員で帰って来い。」

「………だそうですけれど、行きたい人はいますか?」

 

岸波は自分の装備を確認しながら言うが、そこで舞風が驚いたような声を上げる。

 

「アレ!?岸波、そのメンバーに舞風含んでない!?」

「志願制って言ったでしょ?第二十六駆逐隊強制ってわけじゃないと思うけれど。」

「む~!アレだけ脳筋の訓練をさせといて、今更それは無いじゃん!」

 

舞風が膨れた顔をすると、岸波の後ろに付く。

どうやら、何と言われようと付いていくつもりらしい。

 

「………萩風の時とは見違えるようになったわね。」

「どこかの誰かさんのお陰だよ!」

「他は………。」

「大潮!勿論、参加します!」

 

それまで朝潮を叱咤していた大潮が、舞風の後ろに並ぶ。

2番艦として、やはり1番艦の心を救いたいという想いは人一倍強いらしい。

その姿を見ていた村雨とヴェールヌイも互いに顔を見合わせながら、互いに笑みを浮かべて後ろに並ぶ。

 

「はいはーい!村雨もちょっといい所見せるよ!」

「私も行こう。今の岸波の姿を見ると、安心感がある。」

 

これで、5人艦娘が揃う。

そして、最後尾に曙が当然のように並んだ。

 

「アンタは舎弟なんだから、断れないわよね?」

「それ、まだ続いていたんですか………。嵐、野分、萩風………貴女達に3人に護衛の続きを任せちゃうけれど………。」

「大丈夫だ、船と朝潮さん達はしっかり横須賀まで送る。頼んだぜ、岸波!」

「舞風の事もよろしく頼むわね。貴女達ならば、何かを起こせる気がする。」

「お願い………もう、私の時のような悲劇は起こさないでね。横須賀で待っているわ!」

「ええ………宜しく頼むわ。」

 

岸波は3人にそれだけを言うと、最後に座り込んでいる朝潮の前に進み、屈んで優しく言葉を発する。

 

「流石に絶対って言葉は使えない。でも………最大限努力するから。だから朝潮先輩………朝潮も、横須賀で私達全員を待っていて。」

「岸波………。」

 

呆然としていた朝潮は、岸波・舞風・大潮・村雨・ヴェールヌイ・曙の6人を見渡し………その自信のある顔を見て涙を拭くと立ち上がり、敬礼をする。

 

「望月さんと山風の事、お願いします!」

 

答礼をした6人は、岸波から順に単縦陣で進んでいく。

横須賀の提督から、無線で連絡が入る。

 

「呉のドロボウが、軽巡や重巡を中心とした艦娘を組み込んで、空母棲鬼討伐の為の艦隊を出撃させた。」

「それは有り難いです。」

「だが、速力の問題でお前達が足止めをしなければならない。………絶対に無茶はするな。」

「了解。」

 

岸波は簡潔に答えると、主機を最大戦速に切り替え本格的に進軍を始める。

脳裏に浮かぶのは、あの眼鏡の少女の顔………岸波の一番親しかった姉である沖波。

 

(もう繰り返させない………。私は、絶対に!)

 

岸波は1人、心の中で誓いを立てた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ん?ここは………。」

 

何処かひんやりとした空気を感じ、望月は目を覚ます。

海の上では無く、何処か固い床の上に自身がいる事を確認すると、身体の状態をチェックしていく。

手足は、問題なく動いた。

只、身体の至る所が痛く、制服も傷ついている。

よくよく細部を見れば、包帯替わりに布が巻かれて、出血が止められていた。

 

「確かあの時………。」

 

望月は思い出す。

空母棲鬼の爆撃を受けそうになって、万事休すだと思った瞬間、山風が飛んできたのが目に入ったのを。

 

「気絶している間に山風が安全地帯へ………恐らく近くの廃船の中に運んでくれた………と考えるのが正解かな?」

「ご明察………。」

「お?」

 

別の言葉に反応して見てみれば、山風がいつもの気怠そうな顔で歩いて来ていた。

制服が所々破けているのはダメージだけでなく、望月の治療の為に自ら破いたからだろう。

そして、両腰に付いているはずの爆雷と魚雷が無くなっていた。

 

「武装が減っているのは?」

「爆雷は捨てた………。魚雷は捨てるついでに敵に全部当てたら………、ひっくり返りそうになってその隙に隠れた………。只、爆撃で電探が壊れた………。」

「成程ねぇ………。」

 

状況を大体理解した望月は、横に置かれた眼鏡をチェックする。

少しヒビが入っていたが、使えそうだったので掛ける。

 

「朝潮達は上手く逃げたの?」

「逃げた………と思う。」

 

若干、苦虫を噛み潰したような顔をしたのを見て、ケンカをしてきたのかもしれないと望月は思ったが、とりあえず護衛対象は守れたみたいであるとホッとする。

しかし………。

 

「じゃあ、本題。………何であたしを追いかけて来たの?」

「逆に聞くけれど………あたしがいなかったら沈んでたよ?寝坊した時以外でも、望月を引っ張っていくとは思わなかった………。」

「そりゃそうだけどさ………山風、夜も沈むのも怖いんじゃないの?」

「……………。」

 

山風は艦としての記憶から、天敵である潜水艦の見えない夜が嫌いであった。

轟沈にトラウマを持っている艦娘としては、舞風と一緒であろうか。

 

「夜は嫌い………。沈むのも嫌………。でも、望月1人が犠牲になるのも嫌………。」

「だから朝潮とケンカしてまで助けに来たの………?有り難いけど、ここからどうするのさ?」

 

飛んで火にいる夏の虫だと、望月は思った。

申し訳ないが、山風の選択は間違っていると彼女は感じたのだ。

それに対し、山風は望月の傍まで来ると言った。

 

「望月………生きたくないの?」

「そりゃ、生きられるのならば生きたいさ。だけど、御蔵や屋代を犠牲にしたいとも思わないね。勿論、朝潮も島風も山風も。」

「………助けに来た事、迷惑だったって言いたいの?」

「そりゃ迷惑だよ。今からでもいいから1人で逃げたら?折角あたしの伝説級の活躍がパーじゃん。」

 

我ながら心にも無い事言っていると、望月は感じた。

だが、山風の主機は、まだ問題なく動きそうであった。

このまま自分を置いていけば、まだ生きられる可能性は高かった。

その言葉を聞いた山風は、望月を睨みつけ………言い放つ。

 

「分かった………。じゃあ、絶対、望月のジャマをし続ける。」

「え?」

「横須賀に連れて帰ってボロボロの姿をみんなに見せて、朝潮達に対して頭を下げさせる。」

「おいおい………状況分かって………。」

「いつも寝坊した望月を、引っ張っている分のお返し。」

「………バカ………言うなよ!」

 

望月は、思わずドンと床を叩いて叫ぶ。

自分はもう、主機が使い物にならない状態だ。

それなのに、この臆病者の艦娘は今の状況すら理解せずに、何で意地を張っているのかと思った。

 

「いいから見捨てろよ!沈むの怖いんだろ!?」

「怖いよ!でも、だから分かる………!望月だって本当は怖いんだって!」

「じゃあ、2人で沈むか!?それこそ馬鹿げてるだろ!?1人だけでも………!」

「強がらないでよ!駆逐艦娘ならば、最後まで醜くても、もがいて生き抜こうとしてよ!望月の意気地なしっ!」

 

ドンッ!!

 

『!?』

 

思わず声を荒げた2人であったが、そこに砲撃音が響き渡る。

敵艦が、こちらを見つけたのだ。

どんどん集中的に、砲撃音や爆撃音が響き渡る。

 

「どうする?強がりを言っている場合じゃ無くなった。」

「望月を引っ張って帰る。」

「………どうして、こんな時だけ鋼の意志を持つかなぁ?」

 

片手で頭を押さえる望月であったが、山風は再び望月を睨みつけると………一転して悲しそうな顔で言う。

 

「ケンカをしたけれど………、朝潮、悔しくて悲しくて泣いていた………。謝らないと………あたしも、望月も………。」

「………そっか。そうだよな。」

 

朝潮の事だから、それこそ死ぬほど後悔しているのだろうと思った望月は腹を括る。

もう少し、あがいてみようと。

 

「じゃ………やってみますか。」

「望月………!」

「その為には情報収集からだね。」

「?」

 

首を傾げる山風に対し、望月は静かにするように指を口に当てた。

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