「マタ、駆逐艦共ガ………!ソンナニ沈ミタイカ!屑メ!!」
(相当頭に来てるね………。これは、望月さん達が結構弄んでくれたのかな?)
空母棲鬼と対峙する舞風は、敵艦がこちらの増援にかなりイライラしているのを感じた。
周りでは頼もしい駆逐艦達が、敵大型艦等に負けない勢いで奮戦している。
そして何より自分の駆逐隊の嚮導艦は、身を挺して望月と山風の轟沈を防いでくれた。
だったら、自分も今出来る事をやるべきだ。
だから、舞風は敢えて強気に言ってやった。
「残念だけど、この舞風が目の前に立った時点で、お前は負けてるんだよね!」
「何………?」
「勝負ありって事!沈むのはそっちだって事だよ!お・ば・さ・ん!!」
「貴様………ッ!」
挑発を真に受けたのか、空母棲鬼は燃えるような視線を舞風に送る。
そして、怒りに任せ鬼火の攻撃機を大量に作り出すと、舞風に向かって発艦させる。
「矮小ナ駆逐艦ガ強ガリヲ………!海ノ底にオチロ!!」
本来ならば、高角砲で撃ち落としていく場面。
だが、舞風は敢えてそのベルトを首に掛けて両手から離す。
そして、じっと空を見つめた。
(羽虫じゃないけれど………基本は鬼火も同じ!だから………!)
こちらを取り囲むように回って来る鬼火達の群れを見上げながら、舞風はその一つ目の部分を全部無駄なく凝視する。
そして、その攻撃機の内の1機がこちらを向き………鈍く目を輝かせたのを逃さなかった。
「ステップ………。」
舞風は、右に1歩だけ舞うように飛ぶ。
すると、先程までいた地点に爆弾が1つ落ちて水柱が巻き起こる。
更に、鬼火の目が鈍く3つ輝く。
内、こちらに機首を向けた攻撃機は中央の1機だけ。
「ワン、ツー………!」
今度は軽く、後ろに1歩分飛びのく。
すると、水柱が先程いた地点に1つ、その左右に2つ上がった。
「ナ、何………!?バカナ!?」
自分の攻撃機を撃ち落としたわけでもないのに、平然と爆撃を回避された事に空母棲鬼は衝撃を受けた。
恐らく偶然だと思ったのだろう。
今度は、5機の攻撃機から爆撃を仕掛けるが、舞風はそれも華麗に飛んで回避する。
まるで、自分の周りに落ちて来る爆弾の軌道が全て分かるかのように。
「ソ、ソンナ偶然ガ………!?」
「じゃあ………本当に偶然かどうか試してみる?」
舞風はそう言うと首に掛けていた高角砲を取り出し、右アームの高角砲と共に敵攻撃機に向ける。
すると、こちらに機首を向けた鬼火だけを的確に砲撃で射抜いていく。
攪乱の為に敢えて外して落としてきた爆弾が、周りで爆ぜて水柱が巻き起こり、波が四方八方から襲い掛かるが、舞風は、今度は足をしっかりと海面に付けバランスを保ち、回りながら次々と自分の直上を狙ってきた攻撃機だけを構わず撃ちぬく。
「当タラナイ!?何故!?」
「芸が無いなぁ………。実は赤城さんや加賀さんに比べると、数に任せた航空戦を仕掛けているんだね。それじゃあ、攻撃機がかわいそうだよ。」
「貴様ハ………!?一体、何ダ!?何者ナンダ!?」
「そうだねぇ………。」
正直に言えば、舞風自身も内心驚いていた。
何故、自分がここまで敵の攻撃機の軌道を冷静に見切る事が出来るのか。
何故、自分がここまで敵の爆撃を避けられるのか。
何故、自分がここまで波が荒れる中で敵の攻撃機を正確に撃ちぬけるのか。
答えがあるとすれば、1つしか無いだろう。
散々、鬼のような訓練を提案してきた脳筋な嚮導艦。
彼女の元ならば、強くなれると思ったのは正しかったのだ。
だからこそ、舞風は動揺している敵艦を見て、力強く言ってのけた。
「私は舞風!第二十六駆逐隊嚮導艦岸波の………押しかけ女房だよ!」
――――――――――――――――――――
「舞風………。」
目を丸くする望月と山風を支えながら、岸波は離れた場所でじっと舞風を見ていた。
実は前兆はあった。
今まで周りの気配に鈍感だった彼女が、ここ最近敏感になり始めているのを。
墓参りに行った時、彼女は朧の気配に鋭く気付いていた。
それだけでなく、ふらつく彼女の危機にもいち早く察して支えに行っていた。
(まだまだ粗削りな所はある………でも、確実に貴女は………!)
メキメキと強くなっていく第二十六駆逐隊の………岸波自身の艦隊の一員を見て、彼女は感慨深い物を感じる。
もう、あの艦娘は駆逐水鬼に遭遇した時のような、戦意を喪失する艦娘では無い。
彼女は………舞風は、立派な駆逐艦魂を持った力強い艦娘になったのだと。
(貴女は………もう、昔の私を超えているわ!)
その純真な姿に、過去の自分を重ねた岸波は、心の中で思わず叫んだ。
――――――――――――――――――――
「嘘ダ………!?コンナ事ガ、アリ得ルハズガ無イ!?」
「いい加減、動揺してないで受け入れたら?それと、私ばかりに構っていていいの~?」
「何………?グワァッ!?」
舞風に爆撃を当てようと必死になっていた空母棲鬼は、突如玉座を襲った衝撃に大きく揺さぶられる。
両翼からヴェールヌイと曙が隙だらけの装甲に魚雷を全弾放って炸裂させたのだ。
タ級等、空母棲鬼を守っていたはずの頼もしい深海棲艦達は、鬼クラスの旗艦が舞風に気を取られている内に、あっという間に沈んでいた。
「ワ、ワガ精鋭達ガ!?」
「それじゃあ、今度は村雨の番ね♪」
驚愕した空母棲鬼の一瞬の隙を突き、煙を上げる玉座の口に村雨が長い左腕の錨付きの鎖を巻き付けると、そのまま下に引っ張り込もうとする。
「大潮!どうぞ~!」
「任されましたよー!!」
玉座の前の部分が海水に浸かった事により、大潮が正面から飛び乗って来る。
そして、玉座にしがみつくように座る鬼を見下ろすとその心臓に連装砲を突き付けた。
「マ………!?」
「朝潮達の分も………持ってけーーーっ!!」
「グァアアアアアアアアッ!?」
責任感の強い1番艦を泣かせた分の怒りもあったのだろう。
容赦なく鬼女の生身の身体に………それこそ再生能力が無くなり、ぐったりと倒れ込むまで徹底的に砲弾をぶち込んでいく。
そして、後ろに飛びのくと村雨が錨付きの鎖を外すのと同時に、両膝に付いた魚雷を玉座に全弾叩きこみ、鬼女と共に炎に包んだ。
「お、大潮………アンタ、怒ると意外と怖いのね………。」
「これでも、大潮も駆逐艦ですから!」
「ともかくこれで、ミッションクリアー♪岸波や舞風もお疲れ様!」
「待て………何か変だ。」
ヴェールヌイの言葉に艦娘達は見る。
炎に包まれた玉座が一向に沈まないのに。
「これって………。」
「火ノ…塊トナッテ…沈ンデシマエ……!」
『!?』
玉座の上から響いてきた声に、艦娘達は空を見上げる。
望月や大潮の砲撃で衣服を兼ねた装甲を砕かれながらも、真っ赤に身体を燃やしながら降下してくる鬼女の姿を。
そして、炎に包まれた玉座もまた、ヒビが入り赤い炎を漏らしながらも、再び出現するのを。
「あの姿………アレは「空母棲姫」じゃない!?変化したの!?」
「変化っていうより進化だな………。こういう繋がりがあるのは驚きだが………。」
まさか、形態変化を起こす深海棲艦がいるとは思っていなかった為に、艦娘達は戦慄する。
空母棲鬼………いや、空母棲姫は再びボロボロの玉座に座ると静かに鬼火の攻撃機を作り出す。
「………村雨、舞風。魚雷は持っていますか?」
「村雨、今回は爆雷を中心に持ってきたから………。」
「えっと私は………4発だけなら………。」
「正直撃破には足りないな………。」
明らかに火力不足である今の状態を鑑みて、援軍に駆け付けた面々は、望月と山風を連れて逃げる選択をするべき時かもしれないと考え始める。
だが、今の状態だと2人はもちろん、岸波もダメージで速力が落ちている為、逃げ切れる保証が無かった。
「………困ったわね。あのクソ提督の懸念はこういう事か。でも、全員で帰るって約束した以上、囮作戦は使いたくないし。こうなったら敵攻撃機を迎撃しながら持久戦に持ち込んで………。」
曙の言葉に、皆が覚悟を決めた時であった。
ドゴンッ!!
「何ッ!?」
『え!?』
突如、空母棲姫の左側で爆発が起きる。
海中から、何かがぶつかり炸裂したのだ。
驚く空母棲姫は振り向くが、更に海中から勢いよく波をかき分ける物体が………魚雷が顔を出し、また玉座を直撃していく。
「セ、潜水艦カ!?」
空母棲姫は魚雷が撃ち出された地点に向けて攻撃機を飛ばし、集中的に爆撃を落としていく。
すると、小さな爆発が起き、水中から黒い煙が立った。
だが、それは潜水艦娘の物と比べると遥かに小さい。
「まさか………。」
遠くでそれを見つめていた岸波は、その存在に心当たりがあった。
魚雷を備えており、敵艦の近くに肉薄した時に遠隔操作で発射するその武装は………。
「甲標的………?」
「間に合ったみたいだね。良かった!」
「あ!その声は………由良さん!?」
電探を通して聞こえて来た声に、真っ先に反応したのは村雨。
すると、甲標的が爆発した場所から更に西南西へと目を向けた遠方から、夜を照らす光が見えてくる。
それは単縦陣に並ぶ6人の艦娘になり、各々が電探を使ってこちらに通信を発する。
「こちら由良!佐世保から出張しちゃったら、今回の任務に適しているって言われて旗艦になっちゃった。宜しくね、岸波さん!」
そう優しい声で通信を送って来るのは、薄い桃色の髪をポニーテールが印象的な軽巡洋艦娘。
これでも四水戦を率いている、長良型4番艦の由良である。
「いや~、最初任務内容を聞いた時はビックリしたよ!鬼クラスの迎撃なんてねー!………でも、何か姫クラスになってる?ま、変わらないか!」
明るく元気な声で通信を送って来るのは、鈍い赤色のボブヘアーを持つ由良と似たような制服の軽巡洋艦娘。
こちらは二水戦旗艦である、長良型5番艦の鬼怒だ。
「鬼怒ちゃん、笑いごとじゃないよ。………だけど、本当にみんな無事で良かった。呉の提督も横須賀の提督も、密かにみんなの事心配してたんだから。」
落ち着いた声で通信を送って来るのは茶髪のボブヘアーを持ち、義眼なのか左目が探照灯のように輝いている重巡洋艦娘。
古鷹型1番艦の古鷹である。
「ふああ~………。あたしはさっさと仕事を終えて寝たいんだけどね。ま、今日は電探越しに良い叫びを聞けたぜ。どんな時でも生き抜こうとする駆逐艦の雄姿をよ!」
眠そうな声で通信を送って来るのは、黒い髪を束ねているのか一部分だけ後ろに伸ばしている重巡洋艦娘。
彼女は古鷹型2番艦の加古だ。
「全く………どいつもこいつも惨めでも生き抜こうとするんだから………。ほんっと駆逐艦らしいバカばっかりだわ!」
怒りながらも何処か誇らしげに通信を送って来るのは、緑色のリボンで銀髪をサイドテールに結った勝気な瞳の駆逐艦娘。
朝潮や大潮と同じ、朝潮型10番艦の霞である。
そして………。
「曙………。これは貸しにしておくね………。横須賀に出張したら、返して貰うから………。」
静かな声で通信を送って来るのは、黒髪に、大潮が釣りをしていた時に被っているような煙突帽子を付けている駆逐艦娘。
朝潮型9番艦であり、昔、岸波が憧れていたあの第十四駆逐隊に所属していた霰だ。
「もしかして………呉からの援軍!?」
「ええ。何故か佐世保の由良が旗艦になっちゃったけど、今は関係無いわよね。だって………。」
そう言うと由良は、後ろの鬼怒と顔を見合わせて頷き、空母棲姫を見つめる。
「駆逐艦娘達を散々色んな意味でいじめてくれたみたいだし………ね!」
「貴様等ーーーッ!!」
怒りに満ちた雄たけびを上げる空母棲姫に対し、呉からの援軍である由良達は突撃を開始した。