艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第50話 ~磯風、始動~

季節は、盛夏の熱さから徐々に涼しさが増し、秋へと移っていく。

毎年恒例となっている秋刀魚漁が大湊で行われる事になる為、一部の艦娘は有休を使ってでも出稼ぎに行く者が出て来る。

紅葉も見頃を迎える中で、艦娘達は、それぞれの秋を堪能していた。

その中で………。

 

「………今日も来ないか。」

 

横須賀の駆逐艦寮の前に置いた椅子に座り、テーブルの上に1人頬杖を突くのは磯風。

第二十五駆逐隊の嚮導艦である彼女は、仲間を欲していた。

しかし、仲間になって貰うには、まずは信頼を勝ち取らないといけない。

そこで、前に島風がしてくれたアドバイス通り、休暇の日はここで困っている艦娘達の相談に乗る事にしていた。

 

「まあ、こんな怪しい駆逐艦に近づく者は、そう簡単にはいないか。」

 

何故か、たまに赤面しながら握手を求める駆逐艦娘がチラホラいたが(磯風は自分の外見的な魅力に気付いていない)、基本的に相談に乗って欲しいと願い出る艦娘はいなかった。

だが、そんな磯風の元に、今日は2人の駆逐艦娘が様子見にやって来てくれた。

早霜と夏雲であった。

 

「磯風、調子はどう?」

「し、失礼します………。」

「ああ、2人共応援に来てくれたのか。見ての通り相変わらずだが、ゆっくりとしてくれ。」

 

磯風は椅子を用意すると、2人を座らせる。

そして、駆逐艦寮の第一次士官室(ガンルーム)から持ってきたお茶を取り出すと、紙コップに入れた。

早霜と夏雲は感謝しながらそれを飲み、話しかける。

 

「岸波姉さん達が呉へと旅立ってから季節が変わったけれど、中々磯風の方は状況が変わらないわね。」

「焦りはしないさ。時には流れに身を任せるのも、艦娘として大事だからな。」

「凄い、カリスマです………。流石、磯風さんですね。」

「いや、偉そうに言っているが、今年の梅雨に入るまでは、私はネガティブの塊だったのだぞ?昔の自分の失態で、第十七駆逐隊の仲間と離れ離れになっただけでなく、岸波に会わせる顔が無くて、どうすればいいのか分からなかったのだからな。」

「……………。」

 

1人自嘲気味に笑う磯風に対し、夏雲は何か言いたそうな顔をして………しかし、堪える。

その姿を見た磯風は静かに告げる。

 

「情けない艦娘だろう?」

「い、いいえ!そんな事は………!でも………1人で辛いって気持ちは分かる気はします。」

「ん?第九駆逐隊に所属しているのだろう?朝雲達は………?」

 

同じ駆逐隊の仲間達の事を問うと、急に夏雲は憮然とした表情をする。

そして、一転寂しそうな顔をすると、溜息を付きながら言う。

 

「朝雲さんは、基本的に山雲さんの面倒を見るので手一杯です。何か、かなり仲がいいですし。峯雲さんも、村雨さんにお熱なんです。」

「そ、そうなのか………。第九駆逐隊は今、島風も………。」

「島風さんは、休暇の時は、基本的に連装砲ちゃんの手入れをしています。」

「つ、辛いな………。」

 

どうやら、特に休日の行動では、仲間同士と波長が合わないらしい。

こっそり、磯風は早霜の目を見てみる。

コクリと僅かに頷く彼女の姿を見て磯風は悟る。

早霜は1人である夏雲を見かねて、休暇を共に過ごそうと誘ったのだ。

実際、フラッグシップ級レ級の件で、早霜は夏雲に多大な貸しがあったのだから、気遣うのも分かる気がした。

 

「折角だから、今日は3人で語らうか?岸波では無いが、工作艦としてのイロハを習うのも、悪くはない。」

「そうね。夏雲………色々と教えてくれない?」

「は、はい………!私で良ければ………!」

 

頼りにされた事で、パァっと顔を輝かせる夏雲を見て、磯風達は、夏雲が呉で明石から学んだ事を聞いていく。

艦娘自身と艤装の、傷や状態についての把握。

それに対する、周囲の精神状態の把握。

最優先で、何をしなければならないかの判断。

治療者を安心させたり、動転している者を落ち着かせたりする話術。

そして、アフターケアとして何が必要かを正確に把握する方法。

 

「由良さんの時で予測は立ったけれど………、相当深く教えられているわね。」

「それだけの事をしないと、工作艦はやっていけないのだろうな………。」

「はい。だから、私は明石さんの事を誇りに思いますし、教えてくれた事に、感謝しかありません。」

「いい事だ。他には………ん?」

 

このまま工作艦談義を続けたいと思った磯風であったが、そこに人影を察知する。

別の艦娘が、こちらへゆっくりと歩いて来ていたのだ。

 

「お聞きしたいのですが………艦娘の相談を受け付けているというのは、ここでしょうか?」

 

その落ち着いた雰囲気の艦娘は、変わった制服を着ていた。

大正時代の女学生風の着物に身を包んでおり、手には緋色の和傘を持っている。

着物の配色は梅色で、翡翠の帯、袴は小豆色。

赤みを帯びた髪を後で紅のリボンでまとめ、縦ロールにしていた。

 

「君は………見ない顔だな。横須賀の者か?」

「はい、わたくしは元々横須賀の者です。ですが………諸事情でここ最近、北の単冠湾泊地にいました。………そちらにいる夏雲さんとは、お見知りおきです。」

「そうなのか?」

「あ、えっと………はい………。単冠湾(ひとかっぷ)泊地は、大湊よりも更に北方に新設された泊地です。幌筵(ぱらむしる)泊地よりは南ですが………。」

 

磯風は隣の夏雲に聞くが、急に彼女の対応がしどろもどろになっていた。

その様子に違和感を覚えながらも、磯風はその艦娘に単刀直入に問う。

 

「名前を教えてくれないか?それと相談内容を………。」

「わたくしの名は春風。神風型3番艦の春風です。相談内容は………決闘に協力して欲しいのです。」

「………何?」

 

最後の相談内容に、思わず磯風は聞き返す。

春風は真剣な表情を見せると、磯風達にハッキリと告げた。

 

「決闘を。わたくしと共に、第六駆逐隊の方々と戦って欲しいのです。」

 

とんでもない依頼内容に、磯風は勿論、早霜も夏雲も絶句して固まってしまった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「暁が、君を含め4人分の艤装使用許可書を出した所を見ると、本当に決闘は有りなんだな………。」

「はい。ここら辺は、しっかりと準備を整えてくれて有り難い限りです。」

 

神風型の艤装は、他の駆逐艦娘の艤装とは大きくタイプが異なる。

まず、艦橋から煙突が生えたような基部ユニットを腰のあたりで接続しており、煙突の前にはマストが一本屹立しているのが特徴だ。

基部ユニット両側には上向きに2連装魚雷発射管が装備されており、発射する際は何と後方を向かないといけないらしい。

そして、一番異質とも言えたのは、基部ユニット底部に、体を挟みこむように凹型フレームが付いている事だ。

その先に艦側面を模した台座が接続されており、前方に単装砲が1基ずつ、後方に3連装機銃が1基ずつ乗っていた。

その大型とも取れる艤装を装備品保管庫で装着しながら、春風は左手にピストル型の単装砲を握り、装填された弾を確認していた。

その様子を見た磯風は、ギョっとする。

 

「待て!?それは、実弾だぞ!?ペイント弾や模擬弾を使って、決闘をするのでは無いのか!?」

「決闘の条件が、4人対4人での実弾装備なのです。磯風さん達も実弾を装着してくださいませ。」

「ぎょ、魚雷とかもか!?」

「勿論です。」

 

あくまで海戦と同じ条件で決闘をしようとする事になった磯風は、なし崩し的に巻き込む形になってしまった早霜と夏雲と顔を見合わせる。

特に夏雲には、こっそりと春風はあんな物騒な性格なのか?と聞いたが、彼女は首を横にぶんぶんと振る。

 

「は、春風さんは、元々は凄く穏やかで落ち着いた方ですよ………?」

「確かに物腰は落ち着いているが………やる事がぶっ飛んでいるぞ?」

 

とにかく言われた通り実弾装備を整えて、春風に率いられる形で、磯風達は訓練海域へと歩いていく。

そこには、暁・ヴェールヌイ・雷・電の第六駆逐隊の4人が抜錨しており、周りには今から始まる決闘を見ようと、駆逐艦を中心に、ギャラリー達が沸いていた。

 

「本当に協力者を揃えてくるとはねぇ………。」

「これで、条件は整いました。………約束、守って貰いますよ?」

 

呆れる暁に対し、春風は静かに………しかし、目力を込めて睨みつけながら、ピストル型の単装砲を左手で向ける。

これは、相手に対する決闘の申し込みの合図だ。

挑戦状を叩きつけられた艦娘は、同じく自前の主砲を向ける事で決闘が成立する。

暁型は連装砲が右肩に付いているので、片手をかざす形になるが………。

 

「………ちょっと待ってくれないか、春風?」

「どうしましたか?」

 

しかし、その前に磯風が待ったをかけた。

春風は視線を移さず、磯風の質問に答える。

明らかに視野が狭まっているな………と磯風は思いながら、慎重に言葉を選んでいく。

 

「済まないが………「約束」とは何だ?」

「知らない方が、身のためです。磯風さん達は、決闘に集中してくださいませ。」

「そうはいかない。君は実弾での撃ち合いに、私達を連れてきている。特に早霜と夏雲は巻き込まれる形だ。君の抱える事情を、知る権利はあるはずだ。」

「……………。」

 

相手を気遣いながらも、正論で諭して来た磯風の言葉を受け、春風は彼女を見る。

その顔には、先程までの穏やかさは無く、冷たく神経を研ぎ澄ましていた。

どうやら、彼女はもう、今から始まる戦いに没頭したいらしい。

磯風はその視線を受け止め、静かに見つめ返してハッキリと告げる。

 

「君の態度次第によっては、この決闘から早霜と夏雲を外す。私ですら、納得が出来ない状態なんだ。このまま危険な艦娘同士の戦いに2人を巻き込みたくない。」

「臆病者とののしられますよ?」

「夏雲の言葉が確かならば、君はもっと穏やかな艦娘のはずだ。………何を焦っている?何を苛立っている?」

「………っ!貴女には関係の無い事です!そもそも、貴女が私の何を知っているのですか!?」

 

激昂する春風の言葉を受け、磯風は思ったより彼女の心情が危険な状態であると察する。

怒りに染まる余り、磯風達の事を協力者として見る事が出来ていない。

言い方は悪いが、とにかく数合わせをする為の駒としか、考えられていなかった。

 

「逃げるならば、勝手に逃げて下さいませ。決闘が始まったら、陸に逃げればいいでしょう!最悪、わたくし1人でも何とか………!」

「春風ちゃんは、姉妹を助ける仲間が欲しいのです。」

「な!?」

 

磯風が欲していた答えは、意外な所から掛かった。

見かねた電が、春風の事情を話し始めたのだ。

 

「現在神風型は、春風ちゃんを含め5人います。でも、今「動けるのは」、春風ちゃんだけなのです。だから、春風ちゃんは姉妹を助ける為に、第六駆逐隊に協力を要請してきたのです。」

「姉妹を助ける………という具体的な意味までは分からないが、第六駆逐隊にしてみれば無理な話である為に、決闘という形で対処しようとしたのだな。実弾装備と4対4という条件は、諦めて貰う為の無理難題というわけか。」

 

分かりやすい電の説明に、磯風は状況を把握する。

その無理難題を、何とかクリアしようとする焦りもあったのだろう。

春風は協力者を求め、噂を辿り、藁をもつかむ思いで磯風の所に来たのだ。

しかし、初めて会ったばかりの即席の協力者を、その無理難題に巻き込もうとする時点で、上手くいくわけが無い。

そこも考慮したのだろうか………電は春風に優しく言葉を伝える。

 

「春風ちゃん。姉妹艦が大切な気持ちは、みんな分かるのです。でも、無理やり他の艦娘を巻き込んだら、可哀そうですよ。今ならまだ間に合います。決闘は無しにして、正規の手続きで司令官さんに相談して………。」

「ふざけないでください!」

 

しかし、ここで唇を噛んでいた春風が激怒し、電に単装砲を向けて叫ぶ。

 

「姉妹達が揃っている貴女に、わたくしの気持ちが分かるわけ無いでしょう!?神風御姉様!朝風さん!松風さん!旗風さん!皆さんの苦しみが分かるのですか!?」

「わわ!?お、落ち着くのです!感情を暴走させたらダメなのです!」

「幸せに過ごせる者が、あの「島」の実態を知る事が出来るわけ無いでしょう!?「初期艦」だから何なのか知りませんが、苦しみも悲しみも知らない者が、偉そうに言わないでください!」

 

激情に任せて一気に言い切った春風であったが、彼女は己のミスに気付くべきだったかもしれない。

電に対し、初期艦の称号を侮辱する事が、どれだけ危険であったのかを。

 

「………今、何と言いましたか?」

『!?』

 

急にトーンが落ちた言葉と、それまでの慌てるような愛らしい感情を一気に消した表情を見せる電の姿に、春風だけでなく磯風達も気圧されてしまう。

ギャラリーの中にも、今まで見た事のない電の姿に、ざわついていた。

 

「分かりました。」

 

小さな初期艦の称号を持つ艦娘は、左腕をかざして決闘を了承する。

しかし、前に進み出たのは電1人だ。

他の3人は、溜息を付きながらさっさと陸へと上がる。

 

「受けましょう、その決闘。でも………貴女達の相手は、電1人で十分なのです。」

 

威圧感を放ちながらベテランの駆逐艦娘は、堂々と言ってのけた。




大変、お待たせしました。
第2章磯風編開始です!
またしばらくは2日に1話投稿する予定ですので、宜しくお願いします。
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