艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第2話 ~疑うべき実力と使命~

こうして幾つかの海戦をこなし、5人の艦娘は、予め所持していたドラム缶の燃料を補充して休みながら北東に進んでいき、翌日には横須賀へと辿り着いた。

元々第六駆逐隊は実力も兼ね備えたベテランの艦娘達の集まりであったのもあり、重巡はおろか夜戦ならば戦艦クラスを沈める事も出来た。

そして、岸波も怠惰艦という割には的確に旗艦の役目をこなした為、5人に大した損害は無かった。

 

「ここが横須賀………一番大きな鎮守府だけあって随分大きな所ね。」

「最初に出来た鎮守府ですからね。庁舎の他に、艦種によって各寮が分かれているのです。」

「咲いているのは………桜かしら?」

「今は春ですからね。この前はお祭りもあったのです。」

 

一番古参である電の案内で横須賀鎮守府の中を歩く過程で、岸波は周りに咲く桜を見渡す。

海戦の勇ましい時とは違い、何か物想いに更けている感じであった。

その様子に第六駆逐隊の4人は妙な物を感じながらも、共に歩いていく。

そうこうしている内に装備品保管庫へと辿り着き、衛兵の許可を貰って艤装を置いて庁舎へと向かう。

そして、庁舎の中の長い廊下を歩いて行き、中央に配置されている執務室へと辿り着く。

第六駆逐隊の旗艦である暁が代表して扉を叩くとコホンと咳払いをして報告をした。

 

「第六駆逐隊、リンガ泊地より駆逐艦岸波を連れて只今帰還しました。」

「ご苦労様です、さあ入ってきてください。」

 

女性の声に暁が扉を開き、5人の艦娘は部屋に入る。

そこには横須賀の提督と共に、長い黒髪の眼鏡の艦娘が立っていた。

背丈などから見るに、駆逐艦の指導をする事の多い水雷戦隊の親玉である軽巡洋艦だろうか。

 

「駆逐艦岸波、着任しました。これからお世話になります。」

「詳しい事はリンガのヤツから聞いている。こっちは秘書艦の大淀だ。こちらもこれからよろしく頼む。」

「早速ですがお聞きしても宜しいでしょうか?私はリンガでは怠惰艦と呼ばれています。その私を横須賀に呼び寄せた理由は何ですか?」

 

岸波の言葉に、提督は顎に手を当てて言う。

 

「俺に靴下を提供して欲しい。」

「はい?」

「流してください。」

 

間髪入れず笑顔で会話に割って入った大淀の言葉に横須賀の提督は軽くため息を付きながらも、真剣な顔になって言う。

 

「冗談だ。岸波………「第十四駆逐隊」の話を知っているか?」

「噂だけは。昔、嚮導艦である陽炎の元に集った実力のある艦娘達ですよね。霰、長月、皐月、潮、曙………まだ改二による強化もあまり進んでない中、様々な海域で戦果を上げていたと聞きます。」

「そうだ。彼女達は問題児達の寄せ集めであったが努力をして実力を付け、輝かしい戦果を残した。今でこそ解体されて第十四駆逐隊は欠番となっているが、その名は伝説となっている。」

 

当初は実力も性格も問題のある駆逐隊であったが、陽炎を筆頭に修練を積んだ事で、様々な艦娘達から注目を集める事になった伝説の駆逐隊。

実は岸波の艦種である夕雲型の娘の中にも訓練の過程でお世話になった者達がいるから、彼女もその話はそれなりに知っていた。

 

「それで、その第十四駆逐隊の話が私とどう関係して………。」

「欠番の駆逐隊は他にもある。「第二十五駆逐隊」、「第二十六駆逐隊」等がそうだ。」

「だからどういう関係が………。」

「岸波、お前には今から第二十六駆逐隊の嚮導艦になって貰う。」

「………はい?」

「欠番の第二十六駆逐隊をお前の為に解放する。」

 

横須賀の提督の言葉に岸波は流石に固まる。

怠惰艦の自分がいきなり嚮導艦になれというのだ。

 

「失礼ながら言わせて下さい。提督の目は節穴ですか?」

「心配するな。すぐに嚮導艦として駆逐艦娘を従えろとは言わん。お前に嚮導艦のノウハウを教える艦娘を付ける。その娘の元で修練を積め。」

「………お断りしたいのですが。」

「命令だ。そもそも第六駆逐隊を従えてここまで来る事が出来たという事は旗艦としての能力は持っているという事だろう?」

「確かに私は旗艦を務めました。しかし、それは第六駆逐隊の面々が優秀だったからです。それに私は昔、旗艦として………。」

 

そこで、岸波は苦虫を潰したような顔になる。

嫌な過去を思い出してしまったからだ。

もうずっと記憶の片隅に封印しておきたいとある出来事が………。

 

「……………。」

「部屋を案内させるから今日はもう休むといい。明日から訓練開始だ。」

「はい………。」

「部屋割りをしないとな。嵐、入って来い。」

 

提督の言葉に執務室の出口に控えていたのか、燃えるような赤い髪の艦娘が入って来る。

 

「陽炎型駆逐艦16番艦の嵐だ。しばらくお前と同じ部屋の住人になる。仲良くしろ。」

「宜しくお願いします。」

「敬語はいらねえよ。呼び捨てで構わねえ。」

「分かったわ………宜しく、嵐。」

 

そのまま岸波は嵐に連れられ執務室を後にする。

扉が閉められたのを確認した後で、横須賀の提督は、背後にある自身の机に向かって言う。

 

「………どうだ?見た感じの印象は?」

「人を寄せ付けない雰囲気を持っていますね。怠惰艦として振る舞う事で、提督を含め他の人達と距離を取りたいのでは無いでしょうか?」

 

その影から若干背の低い紫の髪のサイドテールの艦娘が出てくる。

彼女は嘆息しながら答えると、手に持った紙を………岸波に関する履歴を改めて見る。

 

「トラウマ持ちだったあたしが言うのも何ですが………過去の出来事故に1人の方が、気が楽だと思っているのでしょうね。………暁達はどう感じた?」

 

その艦娘は壁際に並んでいた、岸波と共にリンガから来た第六駆逐隊の4人に意見を求める。

 

「考えている事は貴女と同じよ?実際に間近で見たから分かるけれど、旗艦としての実力は確かね。」

「私も暁と同じ意見だ。あの判断力ならば、嚮導艦としてもやっていけるだろう。………本人が意地を張らずに納得すればだが。」

「岸波はあくまで怠惰艦として振る舞うつもりでしょうからね。貴女の指示に果たしてちゃんと従うか………。」

「どうするのです?何とか彼女の力を引き出す為の秘策は考えているのですか?」

 

最後に聞いてきた電の言葉を受け、資料を見ていたサイドテールの艦娘はニヤリと笑う。

 

「そこは駆逐艦の流儀でどうにかするわ。只………ちょっとそれに伴って、みんなの力も借りたいけれどね。」

「やる気満々ですね。」

「そりゃそうですよ、大淀さん。ああいう艦娘は鍛えがいがありますから。」

 

そう言うとその艦娘は資料を机に置くと腕まくりをして気合を入れた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ここが俺達の部屋だ。荷物は適当に置いておけばいい。」

「そう………お世話になるわね。」

 

一方、嵐に部屋に案内された岸波は、部屋で荷物を置くとベッドの上に寝転んだ。

その様子を横目で見ながら嵐は言う。

 

「もう寝るのか?望月さんじゃないんだし。」

「私は釣りと寝る事が好きなの。別にいいでしょ。」

「ふん………。」

 

嵐を軽くあしらった岸波は、目を閉じる。

いきなり自分が旗艦どころか嚮導艦になれだなんてどうかしていると思った。

ここの提督は何を考えているのだろうか?

 

(どうでもいいわ………。)

 

考えるのも億劫だと思った岸波は、しばらく仮眠を取った後、食堂で食事をして本格的に眠りに付いた。

同部屋の嵐も含め、最低限の事以上は喋ろうとはしなかった。

これまでもこれからもずっと………そのつもりだった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌朝、嵐の案内で艤装を背負い、訓練海域へと出た岸波は妙な物を感じる。

横須賀の訓練海域は幾つかに分かれており、事前申告制で割り振りが決められており、場合によってはデザートなどの物々売買で取引される事がある程の物だ。

しかし、今日に関しては横須賀の提督の計らいなのか、岸波は一番良い海域を押さえて貰っていた。

正直彼女には、その理由が分からなかった。

 

「………怠惰艦に一番良い訓練海域を使わせるなんてどういう神経をしているのかしら?」

「俺に聞くな。こういう事例は俺達も経験した事無いんだよ。」

「俺達?」

「お前が嚮導艦としてのノウハウを教わる艦娘の人は、今は俺達第四駆逐隊の嚮導も担当してくれているんだ。」

「貴女以外に誰がいるの?」

「今は………野分と舞風だ。」

 

何処か言いよどむような嵐の言葉であったが、彼女の後ろから2人の艤装背負った艦娘が来た事で岸波の意識はそちらに向く。

やって来たのは銀髪の男装の麗人のような艦娘と金髪の短めのポニーテールの艦娘。

 

「夕雲型15番艦岸波よ。貴女達は………?」

「陽炎型15番艦の野分。宜しく頼むわ。」

「同じく陽炎型18番艦の舞風だよ!踊るの大好き!」

 

きっちりと敬礼をする野分と、海上で舞うように踊る舞風という正反対の対応を見せる2人にとりあえず軽く会釈をした岸波は、横目で嵐の方を見る。

彼女は昨日、最初に出会った時からずっとイライラしているような様子である気がしたのだ。

怠惰艦である自分が同部屋の住人になったからだろうか?

 

(まあ、私には関係無いわね………。)

 

他人にあまり興味を示さない岸波は、軽くため息を付くが………。

 

「待たせたわね。今日から新入りが1人増えたけど、いつもと変わらずビシバシやっていくわよ!」

 

反対側から掛かってきた声に岸波は反応して振り向く。

そして………固まった。

その艤装を装備した艦娘は、紫の髪のサイドテールの艦娘であったからだ。

 

「貴女は………。」

「あら、知っているの?光栄ね。」

「知っているも何も………噂は何度も聞いています。確か第十四駆逐隊所属であった………。」

「今は第七駆逐隊に戻っているけれどね。………とはいえ、一応自己紹介しておくわ。」

 

その艦娘は腕を組むと自信ありげな表情を見せて岸波に言う。

 

「あたしは綾波型8番艦曙。アンタを第二十六駆逐隊の嚮導艦として鍛えてあげるから楽しみにしていなさいよ、岸波!」

 

伝説の欠番の駆逐隊の中でも2番目に海戦のセンスがあり、3番目に指揮能力が高いハイスペックな艦娘であった………そう曙の事を記憶していた岸波は、無意識の内に彼女に対して答礼をしていた。

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