艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第49話 ~第二十六駆逐隊~

「ほ、本日よりリンガに就任します、駆逐艦沖波です!宜しくお願いします!!」

『……………。』

 

1週間後、暁・ヴェールヌイ・雷・電の第六駆逐隊に率いられてやってきた第2代沖波は、眼鏡の艦娘だった。

髪型や目の色等も、初代沖波にそっくりで、若干顔つきが子供っぽい所を除けば、妹だと言われても納得する程には似ていた。

 

「世界には、同じ容姿の人物が3人いると聞くけれど、それか?」

「あー、あたいもそれを思い出していた。ある意味これも、初代沖波からの贈り物なのかもしれないな。」

「え?え?」

 

長波と朝霜が首を傾げて会話をする中、1人意味が分からない新人沖波が戸惑う。

提督はそんな2人も含め、リンガに集まっていた艦娘達を見ながら告げる。

 

「………で、誰が教育係になる?横須賀の変態は、敢えて舞鶴の長良ではなく、こっちに送って来た。旗艦経験ならば………。」

「あたいがやる。」

 

そこで、真っ先に声を上げたのは朝霜であった。

彼女は緊張感でガチガチに固まった沖波の傍まで来ると、その両肩に手を置いて聞く。

 

「なぁ、沖波。どんな艦娘になりたい?」

「ど、どんな艦娘ですか………?その、私がこんな事を言うのは恐縮ですが………。」

 

沖波はそう前置きしたうえで、俯きがちになりながら朝霜に答える。

 

「この名を持っていた、先代の沖波さんは、とても勇猛果敢で仲間想いの艦娘だったと聞きます。まずは、その名に相応しい艦娘になれるように、努力していきたいです!」

「そっか………。そうだよな。うん、いい答えだ。」

 

最後はしっかりと顔を上げて答えた沖波を見て、朝霜はギザ歯を見せながら、ニカっと笑う。

そして、リンガの提督の方を振り返った。

 

「岸波が出来たんです。あたいも嚮導艦っての、やってみますよ。」

「大丈夫か?俺は不安で仕方ないが………。」

「ちゃんと教育しますって!………じゃあ、他に誰がやるんですか?」

「あたしだ。」

 

別の言葉に振り向いてみれば、長波も前に出てきていた。

 

「長波?第二十五駆逐隊は放っておいていいのか?」

「どうせお前が名乗りを上げると思ったから、事前に磯風に相談して、転属許可を貰った。………岸波みたいな艦娘になりたいんだろ?」

「まあ………あたいなりに、これからどう進んで行こうか考えたからな。」

「だったら、どうせならば第三十一駆逐隊で、またビッグになろうぜ。今の岸波はまだ混じれないが………せめて元居た駆逐隊が、元気に活動している姿を見せてやりたいからな。」

 

長波はそう言うと、もう一度磯風の方を見る。

長い間、横須賀で世話になった艦娘の元を去る決意をしたのだ。

当然磯風の負担も大きくなるが、彼女はそれを許可してくれた。

 

「長波、達者でな。」

「磯風も。第二十五駆逐隊もビッグになれよ。」

「ああ。」

 

最後の挨拶をして、長波が沖波の方へ歩いていく。

すると、小柄な艦娘もまた、速足で沖波の元へと駆けていった。

弥生である。

 

「ねえ………、貴女さえ良ければ、私も先生やっていい………?」

「ふえ!?………も、勿論ですけれど。」

「ん?弥生も混じるのか?」

「先代沖波は………私の事、最後まで先生って言ってくれた。だから………私も、協力したい!」

 

珍しく力強く言ってのけた弥生に続いて、葛城や白雪もやってくる。

 

「じゃあ、私も参加決定ね!空母なりの鍛え方、してあげる!」

「私も噴進砲の使い方を教えてあげないとね。腕が鳴るわ。」

「おいおい、まさかと思うが………。」

 

長波や朝霜は、残ったあきつ丸と夕雲を見る。

2人も、さも当然と言わんばかりに、笑顔で歩み出て来る。

 

「陸戦の戦い方を、説明しなければならないであります。」

「夕雲型なんだから、夕雲型のネームシップは必要でしょ?」

「なぁんだ、結局リンガにいる全員が先生かよ。………ま、それがあたい達らしいけどな。」

 

朝霜はそう言うと、沖波の肩をポンポンと叩いて、各艦娘達の紹介を始める。

その様子を微笑ましく眺めながら、岸波はリンガの新たな家族の誕生を喜んでいた。

しかし、そこに雷がこっそりと話しかけに来る。

 

「ねえ、岸波。司令官から、貴女に伝言があるんだけれど………。」

「何ですか、雷先輩?第二十六駆逐隊の帰投命令ですか?」

「それもあるわ。後ね………遂に貴女の熱意に根負けしたって。」

「え?それは………!?」

 

驚く岸波に、雷は笑って見せる。

 

「おめでとう!呉に転籍して、明石さんの弟子入りの許可、貰えたわよ!」

「そうですか………!これで、私も………。」

 

誰かを助ける力を手に入れる為に、未来に進んでいく。

その岸波の夢が、適う事になったのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

岸波は、朝霜や長波と別れて横須賀に戻った後、ある日の夜間に、皆に内緒でこっそりと部屋の片づけをしていた。

夏雲の時のパターンを考えると、最低でも半年は、呉に入り浸りになるだろう。

そこで、明石から工作艦としてのイロハを習う事が出来ると考えると、嬉しい物があったが、その間は、第二十六駆逐隊の嚮導艦としての役割を果たせなくなってしまう。

新しい旗艦候補として望月を提督にお願いしたから、即座に解体というわけでは無いが、しばらくは6人とは別の道を歩む事になる為、後ろ髪を引かれる思いは強かった。

 

(ありがとね、舞風。………ううん、望月も、山風も、薄雲も、朧も、初霜もみんな。)

 

いつの間にか信じられる家族になった駆逐隊の仲間達に心で感謝を送りながら、眠っている舞風の机の上に手紙を残していく。

そして、他の第二十六駆逐隊の面々の部屋のポストにも、それぞれの艦娘に当てた手紙を入れると、岸波は荷物を持って、部屋を後にした。

本当は直接挨拶をしたかったのだが、そうすると本当に呉へ行けなくなる気がしたので、こうして夜中にこっそりと抜け出す事にしたのだ。

事前に提督に許可を取って、艤装は整備して貰ってある。

後は、それを装着すれば、横須賀から立つ事が出来た。

 

「思い出の詰まった場所よね。ここも………。」

 

寮の廊下を静かに歩きながら、岸波は思い出す。

春先に怠惰艦として来た時は、嵐に渋々案内されたものだ。

それから色々な変化を経験して、彼女は確かな絆を手に入れた。

 

「ありがとう、横須賀のみんな………。」

 

そうして、駆逐艦寮を後にして外に出る岸波であったが………。

 

「遅いじゃん、岸波。」

「……………。」

 

彼女は固まる。

外には、荷物をまとめ、艤装を装着していた望月・山風・薄雲・朧・初霜が並んで待っていたからだ。

 

「貴女達………何してるの?」

「何って………転籍許可が認められたから、岸波に付いていく気でいるんだけど?」

 

更に後ろから、舞風が荷物を纏めて現れた事で、岸波は益々分からなくなる。

横須賀の提督は、艦娘を借りパクする事で有名だ。

その提督が、岸波を含めて7人もの艦娘を手放すとは思えなかった。

 

「というか、何で堂々と外に出られているのよ。今日の週番、朝潮先輩でしょ?」

「岸波にはお世話になったからね。それに、司令官の嫌がらせみたいよ?」

 

舞風の後ろで、入り口にもたれかかりながら、手を組んで嘆息している朝潮の姿を見て、岸波はこの第二十六駆逐隊の面々が、何をやらかしたのかと思い、不安になって思わず問う。

すると、全員が笑いながら、2つの許可書を取り出した。

1つは、呉への転籍許可願い。

もう1つは………。

 

「退役願い!?」

「望月の機転で………、6人揃って、この2つを提督に出した………。」

「2択に1択を選べって突き付けたの!?山風や初霜は改二艦でしょ!?そんな事をしたら、提督が泡吹くわよ!?」

「実際に、カニさんみたいに泡吹きそうだったね。」

「でも、仕方ないですよ。私達も散々岸波さんに、付いていきたいってお願いしたのに、ダメの一点張りでしたから。」

「いや、でも駆逐隊を解体するわけじゃないし………。」

「第二十六駆逐隊は第十四駆逐隊みたいにまだ、伝説になったわけじゃないわ。それに、沖波さんの言葉を忘れたの?」

 

岸波の信じられる新たな家族を、引き続き大切にして欲しいと、沖波は言った。

あの言葉で、過去の楔から解き放たれた岸波は、ようやく「本来の岸波」としての姿を振るえるようになったのだ。

なのに、彼女が1人で呉に行ってしまっては、その姿を仲間達は見る事が出来ない。

だから、第二十六駆逐隊の6人は、博打を打ったのだ。

 

「滅茶苦茶よ………。」

「全くだ。泡を吹く所か、失神して大淀にしがみつきそうになったぞ。」

「そこは、素直に床に倒れて下さい。」

「て、提督………。」

 

頭を抱えた岸波の所に、しかめっ面の横須賀の提督とクスリと笑った秘書艦の大淀がやって来る。

岸波は、自分を思っての行動だったとはいえ、無理を強いた仲間達の博打を謝罪した。

 

「申し訳ありません。命令違反は、今から鎮守府何週で………。」

「常習犯だからもういい。その代わり約束しろ。必ず7人で横須賀に戻ってくるんだぞ。絶対になっ!」

「………空母棲鬼の時や宿毛湾泊地跡に行った時よりも、言葉に力が入っていませんか?」

「いいから舞風と共に準備をしろ。朝潮、こうなったら派手に送り出してやれ。眠っている駆逐艦娘を全員起こして来い。」

「ハッ!」

 

とんでもない事になったな………と思いながら、岸波は舞風と一緒に装備品保管庫に向かう。

保管庫の前では、朧辺りから事情を聞いていたのか、あの衛兵が笑って待っていてくれた。

 

「夢を再び持てるのはいい事だ。行ってこい!」

「はい………私達が言っている間、「彼女」の事もお願いしますね。」

「おう!」

 

そして、装備品保管庫から桟橋へと走って来た岸波は、本当に沢山の艦娘達が待ってくれているのを見る。

嵐・野分・萩風の第四駆逐隊、暁やヴェールヌイ達の第六駆逐隊、曙や漣の第七駆逐隊、朝潮や大潮達の第八駆逐隊、朝雲や夏雲達の第九駆逐隊。

他にも、村雨に早霜、深雪に吹雪、叢雲に磯風、御蔵に屋代、愛宕に那珂、扶桑に山城、赤城に加賀、摩耶に鳥海、速吸に鳳翔。

島風も、連装砲ちゃんを連れて待機してくれていた。

 

「駆逐隊1つにこんなに沢山の見送り、本当にありがとうございます。」

「それだけアンタ達も立派になったって事よ。あたしも鼻が高いわ。」

 

皆を代表して、曙が岸波に歩み寄り、固く握手を交わす。

 

「クソ提督じゃないけれど、第二十六駆逐隊が、横須賀に戻って来る日を待っているわよ。」

「ぼの先輩………すみません、秋は秋刀魚漁に連れて行ってくれると言っていたのに………。」

「来年以降もあるから心配しなくていいわよ。………只、修行に疲れたら、遠慮なく羽休めに来てもいいからね。ここも、もうアンタの立派な故郷なんだし。」

「はい!」

 

満面の笑みで応えて手を離すと、岸波は後ろの仲間に指示を出して敬礼をする。

曙や提督を始めとした面々が答礼をすると、いよいよ第二十六駆逐隊は、月が出ている夜の海に飛び出していく事になる。

 

「第二十六駆逐隊、呉に向けて………抜錨!!」

 

最後に勇ましく掛け声を発した岸波は、単縦陣で飛び出し、後ろの駆逐隊の仲間達を見る。

嘗て第三十一駆逐隊の旗艦を務めていた彼女は、運命の悪戯によって、全てをバラバラにされた。

しかし、こうして新たに踏み出した結果、第二十六駆逐隊という最高の家族との絆を結ぶことが出来た。

だから、岸波は改めてその家族達にこう言った。

 

「横須賀ではああ言ったけれど………付いて来てくれて、本当にありがとう!これからも、宜しくね!」

「モチ、あたし補佐だし!」

「みんなでいれば………、怖く無い………!」

「私達は、世界の果てまで一緒だよ!」

「朧も、岸波ちゃん達とこれからも戦い続けるから!」

「岸波さんも、守って見せます!」

「えへへ………みんなとまた一緒に居られて良かった!………ね!」

「ええ!本当に!この先の海の困難も、協力して乗り越えて行きましょう!」

『おおっ!!』

 

手を上げて応えた一同の顔を改めて見まわし、心の底からの笑顔を浮かべた岸波は、新たな地へと旅立った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………行ってしまったな。」

「はい。これで、第二十六駆逐隊は大丈夫でしょうね。」

「お前はどうなんだ、磯風?」

「そうですね………支えてくれた長波は抜けましたが、不思議と不安は無いんです。」

 

横須賀の桟橋で、提督と会話をする磯風は、海風に髪をなびかせながら呟く。

その目には、水平線の彼方へと消えゆく第二十六駆逐隊の姿があった。

 

「あの海の向こうには、恐れずに向かえば、新たな出会いがある。それを、岸波や沖波が教えてくれましたから。」

 

そして、夜空を見上げて磯風は言った。

 

「だから………次は私の番です。地道にですが、第二十五駆逐隊の絆を結んでいきますよ。」

 

彼女は、静かに………しかし、力強い笑みを浮かべた。

 

 

                               ~第1部 完~

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