艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第54話 ~艦娘提督~

「艦娘が提督………?そんな事例、聞いた事が無いぞ?」

「そりゃそうよ。私が初めてだもの。」

 

机に置いた書類を束ねて揃えた陽炎は、怪訝な顔を見せた磯風の疑問にあっさりと答える。

秘書艦だけでも困難な仕事であるのに、その上の提督という職を、艦娘が担う事になるなんて、前代未聞だ。

それだけ陽炎が様々な経験をこなして来たという事なのだが、磯風にしてみれば、わざわざ貴重な戦力になるはずの艦娘を提督業に専念させる理由が分からなかった。

 

「訓練は行っているのか?」

「やーねえ。ちゃんと、必要な時は、高雄さんに任せてやってるわよ。練度は落ちてないから安心して。………と言っても、駆逐艦提督なんて初めてだから不安になるのも仕方ないか。」

 

笑みを浮かべながら手をひらひらさせた陽炎は、一転して両肘を机に付いて、組んだ手の上に顎を乗せると、真剣な顔で話し始める。

 

「私は実験台なの。艦娘に提督をやらせる事で、どれだけのコストを削減できるか………っていうね。」

「提督1人分を用意するコストの削減か。私としては、駆逐艦とはいえ艦娘1人を無駄に消費するコストの方が心配だが………。」

「それだけじゃないわ。宿毛湾泊地の提督が殉職した話は知っているでしょ?あの件を受けて、上は、艤装を付ければ丈夫な艦娘を提督にした方が、安全じゃ無いかと考えたのよ。」

「宿毛湾泊地………か。」

 

磯風は、後ろで俯いている早霜をちらりと見る。

朧とケッコンカッコカリをして、彼女との子供を授かった提督は、フラッグシップ級レ級の侵攻を受けて、戦死した。

当時、泊地に所属していた早霜を庇って………である。

それ以来、深海棲艦の侵攻に脅かされやすい泊地に、艦娘を提督として育てておく事で、戦死する確率を減らそうとしているわけである。

只、いきなりぶっつけ本番で採用するわけにもいかないため、最初に任命されたのが、秘書艦経験豊富な陽炎であったのだ。

 

「悪いわね、早霜。嫌な事思い出させちゃって。」

「いえ………でも、陽炎さん。この泊地は、色々と特殊だと聞きました。その………体調とかは大丈夫なのですか?」

「高雄さんからいい胃薬を貰ったから、持ちこたえてるわ。でもまあ、他の泊地の常識が通じる場所じゃないから、出歩く時は気を付けた方がいいわね。」

 

そう言うと、陽炎は春風に視線を移す。

 

「本当は、すぐにでも姉妹艦を救う準備がしたいだろうけど、磯風や早霜は何も知らない状態だから、順序立てて説明していくわね。………いい?」

「はい………。その、申し訳ありません。勝手にわたくしが暴走して………。」

「いいのよ、思わず身体が動いてしまう事なんて、誰にだってあるんだから。」

「提督もやんちゃだったものね………。」

「高雄さーん、それは言わない約束。………さて、付いて来て。今ここにいる艦娘達を紹介するわ。」

 

陽炎は机から立ち上がると、まずは高雄も引き連れて食堂へと向かう。

流石に泊地というだけあって、大きくても艦種はごちゃ混ぜであるらしく、第一次士官室(ガンルーム)のような部屋は存在しないらしい。

食堂も風呂も寝室も全て一緒で使っているとの事だ。

 

「ついでだから、夏雲には改めて診察をして欲しいの。神風達のように、前に明石さんと一緒に来てくれた時から、変化をしている艦娘もいるから。」

「分かりました………。ここに来ると、修理よりも診察が多いですね。」

「仕方ないわよ、そういう所だから。」

 

陽炎は庁舎を出て、寮へ入り、そのまま廊下を歩いて食堂へと入室していく。

この時間は皆、食事を取っている状態であったが、提督である陽炎を見ても、誰も敬礼をしなかった。

むしろ、磯風等、見慣れない艦娘達の登場に、警戒心を露わにする艦娘の方が多かった。

その様子を察知してか、陽炎は笑みを見せる。

 

「大丈夫よ、悪い艦娘達じゃないから。とりあえず、浜風、浦風、谷風、こっちに来なさい。」

 

陽炎は食堂の端に座っている3人に声を掛ける。

3人は磯風を認識したが、どういう顔をすればいいか分からないのか、磯風の元に歩んでこない。

嫌われているのか?と思った磯風であったが、あまりネガティブになるのは良くないと思い、自分から3人の元に歩んでいく。

 

「久しいな、浜風、浦風、谷風。」

「ええ………。」

「久しぶりじゃのぉ………。」

「まー………会えて嬉しいよ。」

「……………。」

 

何となく余所余所しい3人の態度を見て、磯風は突如、思いっきり頭を下げる。

その行為に、3人は思わず驚き、食事の乗ったトレーをテーブルから取り落としそうになる。

 

「すまなかった!私の不注意で、浜風を始め、皆に迷惑を掛けて!」

「ち、違う!違うんじゃ!只、うち達は磯風に会わせる顔が無うて………!」

「そ、そうそう!別に谷風さん達は、恨んでいるとかそんな事は無いんだって!本当だよ!」

「むしろ謝らなければならないのは、こちらです………!私が………PTSDにならなければ………!」

 

最後に言葉を紡いだ浜風が、歯を食いしばる。

何だかんだ言って、4人共、後悔を背負っているのだ。

それ故に、よりを戻したいと思っても、上手くいかないのだろう。

そんな不器用な十七駆逐隊の姿を見た陽炎が、助け舟を出す。

 

「積もる話は後回しにして、他の艦娘の紹介を始めるわね。まずは、この泊地の主力艦。五月雨!不知火と浜波、択捉に龍鳳さんも連れて来て!」

 

陽炎の言葉に、五月雨に連れられて、ピンクのセミロングの髪を、水色のリボン型プラスチック飾り付きのゴムでポニーテールに纏めた艦娘が歩んでくる。

その後ろからは、スカイブルーのロングヘアを三つ編みにしている目を隠した艦娘がやって来る。

更に、後ろ髪の先端が前向きに跳ねたクセのある朱色のボブカットの幼い艦娘。

そして、癖のある紺のセミロングの髪に赤い瞳の垂れ目が特徴の艦娘が歩んできた。

順番に、陽炎型2番艦不知火、夕雲型13番艦浜波、択捉型1番艦択捉、改龍鳳型航空母艦龍鳳である。

 

「まずは不知火!私の呉時代からのパートナー!とっても強くて頼りになる、駆逐隊のリーダーなの!」

 

その髪をわしゃわしゃと撫でながら、陽炎は不知火を紹介する。

不知火は特に気にした様子もなく、磯風達に敬礼をして、ハキハキと喋る。

 

「不知火です。ここで陽炎達の、訓練面での補佐的な役割を担っています。宜しくお願いします。」

「不知火もいるのか………。何というか、相変わらずの眼力だな………。」

「………磯風、それはどういう意味で?」

「いや、何でも………。」

 

磯風のポロっと出た本音に、その眼光で睨みつけて来た不知火に対し、皆が首をブンブンと横に振る。

それに構わず(日常茶飯事なのだろう)、陽炎は次の艦娘を紹介する。

 

「次は浜波!早霜は同じ夕雲型だから良く知っているでしょ?コミュニケーションは苦手だけど、だからこそ、この泊地の艦娘達に寄り添える子なの!」

 

陽炎の紹介に(またわしゃわしゃと髪を撫でられながら)、浜風は俯きがちに話し出す。

 

「は、浜波です………。はやちゃん、久しぶり………。せ、戦力としては自信無いけれど………、みんなの気持ち………、分かってあげたいな………。」

「浜風姉さん、上手くいかない事が多いって手紙で言っていたけれど………、この泊地で頑張っているのね。」

「う、うん………。み、みなさん、よろ、宜しくお願いします。」

 

軽く頭を下げた浜波の肩を叩きながら、陽炎は、隣の背丈の低い艦娘に一歩前に出るように言う。

 

「この子は海防艦の択捉!小さな身体だけど、しっかり者よ!対潜水艦ならば、負けないんだから!」

 

流石に小学生のような姿の子に対し、髪をわしゃわしゃとはしなかったが、陽炎は自信満々に紹介をしていく。

択捉は、ペコリとお辞儀をすると自己紹介を始める。

 

「只今、司令に紹介された択捉です!海防艦の務めは、敵潜水艦から艦隊を守る事だと思っています。期待に応えられるように頑張りたいです!」

「小さい身体なのに逞しいのです。きっと将来、大物になれますよ。」

「しょ、初期艦の電さんに褒めて貰えるのは光栄です!」

 

択捉の前向きな言葉に満足げな表情を浮かべた陽炎は、最後の艦娘に前に出るようにお願いする。

今までと態度が違うのは、その艦娘が若干小柄であるとはいえ、駆逐艦や海防艦では無いからだ。

 

「軽空母の龍鳳です。陽炎さんにスカウトして貰って、この泊地の航空戦力として配備されました。」

「スカウト?何かの基準があったのですか?」

「私、元々は大鯨という艦娘で………自身の弱さも心得ているからって理由で抜擢されたんです。」

 

漣の質問に丁寧に答えた龍鳳も、お辞儀をする。

陽炎は、うんうんと頷くと、更に択捉と龍鳳にお願いして、2人の艦娘を連れてきてもらう。

択捉が引っ張って来たのは、同じく低身長の紺色或いは深い青紫のロングの髪を持つ弱気な艦娘。

一方で、龍鳳が押して来たのは、車椅子に乗っている、ピンク髪を左側頭部で黒紐にて片括りにしたサイドテールの艦娘である。

択捉型2番艦の松輪と、白露型5番艦の春雨である。

2人の様子を見た夏雲が、前に進み出る。

どうやら、彼女の「診察」対象の艦娘であるらしい。

 

「松輪さん、最近どうでしょうか?」

「ど、どうって………艦娘は………怖くて………でも、辞めても居所が無くて………。」

「そうですか………。それでも、必死に頑張っていますね。」

「ほ、本当………でしょうか………?」

「本当です。生きようとする事が、まず一番なのですから。」

 

夏雲と松輪が会話をしている中で、高雄がそっと磯風達に耳打ちをする。

 

「択捉ちゃんと松輪ちゃんは捨て子なのよ。それを、上が無理やり艦娘にしてしまったの。」

「そうなのですか………。松輪にしてみれば、いきなり戦いの場に放り込まれてしまったわけなのですね………。」

 

誰しもが、艦娘としての闘争心を持つわけでは無い。

松輪のように臆病な艦娘がいたっておかしく無いのだ。

しかし、戦力を確保する為に、上は適正のある娘ならば、誰だって有無を言わさず艦娘にする。

それが捨て子であるのならば、猶更だろう。

 

「退役をしても………捨て子では養って貰えるはずもないですよね。」

「残念だけれどね。だから、この泊地で預かっているのよ。択捉ちゃんは、自分と同じ境遇の松輪ちゃんを気遣ってくれているわけ。」

「……………。」

 

2人共、幼いのによく頑張っていると、本当に磯風は思った。

そうしている内に、夏雲は松輪とカウンセリングを終えて、春雨の方に向かう。

 

「前回こちらに来た時はいませんでしたね。足は………どうしたのですか?」

「深海棲艦に噛みつかれたの。そうしたら、動かなくなってしまって………。」

 

ちょっと失礼します………と夏雲は言うと、その動かない春雨の脚を丁寧に触って何かを確かめていく。

磯風達が首を傾げる中、彼女は春雨に質問をした。

 

「動かなくなったのは………いつ頃ですか?」

「2ヶ月前くらい………かな。それで、この泊地に船で送られる事になって………。」

「その割には筋肉があります。普通は、運動をしない脚の肉は衰えるはずなのに………。」

 

夏雲の診察に、磯風達も確かに妙だと思った。

春雨の脚は、しっかりと肉が付いており、その気になれば、すぐにでも立って歩けそうであった。

 

「後で調べてみる必要がありそうね。………さて、磯風達も、自己紹介を兼ねて食事!みんなで色んな話をして栄養補給をしたら、ある場所に案内するわ。」

「ある場所?」

「食事を終えたら教えてあげる。」

 

詳細を教えてくれなかった陽炎の対応に、妙な物を覚えつつも、磯風は久しぶりに、第十七駆逐隊の面々と共に食事を取る。

しかし、残念ながら会話は弾まなかった。




単冠湾泊地所属艦娘の、紹介回になりました。
陽炎が提督をやっている理由は物語内で語った通りです。
この物語内では、艤装を付ける事で、艦娘は耐久力も上がるという設定になってます。
そのお陰で、砲撃や魚雷を受けても、ある程度は耐えられるのかなと。
ちなみに皆様は、艦娘に提督をやらせるのならば、誰を選びますかね?
ここら辺は、個性が出そうです。
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