艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第36話 ~あの人が愛してくれた………~

朧の前には、あのフラッグシップ級のレ級が、ネ級改を2隻引き連れて立っていた。

レ級は朧の姿を………あの時、泊地を襲撃した時にいた駆逐艦だと認識したのか、早霜の時と同じく手招きをして、やってみろと挑発する。

朧はその挑発を見て………敢えて無視すると、警戒陣で後ろに陣取っている岸波達に注意を任せて、左に少しだけ移動する。

 

「レ?」

 

レ級が首を傾げる中、朧は集積地棲姫が投げつけて来たであろう、海底に斜めに突き刺さっている巨大な鉄筋コンクリートの傍に行く。

 

(そう言えば………昔は、コンプレックスだったっけ。)

 

朧は、その鉄骨を右手で撫でるようにして状態を確認しながら、少しだけ笑う。

筋肉質の体を持つ自分は、第七駆逐隊の中でも並ぶと、かなり腹筋が目立っていた。

水着等を着ると、それはよりハッキリとしてしまい、正直女らしくないと思った物だ。

 

(でも………あの人は、あの夜に綺麗だって言ってくれた。)

 

今は亡き夫である、宿毛湾泊地の提督と寝た時、彼は近くで見た朧の腹筋をむしろ美しいとほめてくれた。

それ以来、朧はもっと綺麗な腹筋や力こぶを作って、より艦娘として力強い姿を見せようと鍛え始めた。

 

(だからかな?あの人や赤ちゃんが亡くなった後も………筋肉を鍛える事だけは、続けていたんだよね。)

 

あの悪夢の日を迎えて、身体的にも精神的にもボロボロになってしまった後でも………。

朧は、自分の日課だけは無意識の内に続けていた。

それしか、過去の思い出にすがるものが無かったとも言えるが、鍛え続けたからこそ、今、役に立つ。

 

(お願い、「あなた」………。もしも何処かで見守ってくれているのならば………。)

 

確認作業を終えた朧は、その鉄骨を腹に当てて固定し、両手で握りしめて足を開く。

そして………。

 

(貴方が愛してくれたこの力………今は第二十六駆逐隊の一員になっているアタシの………大切な仲間達を守る為に………使わせて!)

 

「はああああああああああああああっ!」

 

大きく息を吸うと、朧は腹の底に力を入れて叫んだ。

艤装にセットされた、改良型の缶やタービンをフル稼働させて、思いっきり鉄筋コンクリートを引き抜こうとする。

大湊で見せた、強化された艤装による怪力を発揮しようとしているのだ。

だが、あの時よりも鉄筋コンクリートは更に大きい。

それでも………朧の渾身の気合によって少しずつ、メキメキとコンクリートが引き抜かれようとしている。

 

「レ………レガァッ!」

「やらせないよ!」

「止まって!」

「守ってみせます!」

 

朧のやろうとしている事を悟ったレ級は、素早く叫び、ネ級改達と共に砲撃をしようとする。

しかし、舞風がレ級に2つの連装高角砲を、薄雲と初霜がネ級改達に手持ちの武装を叩き込む。

傷は再生能力で回復されるが、砲撃は阻止する事が出来た。

その隙に、朧が遂に巨大な鉄骨を引き抜き、海面を薙ぎ払うように左から右に振り回す。

 

「でりゃあああああああああああっ!」

「レゴァァアアアアアアアアアアッ!?」

 

巨大な鋼の一撃を、もろに横っ腹に受けたレ級とネ級改2隻は、思いっきり横にぶっ飛ばされる。

しかし、朧はレ級達に構う事無く、遠心力でふらつきながらも、何とか自分の右側に、鉄骨を腰だめに据えて固定すると、後ろの岸波達に指示を出す。

 

「突撃開始っ!」

「押せーーーっ!」

 

朧の後ろから、岸波が、舞風が、山風が、望月が、艤装をフル稼働させて4人掛かりで押していく。

狙いは、泊地に陣取っている集積地棲姫。

姫クラスの深海棲艦に向かって、鉄筋コンクリートを突撃槍のように構え、仲間達の力を借りて、一直線に突貫する。

 

「その泊地………返して貰うよっ!」

「ク………クルナッ!?」

 

狙いが自分だと気づいた集積地棲姫は、慌てて鬼火のような攻撃機を作り出して発艦させる。

だが、飛来する攻撃機は、薄雲の12cm30連装噴進砲によるロケットランチャーと、初霜の二丁の高角砲による砲撃で、朧達に近づけさせない。

 

「カ、カバエ!」

 

集積地棲姫は、今度は周りに浮遊している赤く燃える球体………浮遊要塞に指示を出す。

一部の姫クラスは艦列を作らず、自分の意志で動くこの球体を複数浮かべている。

基本的に、敵の攻撃から親玉である深海棲艦を庇う性質を持つ為、艦娘にとっては非常に厄介な物である。

だが、驚異的な勢いで突撃してくる鉄骨の前には、弾かれるか粉々に砕かれるかのどちらかであった。

それを見た集積地棲姫は、慌てて内陸に逃げようとするが、時すでに遅く間に合わない。

鉄骨は海面から振り上げられ、泊地跡を陣取っている傲慢な姫クラスに突っ込んでいく。

 

「たあああああああああああああっ!!」

「ガハアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

鋼の巨大な槍は、朧の咆哮と共に、集積地棲姫の左胸に勢いよく突き刺さり、貫通する。

青黒い血が敵艦の胸と口から噴き出し、痙攣させるが、朧の一撃はそこで終わらなかった。

彼女は、艤装や全身の筋肉に思いっきり力を籠めると、艦隊ごと左に方向転換しながら、鉄骨ごと集積地棲姫を持ち上げ、振り上げる。

 

「とあああああああああああああっ!!」

「グァァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

そのまま海へとぶん投げられた集積地棲姫は、頭から水面に叩きつけられて沈んでいく。

こうなってしまっては、再生能力も関係なかった。

 

「朧、大丈夫?」

「ぜ………全身が千切れるかと思った………でも!」

 

思わずしゃがんだ事で、すぐ後ろの岸波に心配される朧だったが、強気の笑みを見せる。

厄介な深海棲艦が1隻減るだけでも、相当効果は違うはずだ。

実際、敵艦の中には姫クラスの無残な塵際を見せられ、戦意を失い逃げだす者まで現れ始めた。

 

「レ………レガァアアアアアアアッ!!」

「あはは………相当キレているね。」

 

そこで響き渡る、レ級の咆哮。

今一度、深海棲艦の艦隊の士気を高めようとしているのかもしれない。

ところが、そこで更に爆発が起こる。

見れば、それまで驚異的な対空砲火を見せていた、再生能力を持つフラッグシップ級軽巡ツ級が、佐世保の妙高達4人の砲撃に耐え切れずに沈んでいったのだ。

 

「こちら妙高です。大分苦労しましたが、ツ級を仕留めました。これよりヲ級も攻撃していきます!千歳さん、千代田さん!」

「千歳です!任せて!対空砲火が無ければ!」

「千代田だよ!こっちも、一気に決める!」

 

ツ級の妨害が完全に無くなった事で、呉の千歳と千代田が、次々と艦載機を飛ばしていく。

フラッグシップ級ヲ級2隻も攻撃機を飛ばしていくが、古鷹と加古が、迎撃用の三式弾を集中的に放つ為、上手く攻撃機を運用できていない。

気付けば、あっという間に近くの駆逐艦や軽巡と共に集中砲火を受けて、悲鳴を上げながらこちらも沈んでいった。

 

「……………。」

「どう?後は、貴女達だけみたいだよ?」

「レ………ギギギギギギ………!」

 

次々と大将クラスが落ちていく事によって、パワーバランスが大きく傾く。

フラッグシップ級レ級の顔からは、完全に余裕が無くなり、苛立ちを露わにするようになったので、朧は逆に挑発してみる。

真に受けた敵艦は、歯ぎしりをして………。

 

「レゴァッ!」

 

そのまま朧に対して、燃えるような怒りの瞳を向けたレ級は、素早く魚雷を喰らわせようと海面に這いつくばり、尻尾の巨大な口を持ち上げる。

だが、魚雷を撒き散らそうとしたその口が、突如、爆発を起こし吹き飛ぶ。

岸波が尻尾の口の中に砲撃を喰らわせたのだ。

 

「悪いわね。その攻撃………大湊で散々見たのよ。対処は望月や山風から教えて貰ったし。」

「………ッ!」

 

冷たく言い放つ岸波を睨みつけるレ級。

ネ級改が支援をしようとするが、今度は、多数の砲撃が後ろから飛んで来る。

軽巡である鬼怒を筆頭に、霞・霰・早霜・敷波・綾波・磯波・浦波・長月・文月と、速力のある駆逐艦娘達が、砲撃範囲に入っていたのだ。

もはや、他の雑魚の敵艦達は、古鷹達の砲撃や千歳達の攻撃機の前に、逃げるか沈むかという状態であり、3隻の再生能力持ちの敵艦達は、逃げ場すら無くなっていた。

 

「哀れね。でも、私達は貴女達を許す気は無いわ。貴女達は、私の大切な仲間達を傷つけた。駆逐艦はね………そんな奴らを放っておく程、薄情じゃないのよ。」

 

代表して岸波が、レ級達に最後通達をする。

フラッグシップレ級は、朧の夫と赤子と思い出の地を奪った。

それだけでなく、ネ級改と共に早霜や由良も傷つけたのだ。

駆逐艦娘でなくても、絶対に許してはいけない事であった。

 

「沈みなさい、レ級!」

「レ………ゴアアアアアアアアッ!!」

「な………!?」

「コイツ!」

 

追い詰められたレ級は、尻尾を復元させると、何と一直線に朧へと突進して生身の腕で掴み掛かる。

山風と望月が、装備していた魚雷を全部喰らわせようとするが、レ級は、主力武器が搭載してあるはずの尻尾をわざわざ盾にして防ぐ。

派手に爆発した尻尾は、もう再生しない。

ネ級改は、滅茶苦茶に砲撃や魚雷を撒き散らすが、鬼怒を始め落ち着いて対処された事で、逆に各艦から次々と魚雷を撃ち込まれて、再生能力を失い沈んでいく。

だがレ級は、朧だけは道連れにしようと気迫を見せてくる。

 

「朧!?」

「大丈夫!………そっか………そんなにアタシが憎いんだね。いいよ!」

 

朧はのしかかってきたレ級に対し、主砲を側頭部に叩きつけて怯ませると、腹を蹴り飛ばす。

そして、仰向けに倒れたレ級に、逆にのしかかると、主砲を首に喰らわせようとする。

だが、レ級はその砲身を怪力で折ると、朧の顔を殴り飛ばす。

 

「やる………ねっ!」

 

アドレナリンが溢れてきた朧は、後ろに転がるように受け身を取って立ち上がり、使い物にならなくなった連装砲を捨てると、少しだけ左にずれて、また飛び掛かって来たレ級の喉元に右腕でアームハンマーを喰らわせ、逆に痛烈なダメージを与える。

そして、拳を握るとフックを連続で腹に叩き込んでいく。

 

「オ………ガ………!?」

「でも、初霜ちゃんとケンカした時に比べれば大した事無いね!………ううん、早霜ちゃんや由良さん達、みんなが受けた痛みに比べれば!」

 

レ級は右ストレートを朧の顔に叩き込もうとするが、彼女は素早く躱すと、逆に顎に右拳でアッパーを喰らわせる。

更に右膝蹴りを腹に当てて、左回し蹴りで蹴り飛ばす。

転がったレ級は、黒い血を吐きながら朧を睨みつけた。

 

「モ………ラナイ………!」

「ん………?」

 

ここで、初めて片言とはいえ、人に理解できる言葉を喋り出したレ級に、朧は、思わず注目する。

レ級はニヤリと笑うと言ってのけた。

 

「モドラ………ナイ!オマエノ………カコ!ナグッテモ………ナグッテモ!」

「……………。」

 

その内容に、朧は思う。

この目の前の敵は、意外と知性があるのだと。

 

「そうだね。貴女を何度殴った所で、アタシの過去は変わらない。失った人達は戻ってこない。愛するあの人も、赤ちゃんも………。」

「ダッタラ………シズメーーーッ!!」

 

俯いた朧に対し、レ級は隙を見出したと思い、飛び掛かる。

だがその顔面に、思いっきりカウンターで左ストレートが炸裂して再び転がる。

 

「ゴ………ゴガ………!?」

「でもね………!ケジメは付けないといけないんだ!それがどんなに愚かに見えても!どんなに意味が無いように思えても!」

「オ………オマ………!?」

「だから早霜ちゃんは動いた!アタシも動いた!………決着を付けるよ、レ級!!」

「グ、グギギギギギギーーー!!ガアアアアアアア!!」

 

這いつくばったレ級は、派手に血反吐を吐き出す。

すると、尻尾が再生していく。

 

「何!?体を壊してでも、無理やり再生能力を復活させて………!?」

「舞風!左アーム、また借りるわ!」

「あ!」

 

岸波の言葉の意味を理解した舞風は、魚雷発射管の付いた左アームを伸ばす。

駆逐水鬼の時のように、艦娘の力でアームの根元を無理やりへし折った岸波は、朧に投げ飛ばす。

 

「朧!ぶち当てろ!!」

「っ!」

 

アームを受け取った朧は、素早くレ級に近づく。

敵艦は、再生させた尻尾から砲撃を朧に繰り出した。

しかし、彼女は身を屈めて、海面を滑るようにダイブして紙一重で躱す。

そして………。

 

「これで………決まりだーーーっ!!」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

起き上がった朧は、這いつくばっているレ級の脳天に、舞風の魚雷発射管をハンマーのように叩き込む。

派手な爆発が上がり、レ級は咆哮を上げる。

やがて炎が収まると、敵艦は尻尾をだらんと下げて………それでも、朧に不敵な笑みを見せて呟く。

 

「オマエ………イッショウ………フコ………ウ………!」

 

只の負け惜しみだ。

だが、的を射た発言であった。

だから、朧はこう返した。

 

「いいよ、不幸でも。その代わり、みんなが………幸せになれるのならば。」

「……………。」

 

強気の顔を崩さない駆逐艦娘の言葉を受けて………、レ級は笑みを浮かべたまま、静かに沈んでいく。

再生能力付きの敵艦が全て撃沈した事で、丁度、海戦は終わりを告げる事になる。

 

「朧………。」

「大丈夫だよ、岸波ちゃん。アタシは………。」

 

後ろから心配そうな顔をして近づいてきた岸波に対し、朧は振り向き、困ったような笑みを見せて………静かに空を見上げた。

まるで、亡き夫達との思い出を思い起こすように。

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