艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第34話 ~分かるからこそ~

その頃、岸波・吹雪・長波の艦隊は速力を上げて飛ばしながら、宿毛湾泊地跡へと向かっていた。

一応、その気になれば、艤装を強化した岸波達の艦隊が先行する事も可能であったが、道中での襲撃等のリスクが高かった為、敢えて3つの艦隊で速度を揃えていた。

そんな中、横須賀から長距離通信が、岸波の電探に届く。

 

「再生能力付きが7隻?」

「ええ。由良達の話だと、集積地棲姫の他、フラッグシップ級レ級の艦隊6隻が全てその力を持っているみたい。」

 

近くの呉の提督伝いに横須賀へと電話で伝わった情報が、回り回ってこうして伝わってくるのだ。

流石に再生能力に関しては、朝雲達の第九駆逐隊は知らなかった為、この情報は有り難かった。

 

「重巡ネ級改2隻・フラッグシップ級軽巡ツ級・フラッグシップ級空母ヲ級2隻………レ級の他にも厄介な敵艦ばかりね、なっちゃん。」

「はい………でも、やるしかないんですよね。その為の艦隊ですから………。」

「2人共もっとリラックスしましょう~。海戦の前から力を入れていたら~、疲れてしまうから~。」

 

後ろでは、峯雲や夏雲、山雲が会話を繰り広げている。

確かに山雲の言う通り、海戦前から力を入れ過ぎたらいけないだろう。

だが、嘗てない実力を持っていそうな強敵がいる上に、早霜が暴走している状態なのだ。

決して状況は良いとは言えない以上、全員が彼女のように、豪胆に振る舞えるとは思えなかった。

 

「山雲は力を抜きすぎ。………ゴメンね、私の艦隊こんなので。」

「気にしなくていいわ。それだけ丹力があるのはいい事だから。」

 

気遣ってくれた朝雲に対して、岸波は笑みを向けると、こっそりと無線のチャンネルを第二十六駆逐隊の物に切り替えて、朧に聞く。

 

「………で、貴女は大丈夫、朧?」

「早霜ちゃんが沈んだらって思うと気が気じゃないかな………。特に、敵対するのがアイツだっていうのならば………。」

「現場に急行するまでは、私達を助けに来てくれた、由良達を信じるしかないわね。」

「そうだね。………正直に言えばアタシ、今は復讐とかそんな感情、余り沸いてないんだ。むしろ、また大切な人達を奪われるって思ったら………。」

「だったら、今度こそ守ってみせるって想いを持って行きましょう。その為に、第二十六駆逐隊に貴女は踏み出したのだから。」

「うん………ありがとね、岸波ちゃん。それに………みんなも。」

 

周りを見渡した朧に対し、舞風も、望月も、山風も、薄雲も、初霜も、無言で力強く頷いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、早霜はあの因縁の………目の前で朧の最愛の人を奪ったレ級を目の当たりにして、主機を一杯にまで加速させていた。

この敵艦だけは、生かしていてはならない。

更なる破壊を巻き起こす前に、葬らなければならなかった。

 

「早霜、聞こえるか!?その艦隊は6隻とも再生能力付きだ!君が単艦で突っ込んでどうにかなる相手では無い!引くんだ!」

 

無線を通して誰かの声が聞こえてくるが、そんなの知った事では無い。

とにかく、何が何でも落とさなければならない敵なのだ。

 

「今度は………やらせないわ!」

 

実は、反応が怖くて、朧にどうしても言えない事がある。

第2代宿毛湾泊地提督は、爆撃で戦死した。

だが、本当はよりにもよって、早霜を………庇ったのだ。

最愛の人がいるのに………、自分よりも遥かに大切な人がいるのに………、そんな事等関係無く、早霜を突き飛ばして、彼は炎に包まれた。

ブルネイ泊地に転籍した後も、その光景がずっと目に焼き付いて離れなかった。

だからこそ………ここで目の前の宿敵を沈めなければ、朧に会わせる顔が無かったのだ。

 

「沈める………!」

 

肝心のレ級は、早霜を見て不敵な笑みを浮かべていた。

攻撃を仕掛けようともせず、むしろ彼女に対し、やってみせろと手招きをしていたのだ。

それが、早霜の怒りを更に増幅させた。

 

「その罪を………償いなさい!」

 

魚雷発射管から、8発全ての魚雷を放つ。

更に連装砲による砲撃も放ち、フラッグシップ級レ級を業火に包む。

 

「やった………?」

 

あまりに呆気ない幕切れに、早霜は身構えた姿勢を解かない。

だからこそ、炎の中から繰り出されてきた砲撃を、彼女は咄嗟に躱す事が出来た。

 

「!?」

「レ?レレレ?」

 

中から出て来たレ級は、ぴんぴんしていた。

魚雷の後も、砲撃の後も、全然残っていない。

全く防御する素振りも無かったのに、全て、驚異的な再生能力で防ぎきってしまったのだ。

 

「嘘!?」

「物資ハヤラセハシナイ!」

「な!?」

 

動揺を隠せない早霜は、右方から掛かってきた叫び声に気付き、振り向く。

そして、思わず目を見開いた。

集積地棲姫は、泊地跡にあった巨大な鉄筋コンクリートを掴むと、それを早霜に対して投げつけてきたのだ。

 

「ああ!?」

 

思わず後ろに倒れ込むように、早霜は回避をするが、左手の連装砲のグリップが切れて、コンクリートの塊に持って行かれてしまう。

起き上がった時には、手持ち武器はもう無くなっていた。

 

「……………。」

「レ!レレ!」

 

立ち上がった早霜は、もうどうする事も出来なかった。

前には砲塔をこちらに、向けるレ級とネ級改2隻の姿。

計10門以上の砲門から繰り出される砲撃を受ければ、駆逐艦である自分は簡単に沈むだろう。

いや、沈む前にハチの巣になって死ぬ。

 

(私………何がしたかったのかしら。)

 

冷静に考えてみれば、予測できた展開なのに。

1人で何も出来ない事なんて、分かりきっていたのに。

無力だけど、動かずにはいられなかった。

 

(バカみたい。)

 

早霜は、空を見上げる。

こんな愚かな艦娘の気持ちなんて、分かってくれる人はいないだろう。

結局、自分は朧の心を救う事も出来ずに、彼女にまた傷を残してしまう。

許して欲しいとは思わないけれど、彼女の性格を考えると、きっと一生悔いるだろう。

 

(ごめんなさい………。)

 

今まで支えてくれた人物の事を想い、一粒だけ涙を流した早霜は前を見る。

レ級達は、一斉に砲門を早霜に向けてその砲口が赤く光り………。

 

ドンッ!!

 

「え?」

 

砲撃の瞬間だった。

早霜の左肩が掴まれ、後ろに投げ飛ばされる。

倒れ込んだ彼女は見る。

自分のいた位置で仁王立ちをして、笑みを向けている綺麗な艦娘の姿を。

薄い桃色の髪をポニーテールに結んだその娘は………。

 

「由良さん………!?」

 

ドォンッ!!

 

次の瞬間、敵艦から滅茶苦茶に繰り出された砲撃は、自分を庇う為に手足を広げて立った由良の体や艤装に吸い込まれていく。

腕や脚から血を噴き、艤装を爆発させた由良は炎に包まれてゆっくりと後ろに倒れていく。

スローモーションのような速さで、その様子を見てしまった早霜は叫ぶ。

 

「由良さーーーん!?」

 

まるで、あの提督のように、自分を庇って倒れた由良の身体に必死に縋りながら、早霜は叫ぶ。

 

「由良さん!由良さんっ!?何で!?何で!?」

「逃げ………て………。」

「何で私なんかの為に!?」

「知っていた………から………。佐世保の………秘書艦時代に………提督さん………から………。早霜ちゃんの気持ちも………分かる………から………。」

「あ………ああ………。」

 

これは、早霜の知らない話だが、由良は岸波の過去を知っていた。

だからこそ、同じように朧や早霜の過去も知っていたのだろう。

余りにも優しすぎる軽巡の言葉と慈愛の精神に、早霜は涙を流す。

本当に、何て事をしてしまったのだと………。

 

「早霜ちゃん!早く由良姉を連れて逃げて!鬼怒達じゃ、庇いきれない!!」

 

鬼怒の叫び声が、電探を通して早霜に届く。

臨時で彼女を旗艦とした5人の艦隊は、ツ級とヲ級2隻にジャマをされている。

航空機がガンガン飛んで来るので、古鷹や加古は三式弾での迎撃に回るしかないのだ。

だが………駆逐艦が、体格の違う軽巡を引っ張っていくのは難しい。

それに、レ級とネ級改2隻はもう、傍にまで来ていた。

 

「レレレ~?」

 

(ああ、私………また1つ罪を犯してしまったのね。)

 

結局、身勝手な空回りが、由良を巻き込む事になってしまった。

早霜は由良の前に立って両手を広げて庇うが、無理だろう。

一緒に海の藻屑になってしまうのが、オチだ。

それでも、こうするしか選択肢が無い。

 

(ごめんなさい………みんな。)

 

「諦めるな!早霜!!」

「!?」

 

だが、ここで新たな怒号と共に、横合いから雨のような小型の砲弾………ロケットランチャーが飛来してくる。

いきなりの攻撃に、レ級達は一瞬怯むが、すぐに体勢を整えると、レ級はトビウオのようにバク転をしながら下がり、ネ級改は丈夫な尻尾で防御行動を取る。

 

「これは!?」

「間に合わなかった!?いや………!」

「岸波姉さん!?」

 

目の前に疾走してきた艦娘………岸波の姿に、早霜は驚く。

それをきっかけに、次々と第二十六駆逐隊の艦娘達が早霜達の前に飛び出し、レ級達に向けて、砲撃を始める。

先程のロケットランチャーは、薄雲が装備していた12cm30連装噴進砲であるらしい。

 

「みんな………私………!?」

「反省は後!早霜ちゃん、由良さんの様子を確認するよ!」

「は、はい………!」

 

朧の叱咤を受けて、早霜は彼女と共に由良の状態を見る。

ヲ級が攻撃機を多数飛ばしてくるが、舞風と望月と初霜が迎撃をしていく。

特に初霜は、対空電探と高射装置に加え、右手に単装高角砲を持ち、左手に連装高角砲を持っていた為、凄まじい対空迎撃能力を備えていた。

 

「こちら、横須賀からの駆逐隊!これより戦闘に入る!!」

 

山風と薄雲と共に、レ級やネ級改の牽制をしていた岸波は、鬼怒や敷波、長月に対し力強く言葉を発した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「こちら吹雪!対空迎撃は任せて下さい!磯風ちゃん、そっちはお願い!」

「分かった!とにかく、片っ端から撃ち落としていく!」

 

ワンテンポ遅れて到着した吹雪の第九駆逐隊と長波の第四駆逐隊も、戦場に勇ましく殴り込んでいく。

その中で、初霜に匹敵する対空迎撃能力を持つ吹雪と磯風が、ヲ級や集積地棲姫の攻撃機を、文字通り一網打尽にしていく。

航空戦力のパワーバランスが変わった事で、千歳と千代田の攻撃機がより動きが良くなる。

彼女達は、再生能力を持つヲ級を中心に狙い始めていく。

当然、ツ級が妨害に入るが、それによって動きを封じる事が出来る為に、妙高達や古鷹達が砲撃支援をしやすくなった。

 

「さて、俺達は他のジャマが入らないようにするか!」

 

嵐は器用に爆雷を複数掴むと、水中に放り込み、吹雪や磯風達を狙おうとした潜水艦ヨ級を2隻沈めていく。

野分と萩風も駆逐艦をどんどん撃ち落としているし、島風は連装砲ちゃんに輸送艦ワ級を集中砲火させて、派手に爆発させている。

一方で、深雪と長波は朧達と連絡を取っていた。

 

「朧!由良さんはどうなんだ!?」

「………艤装と中の缶がボロボロになっている。出血も多いし………。」

「「精鋭水雷戦隊 司令部」は軽巡には使えないぞ!どうにか復帰させられないのか!?」

「これじゃもう………私、また罪を………。」

「だから諦めるなよ!お前を庇ったんだろ!?庇われたお前が最初に………!」

「あ、あの………!」

 

深雪の怒声が響く中、別の声が割って入った。

その主は、夏雲であった。

 

「いきなりどうしたんだ?」

「わ、私と峯雲さんを、由良さんの傍まで連れていって下さい………!」

「え?」

 

無線越しではあったが、夏雲は唾を飲むとハッキリと告げる。

 

「私が………修理します!」

 

その発言に、朧や早霜だけでなく、岸波達も驚く形になった。

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