艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第59話 ~見守る者達~

「磯風………少しは肩の荷が下りるかしら?」

 

海を見つめる磯風とタシュケントの様子を、駆逐艦寮の窓から早霜が眺めていた。

………と言っても、自分が割り当てられた部屋からでは無い。

レーベとマックスの寝室からだ。

 

「本当に、お邪魔して良かったの?」

「気にしなくていいよ。僕らも、あの海戦の時から彼女の事は気になっていたし。」

「艦娘………とりわけ駆逐艦娘は、態度に出やすいものね。」

 

早霜は、実は布団に潜る時から磯風の様子がおかしかったので、眠れていなかった。

だから、彼女が出ていく時に寝たふりをしてやり過ごし、追いかけようとしたが、そこでレーベ達に呼び止められたのだ。

嚮導駆逐艦である、タシュケントに任せてみようと。

ちなみにこの部屋には、同じように密かに心配していた春風も招かれている。

 

「春風、如月さんは?」

「少し前に、電さんと漣さんに呼ばれて部屋を後にしました。恐らく司令官様の所では無いでしょうか?」

「そう………。」

 

恐らく、如月自身の左手の事か、磯風の変調の事に付いて、幌筵の提督に聞いているのだろう。

早霜もまた宿毛湾泊地にて、目の前で惨劇を見ているので、時折自嘲気味になる如月や磯風には、早く立ち直って欲しいと願ってしまう。

駆逐艦娘は互いにふざけ合う事も多いが、それ故に互いの絆を大切にする傾向もあるのだ。

特に磯風は、宿毛湾泊地解放戦に参加してくれた恩義もある。

今度は、早霜自身が力になりたかった。

 

「そういえば、陽炎さん達もキス島で危機的状況に陥って、曙さんや漣さん達に助けられたって聞いたわね。」

「意外な話ですね。こう言ったら何ですが、第十四駆逐隊は、無敵であるイメージがありましたわ。」

「………そんな所に明日の朝になったら向かうのだから、磯風が気にしてしまうのも当然なのかもしれないわ。」

「その………ごめんなさい、わたくしの姉妹の事で、皆さんを巻き込んでしまって。」

「あ、違うの。春風が悪いわけじゃないわ。只………何て言うのかしら………。磯風も、艦娘の宿命として、何処かでこういう壁に当たるんだなって。」

 

どんなに誤魔化そうとしても、過去を乗り越えなければ、今を進む事は出来ない。

これは、早霜が朧と共に、少し前に経験した事だ。

あの時は夏雲がいなければ、更なる後悔を背負う事になり兼ねなかったが………それでも、朧に向かい合う切っ掛けにはなった。

だからこそ、磯風もこの戦いを乗り越えれば、自分を変える事だって出来るのだろうと思った。

 

「レーベ、マックス、それに春風。本来の磯風は、もっと武人肌で豪胆な艦娘よ。その彼女があそこまで追い詰められている。私は………今は黙って力になるだけね。」

「早霜さん………。分かりました、わたくしも磯風さん達を、最後まで信じます。」

「……………。」

 

2人の覚悟を聞いていたレーベは、黙って自分のロッカーからウイスキーを取り出す。

マックスも、同じようにグラスを持ってきた。

 

「1杯だけならば、バチは当たらないよね。明日の抜錨前に、僕らも飲もう。」

「いいの?お酒、高いと思うんだけれど?」

「駆逐艦が細かい事を気にしたら負けよ。ほら、春風も。」

「は、はい………。では、お言葉に甘えて1杯だけ………。」

 

駆逐艦4人は、乾杯をして、ウイスキーを1杯、一気に飲み干す。

温かさが身体に充満した所で、レーベが言った。

 

「明日の朝、僕らも後方支援が出来ないか、提督に聞いてみるよ。駆逐艦と軽巡1人ならば羅針盤に嫌われないから、4人は行けるはずだし。」

「そうね。少しでも安心できる要素は、増やしておいた方がいいわ。逃げられない運命ならば、少しでも良い方向に動くようにしておくといいし。」

「ありがとうございます、レーベさん、マックスさん。でも、どうして初対面のわたくし達にそこまで………?」

『駆逐艦だから(だ)よ。』

「フフフ………そうね、ありがとう。」

 

国の垣根を超えた絆に感謝しながら、日本とドイツの艦娘である4人は、しばらく語り合った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「そうか。自分自身の事は、その左手で調べられないのか。」

「はい………。思ったより万能な手じゃないみたいですね、これ。」

 

一方、執務室では、提督の机を囲んで、艦娘達がウイスキーを飲んでいた。

居るのは、提督の他に、阿武隈・木曾・まるゆ・ガングート・ゴトランド・宗谷・電・漣・如月。

流石に人数が多すぎたので、椅子には座らず、皆立っている。

 

「じゃあなんだ?お前自身に呪いを掛けた深海棲艦の位置とかは、分からないって事か。」

「そうなります。………だから、睦月ちゃんとかが頑張ってくれているんですけれど。」

「大変だよな、探す方も………。」

 

その中で、会話をしているのは、如月と木曾。

木曾は、如月の左手の力を使って、自身に呪いを掛けた存在を探し出せないかと聞いてみたのだが、そう上手い話は無いらしい。

あくまで彼女の左手は、他人にしか効果が無いらしく、それ故に、治す手段が見つからない状態なのだ。

 

「睦月ちゃんと卯月ちゃんも心配だけれど………、変に気を使ってくれている陽炎ちゃん達も、倒れないか心配しちゃいますね。」

「あー………アイツの性格を考えると有り得ない話じゃないからな………。秘書艦だけでも大変なのに、提督業なんてやらされていたら、胃潰瘍になりかねないし。」

「あの娘ならば、どうにか乗り越えるだろう。………その左手が解決できないのならば、現状考えないといけないのは、明日の作戦だ。磯風は、嚮導艦として行けそうなのか?」

 

もう先にウイスキーを飲み干してしまい、手持無沙汰な提督が、電や漣を見る。

磯風の資料は、当然ながら彼の元にも届いており、単縦陣が使えない事は周知の事実となっていた。

 

「正直、使えないじゃ困るんですよねぇ。漣達からしてみれば、命を預ける相手なんですから。………まあ、それは本人も重々承知しているんでしょうけれど。」

「漣さんは、磯風さんを信用していないんですか?」

「性格的には旗艦向けだと思うけれど、実際にここまで複縦陣しか使えて無いからね。自分で殻を破らないと、どうにもならないよ。………これも本人は分かっているだろうけど。」

 

まるゆの質問に、漣は冷静に答えていく。

嚮導艦を務める以上は、軽巡並の畏怖と慈愛を持って接していかなければならない。

見本になれない以上は、旗艦を変わった方がいいのは当然の意見だった。

とはいえ………。

 

「磯風ちゃんのこれからを考えるのならば、彼女を旗艦にして作戦を遂行するべきなのです。旗艦交代は最終手段なのですよ。」

「それは、彼女を成長させる為?」

「はい。これからの激しい戦いに対応するには、いつまでもトラウマ持ちでいたらいけないのです。」

「第二十五駆逐隊………だっけ?欠番である駆逐隊の今後も左右しそうだものね。」

 

少しだけウイスキーで頬を赤く染めた電は、ゴトランドに対し、持論をはっきりと言う。

トラウマがこのまま悪化するようでは、磯風も単冠湾泊地でリハビリ生活を送らなくてはいけない。

第二十五駆逐隊の未来を考えるのならば、彼女は壁と共にトラウマを乗り越えなければいけないのだ。

 

「何にせよ、磯風に関しては、現場で色々と対応するとして、当初の作戦通りに行くしかあるまい。提督、貴様の特異な博打としてのプランは、何かあるのか?」

「今の状態では、明日の朝、レーベ辺りに具申されそうだから、後方支援艦隊を結成する事にしている。」

 

愛用のパイプを指で回し始めたガングートは、提督に説明を求めた。

彼は、自分の考えを説明していく。

キス島方面突入艦隊として、第二十五駆逐隊の他に、阿武隈・レーベ・マックス・タシュケントで後方支援を行うと。

更に、北方には、ガングート・木曾・ゴトランド・宗谷・まるゆを送り込んで、敵の逃げ道を塞ぐと。

 

「幌筵に、誰もいなくなりますが………。」

「全員が真面目に任務を遂行すれば、大丈夫だろう。」

「本当に博打好きですね………。」

 

宗谷が、呆れたように提督に言う。

彼は特に気にした様子も無く、阿武隈にサインを書いて貰い、書類を作成する。

そして、ここにいる全員に言った。

 

「敵は、未知の姫クラスが5隻。どんな戦術を使ってくるかは分からないが、全員で協力して対処すれば、勝てない敵ではないはずだ。健闘を祈る。」

 

提督が敬礼をすると共に、全員が答礼をする。

出撃は朝。

流石に夜更かしは出来ないが、少しばかりはこのウイスキーの味を楽しもうと各艦娘達は思った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

そして、翌朝の明朝。

曇り空と霧に包まれる中、艦娘達は艤装を装着していた。

目指すはキス島方面。

 

「流氷は………流石に無くならないか。」

 

磯風は、手をかざして遠くを見てみる。

ここに来るまでの時と同じく、氷の塊が所々に浮かんでおり、艦娘達の航行を邪魔する存在と化していた。

その冬景色を見て、磯風の頭の中に、どうしても行きの海戦での失態が浮かんでしまう。

 

(………いや、ダメだ。出撃前からこんな状態では。)

 

空元気でもいいから、何とか仲間と自分を鼓舞しなければならなかった。

それが旗艦の役割であり、前を向く為の1歩になるのだから。

 

「磯風ちゃん。」

「どうした、電?」

 

その様子を見て何かを思ったのだろうか、磯風に電がささやいてくる。

旗艦交代の事を言われるのかと考えたが、電は違う言い回しを使った。

 

「電達は、見守っているのです。だから………困った時は頼って欲しいのです。」

「………分かった。ありがとう、電。」

 

即席の仲間達であったが、駆逐艦同士だ。

前に補佐を務めてくれていた長波がよく、寄せ集め最高!………と言っていたのを思い出す。

それだけ駆逐艦は、仲間を大事にする存在なのだから、もっと気軽に頼ってもいいはずだ。

磯風は深呼吸を数回すると、桟橋に立つ。

そして、霧に包まれた北東の島を睨みつけると、思い切って叫んだ。

 

「第二十五駆逐隊………抜錨だ!」

 

そして、海上で複縦陣になり、左前から、漣・早霜、磯風・電、春風・如月の順で航行していく。

更に、その後ろから阿武隈達の後方支援艦隊と、ガングート達の北方に回る艦隊が抜錨していく。

寒さが身に染みる中、作戦は静かに始まろうとしていた。




海外艦との交流回その2。
磯風のトラウマに関する相談が、主なテーマになりました。
ちなみにこの世界だと、艦娘達になると身体の成長が止まるという設定があります。
ですので、一見子供に見える電でも、お酒を嗜みます。
初期艦の実年齢は、様々な書籍でも謎が多いですよね。
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