「新米ノ癖ニ………!失セロ!!」
深海千島棲姫は薄雲に対して、再び首根っこを掴もうと飛び掛かって来る。
薄雲の手には、主砲も魚雷も無い。
だが………。
「まだ、これがある!」
「ナ!?」
薄雲は咄嗟に12cm30連装噴進砲を左手で構え………計30発の対空迎撃用のロケットランチャーを全弾一斉に発射して、深海千島棲姫に直撃させていく。
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
幾ら対空迎撃用の小型の物とはいえ、流石に30発のロケットランチャーを全身に撃ち込まれれば、相当のダメージになる。
飛び掛かろうとした深海千島棲姫は、その噴進砲の雨をまともに受けてしまい、全身から煙を噴き上げながら転がる。
「後は………!?」
「薄雲………!」
声に薄雲が振り返ってみれば、倒れていた岸波が何とか身を起こし、自分の連装砲を投げつける。
「岸波さん!?」
「それで………自分の手でケリを付けて!」
「はい!」
「オ前ハーーーッ!!」
前を見たら、起き上がった深海千島棲姫の傷が再生すると共に、目が見開かれ、真っ赤に肌が染まる。
そして、手持ちの単装砲と魚雷を乱射してくるが、薄雲も空になったロケットランチャーを捨てて軽くなり、機動力を活かして避ける。
「アアアアアアアアッ!」
「たあああああああっ!」
自分の存在を賭けた、初代薄雲と2代目薄雲の激しい戦いが始まった。
――――――――――――――――――――
一方、レ級達と対峙していた山風・望月・朧の3人は、魚雷等を使い果たした事で、追い込まれていた。
ル級2隻とネ級2隻はそれなりにダメージを与えていたが、レ級は回避能力も高く、文字通りピョンピョン跳ねていた。
「何か………良い物があれば………。」
「やっほ!どうやら苦労してるみたいだね!」
「お、阿賀野さん達じゃん!そっち片付いたの~?」
「うん!夜偵が全滅したから神鷹さんは下がらせたけど、これ貰って来たよ!」
酒匂の言葉に見てみれば、それは薄雲も装備していた、左手で撃ち出すグリップ付きの12cm30連装噴進砲。
それを見た望月は1つ突破口を見出す。
「山風、もしかしたらイケるかも!?」
「待って!?残弾数10発しかないよ!?そもそもロケットランチャーなんかでレ級が吹き飛ぶの!?」
「そこは頭を使ってだね………。」
直接、朧と山風に耳打ちをすると、望月は他の艦隊の戦力を再確認する。
岸波は脳震盪を起こしているみたいで、まだ動けない状態だ。
こういう時こそ、補佐の力を発揮する場面だった。
「こちら鳥海!扶桑さんと支援出来る距離に入ったわ!曙と漣は突撃できるって!」
「ほいほい!じゃあ、潮と秋雲と風雲と一緒に、ル級とネ級どうにかしてよ。」
「こちら風雲!レ級は3人で大丈夫なの!?」
「ちょっと思いついた事があってね。ま、何でもやってみるべきかなって!」
「分かったわ。じゃあ、山城達の分もぶっ飛ばしてね。」
「了解~!じゃ、朧!」
「OK!」
扶桑達の砲撃が一斉にル級とネ級に炸裂し始め、レ級と分断される。
勿論、それだけで怯むレ級では無いが、朧が執拗に連装砲で砲撃を始める。
レ級は今までと同じようにバク転で華麗に回避していくと、海に這いつくばり、尻尾を振り上げる。
「望月ちゃん!」
「そ~れっと!」
望月は右腕の装甲版の裏から照明弾を取り出すと、レ級に投げつける。
「レ!?」
それは完全に油断しきっていた深海棲艦の顔面にヒットし、爆発的な光を巻き起こす。
目くらましになったのを確認した望月は、敢えて山風に口頭で叫ぶ。
「今だ!山風!!」
「両舷一杯!」
「レガ!?」
山風が接近するのを感じたレ級は、大きく尻尾の口を開く。
それは、魚雷発射のポーズ。
だが、そこで山風は急ブレーキを掛けて、肩に掛けて紐を垂らしていた、12cm30連装噴進砲のグリップを握り、残弾を全て発射する。
沢山の魚雷を蓄えた、その巨大な口に………。
ドゴォオオオン!!
「レギャアアアアアアア!?」
ここで初めてレ級の絶叫が響く。
ロケットランチャーが、尻尾の中のレ級自身の魚雷の信管を作動させて、派手に誘爆させたのだ。
それを確認した上で、山風は再度肉薄し、隙だらけになったレ級の頭に連装砲を突き付ける。
「レ………?」
「貴女も………沈む?」
「レガアアアアアアアアアッ!?」
そのまま冷たい目で見下した山風が、トリガーを引いて連装砲の弾を撃ち込みまくり、レ級を沈めていく。
3つの艦隊を苦しめた強敵がやっと倒れた。
その様子を遠目で見ていた扶桑が、驚いた様子で通信をしてくる。
「まさか、本当にぶっ飛ばすなんてねぇ………。」
「望月………、本当にいつも真面目なら、優秀な補佐なのに。」
「夜が怖いって言っている癖に、冷徹にトリガーを乱射する山風も相当な物だと思うけどな~。さて、後は………。」
「あの戦いは………どうしよう?」
とりあえず、舞風と共に岸波を引っ張って回収してきた朧は、彼女に問う。
「邪魔は………出来ないわね。」
ひたすら闘志を燃やしながら激突する1人と1隻の様子を見て、岸波は頭を何とか動かしながら呟いた。
――――――――――――――――――――
「はああああああああ!」
艤装を常に最大船速で動かしながら、薄雲は深海千島棲姫に挑んでいく。
装備は魚雷がある分、敵艦の方が上だ。
だが、艤装を強化した分、スピードでは薄雲の方が上だった。
ひたすらに攻撃を避けながら、岸波から渡された連装砲をどんどん叩き込んでいく。
再生能力は、先程のロケットランチャーによって奪われたのか、傷は回復しない。
だが、その分戦意が満ち満ちていた。
「許サナイ!私ノ名前ヲ………奪ッテ!!」
(この深海千島棲姫………いや、初代薄雲さんは………。)
戦いながら薄雲は思う。
深海棲艦は「薄雲」の名前を奪われた事を恨んでいた。
自分に返せと叫んで薄雲に襲い掛かった。
(思えば、散々だったから………。)
その辛さは、薄雲が夢の中でずっとシンクロしていて味わっていた。
手足を食い千切られながら轟沈して、深海棲艦としても教え子達に1度沈められて、そして今度は………。
(でも、だったら猶更もう譲れない………!)
薄雲は、射出されそうになった深海千島棲姫の右腰の魚雷を撃ちぬく。
悲鳴を上げる敵艦に対し、容赦なく左腰の魚雷も撃ちぬく。
(終わらせる………因縁を………この人の悲しみと苦しみを!)
敵艦が、燃えるような瞳で単装砲を構えて突撃してくるのを見た。
連装砲の残弾を密かに確認して、残り僅かだと悟った薄雲は、敢えて真っ向勝負に出る。
「沈メ、薄雲ーーーッ!!」
「この想い、届いてーーーっ!!」
艦娘と深海棲艦。
2つに運命が分かれてしまった娘達の想いを込めた一撃が必中の距離で炸裂する。
しばらく1人と1隻は、至近距離で互いの顔を見合わせたまま固まっていた。
「う………。」
先に倒れたのは薄雲。
見れば、左腰に単装砲が炸裂しており、血が流れていた。
しかし………深海千島棲姫は………。
「ア………。」
首の左から血を流して仰向けに倒れる。
急所を砲撃された事で、手に持っていた単装砲が滑り落ち、赤く染まった肌も再び元に戻る。
「……………。」
何かを呟く深海棲艦を見て、薄雲は起き上がり傍に屈みこむ。
深海千島棲姫は、ゆっくりと手を掲げて薄雲の頬を触ると、涙を流しながら彼女に小声で何かを呟いていく。
薄雲も、静かに涙を流すと何かを伝えた。
そして、急いで近くに集まってきた朧・曙・漣・潮の第七駆逐隊の面々を見ると、少しだけ微笑み………ゆっくりと目を閉じて沈んでいった。
「………薄雲、深海千島棲姫………いえ、先輩は何を言っていたの?」
「……………。」
曙の言葉に、薄雲は涙を拭いながら呟く。
「名前を………艦娘でなく、人間としての本名を交換したんだ。………私の事、ずっと覚えていて欲しいって。」
「……………。」
「そして………感謝していたよ。教え子の………第七駆逐隊の皆さんの事………。」
「……………。」
薄雲の言葉に、自然と曙達4人の瞳から涙が出て来る。
これで良かったはずなのに………それでも、やり切れない想いがあったからだ。
「………初代「薄雲」の魂に、敬礼。」
深海千島棲姫が沈んだ海を見ながら立ち上がり、肘を曲げ、指をこめかみに付ける薄雲を見て、自然と集まって来ていた艦娘達が、全員同じように敬礼をする。
艦娘としての負の側面を背負いながら殉職した、駆逐艦娘「薄雲」。
その想いが今………戦いを通して、新たな薄雲に引き継がれた。
――――――――――――――――――――
大湊に戻った岸波達は、いつものように船渠(ドック)入りをして高速修復材(バケツ)を使う事になった。
その後、派手にパーティを開いて祝う事になったが、岸波達は元々命令違反で来ている事もあり、海戦を共にした仲間達と別れて横須賀に戻る事になる。
帰りは涼風が、列車を手配してくれた。
「また、大湊に遊びに来てくれよな!みんな待ってるし!岸波達なら大歓迎さ!」
わざわざ忙しい上にパーティがあったのに、駅まで見送りに来てくれた秘書艦涼風の人の好さに感謝しながら、岸波達は大湊を立つ。
曙や漣を含めた鳥海の艦隊は、帰りに寄りたい所があるらしく、海路を使うらしい。
「アンタ達には、いつの間にか借りを沢山作っちゃったわね。」
そう曙が言っていたのを、岸波は思い出す。
思えば色々な人々に導かれ、岸波も大きく変わった物だ。
そして、岸波の影響を受けて、また周りの人々も変わっていく。
その流れが、第二十六駆逐隊という艦隊を作り出しているのかもしれない。
「………ねえ、岸波ちゃん。」
「何ですか、朧先輩?」
「あ、名前戻ってる………。」
「第二十六駆逐隊に在籍したのは一時的ですよね?」
「それなんだけどさ………正式に転属したらダメ?」
「………第七駆逐隊は?」
「実は3人には相談済みで………。」
どうやら、曙達からは許可を貰ったらしい。
しかし、岸波にしてみたら、折角第七駆逐隊との絆が良くなって来ているのに、何で第二十六駆逐隊に移るのか分からなかった。
そこに関して、朧は説明を始める。
「今のままじゃ………沈んだ先輩に顔向け出来ないからさ、アタシ。」
「過去の事ですか?」
「うん………。アタシも、前を向かないといけないって思ったから………。でも、どうすればいいか分からなくて………。もしかしたら、岸波ちゃんの所ならば、変われるかもしれないって考えて………。」
「ハッキリ言いますけれど、嚮導艦である私も似たような物かもしれませんよ?」
「だからこそ、一緒に歩みたいかなって。………お願い!」
手を合わせて頼み込んでくる朧を見て、岸波は嘆息する。
周りを見渡してみると、舞風は素直に喜んでいて、山風は相変わらずちょっと戸惑っていて、望月は眠るふりをして実は片目を開けて見ていて、薄雲はちょっと嬉しそうな笑顔でいた。
要するに、各々反応は違うが了承しているという事だ。
「分かったわ、見つかるかは分からないけれど………答えを一緒に探しましょう。」
「ありがとう!これからもみんな、宜しくね!」
手を掴みぶんぶん振る朧に対し、岸波は穏やかな笑みを見せる。
こうしてまた1つ、みんなが変わっていくのだろうと感じながら。