艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第38話 ~過去への扉~

朧が重大な決断を下した夜、呉の提督に許可を貰った岸波は、皆が寝静まったのを確認した後で、敷波の案内で外に出ていた。

実は、横須賀に帰る前に、どうしても見ておきたい所があったのだ。

 

「岸波が興味を持つなんてねぇ………。しかし、何だかんだ言ってみんな付いて来ちゃったね。」

「はい………。私1人で十分だと思ったんですけれど………特に朧、大丈夫なの?」

「アタシは第二十六駆逐隊の一員だよ!………仲間外れは嫌だし。」

 

今回の岸波の行動を珍しいと思ったのか、数時間前に人生を左右するような決断を下した朧を始め、第二十六駆逐隊の面々が全員、一緒にやって来ていた。

もしかしたら、何かしら重い雰囲気を払う為の気晴らしにしたかったのかもしれない。

 

「ごめんなさいね、夏雲。大人数になっちゃって。」

「私は大丈夫です………。ふふっ、何か楽しいですね。」

 

更に、第九駆逐隊の夏雲が、岸波達に付いて来ていた。

正確に言えば、岸波達が、敷波と夏雲に付いていっているのが正しい表現か。

とにかく、彼女達が向かったのは、夜更けでも明かりが灯っている呉の工廠(こうしょう)である。

 

「明石さーん!夏雲が久しぶりに顔を出しに来たよ!後、第二十六駆逐隊の岸波が話をしたいって!」

「あら!敷波に夏雲、いらっしゃい!………へー、貴女が岸波なのね。」

 

工廠(こうしょう)では、ピンク髪で横髪をおさげ風にまとめた工作艦の明石が出迎えてくれた。

彼女が、呉に出張中に弟子入りを志願した夏雲に、工作艦としてのイロハを叩き込んだ艦娘だ。

 

「夏雲の話は聞いてるわよ!まずは由良を助けてくれてありがとう!私も鼻が高いわ!」

「えへへ………。」

 

ポンと頭を撫でて褒める明石に対して、余程嬉しかったのか、満面の笑みで喜ぶ夏雲。

そして、その姿を見て微笑ましい物を感じながらも、岸波は明石に頭を下げる。

 

「明石先輩、ありがとうございます。貴女が夏雲に修理や治療の技術を教えていなければ、由良先輩は死んでいました。」

「そんな丁寧に話さなくても………。それとも、恩人かなんかなの?」

「個人的には………。」

 

空母棲鬼の時に援軍に来てくれた由良は、岸波を温かく包んでくれた。

その為、岸波にとっては、実は、彼女は軽巡の中でもある意味特別な存在なのだ。

だから、瀕死になっていた彼女をまじまじと見た時は、絶望感も少し覚えたものだ。

 

「由良は優しいっていうか、母性あるからね~。で、私には、夏雲を鍛えてくれてありがとうって、お礼を言いたかったわけ?」

「それもあります。」

「それも………?じゃあ何?まさか、夏雲みたいに、私に弟子入りしたいとか~?」

「いけませんか?」

「あれ………?」

 

至極真面目に答えた岸波の言葉に、手の中で器用にレンチを回転させていた明石は、思わず取り落としそうになる。

そして、一転真面目な顔になると岸波に告げる。

 

「………工作艦ってのは、余興でやっているわけじゃないわよ?」

「分かっています。………でも、夏雲は私に奇跡を見せてくれました。人の命を救うという、素敵な奇跡を。」

「岸波。一応ね………私、今は横須賀に居る大淀とも仲がいいから、貴女の過去を知っているわ。貴女………修理が出来ればもう「間違えない」とでも思っているの?」

「少なくとも、旗艦として出来る選択肢は増えます。勿論、全てがうまくいくとは限りませんが………この力があれば、今度こそ救える命があるかもしれないと感じました。だから………お願いします!」

 

岸波は、じっと真剣な目で明石を見る。

他の面々は、まさか岸波の目的が、明石への弟子入り志願だとは思っていなかった為、少々驚いていた。

明石は、その目をみたまま一言告げる。

 

「誠意は?私、豪華なスイーツとか結構好きだし………。」

「土下座します!」

「わー!ストップストップ!これじゃ、周りから見たら私がパワハラしてるみたいじゃないの!?」

 

膝を付き、額を地面にこすり付けようとした岸波に対し、慌てて明石が止める。

岸波が顔を起こしたのを確認すると、立膝を付き、はあ………とため息を付いて言う。

 

「貴女の熱意と誠意は分かったわ。………でもその話、第二十六駆逐隊の仲間の顔を見る限り、この場で初めて話した事なんでしょ?私、呉の提督が離してくれないから、修行するならば、横須賀から転籍しないといけないわよ?」

「確かに………まず、横須賀の提督に掛け合わないといけないですね。」

「言っておくけれど、そう簡単に首を縦に振ってくれる提督じゃないから、私の何十倍は力を入れないといけないからね。それに………私は仲間を信頼しない人は、お断りしているわ。」

「え?信頼………ですか?」

「そう。………貴女、まだ大切な事を仲間に伝えて無いでしょ?」

「大切な事………?あ………。」

 

明石に促されて立ち上がった岸波は、考え込む。

まだ自分は、仲間達に過去を話していない。

そしてまた、自分も朧みたいに、いい加減に自分の根底を支配しているものを、第二十六駆逐隊の皆に話さなければならないタイミングが来ているのかもしれないと。

その過去を受け入れて貰えないと、この熱意は理解して貰えないのだと。

 

「そうですね………順番を間違えました、申し訳ありません。」

「謝るならば仲間達に。………というか、いっそのことここで過去を全部話したら?」

「え?」

「早かれ遅かれ話さないといけないのだから、ここで全部話した方がいいんじゃないの?」

「そうですが………ちょっと仲間は今、重い雰囲気を払いたいので………。」

「朧はいいよ?」

 

思わず言葉を濁す岸波であったが、一番の当事者である朧が真っ先に許可を出す。

振り返ってみれば、仲間達はみんな真剣な顔をしていた。

 

「多分………重い話よ?」

「私は、岸波さんが過去を話す事で心が軽くなるのならば、話して貰いたいです。」

「薄雲も賛成かな。岸波さんの根底にある物は、前々から気になっていたし。」

 

初霜と薄雲は、岸波が時折熱くなって、誰かを救いたいと必死になる姿が気になっていた。

 

「………失望するわよ?」

「だったら余計に気になるじゃん。あたし達を助けてくれた時の言葉の意味、知りたいし。」

「岸波………、辛い事は第二十六駆逐隊で分かち合うって言っていたよね………。アレは嘘?」

 

望月と山風は、岸波が助けに来てくれた時の、心の底から出た安堵の言葉が耳に残っていた。

 

「幻滅するわ………。」

「沖波の事が関係しているんでしょ?それと、姉殺しって言葉と………。」

「ええ。舞風も知ったら………。」

「確かに受け入れられるかどうかは人それぞれだと思う。でも、乗り越えないと第二十六駆逐隊として、本当の意味で纏まらないと思うんだ。」

 

舞風は、怠惰艦でありながらも、自分を助けに来てくれた岸波の放った叫びの意味を知りたかった。

 

「……………。」

「教えて、岸波。私達は………もう覚悟が出来ているから。」

「………分かったわ。」

 

代表して促してきた舞風の言葉を受け、岸波は一瞬だけ目を伏せると皆の覚悟に応える決意をした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

岸波は、工廠(こうしょう)の外のベンチに皆を座らせた。

敷波と夏雲は席を外そうかと言ってくれたが、同席して貰う事にする。

というのも、岸波にしてみれば、彼女達に後で確認したい事があったからだ。

 

「私は最初、舞鶴鎮守府に配属になって、酒匂先輩を始めとした軽巡の元で修練を積む事になったわ。沖姉………沖波は、その時に親しくなった、私のすぐ上の姉に値する駆逐艦だったの。」

 

静かな口調と共に、数年前からの岸波の過去話が始まった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

舞鶴に配属された当初、新人艦娘である岸波は、2人の軽巡洋艦に自己紹介をする事になった。

1人は、大湊でも世話になった酒匂。

そして、もう1人は、黒のショートボブのサイドテールに鉢巻を巻いた艦娘………長良型1番艦の長良である。

 

「ヒュウ、岸波ちゃん!艦娘として1歩を踏み出した気分はどう?」

「はい!私自身が、人々を守れる力を持ったと思うと感慨深いです。今はまだ小さな力ですが………いつか大成してみせます!」

「しっかりしているわね。………で、将来どんな艦娘になりたいの?」

「実は、憧れの駆逐艦娘がいるんです。あの、第十四駆逐隊の嚮導艦になったと言われている陽炎先輩………彼女のような存在になりたいんです!」

 

純粋に目を輝かせる岸波の姿に、長良は過去を懐かしむ。

というのも、彼女は昔、陽炎に会った事があったからだ。

 

「陽炎かー。前に佐世保の大規模攻勢の時に秘書艦だった姿を見たけれど、強い艦娘だったわ。最初こそ戸惑っていたけれど、立派にその壁を乗り越えていたし。」

「本当ですか!?長良先輩!その話、後で聞かせて下さい!」

「ぴゃあ!食いつきがいいよ!?………話したの、朝霜ちゃんだよね?どんな事を言ったの?」

「くくく………!いや、事実を語っただけですよ?「あたい達を育ててくれた最高の先輩だ」………って言っただけですから。」

 

岸波の隣に座って腹を抱えて笑うのは、長く伸ばした銀髪の束で右目が隠れている艦娘。

ギザ歯が特徴的なのは、夕雲型16番艦の朝霜だ。

彼女は夕雲達と共に、第十四駆逐隊の元で訓練を積んで基礎のイロハを叩き込まれたのだ。

その時の出来事を、岸波にたっぷりと話してあげたのだろう。

 

「しかし、岸波は憧れる対象が素晴らしいですよ。沖波に話した時は、反応薄かったのになー。」

「え、えっと………私なんかと比べたら、理想が高すぎて。岸ちゃんみたいにしっかりしていないからなぁ………。」

 

岸波の反対側に座って、自信なさげに答えるのは、濃いめの臙脂色とピンクの髪を持つ艦娘。

その髪型はかなり独特でサイドが肩まである代わりに、前髪と後ろ髪はショートしかない。

何より、青いフチの半月眼鏡をややずらして付けているのが特徴であった。

彼女が、夕雲型14番艦の沖波である。

 

「長波姉さんも、陽炎さんの元で力を付けたんですよね?やっぱり素晴らしかったですか?」

「この長波サマが力を付けられたのは、陽炎さん達のお陰と言っても過言じゃねえ。生きる為の色々なテクニックを、マスターしていったからな!」

 

後ろに立って、そう答えるのは夕雲型4番艦の長波。

岸波が配属された事で、この4人で第三十一駆逐隊を結成する事になっていた。

 

「じゃあ、早速だけど旗艦決めちゃおっか!岸波ちゃん、やってみる?」

「え?いいんですか?長姉も沖姉も朝ちゃんもみんな、改二艦ですよ?」

「岸波、陽炎みたいになりたいんでしょ?だったら、最初から旗艦として修業積んだ方が効率いいんじゃないの?」

 

酒匂や長良の言葉を聞いた岸波は、周りの3人を見てみる。

 

「いいんじゃないの?岸波しっかり者だし。」

「あたいも!あたいはリーダーじゃなくてエースだかんな!」

「私は………あまり旗艦向けの性格じゃないから。」

 

それぞれ対応は異なるが、岸波に任せていいという姿を見て、彼女は両手に力こぶを作り、立ち上がる。

 

「分かりました!岸波、第三十一駆逐隊の旗艦として、陽炎先輩のような艦娘を目指します!」

 

これが、岸波の艦娘としての1歩目であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

「分かっていたけれど、全員、目を丸くしているわね。」

「いや、だって岸波、舞風に最初会った時、そんな熱い性格していたっけ!?」

「まあ………私は、人類を守るって義務感で艦娘になったから。最初は、こんなにハイテンションだったのよ。」

 

工廠(こうしょう)の明かりを受けながら、驚く一同の姿を見て、岸波は軽く溜息を付く。

そして、少し懐かしむような顔をすると、再び過去話を始める。

 

「とにかく、私は第三十一駆逐隊の旗艦として、最初から経験を積む事になったの。充実していて………楽しいとすら感じたわ。」

 

純真だった頃。

そう思えた位に、明るい未来を予測していた岸波の思い出が………紡がれ始めた。

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