「輪形陣で迎撃!………続いて、単縦陣!突撃!!」
「き、岸波!?何か性格、荒っぽくなってないか!?あたいでも、そこまで酷く無いぞ!?」
「口答えする暇があったら動け!………潜水艦来るぞ!単横陣!」
旗艦になった岸波は、メキメキと実力を付けていった。
訓練では、普段の姿からは想像できない位の勇ましい姿を見せて仲間を驚かせ、実戦では、酒匂や長良の補助を受けながら、着実に強くなっていった。
その姿に、朝霜だけでなく、長波と沖波も目を丸くするばかりだ。
「あたし達は、とんでもない旗艦を育てているのかもしれないな………。」
「岸ちゃん、海戦に集中すると長良さん達にも怒号飛ばしていますからね………。」
そんな旗艦として振る舞う岸波の姿は、舞鶴でも噂になり始めて様々な艦種の艦娘が注目するようになった。
この艦娘は、将来大物になるかもしれない。
そんな期待すら、背負わせてくれた。
「重巡リ級だ!追い込むぞ!酒匂、長良!援護射撃!それに合わせて雷撃だ!」
「ぴゃああああ!?脳筋だよ!?岸波ちゃんのスタイル凄い!?」
「粗削りねー。でも、そこら辺を上手く修正していくのが、軽巡の見せどころよ!」
こうして、岸波の練度はぐんぐんと伸びる事になった。
――――――――――――――――――――
「軽巡でも、使える物は使えのスタイルは、昔からだったんだ………。」
「舞風………いつも思うけれど、私を何だと思っているのよ………。でも、必死だったわね。憧れの嚮導艦は、こんなものじゃないってずっと感じていたもの。」
「背中………、追いかけていたんだね………。でも、失敗とかは無かったの………?」
「勿論、未熟者だから、調子に乗って大破する事はあったわ。その時は………沖姉の膝で泣いていた。」
「あ………。」
岸波の言葉に、舞風は思い当たる事があった。
彼女が第二十六駆逐隊に転属した時に、眠れないからと言われて、膝枕をした事。
確かあの時、岸波は、沖波も同じようにしてくれたと語っていた。
「アレは、私が大破して、気を失って船渠(ドック)入りをしたときの事だったわ。」
――――――――――――――――――――
「ぁ………れ………?」
「………大丈夫、岸ちゃん?」
岸波が目を覚ました時、船渠(ドック)で沖波に膝枕をされていた。
「沖姉………?そっか、私………。」
そこで海戦で失敗した時の事を思い出し、岸波は思わず目を右腕で覆う。
長良の注意を無視して突撃していった結果、返り討ちにあってしまったのだ。
旗艦なのに、イージーミスをした結果、皆に迷惑を掛けてしまった。
「悔しいわね………。陽炎先輩は、こんなミスしない筈なのに………。」
「そうかな?誰だって、最初から失敗をしない人はいないと思うよ?」
「沖姉………。でも………!」
「焦っちゃダメだよ、岸ちゃん。あなたは私と違って、陽炎さんみたいになれる素質があるんだから………もっとゆっくりと、みんなを頼って………ね?」
「………………。」
自嘲気味な所を除けば、姉としての優しさを持つ沖波の言葉を受けて、岸波は思わず涙を流す。
沖波は何も言わず、ひとしきり泣かせてくれた。
「ごめんなさい………情けない所を見せてしまって………。」
「いいよ。甘えられるのは、妹艦の特権だから。」
「改二だったら………こんな事にはならなかったのかな………?」
岸波は考える。
残念ながら、岸波の改二への改造はまだ出来ない状態だ。
その為、海戦能力はどんなに鍛えても、長波達3人には劣ってしまっていた。
「改二じゃなくても力があるのは、長良さんや酒匂さんが教えてくれているよ?それに………改二になるとコストが掛かる分、退役できなくなるから軽くおススメは出来ないかな?」
沖波の言っている事は、事実だ。
改二の力が、海戦を左右する全てでは無い。
そして、改二になるという事は、それだけの国の資産を費やす事になる為、文字通り艦娘から一生逃れられない可能性が高かった。
だからこそ、岸波は気になる事があった。
「ねえ、沖姉。長姉や朝ちゃんは、陽炎先輩達に憧れて改二になったって以前言っているのを聞いたけれど………沖姉は何で、改二になる道を選んだの?」
「わ、私!?………そうだね、私は………その、家庭環境が悪くて………それで、艦娘になるしか道が無かったんだ。」
影の掛かった沖波の寂しそうな笑みを見ながら、岸波は質問が不味かったかもしれないと後悔する。
恐らく沖波は、両親の不仲とかそういう関係で、仕方なく艦娘になるしか無かったのだろう。
そして、もうその環境に戻りたく無かったから、改二になる道を選んだのだ。
「あの、その………。」
「後悔はしてないよ?ここで、長波姉さんや朝ちゃん、それに岸ちゃんっていう「家族」に出会えたんだから。だから………私は、幸せかな?」
「沖姉………。」
笑顔を見せる沖波の姿を見て、岸波は、自分とは違う強さを見つける。
それでも、彼女は自嘲気味に………しかし、ハッキリと言う。
「私は臆病者で引っ込み思案だけれど………、艦娘としてずっと生きたい。そして最期は………艦娘として死にたいかな。」
「だ、ダメよ、沖姉!?沖姉が死んだら、長姉も朝ちゃんも私も悲しむわ!それだけは絶対にダメ!」
「ありがとう、そう言ってくれて。そうだね………私もみんなとずっと一緒に居たいかな?」
沖波は顔を上げる。
すると、視線の先には長波と朝霜が心配そうに覗き込んで来ていた。
「あー、邪魔したか?悪い。」
「でも、あたい達も………その、いなくなったら寂しいし。」
「………だそうよ?沖姉。ずっと、みんなで一緒に居ましょう。第三十一駆逐隊みんなで。」
「うん………!」
デコボコしていながらも、第三十一駆逐隊は、居心地の良い場所であった。
だから………この場にいる皆が、思ったものだ。
ずっとみんなでこの駆逐隊を守って行こうと。
――――――――――――――――――――
「膝枕にそんな思い出があったなんて………。」
岸波の思い出話を受けて、舞風は感慨深い物を覚える。
沖波は、自分に自信がなさそうであったが、とても優しい姉である気がした。
彼女だけでない。
岸波の過去で語られる朝霜や長波も、凄く良い雰囲気を持っていた。
まだまだ未熟である頃の岸波が落ち込んだ時は、そうやって支えてくれる仲間として、振る舞ってくれたのだ。
彼女はその頃の思い出を振り返っているのか、目を細めながら呟く。
「あの頃は、ずっと思っていたわ。私の居場所は第三十一駆逐隊にあるって。改二じゃないけれど、その旗艦としてずっと過ごしていきたいって。」
「何ていうか………岸波は舞鶴で幸せを噛みしめていたんだね~。」
「ええ。だから、この大切な仲間は、何が何でもやらせないって思ったわ。その為に、みんなを守れる艦娘になろうって思ったの。だから、高姉を始めとした、時々舞鶴に訪れる姉妹艦達を中心に、色々と教えを請いて学んでいったわ。」
「でも、その………岸波さんは………。あの、貴女にとっての幸せな時間はどの程度まで続いたの?」
躊躇いながらも聞いてきた薄雲の言葉に、少し目を伏せ、岸波は答える。
「まだ続いていたわ。舞鶴で実力を付けた私達は、泊地の防衛強化の為に、リンガへ転籍する事になったの。」
――――――――――――――――――――
「リンガ泊地に転籍………ですか?」
「そうみたい。最も西南の泊地だけれど大丈夫。今の貴女達ならばやっていけるわ。」
「酒匂も立派に育ってくれて嬉しいよ!岸波ちゃん、長波ちゃん、沖波ちゃん、朝霜ちゃん!頑張ってね!」
「先輩………!」
鍛えてくれた軽巡の2人からお墨付きを貰った事で、岸波達は新たな地に心を躍らせる。
立派になった自分達の実力と連携を、見せるべき時が来た。
きっと辛い事も多いけれど、この4人ならば大丈夫だという自信があった。
「長良先輩!酒匂先輩!ありがとうございます!第三十一駆逐隊………立派に戦ってみせます!」
「あたし達の新天地での活躍、楽しみにしていてくださいね!」
「不安が無いと言われれば嘘ですけれど………みんながいれば大丈夫ですよね。」
「あたい達全員が、エースで活躍してみせますから!」
こうして、岸波達の第三十一駆逐隊は、堂々とした足取りでリンガ泊地へと転籍していった。
まだ見ぬ艦娘達との出会いを、楽しみにしながら。
そして、1日掛けて海路を進み、舞鶴からリンガ泊地へと移動した4人は、転籍の報告をする為に、執務室で提督に挨拶をする事になる。
「岸波以下、第三十一駆逐隊!リンガへ到着しました!」
「よく来てくれた。お前達の噂は、舞鶴から届いている。強い意志とリーダーシップを持つ旗艦に、強力な力と信頼関係を持つ改二艦。全く………提督としての経歴の浅い俺には、勿体ない位の戦力だ。」
答えてくれたのは、まだまだ若さが残っている提督。
元々リンガは、定年間際の老提督が管理していたらしく、その後の2代目を任される事になったのが、今の提督であるらしい。
「提督………お言葉ですが、第三十一駆逐隊はまだまだ完成された存在ではありません。未熟な部分も多いので、ここでご指導ご鞭撻をお願いします!」
「そのハングリー精神も立派だな。ならば、ここで更に力を付けてくれ。………と、まずはここで共に暮らす仲間を紹介しないといけないな。」
リンガの提督は、付いて来るように言うと、岸波達4人を庁舎から連れ出し、外を案内する事になる。
「このリンガでは、現場の艦娘に聞いたところ、楽しみが3つあるらしい。」
「1つ目は何ですか?」
「休暇の際は、ほぼ年中の間、水着を着て海水浴が楽しめる事だ。艦娘にとって海水浴が楽しい事なのかどうかは、微妙だが。」
「確かにあたい達、いつも泳いでいますからね………。」
朝霜が何とも微妙な顔をする。
艦娘は常に海水を被るような職業故に、素直に海水浴を楽しめない者もいる。
中には、艤装を付けないと落ち着かない者もいる始末だ。
「2つ目は、あの第十四駆逐隊の活躍が聞けるって事だな。」
『本当ですか!?』
「食いつきがいいな………。」
即座に食い入るように反応した岸波、長波、朝霜の3人の反応を受け、提督がため息を付く。
何でも老提督時代のリンガ泊地に、第十四駆逐隊がやって来て、危機を救ってくれた事があるらしい。
その時代からリンガに勤務していた艦娘がいるので、その時の話を存分に聞けるとの事だ。
「それはあたし達にとっては何よりの財産だ。後で紹介してくれ!」
「秘書艦だから、後で嫌でも紹介する。3つ目は、その秘書艦がヘビの肉で絶品料理を作ってくれる事だ。」
「ヘビ!?」
今度は沖波が思わずショックで叫ぶ。
流石にこれは、好き嫌いが分かれるだろう。
「大丈夫だ、毒は無い。食べて死んだ娘はいないから安心しろ。」
「いやいや、そういう問題じゃないですよ!?何でヘビの肉で!?」
「泊地だから、貴重な資源は何でも使わなければダメだ。俺も最近は、そいつに料理を教わっている。」
「え………えぇ………?」
ある意味、深海棲艦よりも恐怖の対象に出くわしたような反応を見せる沖波であったが、確かに本土からの支援が届きにくい泊地である以上、とくに肉は重要であった。
「意外と食べてみたら美味しいぞ?」
「た、確かに美味しいかもしれませんが、ヘビは………きゃあっ!?」
俯きながら草むらの近くを歩いていた所で、沖波が悲鳴を上げて腰を抜かす。
見れば、林の中から力尽きたヘビが顔を出してきたのだ。
そして、それを手に持った、肌や顔に白粉を塗った黒髪の艦娘が出て来る。
変わっているのは、来ている黒い軍服が陸軍の物である事だろうか?
「おや?提督殿。ひょっとして、その艦娘達が舞鶴から来た、新たな娘ですかな?」
「そうだ。………紹介しよう、リンガの秘書艦で揚陸艦のあきつ丸だ。」
「あきつ丸であります!………って、そこの方、大丈夫でありますか?」
「だ、大丈夫ですぅ………。」
敬礼をした際に地面に落としたヘビの死骸を見せつけられて、泡を吹きそうになった沖波を気遣うあきつ丸。
沖波は、何とか手を取って貰い起き上がる事が出来たが、意識は混乱しており、足がガクガクと震えていた。
一方で、岸波達3人は、目を輝かせてあきつ丸を見ていた。
彼女が、陽炎達の世話になった艦娘であったというのは、長波や朝霜は第十四駆逐隊に鍛えて貰っていた時に教えて貰っていたし、岸波は、その2人から自慢話として伝えられていたからだ。
「あきつ丸先輩!陽炎先輩達の事、教えて下さい!」
「い、いきなり何でありますか!?後、自分は揚陸艦でありますから、呼び捨てで大丈夫であります!?」
「じゃあ、あきつ丸!あたい達に、陽炎さん達の武勇伝を教えてくれ!」
「ひょ、ひょっとして!?第十四駆逐隊に鍛えられた夕雲型の仲間ですか!?」
「ん?待ってくれ。その言い方だと………。」
「ふふっ。長波も朝霜も元気そうね。沖波さんや岸波さんも強くなっていてよかった。」
声に振り返ってみれば、そこには緑の長い三つ編みの駆逐艦娘が笑みを浮かべて立っていた。
「夕雲!?」
「え、夕姉………?」
思わずびっくりする朝霜に、岸波は思わず呟く。
夕雲型1番艦………長波や朝霜と同期であり、ネームシップである夕雲もまた、リンガ泊地に所属していたからだ。