艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第24話 ~コロッケを頬張りながら~

夜が明ける頃、岸波達第二十六駆逐隊は大湊警備府へと到着する事になる。

最初こそ艤装装着の影響で具合が悪そうな薄雲であったが、不思議な事に大湊に近づけば近づく程、持ち直してきていた。

それ自体は喜ばしい事なのだが、これが大湊に潜んでいるという深海千島棲姫と関係しているというのならば、危惧しないといけない事であった。

 

「まあ、分からない事を考えても仕方ないんじゃない?あたし達にだってまだまだ上から知らされていない事があるんだし。」

「そうね………さて、まずは命令違反を犯して来た以上、どうやって提督や秘書艦に挨拶をするかだけど………。」

「岸波、桟橋の方に誰かいるよ?」

 

舞風が指し示す方角に従って、岸波は桟橋に注目してみる。

見れば、2人の艦娘が出迎えをしてくれていた。

1人は少し青緑がかったかなり小柄の青髪のショートヘアの艦娘で、若干キツイ表情で腕組みをしている。

そして、もう1人は長い青髪の、背丈の割にはスタイルのかなり良い艦娘で、笑顔でこちらに手を振っていた。

 

「あの人達は………?」

「潮ちゃん!手を振っているのは潮ちゃんだよ!」

「あの人が潮先輩!?」

 

手を振り返した朧の言葉に驚いた岸波は、やがて桟橋へとたどり着く。

そこにはニコニコ顔で綾波型10番艦の潮が………あの第十四駆逐隊の一員であった潮が出迎えてくれた。

 

「皆さん、大湊へようこそ!久しぶりですね、朧ちゃん。元気そうで本当に良かった………!」

「あ、うん………ゴメンね。色々あって心配掛けさせちゃって………。」

 

朧の言えない過去を知っているのか、こうして大湊までやってきてくれた事を素直に喜ぶ潮。

その姿を思わず直視できず、朧は頭を下げるが、潮はその手を掴んでぶんぶん振る。

 

「生きていてくれるだけでいいですよ!………紹介しますね、こちらの子は海防艦娘の福江ちゃん。」

「択捉型10番艦の福江だ。大湊を守れる艦娘になれるように頑張っている。秘書艦の涼風さんが、横須賀から電話で第二十六駆逐隊の今回の命令違反を聞いて笑っていたよ。曙さんは、勇猛な駆逐艦を育てたって。」

「………これは、私もぼの先輩に会ったら一発覚悟しておかないといけないわね。で、提督に会いたいのですが………。」

「提督は諸事情で会えないけれど………秘書艦の涼風さんなら大丈夫ですよ?案内しますね。」

 

岸波が頼むと、潮達はまず、装備品保管庫へと案内してくれる。

そこで各々の艤装を仕舞うと、専門の業者がチェックしたり、魚雷等失われた装備を補充してくれたりする流れになる。

そして、庁舎へと案内されると、廊下を歩いていく事になる。

 

「ねえ………岸波。最初の挨拶は任せて………。」

「山風………?珍しいわね、貴女が積極的に前に出るなんて。」

「山風は、涼風とは第二十四駆逐隊で海風と江風と一緒に組んでいたんだよ~。だから顔見知りってわけ。」

「こういう時は、知り合いの方がスムーズにいくと思うから………。」

 

そういうわけで、山風を先頭にして岸波達は秘書艦室に入っていく事になる。

中では、濃い青髪のロングヘアーを、紫色のリボンで二つ結びにしている艦娘が、書類仕事に没頭していた。

 

「久しぶり………涼風。秘書艦室に真っ先に案内されたって事は、大湊の提督は相変わらず寝込んでる………?」

「お、山風か。噂は聞いてるよ。心無しか顔つきが変わったねぇ。………そうそう、もうすぐ夏だから大丈夫だって言って、寒中水泳を長時間やっちゃって。お陰であたいは書類仕事に編成に出撃にてんてこ舞いだよ。」

「す、凄いバイタリティですね………。」

 

平然と滅茶苦茶な事を言ってのけた涼風に、岸波は思わず感嘆の声を漏らす。

秘書艦業務をこなしながら………と思いきや、提督代理や艦娘としての出撃までやっているというのだ。

正直、敏腕ってレベルの話では無い。

 

「まあ、流石に出撃する時は秘書艦代理を誰かに任せるから、大湊ががら空きになる事は無いさ。で………そっちの駆逐艦娘が岸波かい?」

「はい、第二十六駆逐隊の嚮導艦を務めています。今回はご迷惑をお掛けしました。」

「いいっていいって。イキがいいのは大歓迎だからね!岸波のお陰で山風や望月がやる気を出してくれたし、それに大湊の対深海棲艦に対する戦力も充実する!いい事だらけじゃねーかい!」

「そう言って貰えると幸いです。」

「ま………積もる話は、食事をしながらでもしようじゃないか!あたいも早朝に書類を纏めた関係で、丁度朝飯が欲しくなった所だからね。その間に福江に頼んで、部屋を準備させるよ。」

「宜しくお願いします。」

 

ハイテンションな秘書艦に対し、岸波はあくまで淡々と答えていく。

もう少し砕けた口調でも良かったのかもしれないが、一応嚮導艦としてのスタンスは貫く事にした。

 

「じゃ、外出許可書。」

「………警備府の中で食べるのでは無いのですか?」

「美味しいコロッケの店があるんだよ。………今の時間なら人もほとんどいないからね。」

「成程………。」

 

恐らく、薄雲の事を詳しく聞きたいのであろう。

涼風達の事情を理解した岸波達は素直に従い、彼女達に連れられて庁舎を後にする。

程なくして目的の店に辿り着いた一向は、人のいない食堂に入り、コロッケの定食を注文する。

食事が来るまでの間、岸波は薄雲の事情について一応小声で説明していく。

先代薄雲の事、そして深海千島棲姫との繋がりの事。

 

「自分でケリを付けるなんて、漢気のある話じゃないかい。………まあ、艦娘は女だけど。」

「あの後、深海千島棲姫はどうなっていますか?」

「今の所、報告は無い。只、最初に出会ったのが夜だから、駆逐艦としての力を最大限活かせる時間帯を狙っているのかもしれないね。」

 

薄雲の質問に、涼風は一転、冷静な顔で答える。

敵味方を含め、駆逐艦が本当の力を発揮できるのは夜戦だ。

小さな体で大型の敵艦すら沈めるその姿は、味方からすれば惚れ惚れする物である。

逆に夜戦だと空母等は夜偵を積まないと航空戦が出来ないので、そういう意味では役割分担がしっかりと出来ていると言えた。

だから岸波は問う。

 

「深海棲艦の艦隊に空母はいるんですか?」

「それが、あの黒い一つ目のたこ焼きのような夜偵を積んだヌ級がいるんだよねぇ。お陰でこっちの編成も、対空装備を考えないといけないから面倒なんだけど………。」

「………失礼ながら、もう涼風先輩が提督業も兼任した方がいいのでは?」

「ま、今の提督にくっついてきた時に覚悟してた事さ。………と、コロッケが来たね。」

 

お待ちかねのコロッケ定食が来た事で、一同は会話を中断して食べていく。

秘書艦が美味しいと言うだけあって、確かに満足のいく味であった。

 

「どうだい?うまいだろ?」

「はい………で、続きですが、敵の規模はどれ位ですか?」

「そーだねぇ………最初に見つけた時は、まだ本土から離れていた所だったし、すぐに気付いて逃げられたから良かったんだけど………。」

 

涼風はそう言うと、再度周りに人がいない事を確認した上で、小声で呟く。

 

「艦隊3つ分………18隻以上は軽くいるみたいなんだよね。」

『!?』

 

思わずむせそうになる一同に対し、涼風は落ち着くのを待ってから言う。

 

「だから、艦娘の数に余裕のある横須賀の鎮守府から、艦隊を募っている所なんだよ。今回、岸波達が命令違反をして来てくれたのは、ホントラッキーだったんだよねぇ。」

「た、対抗策は考えてるんですか?例えば連合艦隊とか………。」

 

連合艦隊とは、2つの艦隊を特定の艦種を混合して組み合わせる事で作る12人の艦隊だ。

こうする事で、より大規模な作戦を行う事が出来る。

只、涼風が考えているのは、もっと別の方法であった。

 

「連合艦隊だと、あまり自由に陣形を組めないからねぇ。ここは思い切って、敵艦隊と同じく、独立した艦隊を3つくらいつぎ込んで、互いを支援しながら連携を取り合うのがいいんじゃないかなって思ってんだ。」

 

これまた中々興味深い海戦の方法だと、岸波は感じた。

練度の高い通常の艦隊を複数つぎ込む事で、敵の艦隊を翻弄しようという作戦は、チームワークさえ取る事ができれば理に適っていると思えた。

後は、岸波達以外の2つの艦隊がどんな編成になるかだが………。

そこで、彼女の意図を察してくれたのか、涼風が先に答えてくれる。

 

「後2つは、大湊に所属する潮とかがいる艦隊と、曙が率いて来る予定の艦隊。………確か、曙は漣を巻き込むって言ってたっけ。」

「大湊ですが………久しぶりに第七駆逐隊が揃いますね。」

「うわー………何かそう考えると壮大な作戦のような気がしてきたな………。」

 

嬉しいような申し訳ないような、そんな複雑な顔を見せるのは朧。

彼女の過去に関してはまだ分からないが、これを機に仲間達との縁が回復出来ればいいと岸波は思った。

それと同時に………。

 

「第七駆逐隊全員が、嘗ての嚮導艦と対峙するのは………何かしらの因果を感じさせますね。」

「むしろ、この機に立ち会えるのを幸運だと思うしかないね。さてと………そろそろ福江が部屋の準備をしてくれているだろうから、行こうとしよっか!」

 

全員が食事を終えたのを確認した涼風の言葉で、一同は食堂を後にする事になる。

涼風はまだ書類仕事があるから………と言って、庁舎前で別れる事になり、潮に連れられて寮へと案内される。

流石に横須賀と違い、艦種はごちゃ混ぜであったが、その分様々な面々がいるような気がした。

 

「今更だけど、岸波の姉妹はいるの?」

 

歩いている途中、舞風が問いかけて来る。

その声を聞いて、岸波は困った顔をする。

というのも………。

 

「実は姉妹と距離を取るようになってから、誰が何処に転籍になって散らばったのか全然分からないのよね………。夕姉と朝ちゃんがリンガにいる事しか知らなかったのよ。」

「そう言えば嵐に指摘されるまで、長波が横須賀にいる事も知らなかったんだっけ。後は確か、扶桑さん達がトラック泊地で高波を見たって言っていたよね。」

「帰ったら、長姉に聞いてみるのも手ね………。とりあえず、潮先輩………この大湊警備府に夕雲型は………。」

「やっぱ、分からなくなってたんだね~、岸波。」

「まあ、仕方ないでしょ。事情が事情だったんだから。」

 

確認しようとした岸波の耳に、2人の艦娘の声が聞こえてくる。

廊下の先を見渡してみると、スケッチブックらしきタブレットを携えた栗毛に近い茶色の長髪をポニーテールにした艦娘と、かなり長身で黒味がかった茶色の長髪をポニーテールにした艦娘が立っていた。

 

「秋姉………風姉………?」

「おお!?岸波の独特のお姉ちゃんの呼び方、久々に来たーーー!?これはレア物だよ!表情スケッチしとこ!」

「だからアンタは………、でも、私も少し嬉しいな。岸波がまた私達の事、そう呼んでくれて。」

 

立っていたのは夕雲型に近いと言われている陽炎型19番艦の秋雲と、夕雲型3番艦の風雲であった。

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