艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第22話 ~暴走~

その日の夕方、曙の部屋では同部屋の薄雲が布団で眠っていた。

だが、その額には大粒の汗が流れており、うなされている。

 

「う………あ………あ………。」

 

何か悪夢を見ているのだろうか?

嫌な喘ぎ声を出す薄雲であったが、突如その彼女の頭が軽く叩かれた事により、覚醒して飛び起きる事になる。

 

「うわ!?………はあ………はあ………。」

「大丈夫?随分とうなされていたけど?」

「あ、曙………ちゃん?」

 

声の主は、部屋に戻って来た曙。

彼女は洗面所でおしぼりを絞って来てくれたらしく、薄雲に渡してくれる。

 

「ゴメンね………何か最近、悪い夢ばかり見て………曙ちゃんに心配ばかりかけて………。」

「別にいいわよ。只、明日から少しの間、大湊に遠征に行くことになるから、その間は部屋の留守をお願いね。」

「大湊………?」

 

顔の汗を拭った薄雲は、驚いた顔を見せる。

そして気付く。

曙の顔が若干ではあるが、青ざめている事に。

 

「大湊って確か、前に涼風さんが秘書艦を勤めているって言っていた所だよね?一体、何が………?」

「ゴメン、遠征とはいえ任務だから内容までは言えないの。とにかく、明日から外出するから。」

 

疲れたような雰囲気の曙は、そう言うと風呂の支度を始める。

恐らくその遠征という任務を聞く為に、庁舎の執務室に行った帰りに、第一次士官室(ガンルーム)で食事を済ませていたのだろう。

彼女は書類の束を自分のベッドの上に置くと、さっさと風呂へと向かう。

 

「……………。」

 

薄雲は、曙が部屋から完全に去って行ったのを確認すると、そのベッドの上の書類の束を漁り始めた。

そして、1枚の出撃命令書を見つける。

書いてある文字を彼女は凝視した。

 

「「深海千島棲姫」討伐任務………。やっぱり遠征じゃない。曙ちゃんは大湊に行って決着を付ける気なんだ………。」

 

受領印が押してある事を確認すると、薄雲は意を決した顔をしてペンを取り出し、素早く内容を書き換えていく。

更に艤装使用許可書も探し出すと同じく内容を書き換える。

そして、それらを持ちだすと、自分の布団に掛けてあるバッグの中身を確認し、その2枚の書類を入れる。

 

「こんな事をしてゴメンね。でも、これはきっと、私が決着を付けないといけない事だから。」

 

バッグのチャックを閉じて準備をした薄雲は、隣の曙のベッドを改めて見て頭を下げる。

 

「後で死ぬ程恨んで、曙ちゃん。それに………岸波さんも!」

 

彼女は部屋を素早く飛び出すと、なるべく違和感の無いように、堂々とした足取りで駆逐艦寮の廊下を歩いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

日が沈んでいつもの墓参りから帰って来た岸波・舞風・望月・山風、そして朧の5人は、様々な場所を周っていた。

折角、朧がアジサイを育ててくれたのだ。

色々な人達に寄付した方がいいと言った舞風の提案で、鳳翔の店に行った後に装備品保管庫に寄っていた。

ここにはいつも衛兵が立っており、艦娘達の艤装を管理してくれていたから、彼にもアジサイの鉢植えをプレゼントしようと思ったのだ。

やがて、鎧に槍を構えた古風な屈強な男が見えてくる。

 

「おう、岸波か。どうした?」

「アジサイのプレゼントです。朧先輩が大事に育ててくれた物なんですよ。」

「有り難い、家族も喜ぶ。朧もありがとう。」

「い、いえ………喜んで貰えたのならば幸いです。」

 

朧が思わず照れる中、衛兵は岸波を見て装備品保管庫の入り口を開ける。

 

「さて………あんまり無駄話をしている暇も無いだろ。さっさと持って行きな。」

「え?どういう事ですか?私達は、艤装を取りに来たわけでは無いのですが………。」

「ん?何だ?第二十六駆逐隊は、休日を返上して大湊に出張して、深海棲艦を退治しに行くんじゃなかったのか?」

「はい………?」

「何………?」

 

ここで岸波と衛兵の間に認識の違いがある事を悟った一同は、思わず互いの顔を見合わせて事実確認を行う。

 

「第二十六駆逐隊にはそのような命令は来ていません。そもそも誰も出撃命令書や艤装使用許可書は持っていませんし………。」

「艤装使用許可書を少し前に薄雲が持って来たんだ。何でも第二十六駆逐隊に編入した途端、出撃命令が下ったと。出撃命令書も持っていたから許可を出したんだが………。」

「ちょっとその書類、見せて下さい!?」

 

衛兵から書類を受け取った岸波は、その内容を見て目を見開く。

確かに、第二十六駆逐隊の薄雲に対して、艤装使用許可書が出されている。

だが、所々ペンで塗りつぶされた跡があったので、元々別の艦娘への許可書である可能性もあった。

それがスムーズに通ったのは、受領印が既に押されていたからであろう。

 

「だ、誰の命令書を………?」

「ぼの先輩だ………。」

「え?」

「普通に考えれば同部屋の曙先輩しかありえないわ!薄雲は、曙先輩の出撃命令書と艤装使用許可書を書き換えて、勝手に第二十六駆逐隊の任務にすり替えたのよ!」

「何で、わざわざ第二十六駆逐隊に?朧、分からないんだけど………。」

「随時駆逐艦娘を募集している艦隊だから、新規に編入したという理由を付けても、誰にも気付かれないと思ったんです!」

「ちょっと待っていろ。………どうやら、当たりみたいだ。」

 

無線を使って執務室と連絡を取っていた衛兵が、岸波に渡してくれる。

声の主は、横須賀の提督であった。

 

「先程、曙が血相を変えて飛び込んで来た。どうやら風呂の間に薄雲がやらかしたらしいな。」

「すぐに出撃して回収してきますので、口頭で許可を貰えないでしょうか?」

「いいのか?休暇中だぞ?」

「曙先輩は、明日の本来の出撃に備えないといけません。そもそもどんな形であれ、第二十六駆逐隊に編入したのならば、私達が探しに行くのが妥当だと思います。」

 

恐らく、岸波は事後処理の面も考えたのだろう。

薄雲の暴走を第二十六駆逐隊が止めるのが、一番スムーズにいくと思ったのだ。

一応、舞風・望月・山風にも確認を取ろうとするが、彼女達は既に岸波の指示に従う様子を見せていた。

 

「やれやれ、早速岸波のお人よし癖が出たね~。」

「夜は怖いけど………みんなで出れば大丈夫だよね。」

「舞風も準備万端でーす!行こう、岸波!」

「ありがとう、みんな。………というわけでお願いします、提督。」

「分かった。残りの休暇は大淀に頼んで後に精算して貰おう。では………。」

「待って!」

 

岸波の意見に同調した提督が出撃命令を出そうとした時であった。

それまで後ろで状況を見つめていた朧が、いきなり手を上げて前に出て来たのだ。

 

「その艦隊………朧も入れて!」

「朧先輩………?でも………。」

「多分、ぼのぼの………じゃなくて、曙ちゃんは今凄く混乱していると思うの。今まで迷惑を掛けた分、少しでも助けになりたい!」

「一時的とはいえ、指揮下に入るのならば呼び捨てとため口になりますよ?」

「大丈夫!………それで宜しいでしょうか、提督?」

「朧………アンタ、本当にいいの?あたし、アンタに対して何も出来て無いのに………。」

 

通信を送って来たのは、提督でなく曙であった。

かなり混乱しているのか、涙声であった。

朧は頷くと、曙に対して言った。

 

「今まで言えなかったけど………ぼのぼの、出会った途端に逃げてばかりで、本当にゴメンね。今更、仲良くして………なんて言えないけど、朧も頑張るから!」

「……………お願い………あの子を助けてあげて!」

 

これで提督と曙、そして衛兵の許可を貰った5人は艤装を装着して桟橋へと向かう。

出撃許可を口頭で貰った分だけ、時間は短縮できているはずだ。

岸波は捜索用の探照灯を持つと、単縦陣で舞風・山風・望月・朧と並ばせた。

 

「第二十六駆逐隊、抜錨!捕まえに行くわよ、薄雲を!」

 

そして、大声で号令を出すと、夜の海に抜錨していった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「はぁ………はぁ………。」

 

薄雲は、夜の海を北東に向けて最大戦速で航行していた。

我ながら、物凄く身勝手な事をしたものである。

曙の命令書と許可書を勝手にくすねて書き換えて、岸波の駆逐隊を巻き込んでしまったのだから。

 

「後で………思いっきり殴られるかな………。う………。」

 

少し自嘲気味に笑った薄雲は、夕食の代わりに取った乾パンを思わず吐き出す。

実は、薄雲は艤装を付けると体調不良に陥る。

その原因は検査をしても不明で、明らかにされていない。

いや、実際には何となく自身の心の中で分かっているのだが………。

 

「曙ちゃんにその内容を言った時には驚かれたな………。同時にあんなに心配を掛けちゃって………。ん………?」

 

1人呟いていた薄雲は気付く。

前から何かが、水飛沫を上げて飛んで来るのが。

それが魚雷だと気付いた時、彼女は反射的に取舵を取って左にカーブをして回避していた。

 

「し、深海棲艦!?………うぷ!?」

 

再び吐き気に襲われて残りの乾パンも胃の中から吐き出した薄雲は、口を拭いながらも敵の編成を確認する。

軽巡洋艦ホ級1隻と駆逐艦イ級2隻だ。

エリート級やフラッグシップ級では無いから、本来ならば駆逐艦娘でも楽勝の相手のはずだ。

………薄雲が今1人でなく、また体調が万全の状態であるのならば。

 

「参ったな………。でも、ここで苦戦しているようじゃ………!」

 

敵艦の放ってきた砲撃を蛇行して回避しながら、薄雲は6本ある魚雷を1本ずつ撃っていく。

だが、蛇行する度に派手な頭痛に襲われて、中々敵に狙いが定まらない。

3発目でようやくイ級1隻に当たり爆発させて、5発目で更に別のイ級1隻を撃沈する。

 

「後は………ホ級!でも、魚雷は残り1つだから慎重にいかないと!」

 

最後の魚雷を撃とうとするが、そこでホ級が再び口から魚雷を発射してくる。

遠近感が狂っていて、距離が思った以上に近づきすぎていた事に気付いた薄雲は、回避できないと悟り、反射的に魚雷を撃って相殺させてしまう。

 

「わ!?」

 

派手な水柱が目の前で立ち、視界が塞がる。

その隙を狙ってか、ホ級は、水柱の中からその石のような図体で薄雲に体当たりして来て、のしかかる。

 

「ひ………!?」

 

そのまま巨大な口で薄雲に噛みつこうとするホ級の姿に、ガチガチと歯を震わせた薄雲は、咄嗟に手持ちの連装砲を口内に突き付け乱射する。

深海棲艦の黒い血と悲鳴が飛んで来るが、そんなのに構っている暇はなかった。

とにかく、敵艦が力を失うまで乱射した薄雲は、その図体を、力を入れて押し飛ばす。

ホ級はそのまま海の底へと沈んでいった。

 

「……………。」

 

海戦が終わっても、薄雲は起き上がれなかった。

深海棲艦は運よく片付けられた。

だが、次があって、より強い艦種が出て来たら………。

 

「これじゃあ、先が思いやられるなぁ………。」

 

力を使い果たした薄雲は、そのまま海上で気絶した。

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