横須賀からの艦隊は左前から曙・漣、鳥海・摩耶、扶桑・山城という複縦陣でやってきていた。
この場合、特殊な場合でない限りは、旗艦は位置的に重巡の鳥海という事になる。
その岸波の予測通り、桟橋に辿り着くと、鳥海が号令を掛けて6人が敬礼をする。
「横須賀より鳥海率いる第八艦隊、深海千島棲姫討伐の任務を受け、着任を報告します!」
それに対して岸波や冬月等、その桟橋にいた全員が答礼をした。
重巡に戦艦といった派手な構成であると思ったが、深海棲艦の姫クラスに挑むには、これ位の戦力が無いと危ないと言える。
特に摩耶は、対空装備をこれでもかという程積んでいる防空巡洋艦だ。
夜偵を積んでいるヌ級との海戦では、貴重な戦力として期待できるだろう。
また、その摩耶の能力に関しては、特に秋月型として前々から気になっていたのだろうか。
冬月が個別に摩耶に近づき礼をする。
「貴女の対空能力の高さは様々な所に届いています。参考にさせて下さい。」
「おう!任せろよ!アタシがいる限り、ここ大湊や艦隊はやらせねえからな!」
竹を割ったような姉御肌の摩耶の言葉に冬月達を始め頼もしさを感じるが、妹の鳥海にしてみれば、もうちょっと大人しくして欲しいらしく溜息を付いている。
一方で何故かメイド風にアレンジした制服に身を包んでいた漣は、朧に歩み寄っていた。
「どう?久しぶりに籠から飛び出した気分は?」
「えっと………何て言えばいいか分からないけど………とりあえず、ホントにゴメン!」
目を泳がせた挙句、結局は思いっきり頭を下げて謝る朧に対し、漣は止めるように促す。
ゆっくりと頭を上げた朧に対して、彼女は目を閉じて静かに首を振った。
気にしなくていい………と。
「第二十六駆逐隊のみんなに感謝かな。朧ちゃんが体調を持ち直して、こうして大湊だけど第七駆逐隊が揃う事になったんだから。」
「うん………本当にいい駆逐隊だよ、岸波ちゃん達は。アタシは………。」
何か言いよどむ朧に対し、漣は無理して言わなくていいと口にチャックをする。
過去のトラウマを持っている岸波にしてみれば、本心は真っ直ぐである朧が、ここまで仲間達とこじれてしまう事になった理由に付いて、かなり気になってしまっていた。
勿論、無理に聞き出すつもりは無いが………。
「さて………最後にこっちだけど………覚悟は出来てるんでしょうね?」
「うん。」
腕を腰に当てながら曙は薄雲を見る。
薄雲は、曙の出撃命令書等を勝手に書き換えて、こうして大湊まで第二十六駆逐隊を巻き込んで来てしまったのだ。
当然、一発や二発は殴られる覚悟はしておかないといけない。
実際、薄雲自身はもう覚悟は出来ているらしく、いつでもどうぞと言わんばかりに立っていた。
その様子を見て曙はゆっくりと近づくと………本当に軽く頬を手でポンと叩くと、そっと抱きしめた。
「曙ちゃん………?」
「悪かったわよ………アンタを一端の駆逐艦扱いしなくて。その心には、紛れもなく駆逐艦魂が眠っている事、忘れていたんだからおあいこよね。」
「……………。」
申し訳なさそうな顔をする薄雲に対し、曙は頭を撫でながら(と言っても曙は背が低めなので傍から見ると珍妙な構図になるが)笑顔で言う。
「ここまで来たからには逆に逃がさないわよ!覚悟、ちゃんと出来ているんでしょうね?」
「うん、私達も………決着を付ける為に戦うから。」
「じゃあ、岸波達も頼んだわよ!」
「はい!」
話を振られた事で、岸波達も力強く頷く。
こうして決戦用の艦隊が揃った事で、秘書艦である涼風の元へ、着任報告をする事になった。
――――――――――――――――――――
「本当に素っ裸で来るとはねぇ。あたいはビックリだよ。」
「あの、その言い方だと語弊があるんだけど………。」
福江によって、曙達に就寝用の部屋が割り振られている時間を利用して、第二十六駆逐隊の面々は、涼風・阿賀野・酒匂・神鷹に連れられて装備品保管庫に来ていた。
というのも、決戦に備えて薄雲の装備を整える為である。
実は、彼女は捕まる前に飛び出して来たのもあって、主砲と魚雷という最低限の装備しか整えておらず、海戦で魚雷も使い果たした以上、涼風の言う通り「素っ裸」に近い状態であったのだ。
「とにかく、あたいの予想だと、今回の決戦で重要な役割を担う事になりそうだからねぇ。装備に関してはもう、「もってけドロボー!」って感じさ。」
「そんな在庫セールみたいな発言しなくても………、でも、何かいい装備はあるかな?」
「貴女に似合った物を探せばいいんじゃないの?」
岸波達は、大体いつもの海戦に使う装備を備えていっている。
睦月型故に武装が一番弱いのでは無いか?と思える望月も、下手に重量を増やすと動きに支障が出るから………という事で、本当にいつも通りの最低限だけだ。
その分、山風にまた照明弾を持ってくれと言われて、使い方をチェックして装甲版の裏に装備している。
「私も装備を下手に弄ると、第二十六駆逐隊の艦隊行動に支障が出そう。」
「はいはーい!じゃあ、阿賀野のおすすめ!これ、どう?」
「それは何ですか?」
阿賀野が持ってきた円形の台座に四角い網が付いたような装備を見て、薄雲は疑問符を浮かべる。
彼女はそれを艤装に乗せると起動させ台座を回したり、網の部分を上下に動かしたりした。
「これはね、「12cm30連装噴進砲」って言うんだよ。簡単に言えば艤装や連装砲に付けて使う、艦載用対空ロケットランチャー!」
「ろ、ロケットランチャー!?」
「そう!脅威の弾幕で肉薄する敵の攻撃機から味方艦を守る素晴らしい装備!神鷹さんも実は持ってるんだよね。」
「はい………。艦載機だけじゃ、どうしても不安な部分もあるので………。」
「だから、薄雲もこれを背中の艤装に装備すれば、パワーアップ間違いなし!」
「ぎ、艤装って!?バランスが悪いし、重すぎますよ!?」
「駆逐艦等が使えるように、紐で肩から括りつけて持ち歩いて、手に装着して撃つ、台座にグリップの付いたタイプの物もありますけれど………?」
「どちらにしても、重量過多です!」
過重装備は、速力の低下を招く。
元々身軽さが売りの駆逐艦娘にとって、これは致命的なパワーダウンだ。
だから、薄雲は断ろうとするが………。
「だったら、装備の重さに耐えられるように、艤装の出力を上げてみたらどう?」
「出力?」
変わった形の缶を持ってきたのは、朧と酒匂。
首を傾げる薄雲に対し、朧はそれを艤装にセットしてみると、近くに置いてあった鉄筋コンクリートに手を掛ける。
「よっと!」
『!?』
すると、何とそのコンクリートが軽々と持ち上がるでは無いか。
艦娘は、元々艤装を付けると怪力になるとはいえ、このパワーは異常であった。
「これは「強化型艦本式缶」って言うんだ。機関部を強化する「改良型艦本式タービン」と合わせる事で、艤装その物の出力を上げて、速力を強化する事が出来るんだよ。」
「だ、だとしても、朧さんのその怪力は説明できないんじゃ?」
思わず朧の力に畏縮した薄雲(と岸波達)に対し、朧は腕を曲げる。
すると、結構な力こぶが出来た。
「秋雲ちゃん達に挨拶する時も言ったけど、朧、昔から結構癖で鍛えているんだよね。腹筋も第七駆逐隊の中では自信あるし。」
朧はそう言うと、制服を少しまくって見せる。
確かに自分で言う通り、無駄なぜい肉が無い綺麗で筋肉質な腹筋が見えている。
この筋肉が艤装で強化されて、あのような芸当が出来たというのだ。
「ぴゃあ………阿賀野ちゃんもちょっと見習わないとね。」
「酒匂、どういう意味?………でも、この方法ならば確かに速力低下は避けられるわね。ロケットランチャーは、撃ち尽くしたら捨てればいいんだし。缶とタービンは、他のみんなも付けてみたら?」
「涼風先輩、借りてもいいのでしょうか?」
「まあ、大湊を守る為だしな!女に二言はねぇ!おまけも含めてもってけドロボー!」
涼風の許可を貰った事で、第二十六駆逐隊の面々は、何と6人分+1人分の缶とタービンを貰ってしまう。
「ついでだ。薄雲はこれも持っておきな。」
「これは………コンバットナイフ?」
「岸波曰く、最終手段は接近戦なんだろ?だったら、こういうのも必要になるんじゃないのかねぇ?」
「分かった。とりあえず付けとくね、ありがとう!」
薄雲は制服のポケットにナイフを仕舞う。
そして、噴進砲は駆逐艦でも装備できるタイプである、手に装着出来る物を選別して貰う。
それでも元々の大きさと合わせて、重装備(フルウェポン)のような姿になった。
「秋姉に見せると絶対にスケッチしようとするわね。とにかく、新装備の感覚を試してみましょう。」
こうして岸波達は、翌日、訓練海域で強化された艤装のチェックをする事になる。
――――――――――――――――――――
「うわあ!?艤装が嬉しそうな声を上げている!?イヤッホー!」
「望月………急にテンション上がり過ぎ………。でも、本当に凄い………!」
「何かアグレッシブになったような気分!舞風、くるくるー!」
「あまり調子に乗ったらダメよ。速力が上がった分、艦隊運動等はより繊細さが求められるんだから。付いて来て、薄雲。」
「はい!この装備を使いこなして、みんなの練度に追いつきます!」
早速、大湊で朝練を始めた岸波達は、薄雲や朧も交えて6人で訓練を行う。
出力の上がった艤装は、想像以上に艦娘達の動きを良くしてくれるが、その反面、慣れるまでは衝突寸前になる等、危ない場面も幾つかあった。
別の海域では、鳥海率いる艦隊と、神鷹をリーダーにした艦隊も訓練を行っている。
艦隊全体の速力の関係で、岸波達の艦隊は、その中でも特に目まぐるしく動いているようであった。
「アンタ達、本当に怖い物知らずね。それだけ速力が上がると色々と大変でしょ?」
これは昼休憩での曙の言葉。
彼女から見たら、目まぐるしく動き回る岸波達の訓練は相当恐怖を煽られる物であるらしい。
まあ、それで怯んでいたら駆逐艦娘失格ではあるのだが。
「ぼの先輩達も装備してみたらどうです?」
「駆逐隊とかだったら装備するわよ。でも、あたし達の艦隊には今、戦艦の扶桑さんと山城さんがいるもの。下手に速くなり過ぎたら陣形を保てないわ。」
「高速戦艦もいるにはいるけれど、私達は防御力と速力が無いのよねぇ、山城。」
「無い物ねだりをしても仕方ないですよ、姉さま。その代わり、攻撃面では期待して。」
「ありがとうございます。神鷹さん達は………?」
「私が実はあまり速力が無いんです………。だから、潮さん達が、私を守る形になってしまって………。」
「大丈夫ですよ。敵艦の攻撃は阿賀野さん達が増設バルジで防いでくれますから、遠慮なく夜偵を飛ばしてください。」
何気ない会話だが、こうやってお互いの艦隊の特徴を掴んでいく。
こうする事で誰がどういう動きをして、どんな支援が出来るのかを把握する事が出来るのだ。
午後も訓練をした後、夕食の時にまたお互いの動きを確認して、夜間訓練を行う。
こうして程よい疲れを感じた後、岸波達は眠りに付く事になった。
――――――――――――――――――――
「う………うう………。」
「………ん?」
その日の夜中、岸波は呻き声で目を覚ます事になる。
見れば、薄雲が大量の汗を流しながらうなされているでは無いか。
「薄雲!しっかりして!」
慌てて同部屋の住人の覚醒を促した岸波は、ハッとして起き上がった薄雲の顔を見る。
彼女は荒く息を吐くと、岸波の袖を何とか掴み言う。
「く、来る………。」
「え?」
「深海棲艦の艦隊が………深海千島棲姫が………大湊に向かって来る!」
その発言を皮切りに、大湊警備府は、急に慌ただしくなった。