艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第55話 ~単冠湾泊地の裏の顔~

食事を終えた後、磯風達は陽炎と高雄に連れられて、一旦寮を後にする事になる。

何となく重苦しい空気が漂っていたが、磯風は黙って付いていく。

やがて彼女達は、単冠湾泊地に立っている立派な建物の内の1つに近づく。

飾り気の無い建物の入り口には、黒い頭巾が付いている外套を纏った女性が退屈そうに立っていた。

 

「神州丸。元気にしてる?」

「提督殿か。見ての通り、本艦には何の変化も無い。………そちらの2人は新入りか?」

 

そう言うと、そのくすんだ茶色の髪を後ろで二房の三つ編みにしている女性………揚陸艦である艦娘の神州丸は、磯風と早霜に目を向けて来る。

2人は自己紹介をして、横須賀から出向してきた事を伝えた。

 

「成程な。貴様達は、神風達の異常事態を受けて来たという事か。ならば、用があるのは「あの女」………か。」

「あの………神州丸さん。わたくし、この建物には入った事が無いのですが、この中には、一体何があるのですか?」

 

そう聞いてきたのは、春風。

その言葉に、磯風は驚いた顔を見せる。

 

「春風はこの泊地に在籍しているから、知っているのでは無いのか?」

「いえ………基本、この建物は立ち入り禁止なのです。艦娘も衛兵も、誰も入れないのですよ。」

「陽炎、どういう事だ?」

 

磯風はすぐさま陽炎に聞いてみるが、彼女は肩を竦めて言う。

 

「機密レベルが極めて高い場所なのよ。ほら、神州丸の傍に艤装が置いてあるでしょ?この中に無断で入ろうとしたら、彼女が装備して迎撃を行うわけ。」

「物騒だな………。だが、衛兵でなく艦娘を置くという事は、本当にそれだけ何かがある場所という事か。」

「この建物の中の事を知っているのは、提督である陽炎、秘書艦である高雄。後は、初期艦である五月雨と、あの女を診た明石と夏雲。後は、不知火等、その周りの親しい面々だな。」

 

神州丸は無表情のままでそう言うと、何故か艤装を装着していく。

よく分からなかったが、磯風は後ろを見て確認を取る。

 

「今の話が正しいのならば、電や漣は知っているって事か?」

「はい。昔、入った事があるのです。」

「漣も。初めてなのは、磯風ちゃんと早霜ちゃんと春風ちゃんの3人だね。」

 

電と漣は淡々と答えるが、あまり良い表情はしていない。

夏雲の方も見てみたが、彼女は深呼吸を何度もしていた。

 

(この中には何がある………?)

 

見張りが艤装を装着する事を合わせて、異様な雰囲気を出している事を感じ取った磯風は、警戒心を露わにする。

あまり好ましい場所では無さそうな雰囲気だ。

 

「じゃ、入るわよ。」

 

神州丸に案内される形で、陽炎が歩いていく。

その後ろに磯風達が続き、最後に高雄が扉を閉めてカギを掛ける。

先頭の神州丸が電灯を付けると、地下への階段が続いていた。

彼女は決して広くはない階段に艤装をぶつけないように気を付けながら、慎重に下りていく。

 

「まるで、独房に入っているみたいだな………。」

「ある意味、間違いじゃないわね。」

「何?」

「磯風。あんたは疑問に思った事はある?何故、沈んだ艦娘の怨念が、深海棲艦になるって事実が分かったのか。」

 

階段を下りながら、陽炎が聞いてくる。

磯風は、駆逐水鬼になった萩風や、深海千島棲姫になった先代薄雲の事を言っているのだろうかと思い、考えを巡らせる。

確かに、外見はそっくりではあるが、普通に考えれば、人類の救世主が人類の敵になるなんて考えは持ちにくい。

では、何が基準となって、そのような考えに至ったのか。

 

「これは、五月雨達の方が詳しいんだけれど………、艦娘の誕生に伴って、人は、彼女達をどうすれば勝利に導けるのか模索を始めたわ。同時に、脅威となる深海棲艦の生態にも興味を持ち始めた。」

「何が言いたいんだ………?」

「当時高かった轟沈率を少しでも減らす為、貴重な戦力である艦娘を失わない為、侵略者の素顔を暴く為、そして、人としての知的好奇心を補う為………あらゆる手段を人類は使う事を選んだ。」

「だから、何が………?」

「その答えの1つが、この扉の先にある。」

 

やがて、地下の階段を下りた所に、窓の無い扉があった。

陽炎は磯風の問いを無視して神州丸の方を見ると、扉に手を掛ける。

 

「最終確認。………いい?この先にある物を見ても、気絶しないでね。運ぶの大変だから。」

「わ、分かった………。」

 

思わず唾を飲んだ磯風は、早霜と春風を見渡して頷く。

その言葉に頷いた陽炎は、扉を開けた。

すると………。

 

「タ………スケテ………。」

『!?』

 

声が聞こえて来た。

それも、助けを求める声が。

しかし、それは人間の物では無い。

海の底から響き渡るような………そう、深海棲艦の。

 

「ま、まさか!?」

 

扉の先に入った磯風は青ざめた。

真っ直ぐの通路の左右に、独房と変わらぬ格子が並んでおり、その1つ1つに、黒を基調とした化け物達………深海棲艦が入れられていた。

海水から離れているからか、皆、弱り切っており、中には干からびているイ級等もいた。

助けを求めて、硬い鉄格子を揺らしている鬼クラスや姫クラスも、中にはいる。

 

「陽炎………これはどういう事だ!?」

「さっき説明したでしょ?艦娘を勝利に導くために、深海棲艦の「鹵獲」も、昔から密かにやっていたのよ。」

「よくも、こんな馬鹿げた真似を!!」

 

思わず怒りに任せて、磯風は陽炎に拳を振るいそうになるが、その手を高雄に止められる。

 

「落ち着きなさい!姉妹艦なら、提督が好んでこんな事をするわけ無いって分かるでしょ!?もっと上の存在が、命令しているのよ!」

 

高雄は説明する。

昔は、横須賀を始めた鎮守府等でも積極的に行われていたと。

只、艦娘の増加に伴い深海棲艦の置き場が無くなった為に、新しく作ったこの泊地に纏めて入れているのだ。

当然、提督とはいえ、陽炎にその拒否権は存在しない。

 

「貴女達の為に、汚い部分を被っているネームシップに、八つ当たりをするのはよしなさい!」

「………この深海棲艦達はどうなる?」

「上が派遣した、化学者達の研究材料になるわ。」

「モルモットじゃないか………。」

「その研究成果を受けて、新しい武装が開発されたり、有効戦術が編み出されたりするのだから、一概に文句は言えないわ。それに………海で出会ったら沈めるでしょ?」

「……………。」

 

高雄の言葉で頭を冷やした磯風は、落胆する。

色々と疑問があった単冠湾泊地であるが、こんな裏の顔も持っているとは思わなかったからだ。

その泊地を表面的には治めている陽炎は、敢えて感情を表に出さないようにしている感じだ。

 

「殴りたければ、後で殴っていいわ。私自身も、胸を張って誇れる行為じゃないって分かってるから。」

「………私達を、ここに連れて来た理由は何だ?ここに、春風の姉妹艦を救う手立てがあるのか?」

 

磯風は、後ろを見る。

早霜も流石に真っ青になって俯いており、春風は足の力が抜けて腰を抜かした所を電や漣に支えられている。

夏雲も、何度も深呼吸をして落ち着こうとしている感じだ。

 

「ちょっと、もしかしたらカギを握っているかもしれない人物がいてね。………と、噂をすれば来たわ。」

 

陽炎の言葉に、磯風達は見る。

通路の向こうから、艤装を付けて歩いてくる人影を。

だが、その人物は肌とロングヘアが深海棲艦のように白く染まっており、異様な雰囲気を纏っていた。

顔は左半分を中心に鱗のような浸食が進んでおり、左手は甲殻類のような硬い皮膚と爪に覆われていた。

額には白と黒の角が数本生えており、目は片方が赤く染まっていた。

 

「君は………?」

 

磯風は、その人物に見覚えがある気がした。

 

「誰だ………?確か………。」

「磯風。望月さんが持っていた写真に………。」

「あ!?」

 

磯風は、早霜の呟きで気付く。

昔、第二十六駆逐隊が横須賀にいる時、望月の部屋で彼女が所属していた時期があった、第三十駆逐隊の写真を見た事があったのだ。

同じ物をリンガの弥生も持っていた為、磯風はより鮮明に覚えている。

映っていたのは、2人に加え、卯月、睦月、そして………。

 

「如月………なのか?」

「あら?………ふふ、私の事を知っているのね。」

 

そう答えた少女は、少し笑みを浮かべる。

意外とお淑やかな仕草を受けて、磯風は驚きを露わにする。

如月の姿は明らかに深海棲艦だ。

しかし、艦娘としての理性をしっかりと保っていた。

 

「どういう事だ………?」

「私、前に深海棲艦に左腕を噛みつかれちゃってね。そしたら、浸食されちゃって………新月の夜に、こんな姿になるの。」

「だから………幽閉されているのか?」

 

磯風は、今度こそ陽炎を睨みつける。

だが如月は、穏やかな笑みを浮かべながら、彼女を諭した。

 

「司令官に言われたわけじゃないわ。私が、自分で閉じこもっているだけ。こんな姿見られたら、大騒ぎでしょ?」

「……………。」

 

磯風は自嘲気味に呟く如月の言葉を聞くと、彼女の元へと進んでいく。

何をするのか?と首を傾げた如月に対し、彼女はいきなりその左手を………硬い鬼のような手を自身の両手で握る。

 

「貴女………。」

「辛くは無いのか?望月や弥生に連絡は………。」

「うーん、今の状態じゃ出来ないかしら?それに、睦月ちゃんや卯月ちゃんが私を治そうと、必死になって色んな所を駆け巡っているみたいだから。………私の手、怖く無いの?」

 

冷たい自身の手を温めるように握る磯風の姿を見て、如月は疑問を覚える。

多分、今の自分の事を「化け物」だと思っているのだろう。

その姿勢が、言葉の端々に見えて取れた。

だから、磯風は言う。

 

「この私の手、何だと思う?」

「温かい人間の手だと思うけれど………。」

「実際は違う。私の手は………家族同然の仲間にPTSDを植え付け、トラウマを植え付け、そして沈める直接的な原因を作った手だ。」

 

それぞれ浜風、岸波、沖波の事だ。

磯風は、状況的に仕方なかったとはいえ、それだけの罪を犯した。

 

「血塗られた手なんだ、私の手は。それに比べれば、君の手には、この泊地の者達に迷惑を掛けないような優しさがある。」

「……………。」

「それに陽炎は言った。君が、春風の姉妹艦達を救うカギになるかもしれないと。………いきなりで無粋だが、私達に協力してくれないか?」

「い、磯風さん………。」

 

驚く春風の前で、頭を下げる磯風。

電と決闘をした経緯で、磯風は、春風の気持ちを痛い程分かっていた。

だからこそ、何とかしたいと思っているのだ。

 

「どうしようかしら………そこまで素直に言われると意地悪したくなるわね。3回周ってワンって言ったら………。」

「分かった!」

「ちょ!?冗談、冗談だってば!………もう、ここまでこの姿の私に頭を下げて来たのは、陽炎ちゃんや高雄さん達以外にいないと思っていたわ。」

 

如月は溜息を付くと、陽炎達を見渡した。

 

「せめて、夜が明けるまで待ってくれないかしら?姿が戻ったら、協力してあげるわ。」

「あ、ありがとうございます!」

 

春風が頭を下げるのを見て、如月は優しく微笑むと、今度は神州丸を見る。

 

「地上まで、送ってあげてくれないかしら?」

「分かった。戻ろう、提督殿。」

「ええ。………悪いわね、如月。」

「いいのよ、それだけで。」

 

如月は、陽炎にも笑みを向けると手を振って磯風達を送り出してくれた。

外に出た磯風は、再び神州丸が待機している扉の方を見る。

モルモットのような深海棲艦と、その容姿に近い姿を持ってしまった如月。

深海棲艦と艦娘の闇が、この泊地には潜んでいた。




劇場版の艦隊これくしょんのアニメは、皆様ご存じでしょうか?
新月の夜の如月の姿は、左手以外はその時の姿に近い感じになっています。
深海棲艦の鹵獲と実験は、有効な武装の開発の為に、積極的に行われてた気がします。
勿論、鹵獲を担当していた艦娘にしてみれば、辛い物だったと思いますが………。
では、誰が担当していたのか?というのは………また後々語る時までお待ちください。
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