艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第41話 ~回想・禁じ手~

「磯風姉さん達が、ここで登場か。………でも、確か姉さんは、横須賀で最初に岸波と会った時に、凄く過去を悔いていたよね。」

「ええ………。でもそれは、厳密には磯風の責任では無いのよ。それは、明らかに私の責任。」

「庇いあっているのでは、無いのですか?」

「いいえ………そうじゃないわ。………話の続き、するわね。」

 

初霜の疑念に首を振りながら、岸波は淡々と説明していく。

まるで、敢えて感情を出さないように気を付けているような感じで………。

 

「第十七駆逐隊が来た事で、泊地の戦力は増強したわ。それでも、深海棲艦側の勢力もまた、どんどん増していっていたのよ。」

 

岸波は工廠(こうしょう)の明かりでも照らしきれない夜空を見上げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

第十七駆逐隊が配属されて数週間。

ある日、リンガで艤装を付けて、出撃準備を整えていた岸波に、磯風が語り掛けて来る。

 

「岸波、君の旗艦としての能力は素晴らしいな。」

「何、磯風?いきなり、そんなことを言って………。」

 

泊地では、他にも沖波、浦風、浜風、谷風の4人がいつでも抜錨できる準備をしている状態で待機していた。

ここ最近は、深海棲艦の攻勢が強まっており、夕雲・葛城・白雪・弥生・長波・朝霜のグループと交互で出撃をして、深海棲艦を少しでも減らそうと努力をしている状態だ。

その為、岸波と沖波は第十七駆逐隊の戦闘を間近で見る機会に恵まれていた。

 

「私達は、勇ましく戦う磯風さん達の方が凄いと思うけれど………ねえ、岸ちゃん。」

「ええ。自分の役割をしっかり考えながら戦う姿は、立派じゃないかしら?」

「ははは、強力な改二艦と、そんな私達をまとめ上げる旗艦に褒められるとは光栄だ。だが………私達も、君達2人から学び取る事が多い。」

 

磯風はリンガに来て良かったと呟き、空を見上げ、顔を少ししかめる。

今日の泊地は珍しく霧に包まれており、辺りが見えにくい状態であった。

 

「沖波は自身を気弱だと思っているかもしれないが、海戦での砲撃や雷撃の正確さは見事だ。」

「そ、そう………かな?」

「岸波は………今更、言う必要はないかもしれないが、敵に臆する事無く、皆を引っ張っていくリーダーシップがある。」

「私は、磯風が旗艦を担った方がいいと思う事があるけれど………。」

「嬉しいな。だが………。」

「磯風はこう見えて、岸波以上に脳筋だからねー。」

 

呑気に伸びをしながら会話に混じって来たのは、谷風。

彼女は、そのままストレッチを始めながら岸波達に言う。

 

「何かあったら、すぐに単縦陣!って言うんだよ?もうちょっと、他の陣形を多用すればいいのにさ。」

「それは………困るわね。」

「し、仕方ないだろ!攻撃は最大の防御という言葉を………!」

「状況に応じて使わなければ、意味は無いですよ。」

「爆撃に対して単縦陣を指示した時は、流石に頭を叩いたわ。」

「うぐぐぐぐぐ………し、仕方ないだろう!」

 

更に浜風と浦風も会話に混じって来た事で、珍しく慌てる磯風。

もしかして彼女は天然なのか?と岸波と沖波は密かに思ってしまう。

 

「とにかく………だ!そんな私だからこそ、岸波や沖波を始めとした艦娘達の力は頼りになる!これからも勉強させてくれ!」

「………だそうじゃ、岸波、沖波。悪いけれど、面倒見ちゃって。」

「磯風の悪い癖も治るかもしれないからねー。」

「ええい!だから人の揚げ足を取るな!」

『あははははは………!』

 

完全に仲間に遊ばれている磯風の姿に、思わず笑顔になる岸波達。

しかし、そこでふと時計を気にした浜風が首を傾げる。

 

「それにしても、夕雲達が遅いわね。………何もないといいのだけれど。」

「岸波、沖波、磯風、浦風、浜風、谷風!抜錨は可能でありますか!?」

 

そこに泊地の庁舎から、あきつ丸が走って来る。

基本、揚陸艦であり秘書艦である彼女は、出撃をせず泊地内で提督と作戦指揮を取る。

彼女が慌てているという事は、何か良くない事が起こったのだろう。

岸波が確認に向かう。

 

「実は、重巡のネ級改に出くわしたらしいのであります。」

「ネ級改!?状況は………!?」

「いや、果敢に攻めた結果、撃沈には成功したのですが、5隻の随伴艦に逃げられたらしいのであります。こちらは葛城殿が中破、弥生がトドメを刺した代わりに大破。」

「戻ってこられるの!?」

「曳航していると連絡が来たであります。只、随伴艦達の追撃を行って欲しいのであります。」

「了解!みんな、今の言葉聞いたわね!」

「聞いたし、その夕雲達も見えてきたよ!」

 

谷風の言葉に全員が双眼望遠鏡(メガネ)で見てみれば、確かに夕雲達が戻ってきている。

葛城がボウガンを破壊されており、弥生に至っては艤装や主機がボロボロになっており、長波と白雪に支えられていた。

 

「大丈夫ですか、葛城先輩、弥生先輩!?」

「私より弥生の方を見てあげて………!」

「弥生さん!」

「だ、大丈夫………。ゴメン………無茶してしまって………。」

「ゆっくり休んで。後はうち達に任せてくれ。」

 

沖波や浦風が弥生を気遣う中、岸波は夕雲に確認を取っていた。

 

「随伴艦は、エリート級の重巡リ級2隻、エリート級の軽空母ヌ級、エリート級の軽巡ホ級2隻です。ごめんなさい、尻ぬぐいをさせてしまって………。」

「大丈夫!………倒せない敵では無いわね!第三十一駆逐隊、抜錨するわよ!」

『了解!』

 

岸波の言葉で、沖波、磯風、浜風、浦風、谷風の順で抜錨する。

すぐさま複縦陣になり、左前から磯風・浜風、岸波・沖波、浦風・谷風と変わる。

 

「全艦、北へ!仲間を傷つけた敵は許すな!!」

 

この時、戦意を高揚させた岸波は思いもしなかっただろう。

これが、第三十一駆逐隊として最後の号令になるなんて。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「最後の………号令?」

「……………。」

 

薄雲の疑問に、岸波は軽く息を吐く。

そして、少し俯くと静かに呟く。

 

「もしも、過去に戻れるならば………私はあの抜錨の瞬間に戻りたい。そう………あの抜錨が、私の間違えの始まりだったのだから。」

 

感情を殺しているはずなのに、無意識なのか両拳を震わせ始めた岸波を見て、皆が息をのむ。

恐らく、この先に語られる事が、彼女にとってのターニングポイントだったのだろう。

だからこそ、舞風は思い切って言った。

 

「………教えて、岸波。貴女の一番辛い部分を。」

「ええ………。」

 

岸波は舞風を、望月を、山風を、薄雲を、朧を、初霜を、敷波を、夏雲を見渡すと言葉を何とか紡ぎ始める。

彼女が絶対に許せないと感じている………最悪の第三十一駆逐隊旗艦としての行為を。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「見つけた!アレが例の随伴艦の群れね!」

 

霧の中、沖へと抜錨して1時間程航行した岸波達は、電探で逃げているその敵艦5隻を見つける。

単縦陣で、先頭からリ級2隻、ヌ級、ホ級2隻だ。

とはいえ、夕雲達が先にダメージを与えてくれていたのか、リ級やヌ級からは煙が上がっており、ホ級は傾いている有様だ。

それ故に速力のある艦隊に追いつけたとも言えるし、仕留めるならば今しか無かった。

敵艦は、こちらに気付いたヌ級が、羽虫のような攻撃機を発艦させたが、他の艦は砲撃よりも撤退を優先させていた。

 

「突撃するぞ!輪形陣でヌ級の攻撃機を掻い潜る!」

 

岸波の荒々しい声で、磯風を中心とした輪形陣に切り替わる。

敵攻撃機は爆撃を仕掛けようとするが、慌てなかった。

何故なら、岸波や沖波は舞鶴時代、長良や高波の教えで、攻撃機が爆撃の瞬間に、艦首をこちらに向けて、目が鈍く光る事を知っており、対応が容易だったからだ。

 

「撃ち方ぁー、始め!」

 

岸波の号令で、機銃や主砲、対空砲が一斉に火を噴く。

特に第十七駆逐隊の砲火は強力で、あっという間に攻撃機を全滅させてしまった。

 

「再び複縦陣!最後尾のホ級を狙え!」

 

ここで、敵艦が逃げ切れないと判断したのか、反転して砲撃を放ってくるが、岸波達は面舵で右に動きながら、砲撃を避ける。

そして、最後尾の浦風と谷風がホ級に狙いを定めた。

 

「ぶっ飛ばしちゃる!」

「貰っちゃうぜー!」

 

2人の砲撃は的確に2隻の敵艦に炸裂して、爆発させる。

更に左に取舵を取る間に、沖波が慌てふためくヌ級に狙いを定める。

 

「よーく狙って………撃てぇー!」

 

右手に持った連装砲は、見事にヌ級に当たる。

浮力を失った敵艦は、海の底へと沈んでいくだけだった。

この惨状を見て、砲撃を出鱈目に撃っていたリ級は、艦列すら無視して別れて一目散に逃げていく。

 

「逃がすな!磯風!浜風!」

「任せろ!」

「勝負!」

 

先頭の2人が素早く砲撃を放ち、撃沈を狙う。

浜風の砲撃はリ級の背中に直撃して、沈めていく。

しかし………磯風の砲撃は、咄嗟に反転したリ級の堅い腕で弾かれてしまう。

 

「防御したか!?岸波、単縦陣だ!増速して一気にトドメを刺すぞ!」

「ええ!!」

 

思えば………ここが岸波にとっても、そして多分、磯風にとってもトラウマの元凶になってしまった部分だったのかもしれない。

2人は、もっと慎重になるべきだったのだ。

この霧の中、陣形を変える事に対して。

艦列を変える際、駆逐艦と言っても、必ず隙は出来る。

だから………無暗に単縦陣になってはいけなかったのだ。

 

「ぐわあああああああっ!?」

「浜風っ!?………ぐぅっ!?」

「浜風さん!?岸ちゃん!?しっかりして!?」

 

陣形変更をしている最中、突如、霧の中から紅蓮の長距離砲撃が飛んできて、浜風に直撃し、続いて岸波にも命中する。

見えない所からの攻撃に、防御する暇が無かった浜風は、背中の艤装が爆雷ごと派手に爆発して大破してしまい、海上に倒れて沈みかけ、慌てて浦風と谷風に支えられる。

岸波は咄嗟に魚雷と爆雷を投棄する暇があったが、それでも艤装が火を噴き、中破してしまった。

 

「あ、新手だと!?何が起こった!?」

「フフフフフフ………。」

『!?』

 

突然の出来事に混乱する磯風の耳に、深海の底から響き渡るような声が聞こえて来る。

艦娘達は、リ級が逃げた方向に巨大なシルエットを見る。

それは少しずつ、全身を布で巻いた、炎のようなリボンを纏った長いツインテールの女の姿へと変わる。

特徴的なのは、肩より先の厳めしい艤装であろうか。

両方の腕部と鉤爪の手甲から口から砲身を伸ばした砲塔ユニットが生えており、腰部にも機銃ユニットが接続されている。

強気の笑みを浮かべながら、獲物を前にして舌なめずりするその深海棲艦は………。

 

「南方棲戦姫………!」

 

強力な航空戦艦の姫クラスだという事を聞いた事がある岸波は、立て膝を付きながら、その恐ろしい姿を目の当たりにして悟る。

ここ最近、深海棲艦の勢いが増していたのは、この南方棲戦姫がいたからだと。

 

「ネ級改の裏に、こんな親玉が………!?」

「しっかりしろ!浜風!浜風っ!!」

「う………うううう………。」

「!?」

 

岸波は後ろを振り返る。

大破状態に追い込まれていた浜風は仰向けに倒れながら苦痛で呻いており、磯風が必死に呼びかけていた。

破壊された艤装は、もうほとんど機能を果たしておらず、火傷の跡が酷く、顔は青ざめていた。

早く泊地に戻って、船渠(ドック)入りさせないと危ない。

だが………。

 

「ココカラハ………通シマセン。」

 

重たげな主砲の付いた腕を回しながら、こちらへと向かって来る南方棲戦姫は、6人全員を逃がす気は無かった。

いつでも主砲を向けて沈めるつもりであった。

 

(どうする………!?)

 

岸波は旗艦として考える。

自分は中破している上に、魚雷等は捨ててしまっている。

浜風は大破状態で、最低2人には曳航して貰わないといけない。

磯風は自身の発言で起こった事態の為か、気が動転してしまっている。

 

(どうする………!?どうすればいい………!?)

 

このままだと、6人全員轟沈してしまう。

何とか泊地まで、無事に帰さないといけない。

だが、その為の方法が思いつかない。

 

(岸波!?思いつけ!?岸波!!)

 

「岸ちゃん、大丈夫!?」

「!?」

 

いつの間にか、頭を抱えてうずくまっていたのだろうか。

岸波の元に、沖波が心配そうにやって来る。

 

「沖………姉………?」

 

岸波は、改めて沖波をまじまじと見た。

彼女は改二艦だ。

被弾は特にしていない。

主砲の弾もほとんど使ってないし、何より魚雷が残っている。

 

「……………。」

「岸ちゃん………?」

 

岸波の頭の中に………1つの考えが浮かぶ。

だが、その瞬間に自分の頭を思いっきり拳で叩きつけて、吹き飛ばそうとする。

しかし、一度閃いた「最善策」は脳裏にこびりついてしまう。

 

「違う………!一番いい方法は………!」

「岸ちゃん………。」

「こんなの正しくないわ!本当に正しいのはっ!」

「……………。」

「私は………!これじゃあ………!」

「岸ちゃん………浜風さんを助けられる方法、思いついたんだね。」

「え?」

 

岸波は見る。

沖波は強大な敵艦が近づいて来るのにも関わらず、前に出て後ろを………岸波の方を見て少しだけ笑みを見せる。

まるで、岸波の思いついてしまった最善策の意味を分かっているかのように。

 

「ち………違うわ!私は………!」

「旗艦は常に状況を把握しなければならないよ?このままだと全滅する。じゃあ、どうしなければいけないかな?」

「それは………!」

 

思わず岸波は立ち上がり、沖波の両肩を掴む。

その優しい顔を見た瞬間、妹艦として甘えたくなってしまう。

だが、甘えてはいけない場面だ。

しかし、敵は、残っている艦娘で戦って勝てる相手では無い事も、岸波は理解してしまっている。

 

(言うな………!言ったらダメだ………!言ったら………でも………!)

 

喉元までこみ上げている言葉を………旗艦命令を、必死に仕舞おうとする岸波であったが、その周囲に砲火が飛んで来る。

恐怖を煽る為に、南方棲戦姫が敢えて夾叉弾を撃ってきたのだ。

タイムリミットを痛感した岸波は………遂に口に出してしまう。

 

「………駆逐艦沖波、旗艦命令だ!敵深海棲艦を………単騎で足止めしろ!」

『!?』

 

その岸波の冷徹で非情な命令に、背後の第十七駆逐隊の面々が絶句した。

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