艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第5話 ~魂の眠る場所~

曙の元での岸波の訓練は更に続いた。

まだ基礎訓練の段階だったが、岸波の指示で曙と第四駆逐隊を陣形練習等で操艦する事も行ったし、旗艦としての役目は確実に担っていった。

 

「お前………本当に凄腕なんだな。」

「何?嵐………急に私に興味持つようになったわね。」

「別にそういうわけじゃねえけどよ………。」

「でも、まだ実戦に赴いたわけじゃないわ。というか、私としてはそろそろ近海に出るべきだと思ったけれど………。」

 

休憩時間に嵐から言葉を掛けられた岸波は、彼女と共に曙を見る。

曙は訓練での反省点を野分や舞風に説明しながらも、岸波の疑問に答えた。

 

「明日の休暇明けに沖合に出るわ。その時は岸波に旗艦やって貰うから復習しておいて。」

「分かりました。」

「それと………明日はあたしと桟橋で釣りでもしない?リラックスは必要でしょ?」

「………ぼの先輩、F作業好きなんですか?」

「意外とハマってるのよね。釣った魚で海鮮パーティが出来ると得した気にならない?」

「まあ、そうですけれど………。」

 

正直、曙が釣り好きだとは思っていなかった為、岸波は少しだけ興味を抱く。

F作業は怠惰艦になる前から彼女の趣味であった。

だからこそ、共通の趣味を持つ娘が横須賀にいるとは思わなかったのだ。

その様子に気づいたのか、曙はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「F作業ガチの駆逐艦娘は他にもいるわよ?ヴェールヌイや大潮もそうだし、佐世保から帰って来た村雨も専用のジャケットと釣り用具を持っているわ。秋になったら提督からみんなで大湊に秋刀魚漁に行く任務を受ける事だってあるわね。」

「そ、そんなに………。」

「明日会わせてあげるから楽しみにしてなさい♪」

 

F作業という言葉に珍しく心を掴まれた岸波に対し、曙はウインクをしてみせた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

こうして翌日、岸波は曙に連れられ、桟橋で釣り竿を垂らす事になる。

隣に並ぶのは専用のジャケットを着た艦娘達。

サビキ釣りの豪華な竿を所持している曙に、大切な品なのか煙突帽子を被った大潮。

何故かワカサギ釣りのような寒冷地仕様のヴェールヌイ、そして、芦黄色の長いツインテールの艦娘………岸波が初めて出会う村雨が、彼女の周りで釣りを楽しんでいた。

 

「こんなにF作業を愛する駆逐艦娘の先輩達がいるとは………。」

「流石のアンタも興奮を隠せないみたいね。みんなで釣ればより大物が釣れる確率が上がるから止められないのよ!」

「曙………舎弟が出来てからよりハッスルするようになりましたね。大潮以上にアゲアゲかもしれません。」

「私は僅かの間とはいえ共に艦隊を組んだ岸波がF作業ガチ勢だという事に驚きを隠せないがな。これならもっと早く親交を深めておくべきだった。」

「今からでもいいんじゃない~?村雨、岸波の事もっと知りたいな~。」

「………流石にそれは。」

 

各艦娘達が色々と自由に語る中、村雨の言葉に岸波の顔が曇る。

その表情に何かを感じた村雨は一瞬、曙を横目で見ながら岸波の顔を覗き込む。

 

「言いたくないならば、まだいいよ。でも、いつか話せる時が来たら教えてね。これでもみんな結構艦娘歴長いから、相談に乗れるし。」

「すみません………。」

「謝らなくていいって。じゃ、気を取り直して大物を………!」

 

こうして気合を入れなおした村雨の言葉を皮切りに、釣りバカ艦娘達によるF作業の奮闘は夕方まで続く。

岸波を含め、皆それなりに戦果を上げる事が出来た。

 

「釣った魚はどうします?」

「鳳翔さんの店に提供しましょ。お店を利用する戦艦や重巡の人達も喜んでくれるわ。」

 

鳳翔とは鳳翔型1番艦の軽空母だ。

かなり古参の艦娘であり、今では余程の事が無い限り前線には出ない。

その代わり、この横須賀で店を開いており、艦娘達の憩いの場になっている。

曙は最初から、その店に釣った魚を渡す事を考えていたらしい。

 

「ここら辺、意外と大らかですね。」

「意外とは何よ!意外とは!………これでも昔は荒れてたからね。だから、色々とお世話になった人達に少しでも恩返しはしたいのよ。」

「……………。」

 

少し寂しげな表情を見せる曙の横顔から、岸波は第十四駆逐隊に入っていた彼女にも色々な過去があったのだろうか?と考える。

それを感じ取ったのか、曙は4人に言う。

 

「ちょっと鳳翔さんの店に行く前に寄り道したい場所があるんだけれど、いいかしら?」

「大潮は構わないです。」

「私もだ。」

「村雨も。………岸波は?」

「私も大丈夫ですが………。どこに?」

 

岸波の質問に、釣った魚をクーラーボックスに仕舞った曙は、岬の方角を見ながら答える。

 

「墓地よ。」

 

その顔は、いつも以上に悲しそうであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

横須賀の岬は、水平線から登る朝日を拝める格好の場所だ。

その岬の隣には、共同墓地が備えてある。

そこは、艦娘やそれに関連した者達の魂が眠る場所であった。

岸波達は、曙に案内される形で墓地の中を歩いていく。

 

「ここは………。」

 

岸波は辺りの墓に刻んである名前を見ながらどんどん中に歩いていく。

そして、とある場所で止まる事になった。

 

「……………。」

「最初に謝っておく。あたしは資料でアンタの過去とトラウマを知っていた。だから、怠惰艦として振る舞う理由も分かっていたし、他者と距離を置きたいのも納得できたわ。」

 

曙の謝罪の言葉を聞きながら、岸波はとある墓を見つめる。

そこにはこう書いてあった。

「夕雲型駆逐艦14番艦「沖波」」と………。

 

「沖姉………。」

「何らかの理由で轟沈したり戦死したりした艦娘や提督、鎮守府関係者達はここの墓地に名が刻まれるのよ。その生き様を忘れないようにって………ね。言いたい事は色々あると思うけれど………まずは祈ってあげて。」

 

曙の言葉に、岸波が先頭になって沖波の墓地に手を合わせる。

彼女の最も親しい姉である夕雲型の艦娘に………。

 

「………私の過去を知っているのならば、何故構うのですか?」

「あたしも似たようなトラウマを持っていてね。放っておけなかった。………でも、だからと言って村雨達に告げ口しようとは思わないわ。沖波の事は、アンタが話したくなった時に話せばいい。」

「分かりました………。」

「じゃ、あたしの用にも付き合って頂戴。」

「ぼの先輩の用とは?」

「言ったでしょ?トラウマを持っていたって。今からそこと向き合うわ。」

 

曙はそう言うと墓地を更に進んでいく。

すると、3つほど墓が並んでいた。

そこに書いてあったのは、「吹雪型7番艦「薄雲」」、「綾波型5番艦「天霧」」、「綾波型6番艦「狭霧」」。

 

「この3人は………。」

「あたしの………正確にはあたしや潮といった第七駆逐隊の嚮導艦を務めてくれた先輩達の墓。」

「殉職したのですか………?」

「船団護衛中に轟沈してね………。その時の出来事があたしのトラウマになって、陽炎が横須賀に来るまで潮達に当たってばかりだったわね。」

 

何処か遠くを見つめるような顔で呟いた曙は先頭になって手を合わせてお祈りをする。

そして、墓を見たまま呟く。

 

「厳しいけれど、凛々しくて優しい先輩達だったわ。あの海戦から結構長い時が経つけれど、実は最近、少しだけ安心しているの。」

「………どういう意味ですか?」

「それぞれの艤装の新たな適正者が見つかったのよ。それはつまり、先代の先輩達が無事に眠りに付けたって事でしょ?」

「眠りに付けないと………どうなるのですか?」

「一説だと轟沈した艦娘は深海棲艦になるって話があるからね。勿論、運良く何処かで生きているって可能性もあるとは思うけど………。」

「ぼの先輩………。」

「まあ、だから困っている事柄も少しあるんだけれどね。」

「それは一体………?」

「気になる?………だったら付いてきて。」

 

曙はそう言うとまた墓地の中を別の方向に向かって歩いていく。

だが、その途中でとある場所で手を合わせてしゃがんでいる枯草色のショートボブの右の頬に絆創膏を付けた艦娘とそれを気遣う様子のピンクのツインテールの艦娘を見かける。

 

「朧、漣………。」

「!?」

 

曙の言葉にしゃがんでいた艦娘………綾波型7番艦の朧は立ち上がると、走り去っていってしまう。

その顔が涙に濡れていたのを岸波達は見逃さなかった。

そして、取り残される形になった綾波型9番艦の漣は溜息を付くと曙達にペコリと頭を下げる。

 

「ごめんね、朧ちゃんがいつもあんな様子でさ。」

「いや、あたしこそ………昔、散々迷惑掛けたのに、今は同じ第七駆逐隊なのに力になれなくて………。」

「ぼのぼのが落ち込む必要は無いって。………只、ちょーっと、事情が事情だからさ。」

 

落ち込む曙に珍しいと思いながらも、岸波は墓に刻まれている名前を見る。

そこに書かれていたのは艦娘の物ではない。

「第2代宿毛湾泊地提督」であった。

 

「宿毛湾泊地………確か、前に深海棲艦の襲撃で………。」

「岸波。悪いけれど………朧の事情は今、置いておいてくれる?」

「ぼの先輩が見せたい物では無いのですか?」

「違うわ。ちょっと偶然間が悪くて遭遇しちゃっただけ。」

 

漣は曙達に再び例をすると朧を追いかけて走っていく。

その様子を心配そうに見送りながら、曙は更に墓地を歩いて行った。

ある程度進んだところで、彼女は岸波達に対し、自分の指を口に当てて静かにするように指示を出す。

そして、墓石の影に立つとそっと岸波だけを呼ぶ。

その向こうから声が聞こえてきた。

 

「萩………萩っ………!」

 

(あれは………。)

 

その声の主に岸波は聞き覚えがあった。

同部屋の住人である嵐であったのだ。

こっそりと墓石の陰から曙と共に頭だけ覗かせた岸波は、地面に拳を叩きつけて肩を震わせている赤髪の艦娘を視界に入れる。

その後ろには野分と舞風が立っており、嵐を心配しているようであった。

 

「嵐………そろそろ日が暮れる。寮に戻ろう。」

「そうだよ。萩風も嵐がいつまでも自分の事で泣いてると悲しむって!」

「俺がミスしなければ………!アイツは………!」

「厳しい事を言うけれど、誰だってミスはある。沈んだ萩風の為にも嵐は………。」

「………違う!違うっ!!」

「うわ!?」

「ちょ、嵐!?」

 

影で見守っていた岸波の目が見開かれる。

嵐がいきなり野分の胸元を掴み上げたのだ。

その目は充血していたが、それ以上に怒りに満ちていた。

 

「萩は生きている!生きて俺達の助けを待っている!沈んだなんて言うな!!」

「げ、現実を受け入れて、嵐!いつまで過去から目を背けているの!!」

「や、やめてよ嵐ものわっちも!ここは墓地だよ!?」

「俺は認めない!絶対に認めないからな!!」

 

嵐は野分を突き飛ばすと走り去っていく。

その様子を見ていた野分は溜息を付き、心配そうにする舞風を制すると憮然とした表情で反対側を………影に隠れていた岸波や曙達を見る。

 

「………いつまで覗き見をしてるんですか?」

「流石にアンタは気付いていたか。………悪かったわね。」

 

曙に続いて岸波、大潮、ヴェールヌイ、村雨が影から出る。

舞風は気付いていなかったのか、大人数の先輩の登場に思わずびっくりしている様子だ。

一方、岸波は嵐達が見ていた墓石に注目した。

そこに刻まれていた名は………。

 

「陽炎型17番艦「萩風」………。」

「萩風は私と舞風、それに嵐と共に訓練に励んでいた第四駆逐隊の仲間よ。………今はもう、轟沈してしまったけれど………ね。」

 

嘗ての仲間の墓石を見ながら野分は静かに呟いた。

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