艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第56話 ~憑依(ポセッション)~

如月からの言葉もあり、今日は眠った方がいいと寝室を案内された磯風であったが、彼女は眠る前に陽炎から、第十七駆逐隊の3人の部屋を教えて貰う。

どうしても、浜風達に言いたい事があったのだ。

まず、浦風と谷風がいる部屋にノックをする。

 

「磯風だ。すまんが、浦風と谷風に伝えたい事がある。」

「………伝えたい事?何があったんじゃ?」

 

浦風が顔を覗かせるが、磯風は浜風の部屋に付いて来てくれってお願いをする。

そして、部屋で眠る準備をしていた谷風も連れて、浜風の部屋へと向かう。

浜風は、浜波と一緒の部屋を使わせて貰っていた。

磯風は同じようにノックをすると、浜風を呼ぶ。

 

「浜風。………すまないが、私の話を聞いてくれないか?どうしても、伝えておきたい事があるんだ。」

「伝えたい事………?」

「部屋の中で、語らせてくれ。」

 

磯風の言葉が、気になったのだろう。

浜風がドアから顔を出すと、磯風達3人を招き入れる。

同部屋の浜波が、2つだけ置いてあった椅子を用意してくれた。

数に限りがあったので、浜風と磯風が座り、浦風と谷風は近くで立つ。

浜波は部屋から出て行こうかと聞いたが、磯風は彼女にも関係ある事だと伝えて、部屋に留まって貰うようにお願いした。

 

「単刀直入に言う。リンガで………岸波達第二十六駆逐隊が、あの南方棲戦姫を討った。」

『!?』

 

磯風は回りくどい言い方が苦手だったので、ストレートに事実を語る。

その言葉に浜風を始め、皆が驚く。

 

「そして、その時に私を含め、リンガにいた全員が沖波の残留思念を見て、彼女の最期の想いを読み取った。………彼女は岸波を始め、私達全員を許してくれたよ。」

「……………。」

 

磯風の回想を受けて、浜風は固まる。

勿論、浦風も谷風も、更には夕雲型の仲間の浜波も固まる。

 

「沖波は私達全員を家族だと思っていた。そして、最後の最後まで、私達を守る為に戦った。駆逐艦の誇りだ。だから………。」

「………違うんだ、磯風。」

「………何?」

 

割って入った浜風の言葉に、磯風は顔をしかめる。

浜風は辛そうに彼女を見ると、喋り始める。

 

「私にとっては、南方棲戦姫の生存は関係ないんだ。沖波の許しも関係ないんだ。」

「何故だ?縛られる物はもう無いって事だから………。」

「私自身が怖いんだ!また、南方棲戦姫のような深海棲艦に殺されかけるんじゃないかって!沖波みたいにむごい死に方をするんじゃないかって!」

「浜風………。」

 

磯風の袖を掴んで思いっきり叫んできた浜風の姿を見て、彼女は何とも言えない表情になる。

こんなに乱れた浜風の姿は、見たことが無い。

それだけ彼女は、精神状態が不安定なのだ。

 

「私は最低だ………。駆逐艦なのに、その勇気がこの身にはもう無い。敵艦と対峙する度に、あの姫クラスの幻が思い浮かんでしまう………。治らないんだ。治そうと思っても………!」

「そうか………。すまなかった。」

 

頭を抱える浜風を見て、磯風は頭を下げて立ち上がる。

すると、浦風と谷風を見渡すと、ある言葉を告げた。

 

「磯風さんは、勇ましいのに私を褒めてくれるし………浦風さんは、母性があってみんなを包み込んでくれるし………浜風さんは、みんなの事を良く見ていて緊張をほぐしてくれるし………谷風さんは、盛り立て役のムードメーカーなんだよ。」

「ん?何だ?その言葉は………。」

 

磯風らしくない口調に、谷風が首を傾げる。

彼女は目を伏せると呟く。

 

「最期に沖波が、家族だと思っていた私達の事を、褒めてくれていた言葉だ。リンガの皆や、第三十一駆逐隊の面々の事も喋ってくれていた。色々と思う事はあるだろうが………せめて、沖波の心情だけは正しく理解してやってくれ。」

 

磯風はそう言うと、浜波にも頭を下げて、部屋を後にしようとする。

その背中に向けて、浜風が言う。

 

「磯風は………私を情けないと思わないのか?」

「思わないさ。岸波の復活ぶりを見るまで、私も情けなかったからな。………浜波、邪魔したな。浦風と谷風も、付き合ってくれてありがとう。」

『……………。』

 

磯風はそれだけを告げると、部屋を後にした。

そして、自室に戻るとベッドに潜り、身体を休めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

起床して朝食を食べ終えた磯風達は、陽炎と高雄に案内されて、再び神州丸の所に向かった。

すると、そこには彼女の予備の黒い外套を被った如月が待っていた。

だが、肌は白くなく、髪は栗色で、角も生えて無く、瞳も両側が紫であった。

しかし、左手だけはまだ甲殻類のような鬼を模した皮膚と爪を持っているらしく、手袋を付けていた。

 

「新月の夜じゃなくても、治らないのか?その左手は?」

「ええ。これは、仕方ないわね。さてと………じゃあ、早速向かいましょう、陽炎ちゃん。」

「待たせたわね、春風。あんたの姉妹艦の所に向かうわよ。」

「は、はい!」

 

緊張した面持ちの春風であったが、陽炎達は建物の1つに向かう。

どうやら、船渠(ドック)がある場所らしく、病棟も兼ねていた。

衛兵に身分証を見せて、その建物の中に入ると、陽炎はある部屋の前で止まる。

 

「ここに、春風の姉妹艦がいるわ。如月には、彼女達が苦しむ大本を調べて欲しいの。」

「分かったわ。じゃあ、入りましょうか。」

 

2人の会話に、どうやって大本を調べるのか疑問に思った磯風達であったが、とりあえず従う事にする。

そして、中に入ると………春風によく似た大正風の制服を着た艦娘が4人、ベッドで寝ていた。

彼女達が、神風・朝風・松風・旗風なのだろう。

安静に寝ているのかと思いきや、時々、うわ言を呟いたり、うめき声をあげたりしながら、苦しそうに脂汗を掻いている。

 

「神風御姉様………朝風さん………松風さん………旗風さん………。」

「昏倒してからずっとこんな状態なのか?」

「はい………。」

「そうか………。」

 

春風が暴走して、横須賀まで向かったのも無理はないと磯風は思った。

こんな苦しむ姉妹艦の姿を見せられたら、自分が何とかしなければならないという葛藤に悩まされるだろう。

 

「春風ちゃん、少しだけ貴女のお姉さんの事、調べさせて貰うわね。」

「あの………どうやって調べるのですか?」

「この左手を使うのよ。」

 

春風の疑問に対し、如月は左手の手袋を外して鬼のような手を出す。

そして、慎重になって神風の元の傍に行くと、その額の上に優しく手を置く。

 

「あの………?」

「昨日の姿を見たから、分かると思うけれど………私は、深海棲艦に噛みつかれた影響で、その領域に脚を踏み入れているわ。」

「磯風さんも言いましたが………そんな自嘲しなくても………。」

「ふふ、ありがとう。………でもね、そのお陰で手に入れた力もあるの。」

「力………ですか?」

「そう、深海棲艦の手を持つ故に、その敵艦の思考って言えばいいのかしら………艦娘に宿ってしまった思念や怨念、呪いのような物を読み取る力が付いたのよ。」

「えっと………。」

「実際に見てみた方が早いかしら。怖く無かったら私の右手、繋いでみて。」

『……………。』

 

如月が差し出した右手を、春風・磯風・早霜・夏雲・電・漣が繋ぐ。

そして、如月が目を閉じるのに合わせて、6人も目を閉じる。

すると………脳裏に景色が映り始めて来た。

 

「これは………神風達が海戦をしている所か?」

 

暗雲の天候の中、大正風の制服を着た4人の艦娘が、敵艦隊と戦闘を繰り広げている。

とはいえ、敵はイ級等の駆逐艦ばかりだ。

群れになって、何度かしつこく砲撃をしてくるが、神風達は、駆逐艦としての敢闘精神と、鍛え上げた技術で乗り切っていく。

相手も何発かかすり傷を負わせていくが、それで怯む神風型では無い。

やがて、敵艦は全滅して、海戦が終わる事になる。

 

「ここまでは………神風御姉様達が言った通りですが………。」

「問題はこの後ね。」

 

如月の言葉と共に、場面が海の中へと移っていく。

潜水艦くらいしか見ない新鮮な光景に、磯風達が僅かに驚きを露わにする。

すると、そこに先程の海戦で沈められた駆逐艦達が水底へとゆっくりと落ちていく様子が映る。

だが………その内の1隻のイ級がニタリと笑みを浮かべた。

1隻だけでない。

他にも………3隻の駆逐艦が………笑った。

その瞬間であった。

 

「何だ!?」

 

思わず磯風が叫ぶ。

その笑みを浮かべた駆逐艦達の姿が、まるでガスの入った風船のように膨らみ始めたのだ。

幾つも体内に球体を作り膨らませ、海中で変形していく様子に、艦娘達は異様な物を覚える。

その姿はやがて原形を留めず、完全な繭のような巨大な球体へと変わってしまう。

 

「卵………?」

 

訝しげに呟いた早霜の言葉が示す通り、それは深海棲艦の卵。

そして、その繭はゆっくりと海面へと上がり、暗雲の下に顔を覗かせる。

ヒビが入り出した。

 

「何が………出るんでしょうか?」

 

夏雲が思わず警戒する中、繭が割れ、中から人の姿の深海棲艦が出て来る。

灰色の和服と膝丈の袴に身を包んでおり、傍から見れば色の白い人間だ。

だが、その左腕が巨大な艤装になっており、無数の砲身を備えている。

 

「アア………ヤット………ヤット、生マレ変ワレタ!」

 

その深海棲艦は喜びの声を上げながら、同じ姿の3隻の艦と祝福し合う。

もはや駆逐艦ではなく、姫クラスとなった己の姿を、ひとしきり喜び合った敵艦の元に、別の艦娘がやってくる。

角の生えた帽子に、リボンで片括りにしたサイドテール。

脚は失われているのか、艤装で補強されていた膝から下が無くなっていた。

新手の艦娘もまた姫クラスと言える姿で、深海棲艦とは思えない笑みを見せると、また4隻の仲間を祝福する。

 

「オメデトウ。歓迎スルワ、新タナル同胞達。」

 

5隻の深海棲艦は笑顔を見せあい、暗雲の向こう側へと消えていく。

そこで、映像は途切れた。

 

「………どういう事だ?敵駆逐艦が、姫クラスに進化しただと?鬼クラスが姫クラスに強化される事例は聞いた事があるが、これは………。」

「憑依(ポセッション)。」

「何?」

 

途中から、如月の右手に自分の手を重ねていた陽炎が呟く。

磯風にとっては、初めて聞く単語であった。

 

「横須賀だと薄雲が艤装を付けた途端、しばらくの間、深海千島棲姫に意識を乗っ取られる事があったでしょ?ああいった感じで、何かしらの呪いを受けた艦娘が、深海棲艦とシンクロしてしまう現象を、憑依(ポセッション)と呼ぶの。」

「聞いたことが無いのですが………。」

「そりゃ、そうよ。最近になって、その薄雲の事例などを見て、上が命名したんだもの。」

 

陽炎は、説明する。

深海棲艦の中には、稀に呪いを込めて攻撃してくる物がいるらしい。

例えば、砲撃をしたり、噛みついてきたり、とにかく様々な方法で。

その結果、艦娘の力を奪って、強力な力を得て進化をする事例があるらしい。

 

「つまり………だ。神風達は、呪いの砲撃を受けた事で力と意識を乗っ取られたという事だな。目覚めさせるには、その進化した姫クラスをどうにかしなければいけないが………。」

「今の映像じゃ、どこに向かったのか分からないわね。如月さん、ここら辺は分かりますか?」

「残念だけれど、そこまで万能な力じゃないのよね。でも………。」

 

磯風や早霜の声を受けて、如月は陽炎を見る。

彼女が頷くと同時に、部屋がノックされた。

 

「高雄よ。春雨ちゃんを連れて来たわ。」

『あ!』

 

いつの間にかいなくなっていた高雄の扉越しの言葉に、磯風達はハッとさせられる。

最後に4隻の姫クラスを引っ張っていった脚の無い姫クラスは、振り返れば、春雨によく似ていた。

その春雨は、今、足の筋肉が衰えていないのに動かない。

 

「入って来て下さい、高雄さん。春雨、ちょっと覚悟して貰うわよ。」

「はい………!」

 

高雄に車椅子を押されて、緊張した面持ちで部屋に入って来た春雨は、如月に対し頭を下げる。

如月は微笑むと、鬼のような左手を、今度はなるべく優しく春雨の膝に置く。

磯風達6人は陽炎と共に如月の右手を掴むと、また目を閉じた。

映ったのは、また海戦の図。

その中で春雨の脚に噛みついてきた駆逐艦の姿があり、咄嗟の反撃で沈められる。

しかし、水中で繭を作り、海上で孵化をする。

予想通り、中からあの足の無い姫クラスが出て来た。

そして、その深海棲艦は笑みを浮かべて、また消えていく。

今度は、満月の光を受けながら北に向かって………。

 

「春雨、あんた………噛みつかれたのは、何処?」

「沖ノ島沖です。本土近くの南の海ですから………。」

「神風達と遭遇したのが単冠湾泊地近くだから、北上していってるわね。………としたら、今はキス島辺りが怪しいわ。」

「幌筵泊地………か。」

 

更に北方の、この季節だともう流氷が流れ始めている海域を思い、磯風は考え出す。

次なる戦地は、極寒の地になりそうだと。

 

「一応、提督権限で、名前を付けてあげないとね。神風達の方は「駆逐古姫」、春雨の方は「駆逐棲姫」でどう?」

「駆逐古姫と駆逐棲姫………。」

 

陽炎の提案を受け、磯風は討伐対象の名をしっかりと心に刻んだ。




深海棲艦の領域に足を踏み入れた事で、得られる力もある。
艦娘と深海棲艦の関係性が曖昧である世界であるからこそ、こういうのも有りかなと。
劇場版でも、深海棲艦化した如月が、凄まじい火力を発揮してましたからね。
余談ですが、ネ級のアイアンクローをいつ静で足柄がやり返していたのは、ビビりました。
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