艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第33話 ~7人の戦乙女~

「初霜先輩、既に私達の艦隊は6人で定員が………。」

「遊撃部隊ならば、7人でも組めますよね?」

「そうですが………流石に転属理由を聞きますよ?」

「力になりたいんです。早霜さんや朧さんの!」

「初霜ちゃん………。」

 

真っ直ぐな初霜の言葉に、朧が思わず目を伏せる。

しかし、岸波は簡単には首を前に振らない。

 

「艦隊は3つあるんです。初霜先輩の力を考えると、別の艦隊の旗艦や補佐を務めて貰った方が………。」

「旗艦候補ならば、今衛兵さんを介抱している吹雪さんや深雪さんがいます!これでも対空砲火による航空機の迎撃には自信があります!皆さんを守るのに役立てるはずです!」

「後悔しても………知りませんよ?」

「後悔しません!岸波さんは………私が嫌いですか?」

「ふう………。」

 

岸波は考え込む。

初霜の力は、駆逐水鬼の時の事を考えれば、是が非でも欲しかった。

只、遊撃部隊編成を即興で試す事になるだろう。

仲間達に、負担が掛かるかもしれない。

 

「ねえみんな………。」

「岸波さん、悩んでいる暇は無いよ。」

「薄雲………覚悟はあるの?」

「前に大湊で涼風さんが、強化型艦本式缶と改良型艦本式タービンを7人分持っていっていいって言った時から何となく思っていたんだ。きっと、遊撃部隊を組む事になった時に備えてくれていたんだって。」

「言われてみれば確かに………。」

「それに、これは岸波さんが前に私に言った事。問題は1人の力で解決する物じゃないよね?」

「……………。」

 

第二十六駆逐隊の問題は、第二十六駆逐隊全員で解決するものだ。

思えば朧と派手にケンカをした時から、初霜は既に駆逐隊の一員だったのかもしれない。

岸波は、舞風・望月・山風・朧を見渡す。

 

「他のみんなも覚悟はある?」

「勿論!その為の脳筋訓練!」

「まあ、これでも一応初霜並みのベテランだから艦列は気にしなくていいよ~?」

「咄嗟に対処できなければ………、駆逐艦じゃないし………。」

「アタシは………、初霜ちゃんの意見を尊重したい!ガチンコで殴り合った者同士として!」

 

4人共、既に初霜の加入に同意であるようであった。

その声を聞いて、岸波は少しだけ笑みを浮かべる。

 

「………分かったわ、初霜。その代わり、私達に合わせる為に、缶とタービンを付けて艤装を強化するわよ。ぶっつけ本番で艦隊に付いて来て。」

「はい!新参者ですから、何でも言って下さいね!」

「全く………ベテランの新参者って何よ。でも………、ありがとね。」

 

再び走り出した岸波達は、やがて夜のとばりが降りたころに、装備品保管庫に辿り着く。

保管庫の前では、吹雪・深雪・島風・磯風・長波・朝雲・山雲・夏雲・峯雲が艤装を背負って待機していた。

衛兵は頭を押さえていたが、意識を覚醒させており、何とか起き上がっていた。

岸波は衛兵に頭を下げる。

 

「衛兵さん、大丈夫ですか?ごめんなさい、妹が暴走して………。」

「いや、隙を見せたこっちの責任だ。………とはいえ、やはり駆逐艦はやんちゃな物だ。」

 

衛兵はむしろ、よく気配をあそこまで消せたものだと感心していた。

一方、横須賀の提督は、岸波に対して、その場にいる面々の情報が書かれた紙を取り出して見せる。

 

「とりあえず、駆逐隊は居合わせた面々と、泊地跡の情報を持っている第九駆逐隊を中心に組み合わせたい。残りのメンバーは岸波に任せよう。」

「分かりました。………後3人は欲しいわね。舞風、ひとっ走りして、これを嵐達に渡して来てくれない?」

「「艦隊決戦支援」?嵐、いつの間にこんなの作ったんだ。」

「これで、嵐と野分と萩風も加わるから、駆逐隊を3つ組めるわ。」

 

早速駆逐艦寮に向かった舞風が戻って来るまでに間に、岸波達は艤装の準備を整える。

特に初霜は缶とタービンを交換する事になったので、第二十六駆逐隊の面々で協力して行う。

そうしている内に、舞風は第四駆逐隊の面々を連れて来てくれた。

 

「待ってたぜ、岸波!ようやく1枚目のチケットを切ってくれたか。」

「初っ端から激戦区だから気を抜かないで。装備は最大限整えていって頂戴。」

「おう!」

 

力こぶを作る嵐を始めとした3人も艤装を整える中、岸波は編成を決める。

 

「缶とタービンを強化した第二十六駆逐隊の7人が先行するわ。その後を宿毛湾泊地跡の情報を整理しながら、吹雪・深雪・朝雲・山雲・夏雲・峯雲の艦隊が付いて来て。」

「じゃあ、私と深雪ちゃんは、今は第九駆逐隊ですね!」

「初期艦の吹雪さんが旗艦かー。緊張するわね………。」

 

意気込む吹雪の笑顔を受けて、思わず背筋が伸びる朝雲。

第九駆逐隊の他の面々も、朝雲と同じように緊張した面持ちだ。

何処かのんびりしていそうな雰囲気を持つ山雲だけは、マイペースに笑顔を返していたが。

 

「そして、最後尾に長波・磯風・島風・嵐・野分・萩風の艦隊を。早霜を見つけた時に回収する役目も担ってもらうわね。」

「磯風達は、第四駆逐隊に一時的に編入か。だが、久々に腕が鳴る。」

「長波サマは改二艦として、出来る所、妹に見せてやらないとな!」

「………って、ん?旗艦は長波の方か。まあ、過去の事を考えれば、磯風に信用が無いのは仕方ないが。」

「違うわ、磯風。実は、長姉に「精鋭水雷戦隊 司令部」を持って行って欲しくて。」

 

岸波は、電探に似たような変わった機材を取り出して長波の艤装に装着していく。

「精鋭水雷戦隊 司令部」とは、水雷戦隊の旗艦である軽巡や駆逐艦に装備できる物で、これがあると、深海棲艦の追撃を躱し、大破等をした艦娘を、1人だけ単艦退避させる事が出来る。

つまり、早霜を回収した時、彼女の状態によっては、そのまま逃げさせる事が可能になるのだ。

非常に便利な装備だが、使用できる条件と装備できる艦娘がかなり限られる為に、岸波は、今回は長波を旗艦にしたのだ。

 

「ちなみに初霜も装備できるはずだから、本当は、今だけは第二十六駆逐隊の旗艦を変わって欲しいけれど………。」

「それだと艦隊の皆さんから、文句が出るんじゃないのでしょうか?」

「………というわけだから、みんな腹括ってね。」

 

最後に岸波は、各自が備えた装備等を確認した上で、提督も含めた19人を引き連れて桟橋に向かう。

正直、怠惰艦としてリンガから横須賀に来た時は、こんなに沢山の艦娘達を率いる立場になるなんて、全く予想出来なかったものだ。

 

(本当に変わったわね、私………。)

 

今ならば、ハッキリ言える。

様々な艦娘達との出会いを通して、岸波という艦娘は明らかに変わった。

過去を振り切れたわけでも、清算できたわけでも無い。

でも………確実に一歩一歩前に歩んで行って周りの艦娘達に影響を与えていっている。

だからこそ………。

 

(早ちゃん………何が何でも、貴女は連れて帰るわ。過去から変われる可能性を残す為に………!)

 

先頭で桟橋に立った岸波は、後ろに並ぶ艦娘達をもう一度見渡して、更に提督に告げる。

 

「私らしくない台詞かもしれませんが………行ってきます。」

「呉のヤツには詳細は伝えておいた。どうやら、由良の艦隊も出ているらしい。」

「それは、益々無様な所は見せられませんね。」

「敵の力は未知数だが………必ず20人全員で戻って来い。」

「分かりました。」

 

岸波は大きく息を吸うと、隣に立った吹雪と長波を軽く見て、号令を発する。

 

「第二十六駆逐………抜錨!」

「第九駆逐隊、抜錨します!」

「第四駆逐隊、出るぞ!」

 

勇ましい声が響き渡り、3つの艦隊が単縦陣で出撃していった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌日の明け方………宿毛湾泊地跡は、激戦区と化していた。

敵味方の航空機が飛び交い、様々な艦種が入り乱れる総力戦。

その中を、鬼怒・古鷹・加古・霞・霰を連れて、由良が滑走していた。

 

「数が多いってレベルじゃないわ………ね!特に、あの艦隊!」

 

戦場を縦横無尽に動き回るのは、屈託のない笑みを浮かべる、黄色に輝くフラッグシップ級航空戦艦レ級。

その艦隊には、冷徹な瞳を持つ、最高峰の深海棲艦の重巡と認識されている重巡ネ級改が2隻。

脅威の対空迎撃能力を持つフラッグシップ級軽巡ツ級。

そして、攻撃機をこれでもかという程飛ばすフラッグシップ級ヲ級が2隻入っていた。

他にも駆逐艦、雷巡、輸送艦、潜水艦。

それに巨大な尻尾の上に乗って、長い三つ編みをマフラーのように被った、力強そうな腕を振りかざす集積地棲姫もいたが、由良達が戦って一番厄介だと思っていたのは、間違いなくレ級の艦隊であった。

とにかく動きが素早く、攻撃が急所に当たらない。

 

「レレレ~!」

「この!」

 

正面に回り込んで魚雷を発射しようと、尻尾の口を開いたレ級とネ級改2隻に対し、一斉砲撃を叩き込む由良達。

その内、古鷹や加古の放った砲撃はレ級やネ級改達の尻尾の魚雷に引火して纏めて吹っ飛ばすが、すぐにその尻尾がメキメキと復活していく。

 

「何で再生能力付きの敵がこんなにいるんだろうね?」

「深海棲艦だから………で片づけるしかないんじゃないのかしら?」

 

敢えて肩を竦めてみせる鬼怒の言葉に、由良は適当に答える。

実は、この6隻の深海棲艦は、全て再生能力付きなのだ。

強力な個体が艦列を組む例なんて、由良達は聞いた事が無い。

集積地棲姫も再生能力を持っていた為、かなり敵戦力を削るのに体力と精神力を使った。

 

「そっちは大丈夫?敷波さん?」

「こちら十九駆、全員健在だよ。でも、あんまりみんな、対空砲火は得意じゃないから千歳さんと千代田さんを守るのに必死だけどね。」

 

電探で答えるのは、別の艦隊と戦っていた栗茶色の長髪を黒いリボンでポニーテールにしている駆逐艦娘。

綾波型2番艦の敷波であり、呉から出たもう1つの艦隊の旗艦を担っていた。

 

「敷波、由良さん達を困らせたらダメですよ~?あ、重巡リ級1隻や~り~ま~し~た~!」

「流石ソロモンの鬼神ですね………。軽巡ト級撃沈です!」

「磯波姉さんも凄い!………負けないですよ!駆逐艦ロ級2隻沈めました!」

「みんな燃え過ぎだって………。潜水艦ヨ級爆破っと!」

 

敷波の艦隊には、彼女に似た栗毛の長髪を黒く細いリボンでポニーテールに結い上げた綾波型1番艦の綾波と、黒の長い2本の三つ編みをピンクのリボンで結んでいる吹雪型9番艦の磯波、やや太めの眉に1本の三つ編みを垂らしている吹雪型10番艦の浦波がいた。

この4人が第十九駆逐隊であり、実は全員改二への改造を完了していて、海戦能力は非常に高かった。

 

「千代田。十九駆のみんなが奮闘している内に!」

「はい、千歳お姉!やってやるんだから!」

 

そして、この艦隊には、銀色の髪に凛々しい表情をした千歳型軽空母1番艦の千歳と赤茶色の髪の艦娘である2番艦の千代田が組み込まれている。

彼女達は、右手側に置いた木製のからくり箱のようなものから、マリオネットのようなヒモがくっついた航空機をひたすら発艦させていた。

 

「長月さん、佐世保のみんなはまだ元気?」

「こちらも呉の面々に負けないように猛攻を仕掛けています。火力支援は任せて下さい!」

「文月も、まとめて………やっちゃうよ~?」

 

丁寧に答えていくのは、緑色のセミロングヘアを持つ睦月型8番艦の長月。

小さな軍曹を思わせるこの娘は、曙や霰と同じく、あの第十四駆逐隊にいた事で有名だ。

その長月と関わりが深いのは、膝くらいまである長い茶髪をポニーテール状に纏めた睦月型7番艦の文月。

改二である上に、北のキス島に第十四駆逐隊の面々を助けに行った事もある、実力者だ。

その後ろで、主砲や副砲による支援砲撃をガンガン撃ち出しているのは、妙高型艦娘の4人。

 

「各艦、余裕が出来たら呉の艦隊に対して砲撃支援を!三式弾も活用して!」

「任せてくれ!いい所を見せてやろう!」

「古鷹達にも、負けていられない物ね!」

「全砲門………思い切って開きます!」

 

太眉とパッツンの前髪が印象の1番艦の妙高、左から長く垂らしたサイドテールが特徴の2番艦の那智、黒茶色のセミロングの髪と八重歯がポイントの3番艦の足柄、肩までのボブカットの髪型が拘りになっている4番艦の羽黒。

由良の転籍前の所属である佐世保からの援軍は、指揮系統を担う長月、対空砲火に特化した文月、そして火力支援に特化した妙高型4人という分かりやすい艦隊で構成されていた。

 

「これでも押し切れないなんて敵艦は本当に厄介ね………。あら?」

 

そこで、由良に対し、電探を通して呉からの通信が届く。

現在秘書艦を担当しているのは、陽炎型の雪風だ。

 

「どうしたの、雪風さん?」

「司令官から伝言です!………いいニュースと悪いニュースがあります。」

 

由良は、雪風から伝えられた事を確認すると、冷静に敷波や長月にも情報を拡散していく。

 

「由良さん、何があったの?」

「まず、いいニュース。横須賀からこちらに向けて、岸波さんが率いる駆逐隊が抜錨しているわ。その数19人。」

「悪いニュースの方は………?」

「その前に1人、暴走して飛び出しちゃった子がいるみたいなの。早霜さんなんだけれど………。」

「え………!?」

「早霜が!?」

 

驚いた声を上げるのは霰と長月。

早霜は、第十四駆逐隊が教育した夕雲型の1人なのだ。

だからこそ、今回の暴走を思わず疑ってしまったのだ。

 

「何かの勘違いじゃ………?」

「どうやら、正しいみたいだよ。」

 

由良達は、東の海域から単艦で突撃してくる艦娘を見る。

左手に連装砲を構える駆逐艦娘は、目が吊り上がっており、周りが見えていない。

彼女は………早霜は、フラッグシップ級レ級に突撃していった。

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