艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第35話 ~夏雲の力~

戦場のパワーバランスが変わったとはいえ、未だに砲撃や攻撃機が飛んで来る中での治療や修理は、非常に危険だ。

しかも、夏雲は駆逐艦で、とてもでは無いが修理に特化しているとは思えなかった。

それでも、由良にはもう一刻の猶予も無いと判断した朧達の言葉を受けて、岸波は思い切って鬼怒達に説明する。

 

「というわけでイチかバチかになるけれど………。」

「待って、夏雲ちゃんがいるの!?だったら、彼女に任せてみて!」

「え!?鬼怒、夏雲は工作艦のような事が出来るの!?」

「呉で、明石さんに弟子入りしてたんだよ!鬼怒が保証するから、早く!」

 

意外な事に、鬼怒からお墨付きを貰った事で、岸波は決断する。

レ級達の相手を、しばらく長波達の第四駆逐隊や鬼怒達に任せると、吹雪達の第九駆逐隊に、岸波達の第二十六駆逐隊の近くまで来てもらう。

そして、しばらく指揮を、吹雪と補佐の望月にお願いすると、岸波も朧や早霜の所に行って、由良の状態を確認する。

 

(これは………。)

 

確かに由良は目の焦点が合っておらず、顔は青くなっていた。

意識はほぼ無い状態で、砲撃の影響で左腕と右足、左の脇腹からの出血が酷かった。

艤装に至っては、中の缶が見える程にボロボロになっており、その缶もほぼダメな状態であった。

何とか口には出さなかったが、ある意味轟沈よりも絶望的な状況である。

 

「まず、早霜さんは少し離れて下さい。」

「わ、私も手伝いをさせて………!」

「気が動転しているからダメです。離れて下さい。」

「は、はい………。」

 

最初に夏雲は、冷静な判断力を失っている早霜を、由良から離れさせる。

押しの弱い大人しい性格であるのが、岸波の夏雲に対する印象であったが、このハッキリとした物言いは何かを期待させた。

 

「岸波さんは足側に。朧さんは頭側に回って下さい………。峯雲さん、1つ目のドラム缶を開いて。」

「分かったわ。」

 

そう言えば、岸波は今回の出撃で装備を整える中で、峯雲に妙な物を感じていた。

彼女は何故か、輸送用に使うドラム缶を、わざわざ2つ装備していたのだ。

夏雲は、彼女と共に由良の左側に回ると、そのドラム缶の中身を岸波達に見せる。

そして、岸波も朧も驚かされる。

海上に浮かべる関係で、中身はほとんど入ってなかったが、その底には、応急処置に使う用具が備えてあったのだ。

まず、岸波達も装備している強化型艦本式缶と改良型艦本式タービン。

更に、金属板が複数枚に、ネジに電動ドリルドライバー。

耐水性の包帯等、治療用の救急セットまで入っている。

 

「な、夏雲………この状況、最初から想定していたの!?」

「いえ、いつも峯雲さんにお願いして、持参しているんです。私は小柄であまり持てないので………。」

 

夏雲は手持ちの魚雷発射管と連装砲を、朝雲と山雲に渡して手を自由にする。

峯雲にはドラム缶を押さえて貰って、波で中身がこぼれないようにした。

そして、真剣な顔で岸波達に言った。

 

「今から一度、艤装を外します。由良さんは瀕死ですから、激痛に悶えて暴れるでしょう。上下から押さえ込んで動かさないでください。」

「わ、分かった………!岸波ちゃん、脚をお願い!」

「ええ………。」

 

朧が後ろから羽交い絞めにして、岸波が両脚をしっかりと押さえ込む。

その状態を確認した上で、夏雲は由良の艤装を外す。

 

「う………うああああああああああ!?」

「由良さん!?しっかり!?」

 

夏雲の言う通り、艤装を外され………人間に戻って瀕死の傷の影響で、ガクガクと震え出した由良の絶叫を受けて、朧が怪力を発揮し、耳元で叫んで何とか落ち着かせようとする。

その間に夏雲は素早く、艤装から破損した缶とタービンを取り外して捨てて、新しく強化された物をセットしていく。

そして、由良を再度強く押さえ込むように岸波達に言うと、艤装を付け直した。

 

「あ………ああ………。」

 

震えが軽減されてきた由良の様子を見て、ホッとする岸波達。

夏雲はすぐ傍に敵の航空機が落下するのも気にせず、今度は金属板と電動ドリルドライバーを取り出す。

そして、今度は朧に対して、由良をうつ伏せにして、正座をした膝に顔を乗せるようにお願いする。

こうする事で、破損した艤装が見えやすくなるし、由良が海に沈んで窒息する事も無くなる。

その上で、岸波に対し、破損した艤装に金属板を固定して貰うように頼んだ。

 

「………それ、全部工作艦の明石さんに習ったの?」

「はい………。鬼怒さんの言う通り、夏雲は呉で明石さんに弟子入りしました。」

 

岸波の質問に、夏雲は丁寧に答えてくれた。

但し、その間も手を動かす事を止めない。

艤装と金属板に電動ドリルで穴を開けてネジ穴を作ると、ネジを取り出して、今度はドライバーに切り替えて締めていく。

不格好だが、こうやって金属板を複数繋ぎ合わせる事で、艤装の応急処置を施すのだ。

 

「夏雲は………、何の特技も無い艦娘です。自慢出来る能力も無いですし、個性もありません。リーダーシップも無ければ、丹力も備わっているとは思えません………。」

「だから………明石さんに、修理の方法を学ぼうって決めたの?」

「悩んでいる時に、その様子を見かねた敷波さんが紹介してくれたんです。何でも、曙さんを始めとした他の艦にも、簡単な応急処置の仕方を教えていたらしくて………。」

「それは知らなかったわね。でも、ここまでガッツリと習おうと思ったって事は、相当な覚悟だったのでしょう?」

「何でもいいから、誰かを守る術が欲しかったんです。駆逐艦失格かもしれませんけれど………。」

 

夏雲は自嘲しているが、次々と慎重な手付きで、艤装と金属板を繋ぎ合わせていく姿は、一端の工作艦であった。

やがて、艤装の全ての破損個所に金属板が取り付けられ、応急処置が終わる。

チグハグに金属板を繋ぎ合わせた形だが、交換した缶とタービンが隠れ、艤装の形が何とか保たれて浸水する事が無くなった。

すると………。

 

「う………ぁ………アレ………由良………?」

「由良さん!?」

 

意識が覚醒した由良の声を聞いて、離れて見ていた早霜が思わず歓喜の声を上げる。

岸波と朧も顔を見合わせて、思わず笑顔が弾けた。

瀕死の状態であった由良が、駆逐艦娘の機転で文字通り蘇ったのだ。

ある意味、とんでもない奇跡である。

だが、それでも夏雲は気を抜かない。

 

「動かないでください、由良さん。艤装が無ければ貴女は死んでいますから。………今度は治療をします。」

「は、はい………。」

 

思わず大人しくなってしまった由良の左腕と右足、そして左の脇腹に薬を塗って、夏雲は耐水性の包帯を巻いていく。

自分の傷が塞がっていく様子を見ながら、由良は呆然としていた。

そうしている内に治療は完了し、夏雲は由良に慎重に起き上がってみるように言う。

由良はゆっくりと身体を起こし………、そして立ち上がる事も出来た。

 

「身体の痛みはどうですか?」

「正直、全身が痛いけれど………これ、全部夏雲さんが治してくれたの?」

「あくまで応急処置をしただけです。繰り返しますが、艤装を外したら死にますから。船渠(ドック)入りをするまで絶対に外さないでください………。」

「う、うん!」

 

余りにストレートに告げて来る夏雲の言葉に、由良は肌寒い物を感じたのか、思わず背筋が伸びる。

もしかしたら、この話術も明石から習ったのかもしれない。

 

「早霜さん、もういいですよ。でも、抱き着かないでくださいね。」

「ゆ、由良さん、ごめんなさい!」

「あ………、早霜さん………。」

 

近づいてきて、思いっきり頭を下げる早霜に対し、由良はバツの悪い顔をする。

庇わなければ早霜は沈んでいたとはいえ、彼女に負い目を感じさせたのは事実なのだ。

正直、由良の方も、どう応えればいいか分からない状態だった。

そこに、夏雲がまた助け船を出す。

 

「じゃあ、早霜さん。今から由良さんの分も働いてもらいます。峯雲さん、2つ目のドラム缶を。」

「これ、持って行って。」

『!?』

 

峯雲が明けたもう1つのドラム缶の中身を見て、今度は早霜と由良も驚かされる。

そこには、夕雲型の連装砲や魚雷発射管等、艦娘の装備が、多数入っていたからだ。

 

「アフターケアもバッチリね………。でも、何で夕雲型の連装砲がピンポイントで?」

「小型で持ち運びのスペースを取らないからです。早霜さんは、装備を整えて鬼怒さんの艦隊に入って支援をして下さい。」

「あ、ありがとう………!」

「その言葉は由良さんに。後、また1人で突貫したら、今度は私が後ろから撃ちます。」

「き、気を付けます………。」

 

工作艦である明石は、実は、とんでもない駆逐艦娘を教育してしまったのではないか?と岸波は思ったが、ここでは黙っておく事にする。

とにかく、体勢を立て直す事には成功したので、レ級達を足止めしてくれていた長波の第四駆逐隊を呼び戻し、由良の護衛をして貰う事をお願いする。

吹雪の第九駆逐隊はまだ魚雷等に余裕があったが、夏雲のこの力を見た後だと、前線に突撃させるわけにもいかないと岸波は思ったので、後ろから支援をしてもらう事にする。

だとしたら、自分達………第二十六駆逐隊が行くしか無いだろう。

 

「夏雲、12cm30連装噴進砲の予備はある?」

「薄雲さんが愛用しているみたいなので、1つ予備を入れておきました。」

「助かるわ。………後、貴女は特技の無い艦娘じゃないわ。奇跡を起こすことが出来る、とっても、素敵な艦娘よ!」

「え………。」

 

満面の笑みを見せた岸波の姿を見て、一瞬だが、夏雲は呆ける。

岸波は、彼女の返答を聞かずに、噴進砲の予備を峯雲から受け取った薄雲や、朧達と共に前線へと進んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

由良の修理や治療が完了し、彼女が復活した事を伝えたら、海戦中であるにも関わらず、鬼怒達から夏雲への喝采が巻き起こった。

 

「夏雲ちゃん、マジパナイ!これで持ち直せるかも!後、敷波ちゃんもナイスファインプレー!」

「いや、アタシは只、夏雲を明石さんに紹介しただけだし………。」

「遠慮するな!しかし、夏雲は将来大成するぞ!」

 

敷波や長月からも様々な言葉が出る中で、岸波は鬼怒に早霜の事を任せると、集積地棲姫の事を問う。

 

「大発動艇や特型内火艇による対地攻撃は出来ないのですか?この面々ならば、使える艦娘は多いと思いますが………。」

「ずっと試しているよ。只、あのレ級とかの妨害が激しくて、上手くいってないの。」

 

岸波の質問に、鬼怒は溜息を付きながら答えていく。

集積地棲姫のような、陸上に陣取る深海棲艦は、対地攻撃に非常に弱い。

その為、戦車を積んだ大発動艇や、特型内火艇による攻撃を仕掛けるのがセオリーだったのだ。

だがその前には、魚雷を扇状に、大量に撒き散らせる力を持つフラッグシップ級レ級が陣取っている。

上手く深海棲艦同士が連携を取って、互いへの攻撃を妨害しているのだ。

 

「あの集積地棲姫………手癖が悪いのか、泊地の物をガンガン投げつけて来るんだよな………。」

 

そう通信を送って来たのは、足止め役を担っていた嵐。

見れば、辺り中に海底に突き刺さった大型の鉄筋コンクリートや鉄板等が顔を出しており、破壊の惨状をはっきりと物語っていた。

 

「何かあってケガをしたり、補給をしたくなったりしたら、夏雲達の所まで下がって。逆に彼女は、絶対にやらせてはダメよ。」

 

実際に敵艦も、夏雲は厄介な存在だと分かったのか、集積地棲姫は、彼女や由良の方に向けて、鉄筋コンクリートを投げつけて来る。

 

「やらせない!」

 

それには古鷹が素早く反応して、三式弾で破壊する。

更に、レ級が魚雷を全て夏雲に向けて放ってくる。

 

「1セット目、残弾全部撃つよ!」

 

今度は、薄雲が横合いからロケットランチャーを全弾、海面に撃つことで起爆させて対処。

そして、空になった噴進砲を捨て、補給で貰った物を新たに左手にセットする。

 

「突破口が何か欲しいわね。集積地棲姫かレ級のどちらかを、まず落としたいけれど………。」

 

岸波は考える。

再生能力を持った、特に強力な攻撃を仕掛ける相手が2隻いる状態では、攻撃も上手くいかない。

航空戦力を削ぐという意味でも、攻撃機を飛ばせるどちらかを先に仕留めたかった。

 

「………ねえ、岸波ちゃん。」

「何、朧?」

「アタシ………1つだけ閃いたかもしれない。」

「突貫したら、夏雲に撃たれるわよ?」

「只の突貫じゃないよ?アタシだから出来る事………あるかもしれない。」

「?」

 

朧は岸波に簡潔に説明する。

その言葉を受けて、岸波はギョッと目を見開く。

 

「本気………!?」

「うん。お願い、みんなの力が必要なの。………やらせて。」

「……………。」

 

真剣な朧の目は、復讐とかで濁ってはいないようであった。

もしかしたら、鳳翔にアドバイスを貰った事で、彼女なりに甘えてくれているのかもしれない。

岸波は目を伏せると、通信で各艦に指示を出していく。

勿論、驚きはあったが、その朧の覚悟を受けて、全員が了承してくれた。

 

「じゃあ、いくわよ!第二十六駆逐隊、警戒陣!」

 

主力艦隊を何としてでも送り届ける為の陣形である、楔形の警戒陣を岸波は選択する。

両翼に薄雲と初霜。

後ろから、望月・山風・舞風・岸波。

そして、先頭は………。

 

「朧………行きます!」

 

宿敵を前に朧が立つと、何と主砲のベルトを首にかけて、手ぶらになった。

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