如月の力によって、神風達や春雨の力を乗っ取っている姫クラスが、キス島方面にいる事を確認した磯風達は、翌日の朝、艤装を付けて幌筵泊地に出発する事になる。
但し、陽炎から、明石の弟子入りをしていた関係で、艦娘の診察にも長けている夏雲を、しばらく置いていって欲しいとお願いされた。
彼女に、浜風達のカウンセリングをさせたいのだろうと感じた磯風は、後を託す事にする。
代わりに艦隊に入る事になったのは………。
「ふふ、宜しくね。嚮導艦さん。」
「如月………いいのか?勝手に単冠湾泊地から出て行って?睦月達を待っているのだろう?」
「たまには、私もあそこから外に出ないと、やっていられないわ。………司令官も、そこを考えて送り出してくれたんだし。」
右手首の単装砲と左手首の連装高角砲を確認していた如月は、笑顔で海に抜錨する。
その左手は、未だに深海棲艦の呪いで鬼のような手になっており、手袋で隠している状態だ。
だが、自ら申請して籠っていたとはいえ、あの牢獄のような地下室から久々に出られた事で、解放感も得られているようであった。
「司令官………好・き・よ。」
「変な誤解されるような言葉は、止めなさい。睦月辺りに知られたら、ハチの巣にされるわ。」
投げキッスをする如月に、陽炎はやれやれと両腕を広げる。
そして、磯風達を見ると真剣な顔で話し始める。
「幌筵泊地に行ったら、提督と秘書艦の阿武隈さんを頼りなさい。」
「陽炎、阿武隈さんは確か………?」
「軽巡よ。見た目は頼りないかもしれないけれど、一水戦を率いていた経験のある猛者よ。かなりの手練れだから、侮らない事ね。絶対に!」
「か、陽炎?昔、何かあったのか?」
やたら力を入れて話す陽炎の言葉を受けて、磯風は思わず聞いてしまう。
陽炎は、肩を落とすと少しトーンを落として言う。
「私、あの泊地にいる阿武隈さんと雷巡の木曾さん、そして潜水艦のまるゆに頭上がらないのよね。多分、第十四駆逐隊全員がそう言うんじゃないのかしら?」
「そんなに恩義のある方々なのか?」
「文字通り、彼女達がいなければ、私、今生きて無いから。」
「な、成程………。」
多分、ここでは言い表せないようなドラマがあったんだろうな………と思いながら、磯風は出発しようとする。
しかし、そこで陽炎が、大事な事をまだ1つ伝えていないと言って止めて来る。
磯風が振り向くと、彼女はこう言ってくる。
「磯風は、「海外艦」って知ってる?」
「海外艦?海外の技術で改装を施された艦娘か?」
「というよりは、海外出身者が、その国の技術で改装を施された艤装を付けて誕生した艦娘の事を指すわね。」
「つまり………例えば、ドイツ人がドイツの艤装を付けているという事か?」
似たような事例は、磯風は見ているし、岸波辺りから聞いた事がある。
例えば、ヴェールヌイ。
彼女は、日本の艦娘でありながら、ロシア式の改装を施されている。
例えば、神鷹。
彼女は、ドイツ人でありながら、日本式の改装を施されて艦娘になっている。
だが、海外艦と呼ばれる存在は、日本以外の自身の国の艤装を装着した艦娘の事を示すらしい。
「深海棲艦の侵攻によって、幸か不幸か今、各国が結託をしていてね。幌筵泊地とか、外れの泊地には、色々な国の艦娘達が集まって、共同で守っているのよ。」
「皮肉な話だな………。しかし、これから向かう所には、そういった理由で、様々な国の海外艦がいるのだな。」
「ええ。異文化交流は大変だと思うけれど、旗艦としてしっかり頼むわね。」
「分かった。日本の食卓がどういう物かを………。」
「あんたのそれは、絶対に危ないから止めなさい!!」
念を入れて止められた事で、磯風は落ち込みながら単冠湾泊地を後にする。
そして、ぶつぶつと呟く彼女を筆頭に、第二十五駆逐隊は、複縦陣で北上していく。
夏雲が抜けた事で、彼女の修理用具や補給用具の入ったドラム缶も置いていっているので、運搬係を担っていた春風は、身軽になって海戦にも参加しやすい状態になっていた。
陣形としては、左前から、漣・早霜、磯風・如月、春風・電の順番で航行していっていく。
「陽炎も昔は料理下手だったじゃないか………。私だって努力は………。」
「おーい、いつまでボヤいてるんだー………。少しずつ流氷が出て来たな。」
先頭の漣が、手をかざして見る。
彼女の言う通り、北上するに連れ、氷の塊が所々浮かんできた。
季節は秋だが、北方はもう冬景色だ。
流氷は見た目が小さくても、海面の下が大きい場合もある為、油断はできない。
慎重に見極めながら、磯風達は合間を縫ってジグザグに進んでいく。
「ここまで鬱陶しいと、魚雷で爆破したいな………。」
「それは、最終手段なのです。」
「で、電さん。否定はしないのですね。」
「穏便に済ませるべき時と、強引に進むべき時があります。海戦中に邪魔だったら意味が無いのです。」
「た、確かに………。」
意外と大胆な事を言ってのける電に、春風と早霜は感心させられる。
こういう寄せ集めの艦隊である時、漣や電のような熟練の艦娘の存在は頼りになる。
確か、岸波の第二十六駆逐隊も、望月という熟練の艦娘が補佐に付く事で、危機を乗り切った事が何度かあったと聞いている。
「如何に、ベテランから吸収出来るかも大切か………。」
「あら?望月ちゃんがベテランならば、私もベテランよ?」
「そういえば、如月は同じ第三十駆逐隊だったな。………しかし、本当に流氷が多い。こう航行が困難だと………っ!?」
そこで磯風達はハッとする。
上空を、羽虫のような偵察機が飛んでいったのだ。
「近くに空母がいる!?不味いな、流氷の中だと………!」
「悩んでいる時間は無いよ、磯風ちゃん。敵さんのお出ましだ!」
漣の言葉に、前方から攻撃機が複数飛んで来る。
深海棲艦の群れが、前方から襲撃してきたのだ。
「早霜、敵の編成は!?」
「エリート級重巡リ級2隻、エリート級戦艦タ級2隻、エリート級軽空母ヌ級2隻!長射程の編成!」
「地形を利用して来たか!?不味いな………!?」
攻撃機の迎撃の為に輪形陣になろうとしたが、左右の流氷が邪魔で身動きが取れない。
それを見越しての、襲撃であったのだろう。
敵艦達はニヤリと笑みを浮かべると、駆逐艦の射程外から砲撃を飛ばしてくる。
一発でも急所に当たれば、轟沈させられるような強力な砲撃だ。
それに加えて、ヌ級の攻撃機が襲ってくる。
「迎撃開始だ!」
輪形陣になれない分は、対空砲火に優れる磯風が、とにかく両手や艤装に備わった高角砲や機銃を、空中に撃ちまくって撃ち落としていく。
そうしながら、敵艦に近づこうとするが、目の前に流氷が立ちはだかってしまう。
「くっ………!」
仕方なく、流氷を避けながら近づく為に、右に面舵を切ったが、相手も右に………磯風達から見て左に面舵を切る事で、近寄らせてくれない。
そのまま遠距離から、一方的に砲撃を繰り返してくる。
「漣!早霜!魚雷を流氷に叩き込め!」
「ほいさ!」
「了解!」
このままでは埒が明かないと、前の2人が、流氷に魚雷を撃ち込み破壊する。
しかし、すぐに別の流氷が流れてきて、再び艦隊の前を立ちはだかってしまう。
「何でこんな上手い具合に流氷が………!?」
「磯風さん、ヌ級の攻撃機が!」
「!?」
春風の言葉を受けて、磯風は驚愕する。
ヌ級の1隻は、磯風達を攻撃せず、彼女達の左右前後の流氷を魚雷や爆撃で狙っていた。
それによって発生する波や衝撃で、流氷を動かして、動きを妨害して来ているのだ。
「頭が良すぎるだろう!?あの深海棲艦共!?」
「文句を言っている場合じゃないのです。………この状況を打破する方法が1つだけあります。ですが………今の磯風ちゃんでは、厳しい方法です。」
「何!?一体それはどういう事だ!?」
「単縦陣。」
「な!?」
いきなり電の口から発せられたトラウマ用語に、磯風は動きを止めそうになる。
だが、冷静に考えれば縦1列になる単縦陣は、狭い流氷の間を抜けるには一番効率の良い手段だ。
先頭の1人が魚雷で氷の塊を破壊しながら最大戦速で進めば、敵艦の懐に近づく事も出来るだろう。
しかし、磯風は過去のトラウマから、その陣形の選択が出来ない。
「私は………。」
「選択の時なのです。トラウマを堪えて陣形を変更するか、旗艦を電か漣ちゃんに譲り渡すか。」
「そ、それは………!?」
「時間が無いのです!」
電の言葉を受けて、磯風は思わず、胃の中から朝食べた物がこみ上げそうになる。
第二十五駆逐隊の旗艦は自分だ。
だが、それが仲間達を危機にさらしている状態だ。
磯風の取るべき選択は………。
「く………そ………!」
「待った!状況がおかしい!?」
「え………?」
漣の言葉に顔を上げて見れば、アレだけ優位に立っていた敵艦が、右往左往し始めていた。
ヌ級の攻撃機も、何故かこちら側だけでなく、反対側にも飛んで行っている。
「何………だ………?」
異変を感じた磯風達は見る。
敵艦の後ろの流氷が、突如爆発を起こすのを。
更に続けて、近くの流氷が爆発を起こし吹き飛んだ。
「甲標的!?誰だ!?」
「良かった。様子を見に行って!」
何処か幼くて明るい声が無線で響き渡って来た為、磯風達は驚く。
真っ先に反応したのは、電だった。
「その声、阿武隈さんですか!?」
「電ちゃん、元気にしてる?今、助けるからね!」
すると、遠くから明るい茶髪を複雑に結い、スカイブルーの瞳を持った艦娘が先頭でやってくる。
彼女が陽炎の言っていた長良型6番艦の阿武隈である。
リ級とタ級が阿武隈の艦隊を狙いに行くが、手練れの集まりなのか、そう簡単に当たりはしない。
代わりに無線で、別の強気の声が聞こえて来た。
「ほう………この私に砲撃戦を挑むか!いいだろう!相手をしてやろう!」
癖の強い銀のロングヘアーに琥珀色の瞳、そして左頬の傷を持つ長身の戦艦らしき艦娘は、阿武隈から魚雷を投げ渡されると、何とそれをアンダースローで放り投げて、流氷を更に破壊する。
その上で、砲撃を山なりに放つ。
戦艦クラスの12門の強烈な砲撃は、戦艦タ級2隻を瞬く間に爆破するばかりか、残りの進路を阻害していた流氷にも当てて、吹き飛ばしてしまう。
「自己紹介がまだだったな!私は戦艦ガングート!一応はロシア所属!日本の艦娘よ、その雄姿を見ておけ!」
完全に流氷によって塞がれていた道が、がら空きになった事で、敵陣に阿武隈を含めた5人の艦娘が殴り込みに行く。
ヌ級2隻が、思わず攻撃機を飛ばすが、水兵のような服装の艦娘達が、機銃を上空に連射して攻撃を許さない。
片方は、灰色のショートカットに碧眼の艦娘。
もう片方は、赤毛のショートボブで、眼は赤みを帯びた茶褐色の艦娘。
「僕はレーベレヒト・マース。レーベって呼んでよ。」
「私はマックス・シュルツ。………マックスだ。出身はドイツだな。」
「僕らは君達と同じ駆逐艦なんだ。」
その機銃の雨に守られながら、紺色の髪に長い下睫毛のあるワンピース風のコートを着た背の高い艦娘が艦載機を飛ばしながらヌ級に砲撃をする。
1発目は避けられるが、それは次の砲撃の為の伏線。
艦載機を用いた弾着観測射撃により、2発目を急所に当てて沈めていく。
「私、ゴトランド!スウェーデンから来たの!軽巡よ、宜しくね!」
軽くウインクしてみせたゴトランドの横から、磯風並に背丈の高い艦娘が飛び出す。
フレンチベージュのロングヘアを白い帯の入った黒いリボンで結ったツインテールが特徴で、変わった形の暖かそうな帽子を被っている。
彼女は、空色が特徴な艤装の、右側に備わった4門の砲門から砲弾を飛ばし、驚いていたヌ級の残りをあっという間に撃沈してしまう。
「同志諸君!嚮導駆逐艦のタシュケントだよ!出身はとりあえず、ロシアで!………阿武隈さん、後宜しく!」
「OK!」
あっという間に戦力を奪われた重巡リ級が、ヤケクソ気味に砲撃を仕掛ける。
だが阿武隈は、それをジグザグに縫うようにして距離を詰めると、1隻の至近距離から、右手の連装高角砲を撃ち込み爆破。
更に、もう片方のリ級が振り向く前に、一直線に突撃して、左手の連装高角砲を叩き込んで撃沈する。
海外艦達を含めた驚異的な戦力を前に、瞬く間に海戦は終わる事になった。
実は第2部磯風編が始まって、初めての本格的な海戦です。
流氷を壁にするというギミックは、前々から考えてました。
ですので、今回はかなりノリノリで書きましたね。
海外艦の登場回にもなりましたが、彼女達もかなり個性的です。
一方で磯風のトラウマは………まだ解決せずです。