艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第30話 ~大切な………~

「止めさせて貰うわよ!」

「邪魔しないで!」

「手出ししないでください!」

 

まず、岸波と薄雲が、それぞれ朧と初霜に後ろから飛び掛かり、押さえ込もうとする。

しかし、朧はそのまま怪力で岸波を投げ飛ばし、初霜は薄雲の腹に肘を叩き込む。

山風は朧の後ろから足払いを仕掛けるが、踏ん張られると回し蹴りを喰らう羽目になる。

望月は初霜に体当たりをするが、防御されると殴り飛ばされる。

舞風は思い切って2人に対し、左右のアームをぶん回しながら回転して突撃をするが、同時に捕まれると思いっきり放り投げられる。

とにかく朧は艤装が強化されている事もあってパワーが違い過ぎるし、初霜はその朧に対等に渡り合える位のスピードとテクニックを持っている。

5人がかりでも、押さえ込む事は不可能だった。

 

「………っ!」

「ちょ、岸波!?何、連装砲持ってるの!?ペイント弾でもそれはヤバいって!?」

 

歯ぎしりをしながら主砲を手に取った岸波に舞風は思わず青い顔をする。

一方、頭に血が上った岸波は、薄雲に叫ぶ。

 

「薄雲!肩から紐で垂らした12cm30連装噴進砲には、今模擬弾が入っているわよね!?」

「え!?確かに大湊から装備しているし、ちゃんと模擬弾に切り替えているけれど………!?」

「ぶっ放せ!」

「模擬弾でも痛いよ!?」

「それ位やらないと、あの2人の頭は冷えないわ!」

「お、落ち着いて!岸波がヒートアップしたら、もう止められないって!」

 

舞風が思わず岸波を止めに入るが、彼女からしてみれば、何としても止めてやるという、半ば意地になっている部分もある。

だが、そこに………。

 

「お願いだから!もう止めてーーー!!」

『!?』

 

大声が響き渡った事で、朧も初霜も、岸波達も、そしてギャラリーも動きが止まる。

振り返れば、そこには早霜が立っていた。

涙を流しながら………彼女は訴えていた。

 

「お願いだから………!お願い………だから………!」

「早霜………ちゃん………?あ………。」

 

その悲しむ様子を見て、呆然としていた朧は、やがて自分の手をわなわなと震わせながら見る。

散々相手や仲間達を殴り飛ばした自分の手を………。

 

「変わってない………、アタシ………。」

 

すると、朧もポロポロと涙を流し始める。

 

「アタシ、アレからやっぱり全然………、変われてないよぉ………!」

 

怒りに任せて散々殴りつけてしまった事に悔恨を感じた朧は、顔を押さえ膝を付き泣き出す。

初霜も、散々暴走してしまった自分の行いを悔い、歯を食いしばっている。

ようやくケンカが収まったのを確認した岸波は、自分の頭を軽く数回叩いて、憤怒に支配されかけたのを反省すると、望月に何が起こったのかを聞く。

 

「岸波流で強い艦娘と訓練をした方がいいって事で、今日は初霜を招いたんだ。」

「それがどうして大ゲンカに発展するの?」

「まあ、順番に説明するからさ。………どうやら、初霜は横須賀に来る前は、ブルネイ泊地で秘書艦やっていたみたいなんだよ。」

「秘書艦?早ちゃんや巻姉と同じ出身って事?」

「うん………しかも、そこの司令官とケッコンカッコカリしているみたいで………。」

「ケッコンカッコカリ!?」

 

これは、前に鳳翔から聞いた事のある話だ。

艦娘と提督が、永遠の契りを結ぶ行為を、一般的にケッコンカッコカリと言う。

しかし、それだと初霜がその提督と別れて横須賀に出張している理由が分からない。

 

「それが、初霜は断った………いや、正式には保留にしたんだ。」

「想いを受け入れなかったって事?」

「これには、初霜の「艦」の記憶が関わっていてね。ずっと仲間が轟沈する記憶ばかりしかないから、今はその仲間達を助ける日々に従事したいんだってさ。だから、指輪を貰いながらも、ケッコンカッコカリは保留にしちゃったんだ。」

 

岸波は、改めて初霜を確認する。

良く見れば、彼女はペンダントにして指輪をぶら下げていた。

それは、綺麗に輝いており、大切に取ってあるのだと理解できた。

 

「でも、そこで朧がキレたんだよ。愛してくれる人がいるのに、何で想いを受け入れてあげないのかって。そしたら初霜もカチンと来ちゃってさ。貴女には関係ない話だっていう事で2人が口論になって、そして………。」

「乱闘に発展しちゃったのね………。」

 

確かに初霜からしてみれば、他人にとやかく言われる問題では無いだろう。

だが、皆の推測が正しければ、朧が初霜を許せなかった理由も何となく分かる。

多分、彼女は………。

 

「とにかく訓練は中止。今日は座学に切り替えましょう。」

 

とてもでは無いが、このまま訓練を続行する事は出来ないと思った岸波の提案によって、第二十六駆逐隊は、トボトボと訓練海域から引き揚げていく。

 

「ごめんなさいね、初霜先輩。」

「いえ………こちらこそ申し訳ありません。」

 

最後に訓練海域に立っていた初霜に岸波は謝罪をした上で。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その日の夕方、一応提督や大淀に事の顛末を報告した岸波は、厳重注意を受けた。

仕方ないとはいえ、指揮下に置いている艦娘が暴走したのだ。

嚮導である岸波の責任でもある。

部屋に戻って来た岸波は、第一次士官室(ガンルーム)で食事を取って風呂に入ろうとするが、その前に部屋の中で舞風が待っていた。

 

「ねえ、岸波。さっき朧が来てね。風呂を済ませたら岬に集まって欲しいんだってさ。」

「岬って墓地の隣の所よね?」

「うん、他の第二十六駆逐隊の面々と、初霜さんにも声を掛けたみたい。」

「………分かったわ。」

 

多分、何か心の中で決心した事があるのだろう。

そう感じた岸波は急いで食事と風呂を済ませ、星々が見えている岬へと向かう。

舞風の他に、望月・山風・薄雲、そして初霜が集まっていた。

そして、夜風が気持ちいい岬には、朧が寂しそうな笑顔をしながら立っていた。

 

「昼間はみんなゴメンね。特に初霜ちゃん………人の事情も知らず、勝手な事ばかり言って………。」

「いえ………私こそ、我を忘れてしまって………ごめんなさい。」

「ねえ、朧………あたし達を呼んだって事は………過去を話す決心が出来たの………?」

「うん。………でないと、本当に前に進めないと思って。」

 

山風の質問に朧は頷く。

彼女は、自分の胸に手を当てると話し出す。

 

「アタシね………旧宿毛湾泊地の秘書艦やっていたんだ。それで………その時の2代目提督と、ケッコンカッコカリしていたの。」

 

初霜を含め、特に驚きの声は上がらなかった。

ずっとその提督の墓参りをしていた事は横須賀中に広まっていたのだから、誰でも予測は立てられた。

それだけ、大切な人物だったって事も。

 

「やっぱり、そこはみんな分かっていたんだね。」

「ええ。………でも、他に何を貴女は抱えているの?」

 

岸波は問う。

それだけでは早霜の不調等は説明できない。

朧には、まだ秘密があるのだと感じていた。

 

「実はね………あの人とケッコンカッコカリをしてからも思い出作り、いっぱいしたんだ。」

「思い出作り?」

「そう………えっと………。」

 

急に朧が赤面をするのを見て、岸波達は奇妙な物を感じた。

彼女は自分の胸に置いていた手をそっと………お腹の方へ移動させた。

 

「え!?朧さん、まさか………!?」

 

いち早くその事情を悟った薄雲が驚く。

岸波達も朧の告げたい事を見抜き、目を見開いた。

 

「アタシ………あの人の子供、産んだんだ。」

『……………。』

 

一瞬、岬に夜風が吹き、静寂に包まれた。

朧以外の面々は、文字通り絶句せざるを得なかった。

艦娘が提督と永遠の契りを結ぶ事は、一般的に知られている話だ。

だが………まさか、その提督と子供を持つ艦娘がいるなんて、誰も思っていなかったからだ。

 

「えっと………可能なんだ?」

「うん………妊娠が発覚した時は、アタシ達もビックリしたっけ。」

「しょ、証拠はあるの!?あたし達に説明できる範囲で!」

「あの人はアタシの腹筋を間近で見た時、とても綺麗だって言ってくれたよ。」

『……………。』

 

舞風や望月の質問に答えていく朧の姿を見て、岸波達は再び絶句する。

これは、もう疑いようが無い。

朧は、第2代宿毛湾泊地提督の子供を産んでいたのだ。

 

「流石にそこまでは予測出来なかったみたいだよね、みんな。」

「予測も何も………これまで、前例が伝えられていませんでしたから………。」

「多分だけど、情報統制を敷いていたんだと思う。ほら、艦娘が子供を作れるって話が広まったら色んな意味でショックだし。」

「……………。」

 

急に大人びて見えて来た朧の説明に、初霜を始め皆は考え込む。

恐らく朧の子供に関する事情を知っていたのは、艦娘に限定すればほんの一部なのだろう。

早霜を始めとした旧宿毛湾泊地に所属していた者に、一番親しい第七駆逐隊の面々。

逆に言えば、それ以外の面々には秘密にされていたのだ。

 

「懐かしいな。赤ちゃんが生まれる時、宿毛湾は大変だったっけ。早霜ちゃん達は準備に必死だったし、ぼのぼの達は慌てて応援にやってくるし。………そんなみんなの力のお陰で生まれたのが、たまのような女の子だったんだ。」

 

夜空を見上げながら朧は、目を細める。

当然ながら、岸波達は出産をした事が無いので、彼女の気持ちを正確に理解する事は出来ない。

だが、朧にとっては本当に大切な思い出なのだろうという事は、理解できた。

 

「朧………。貴女は、前に私に前に言ったわよね。怠惰艦になる前は、本当に幸せな時間を送っていたんだって。それが貴女の経験に基づくものであるのならば………。」

「あの人は提督業で大変なのに、アタシと子供を一生大切にするって言ってくれた。その言葉を聞いた時、とても嬉しくて………世界一幸せ者なんだなって思った。アタシは不安だらけだったけれど、この人と娘を一生愛していこうって決めたよ。」

「……………。」

「ぼのぼの達は、艦娘から退役する事を勧めてくれたっけ。アタシは改二艦じゃないから、今の内ならば普通の人間に戻れるからって。」

 

少しだけ過去を思い出して、幸せそうに笑う朧。

本当に彼女は沢山の大切な人達に囲まれて、思い出を作っていたのだ。

それこそ、岸波が過去を思い出してしまう位に。

だからこそ………。

 

「朧………貴女は私にこうも言ったわよね。それを突如理不尽に壊されたんだろうって。宿毛湾泊地は………。」

「………岸波ちゃん達は、フラッグシップ級のレ級って知ってる?」

「フラッグシップ級………?」

 

振られた話に、思わず全員、知識量が豊富な望月の方を見るが、彼女は首を横に振る。

一般的に深海棲艦のエリート級は赤く、フラッグシップ級は黄色に輝いているのが特徴で、後者になればなるほど強力になる。

しかし、レ級はこの間大湊で見かけたエリート級までしか、一般的には知られていない。

尤も、その海戦能力の高さは、岸波達は十分肌で感じてきたが………。

 

「昔の泊地には、中々戦力を回す余裕が無くてね………タイミングによっては、ほとんどの艦娘が出払っている事もあったんだ。そんなある日………退役の書類を準備していたアタシと、早霜ちゃんだけが泊地に待機していた時に、あのフラッグシップ級のレ級が襲い掛かって来たの。」

 

幸せそうな顔から一転、声のトーンを落として遠い目で空を見つめる朧に、岸波達は想像してしまう。

エリート級ですら、たった1隻で百戦錬磨の艦娘達を手玉に取ったあのレ級だ。

駆逐艦2人でどうにか出来るとは思えない。

 

「そこからが………悪夢のような時間の始まりだった。」

 

朧の声は、不気味な程静かで落ち着いていた。

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