艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第31話 ~理不尽な破壊~

無意識の内に身構える岸波達に対し、朧の過去話は続く。

 

「魚雷………砲撃………爆撃機………。あのレ級は、ありとあらゆる手段でアタシ達の思い出の地を破壊し始めた。」

「そんな中で………どうしたの?貴方達は………。」

「嘗てない脅威をもたらす敵深海棲艦の姿を見たあの人は、私に赤ちゃんを連れて逃げるように言ったんだ。敵艦は、提督である自分を狙っているだろうからって………。」

「早ちゃん………早霜は………?」

「心配するアタシを安心させる為に、提督を守るって言ってくれたの。最後に分かれる際に、あの人はアタシに何度も愛してるって言ってくれた。アタシの………人間の本名を名乗ってくれて。」

 

朧は竹を編んで作った籠に赤子と………お守り代わりに箱にしまった自身の指輪を入れて必死の思いで泊地から逃げたらしい。

だが………。

 

「爆撃機の猛威は、逃げるアタシ達にも襲い掛かった。何とかアタシは逃げようとしたけれど………結局、爆撃を受けちゃって………気を失っちゃったんだ。」

 

朧は下を見つめる。

辛い過去を思い出して、涙を流しているのだろうか。

それでも空をもう一度見上げると、再び告げる。

 

「気付いた時、アタシは洋上に浮かんでいた。子供と指輪の入った籠は………消えていた。」

 

消え入るような声を聞いて、思わず舞風が両手を口に当てる。

何となく予想出来ていたとはいえ、やっぱり実際に事実を聞いてしまうとショックであった。

朧の独白はまだ続く。

 

「頭が真っ白になったアタシは………、残骸になった泊地へと戻った。そして、そこで何かに憑かれたように、愛するあの人を必死に探した。でも………見つけたのは、腰を抜かしていた早霜ちゃんと………変わり果てた姿のあの人だった。」

 

制服や艤装によって砲撃に耐性を持つ艦娘と違い、提督は生身の人間だ。

爆撃1発で原形を保てなくなる。

その娘と指輪を失った矢先に、愛する者の衝撃的な姿を見た、朧の当時の心境は想像を絶する物だろう。

 

「早ちゃんは………貴女の夫を守れなかったのね。そして………。」

「横須賀から慌てて応援に来たぼのぼの達が見たのは、怒りに任せて涙を流しながら、邪鬼のような形相で早霜ちゃんを殴り倒している、アタシの姿だったんだって。そして、我を忘れていたアタシは、ぼのぼの達にも襲い掛かったみたい。」

 

何で大切な人を守ってくれなかったのか。

何でもっと早く来て助けてくれなかったのか。

理不尽だが、当時の朧からは、理性が吹き飛んでいたのだ。

実際、屈強な艦娘であっても、この結末はあんまりであった。

 

「………以上が朧の昔話。アタシが………ずっとみんなに黙っていた過去。」

『……………。』

 

やっと全てが分かった。

朧が、ケッコンカッコカリをしているにも関わらず、指輪を持っていない事も。

朧が、曙を始めとした第七駆逐隊の面々と、関係がこじれていたのも。

朧が、岸波の過去を何となく察する事が出来たのも。

朧が、レ級が大嫌いであるのも。

朧が、極度の精神不調や体調不良を起こしていたのも。

そんな朧に対し、早霜が負い目を感じていたのも。

そして………、朧が、未だに過去を振り切る事が出来ないのも。

 

「朧………。」

「ゴメンね………辛気臭い話で。」

「そんな………事………。」

 

岸波も、舞風も、望月も、山風も、薄雲も、初霜も、みんな何も言えない。

昼間のケンカを受けて、何かしらの形で朧の力になれればいいと思っていた。

だが………、今の朧の話を聞く限りでは、とてもじゃないがそれは無理だ。

安易に過去を忘れろ………なんて言葉も使えるわけがない。

 

「ゴメンなさい、朧………。私は………私じゃ………。」

「岸波ちゃん達が、気にする事無いよ。只、ケジメとして話しておきたかっただけだから。でも………どうしようかな、早霜ちゃんを縛っているのは、どうにかしたいな………。」

 

朧は、涙を流しながら空を三度見上げる。

夜空の星は寂しく輝いており、夜風は初夏なのにいつも以上に冷たく感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌日、第二十六駆逐隊は、前日の分を取り戻す為に早朝から訓練を行った。

朧の気を紛らわせる為という理由もある。

あの凄惨な話があった後だからか、珍しく望月も山風に引っ張られるわけではなく、自発的に歩いて訓練海域にやって来た。

一方初霜は、その日は休暇であったので、第一次士官室(ガンルーム)に向かう途中の廊下で出会った、吹雪と深雪と一緒に朝食を取る事になる。

 

「初霜ちゃん、何かあった………?」

「え!?」

 

食事中に問いかけてくるのは吹雪。

どうやら、初霜は無意識の内に溜息を付いていたらしい。

 

「昨日、珍しく朧とケンカしたんだろ?何か引っかかる事でもあるのか?」

「い、いえ………大丈夫です。心配してくれてありがとう。」

 

そのケンカしていた場所にいたのか、左上を向いて箸を回しながら、思い出すように言う深雪に対し、初霜は曖昧に答える。

流石に、朧の過去に関して、安易に話題に出すわけにはいかない。

だが、とてもじゃないが平静を保てる程、昨日の話は軽い物では無かった。

 

「………私は。」

「ん?アレは早霜か?」

 

深雪の指摘に初霜が振り向くと、食事のトレーを持ってうろうろとしている艦娘がいた。

どうやら席が埋まっているらしく、早霜は座れないらしい。

 

「あのままじゃかわいそうだから、こっちに呼ぶね。いいよね、初霜ちゃん。」

「あ、はい。」

「おーい、早霜!こっちに来いよ!」

 

深雪が声を掛けると、早霜はビックリした様子でこちらを見る。

そのまま固まってしまったので、吹雪が席を立ち、連れて来る。

そして、初霜の隣に座らせる。

 

「あ、ありがとうございます………。」

「あの、早霜さん。昨日はごめんなさい。貴女を困らせてしまって。」

「謝らないでください。私が勝手に大声を出しただけですから………。」

 

初霜の謝罪に対し、早霜は静かに首を振る。

今の彼女は、心を閉ざしがちだ。

昨晩の朧の言葉もあって、早霜をどうにかしたいと初霜は思ったが、方法が思いつかない。

ところが、そこで吹雪がポンと手を叩く。

 

「ねえ、早霜ちゃん。私達、今日は休暇なんだ。良かったら一緒に鎮守府を周らない?」

「え?でも、鎮守府旅行は、横須賀に転籍してきた時に、陽炎さん達に………。」

「その頃から随分、在籍している艦娘のみんなの顔ぶれは変わっているんだ。本当は朧ちゃん達と行くのがいいと思うんだけど、なんか会うのを怖がっているみたいだから………。」

「ええ………。でも、それだと3人の休暇が………。」

 

自分の為に折角の休暇を潰していいのか?と早霜は言いたかったらしいが、深雪がニカニカ笑うと言ってくる。

 

「遠慮するなよ。深雪さま達にとっても気晴らしになるし。こういう時は甘えておくもんだぜ。」

「は、初霜さん………。」

 

思わずこれでいいのか?と見て来る早霜の弱々しい視線を受けて、初霜はニコリと笑う。

 

「私も賛成です。色んな艦娘に会っておけば、困った時に力になってくれるかもしれませんから。狭い世界に閉じこもっているよりは、そっちの方がいいわ。」

「分かりました………。じゃあ、一緒に付いていかせて下さい。」

 

少しだけ嬉しそうな顔をした早霜を見て、初霜はこっそり吹雪達にだけ分かるように頭を下げる。

多分、2人は事情が分からないなりにも、初霜や早霜を気遣ってくれたのだ。

それが初霜にとっては非常に有り難かった。

彼女のサインを受け取った吹雪と深雪は、笑みを浮かべて、こっそりと手を振って応えてくれた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

訓練海域では、いつものように様々な艦娘達が訓練に励んでいた。

十人十色の訓練を見ながら、岸辺を初霜・吹雪・深雪・早霜の4人は歩いていく。

 

「各艦!輪形陣に!右方に敵航空機の群れ!機銃………撃てー!!」

「お、アレは朝潮率いる第八駆逐隊じゃねえか。」

「ホントだ、御蔵ちゃんと屋代ちゃんを鍛えているんだね。」

 

深雪と吹雪の視線の先を見てみれば、朝潮の命令で、大潮等の艦娘達が素早く陣形を組み替えていた。

艦隊には、栗色の髪のお団子ヘアの勝気な艦娘と、薄い煉瓦色のふわっとしたセミロングの癖毛が特徴の艦娘が混じっている。

朝潮型3番艦の満潮と4番艦の荒潮だ。

2人共、望月と山風が抜けた後で第八駆逐隊に戻って来た艦娘であり、島風と入れ替わりで大潮が入った事により、これで本来の八駆が揃っていた。

 

「よう!満潮に荒潮!2人共佐世保に行ってたんだろ?どうだった?」

「あら、深雪?………まあ、一応、悪い所じゃなかったわ。只、何故か長月に旗艦の才能がありそうだからって、色々な睦月型と組まされたけど。ホント、信じられなかったわ。」

「うふふふふっ。それよりも、大潮ちゃんに聞いたけど、朝潮ちゃんが大変だったんでしょ?もっと早く横須賀に戻りたかったわ。」

 

深雪の登場に一時的に訓練を中止して答えていく第八駆逐隊の面々。

どうやら満潮も荒潮も、佐世保では色々あったらしいが、それ以上にその間に起こった空母棲鬼との戦いの事が気になったらしい。

それもそうだろう。

下手したら、第八駆逐隊の旗艦である朝潮は、一生の後悔を背負わないといけなかったのだから。

だからこそ、横須賀の提督は半ば強引にではあるが、満潮と荒潮を呼び戻したのだ。

 

「もう………2人共恥ずかしいから、あまり掘り起こさないでよ。」

「でも、朝潮お姉さん。望月や山風が帰投した時、号泣していましたよね。」

「そ、それは………!?当然でしょ!?大潮もいつまでも引っ張らないで!」

 

ギャーギャーと第八駆逐隊の面々が騒ぎ出す中で、吹雪や初霜は、海防艦である御蔵と屋代に話しかける。

 

「どう?新しい装備は?」

「はい!凄く使いやすいです!」

「「25mm三連装機銃 集中配備」………。希少な対空兵装を貰ったんですね。」

「この機銃のお陰で、敵の攻撃機にも耐えられるようになりました。」

 

「25mm三連装機銃 集中配備」とは、簡単に言えば艤装に装着する、ハリネズミのように対空気銃が張り巡らされた装備だ。

前と横に向けて三連装の機銃を撃ちまくる事が出来る為、迎撃能力は非常に高い。

貴重な海防艦を沈めていいのか?と提督が上に掛け合って配備させたらしい。

 

「横須賀の提督って、優秀ですよね。」

「私達にセクハラをしたがる所を除けば、かなり考えてくれているよ。」

「それは、それでどうかと思いますが………。」

 

提督の手腕に感心する早霜に対して、吹雪が正直な感想を答える。

現場にいるからこそ、苦労を強いられる艦娘の事を、第一に考えてくれる。

勿論、提督よりも上の存在からの命令には従わないといけないが、それでも出来る限りの譲歩はしてくれていた。

 

「そう言えば、早霜。あんたは横須賀で、何処の駆逐隊に所属してるの?」

「私ですか?まだ、所属は決まっていないですが………。」

「じゃあ第八駆逐隊に入っちゃう?遊撃部隊編成にしちゃえば、7人で艦列を組むことも可能よ?」

「遊撃部隊編成………ですか。」

 

遊撃部隊編成とは、連合艦隊とはまた違った形の、決戦に備えた艦隊の運用方法だ。

警戒陣と呼ばれる特殊な楔形の陣形を組む事が出来る他、輪形陣も、中心の艦に対して周りの6人が六角形に陣取る形になる。

上手く活用する事で、深海棲艦に対して絶大な威力を発揮するが、その分艦娘1人に必要な練度も高くなるのだ。

だが早霜は、嘗て陽炎達、第十四駆逐隊に鍛えられていた事もあり、練度は十分であった。

満潮や荒潮は、そういう所を加味して誘ってきたのだ。

 

「お誘いは嬉しいですが、今はまだ………。」

「大丈夫よ。遊撃部隊を編成するには、まだ御蔵と屋代を鍛えないといけないし、答えは焦ってないから。いつでも来てね。」

「ありがとうございます。この後は何処に行きましょうか………。」

「あ!だったら、今日は休暇を取っているはずの、第二十五駆逐隊に挨拶をしに行ったらどうですか?」

「長波がいる艦隊ですか?そう言えば、あの2人、休みの日は何をしているんでしょうか………?」

「行ってみれば分かるわよ。確か島風も今日はそこに行っているらしいし、場所を教えるから4人で行ってみて。」

 

最後に朝潮達は、初霜達に丁寧にあいさつをすると訓練を再開する。

 

「じゃあ、行ってみますか?」

「はい、お願いします。」

 

初霜が優しく呼びかけると、早霜は頷いた。

その顔は、少しだけ明るさを取り戻していっているようであった。

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