「秋姉、風姉………横須賀に居ないと思ったら、大湊に転籍していたのね。」
「そうそう、秋雲達はここで夏と冬のコミケに備えて………痛っ!?」
「再会していきなり何を言ってるのよ!?………ゴメンね、秋雲が相変わらずで。」
会って早々、自分の趣味を自慢する秋雲にチョップを叩き込む風雲。
実は、毎年のように秋雲は、横須賀周辺で行われている同人誌即売会に有休を使って突撃をして、自身の作品を売ったり他者の作品を買ったりしている。
………アシスタント兼売り子として、風雲を巻き込んで。
「変わっていないようで安心したわ。………秋姉も散財癖が治っていないみたいだけれど。」
「必要経費だって!スケッチするには耐水性で丈夫で繊細な物じゃないとダメなんだよ!」
その為には最高級のタブレット等を使う必要があるというのが、秋雲のポリシーというわけであり、実は危険手当も合わせて、それなりに高額である艦娘の給料をつぎ込んでいるのだ。
これは、刹那的に生きる駆逐艦ならではのお金の使い方とも言えるらしく、例えば前に深雪に聞いた話だと、呉の磯波は撮り鉄の趣味がある為、高額カメラを衝動買いしてしまう事があるらしい。
尤も、磯波のカメラにしろ、秋雲のタブレットにしろ、海戦で敵の詳細な情報を持ち帰るのに役立つのだから、あまり文句は言えない。
だからこそ、岸波は聞いてみた。
「ねえ、秋姉。いきなりで悪いんだけど、深海千島棲姫を大湊の近くで見つけた時、貴女は艦隊にいたの?」
「いたよ。風雲と一緒に涼風さんや潮さんの艦隊に入っていたからね。」
「じゃあ、その姿………スケッチしている?」
「勿論。………成程、確認しておきたいんだね、ちょっと待ってて。」
秋雲はタブレットを弄り、深海千島棲姫の姿を出す。
そこには、長い白髪の鬼女が映し出されていた。
両手には深海棲艦を模した単装砲を構えており、背中には煙突型の艤装があり、両腰には3連装の魚雷が備え付けられていた。
その鬼女の緑の瞳を見た岸波は、同じく覗き込んでいた朧に確認を取る。
「どう………?」
「うん、先輩だ………。間違いなく、初代薄雲先輩だよ。」
「ん?どういう事?」
ここで秋雲達が首を傾げたので、岸波は潮に確認を取った上で説明をしていく。
深海千島棲姫、初代薄雲、そして今ここにいる2代目薄雲との関連性を。
「随分、深い因縁が貴女にもあるのね………。」
「うん。この深海棲艦が、私達が倒すべき敵………いえ、救うべき人なんだ。」
タブレットを見つめながら呟く薄雲の声に、秋雲と風雲は顔を見合わせると黙り込む。
多分、彼女達も艦娘と深海棲艦の関係に付いて考えているのだろう。
だが、上からの情報統制で謎に包まれている部分がある以上、そう簡単に答えが見つかる物では無い。
「憶測で色々と話すべき場面じゃないか………。それはともかく、遅くなったけれど第二十六駆逐隊のみんな、岸波が色々とお世話になっているわね。姉としてお礼を言わせて………ありがとう。」
「あ、いや………私達も岸波にお世話になっているし。」
「脳筋の訓練で………鍛えられている………。」
「あたし達もいつかはマッチョになるのかもねぇ?」
「私も助けられた以上は、マッチョになっても文句言えないかなぁ………。」
「朧は、実は腹筋とかは自信あるんだよね。」
「貴女達………私の姉達への挨拶がそれ?」
結構辛辣な評価をする第二十六駆逐隊の面々の言葉に、思わず振り返って睨みつける岸波。
その様子を見て秋雲と風雲と潮は笑った。
「あはは!岸波もいい仲間に出会えたね!こりゃ、冬のテーマに………あだっ!?」
「だーから、アンタは!………でも、岸波を変えてくれて感謝しかないわ。」
「いいチームですよね。岸波さん、みんなを大切にして下さいね?」
「大切にしますよ………こんな面々でも、纏める立場である嚮導艦をやっていますから。」
ふうとため息を付く岸波。
その様子を満足そうに見た潮は、皆を部屋に案内すると告げる。
「曙ちゃん達は、艦隊の速力の関係で到着するのが夜遅くになりそうです。まずは夕方までゆっくりと休んでください。その後、夜間訓練の様子を見ながら待ちましょう。」
「何故、わざわざ夜間訓練を………?」
「敵深海棲艦が夜に出没する傾向があるので、みんな夜に合わせた訓練をしているんです。そこで、この大湊の現在の主力艦の皆さんを紹介します。」
「分かりました、ではお言葉に甘えて………。」
そう言うと、岸波達は部屋に入る。
岸波は舞風にお願いして、大湊にいる間だけは薄雲と同部屋にしてもらうようにした。
従って、岸波と薄雲・望月と山風・舞風と朧という部屋割りだ。
「薄雲、何かあったらすぐに言って頂戴。」
「ありがとう、岸波さん。………迷惑掛けたのに、ここまで付いて来てくれて。」
「さっきも言ったけれど、第二十六駆逐隊に入った以上は沈まれたら困るわ。まずは生きる事を考えて。」
「うん………そうだね。」
薄雲に言葉が伝わったのを確認すると、岸波はさっさと眠りに付いた。
――――――――――――――――――――
夕方に目を覚ました岸波達は、夕食と風呂を取った後、潮と秋雲と風雲によって訓練海域へと案内される。
夜の薄暗さが目立ってきた中、そこでは奇妙な光景を目の当たりにする事になる。
航空機が飛んでいるのだ。
「夜偵………?」
「珍しいねぇ。「烈風改二戊型」じゃん。製造コストが滅茶苦茶高いから、滅多にお目に掛かれないよ。」
「望月、そういう装備関係にも詳しいのね。」
「まあね。睦月型は、知識量でスペックを補う………ていうのがあたしの流儀だからね。誰かさんが「睦月型は世界一の船だから、各自が自慢出来る事が必ずあるはずだ」って言うから仕方なく探したのさ。」
「ふふっ、その「誰かさん」には心当たりがあるかもしれません。………あ、神鷹さーん!」
望月に対して何処か含みのある言葉を告げた潮は、訓練海域でひたすら集中しながら夜偵を飛ばしていた金髪碧眼の艦娘を呼ぶ。
その娘の肌は白く、岸波達は何処となく違和感を覚えた。
もしや彼女は………。
「潮さん、こんばんは。あ………貴女達が第二十六駆逐隊の方ですね。私は神鷹。呉から来た大鷹型4番艦である軽空母神鷹です。」
「宜しくお願いします、神鷹さん。………つかぬ事をお聞きしますが、貴女はもしかして………。」
「はい………お察しの通り私は日本人ではありません。私はドイツ人。日本式の適性検査を受けて艦娘になったのでこの名が与えられました。」
神鷹は夜偵を飛ばしながらも、胸に手を当てて説明する。
外国人が艦娘になれない…という制限は無いらしく、また改造によって特殊な力を持つ艦娘もいる。
代表的なのがヴェールヌイ。
彼女は元々響という艦娘であるのだが、ロシア式の改造で改二になった事でヴェールヌイと名付けられる事になった。
神鷹はその逆であると考えられるだろう。
「「艦」の記憶の関係でドイツ人の私が神鷹の名に相応しかったんです。ここら辺に付いては正直、私も分からない部分が多いですが………。」
「夜偵を飛ばしているのは、夜間の出撃に備えてですか?」
「ええ………。昼とかなり感覚が違うので、こうして夜間訓練で慣れていっているのです。深海千島棲姫の引きつれているヌ級も夜偵を飛ばす事が出来ますし、色々と慣れておいた方がいいかなって………。」
駆逐艦娘である岸波達には、あまり理解しにくい感覚であったが、昼戦と夜戦とでは、航空機を発着させる所から、妙な違和感を覚えるらしい。
だから、こうして何度も慣れる事で夜戦に備えようとしているのだ。
「真面目ですね。」
「いえ、そうでは無いんです………。恥ずかしい話ですが、私は………、夜と潜水艦が苦手で………。」
「貴女も………苦手なんですか………。」
少し身震いする神鷹に対して、思わず同意してしまったのは山風。
艦娘の中には、夜と潜水艦が苦手という者が結構いる。
それだけ「艦」の記憶として、囚われている現象なのだろう。
「深海千島棲姫との決戦では私も精一杯頑張りますので………、宜しくお願いしますね。」
「こちらこそ。ベストを尽くしましょう。」
神鷹と挨拶をして別れた岸波達は、今度は別の訓練海域へと向かう。
そこで目にしたのは、何故か艦娘なのにバランスを保つのに四苦八苦している様子である2人の軽巡洋艦であった。
1人は黒髪のロングに肩出しのセーラー、紅色のスカートといった風貌で、もう1人は海鼠色のショートボブに同じような衣服である。
「あの風貌は阿賀野型?………って、髪の短い方は4番艦の酒匂先輩じゃ………?」
「髪の長い方は1番艦の阿賀野さんだね~。立つのに苦労しているのは、「増設バルジ」を艤装の両サイドに装着しているからじゃないのかな?」
「そう言えば、あの2人は佐世保にもいたのよね?酒匂先輩は、舞鶴にいた事もあったから私にとっては恩師だけれど………。」
「ねえ、あの増設バルジって暁型の装甲版みたいな物なの?」
「増加装甲っていうのが正式な解答だけど、感覚としてはそれでいいと思うよ~。」
岸波や舞風の質問に博識の望月がどんどん答えていく。
増設バルジは艦艇側面を増設する物で、バランスの悪化を招く代わりに上手く活用する事で、強力な深海棲艦からの攻撃を防御できるという利点がある。
本来は重巡以上の装備になるが、阿賀野型のような軽巡の他、実は風雲のような一部の改二駆逐艦も装着が出来るのだ。
「私も1回付けた事があるから分かるんだけど、結構扱うのは苦労するのよ。………と、そろそろ挨拶しましょう。阿賀野さん!酒匂さん!こんばんは!」
「あ、こんばんはーっ!風雲達も元気ー!?………アレ?その見かけない艦娘達って………。」
「ひゃ~!?岸波ちゃんだ!………って事は、涼風ちゃんが言っていた第二十六駆逐隊?」
「酒匂先輩お久しぶりです。………それに阿賀野先輩は初めまして。第二十六駆逐隊嚮導艦の岸波です。」
挨拶をした事で、2人共跳ねながらこちらに向かってくるが、増設バルジの事を忘れていたのか、バランスを崩して海上で共に1回転んでしまう。
慌てて立ち上がって、身体や艤装を振って水気を落とすと恥ずかしそうにやって来る。
「だ、大丈夫ですか?」
「い、今はこんな状態だけれど、最新鋭の阿賀野型だからちゃんと使いこなしてみせるわ!深海千島棲姫だっけ?強力な砲撃や魚雷を使う相手でも、このバルジがあれば百人力よ!」
「そうそう!夜偵を使う神鷹ちゃんを守って敵さんをぴゃっ!?と驚かせちゃうんだから!」
「は、はい………。」
基本、軽巡洋艦は歴戦の猛者というオーラを備えている。
しかし、何故かこの2人は余りそういうのを感じない。
声が高く、ふわふわした雰囲気を持っているのが原因だろうか。
(まあ、由良先輩も平時は優しさの塊だったし、海戦では頼りになる軽巡洋艦の先輩よね。実際に酒匂先輩は、舞鶴時代にお世話になったし。)
能ある鷹は爪を隠す………そう思った岸波は、2人に海戦では宜しくお願いしますと伝えると、潮達に連れられて桟橋に向かう。
今度は毛布を包んで温まって座っている、かなり長い銀髪とスカイブルーの瞳を持つ艦娘がいる。
その艤装には2体の自動砲塔が付いていて、どうやらその砲塔も温めているらしかった。
「貴女は………?」
「初めまして………だな。私は秋月型防空駆逐艦である8番艦である冬月だ。この砲塔は「長10cm砲ちゃん」だ。」
「こちらこそ初めまして。大湊に来る前は………?」
「岸波、冬月は舞鶴出身よ。貴女がリンガに移った後に、艦娘になって配属されて、私達と一緒のタイミングで大湊に転籍したのよ。」
「そうなの………。」
風雲の説明に、岸波は南から北に移って来て大変だと感じた。
秋月型というのは、「長10cm砲ちゃん」と呼ばれる対空装備に特化した駆逐艦だ。
その特殊な仕様故に、各鎮守府や警備府では1人は欠かせない艦娘になっている。
実際、横須賀にも2番艦である照月がいて、特に空襲を行う深海棲艦が近くにいる時は、桟橋で対空監視を欠かしていない。
恐らく、冬月という艦娘が生まれた事で、上は鎮守府だけでなく警備府である大湊にも配備したくなったのだろう。
「本当は涼月と一緒に佐世保に居たかったがな。だが、住めば都だ。新天地で楽しみを見出すのも悪くない。」
「貴女も今回の作戦に参加するの?」
「いや………私は、福江達と共にここで最終防衛ラインの形成を行う。街を空襲の危険に晒したら意味が無いからな。」
「それが冬月の………いえ、秋月型の戦いなのね。」
実際、敵が夜偵を持っているから、こうして日が沈んだ時間でも見張りを続けているのだろう。
どんな状況でも、街や警備府を守る使命を担う………それが、秋月型に課せられた使命なのだ。
「私達がいる限りは、後ろの心配はしないで大丈夫だ。遠慮なく自分に課せられた役目を果たしてくれ。」
「ありがとう、冬月。」
「さて………どうやら、その作戦を担う艦隊が、揃いそうだな。やって来たぞ、横須賀から。」
冬月の視線の先を見てみると、そこにはゆっくりとこちらに向かってきている艦隊がいた。
曙・漣・扶桑・山城の他、よく似た服装をしている茶髪のショートボブの艦娘と黒髪ロングの眼鏡を付けた艦娘がいる。
どうやら改二艦である高雄型3番艦の摩耶と4番艦の鳥海みたいだ。
「これが深海千島棲姫に挑む艦隊………。決戦の為の………。」
近づいてくる艦隊を見ながら、薄雲が静かに呟いた。