艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第60話 ~彼女なりの強硬手段~

北方に回るガングート達の艦隊と別れた磯風達は、複縦陣になりながら進んでいく。

その後ろには、阿武隈率いる後方支援艦隊が、単縦陣になって少し距離を離して航行してくる。

無線で連絡がやって来た。

 

「如月、どうだい調子は?」

「ええ、タシュケントさん。良好よ。」

「………何かして貰ったのか?」

「ちょっとね。」

 

詳細までは教えて貰えなかったが、如月はタシュケントと出撃前に何かやり取りをしていたらしい。

磯風は、首を傾げながらではあったが、とりあえず前に進む事に集中しようと思った。

 

「早霜、漣………前方はどんな感じだ?」

「こちら早霜。今の所、羅針盤には嫌われて無いわよ。」

「漣。んー………でも、キス島に近づくに連れて流氷は目立ってくるね。」

 

羅針盤の影響を、自然も受けているのだろうか。

流氷が波に乗ってせわしく動く。

その中には、磯風達に近づいて来る物もある為、本当に油断できない。

中には流氷同士がぶつかって、派手な音を立てて砕けるような事もあった。

 

「あんな物に挟まれたら轟沈じゃ済まないな………。」

 

思った以上に、威力を持っている氷の塊に背筋が凍る物を覚えながら、磯風達は蛇行しつつ進んでいく。

気温が低い為、艤装に出来た氷を取り払うのも忘れてはいけない。

特に重装備の磯風や春風は、その作業が大変であったので、電や如月に手伝って貰う。

そうしている内に、キス島に近づいていくが、左右に動く氷の量が見るからに増えていく。

 

「………なあ、電。流氷が、羅針盤の影響を受けるって事はあり得るのか?」

「電の知識でも、羅針盤自身の謎が解明されてないから、明確には分からないのです。」

「だが………、何か明らかにおかしく無いか?レーベ、マックス。後ろから見てどうだ?」

 

後方支援艦隊に聞いた磯風に対し、通信から聞こえて来た声は、疑念に包まれていた。

 

「レーベだよ。………磯風、君の予測通り明らかに異常だ。流氷がまるで意志を持っているかのように、君達を阻害している。」

「マックスよ。………というか、遠目から見ると、貴女達の周りに氷が集まって来ているわ。これ、まさか………。」

 

マックスが言い切る前に、磯風はソナーを起動した。

左右から流れて来る流氷の向こう側を、調べてみる。

すると………。

 

「っ!?潜水艦ヨ級だ!?こいつ等、流氷を押している!?」

「漣!前も同じような状況だよ!」

「春風です!後方にも潜水艦と氷が………!」

 

第二十五駆逐隊の面々は、驚愕する。

敵潜水艦達は、得意の魚雷を撃たずに、静かに流氷を押して磯風達を挟み込もうとしていたのだ。

 

「何でここの深海棲艦共は頭がいいんだ!?阿武隈さん、すみません!後ろから援護を………!」

「ゴメン!こっちにも潜水艦が襲撃してきて、交戦に入っちゃった!片付けるまで待って!」

 

阿武隈の声に振り向いてみれば、確かに多数の魚雷を避けながら、阿武隈達が爆雷を投下していっている。

だが、4人しかいない事もあり、すぐに援護出来る状態では無いだろう。

そうしている間にも、流氷はいつの間にか磯風達の逃げ道を塞ぎ、氷の壁を作り出していく。

 

「挟まれるな!早霜、漣!もっと近くに寄れ!」

 

複縦陣である一同は、とにかく艦娘同士が近寄る事で、氷との衝突を回避しようとする。

だが、敵潜水艦は上手く氷を動かし、艦娘達を流氷で圧死させようとして来る。

 

「爆破するか………!?とはいえ、何処を………!?」

 

魚雷で爆破をしても、くぐり抜けられる空間を作らなければ、意味はない。

艦娘の艤装は、意外と大きい。

突破に失敗して挟まれでもしたら、一貫の終わりだ。

 

「このままでは………!」

「磯風ちゃん。」

「電………!?」

 

磯風は、電の言葉にハッとして振り向く。

その意味を理解した磯風は、途端に寒さとは違う悪寒に襲われる。

単縦陣を使え………と電は言いたいのだ。

確かに、艦娘1人分ならば、氷と氷の間を爆破して、機関一杯で一気に抜ければ、この壁から脱出する事は出来る。

しかし、ここで磯風のトラウマが出て来る。

 

「何で………こんな時ばかり………!」

 

胃の中から再びこみ上げる物を感じた磯風は、急に失語症になったかのように、言葉を発せ無くなる。

霧に包まれた空間だからか、より、あの南の海での海戦が思い起こされてしまう。

岸波に単縦陣を具申して、浜風が重症を負ってPTSDにしてしまったあの海戦が………。

沖波を犠牲にしてしまった、南方棲戦姫との戦いが………。

 

「ぐ………あ………!」

「磯風ちゃん、悩んでる暇は無いぜ!旗艦を電に譲るか、殻を破るか、どちらかしか無い!」

 

連装砲を撃ち込んで何とかしようとしている漣の様子を見て、磯風は何度も陣形変更をしようと試みる。

だが、どうしても肝心の言葉が出ない。

出す事が出来ない。

 

(私は………これでは………!)

 

もう自分は旗艦としてダメなのだろうか………と磯風が思った時であった。

ふと、頭の中に言葉が降り注いでくる。

 

(磯風さんは、勇ましいのに私を褒めてくれる。)

 

(これは………。)

 

磯風の頭に浮かんだのは、沖波の最期の海戦での言葉。

彼女は言った。

磯風は勇ましいと。

弱気な自分からも学ぶべき所があると言って、常に褒めてくれると。

それだけ、磯風という艦娘は、素晴らしいと。

その言葉を思い浮かんだ時、磯風の脳裏に、リンガでのある出来事が思い起こされた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「磯風さん………折り入って頼みがあります!」

「な、何だ、沖波?いきなり敬語になって?というか、その決戦に臨むような意気込みの頭の白いハチマキは何だ?」

「私に………磯風さんのような勇ましさを学ばせて下さい!」

「え………?」

 

ある日の夜、磯風の寝室に、何処かの海域に決戦に行くような姿で入って来た沖波から、いきなり弟子入りを志願された事があった。

状況が分からなかったので、冷静になってくれと言って、とりあえず詳しく事情を聞く事にする。

 

「わ、私………三十一駆逐隊の中でも臆病で………。白雪さんのヘビカレーも未だに直視できないし、弥生さんみたいに闘争心を発揮しようと思っても空回りで………。」

「それで、今度は私を真似たくなったのか………。といっても、自分の性格を変える事は、そう簡単には出来ないからなぁ………。」

 

口には出さなかったが、磯風は自分が豪胆な艦娘だとは思っていなかった。

只、自然体で振る舞っているだけのつもりであるのだ。

それが、元来の性格を作り出しているのだから、どうすれば沖波の望む姿を教えられるかは、分からなかった。

 

「逆に私としては、沖波の繊細さが羨ましい事があるけれどな。隣の芝生は青く見えると言うだろう?それじゃないのか?」

「でも………私は駆逐艦娘だから、もっと勇ましくありたいな………。」

「うーん………浜風はどう思う?」

 

磯風は同部屋の………今は二段ベッドの上で、ひっそりと含み笑いを浮かべていた浜風に問う。

彼女は、これだから磯風といるのは飽きませんね………と訳の分からない事を言うと、降りてきて、2人を見て言う。

 

「私としては、沖波は勿論の事、磯風もそのままでいいと思いますよ?」

「何故、磯風も含まれている?………いや、とにかくそれはどうしてだ?」

「駆逐艦は………いえ、人は助け合う事が出来るからです。」

「え………?」

 

浜風の言葉が理解できなかった沖波であったが、浜風は彼女の顔を見ると、真剣な顔になって、静かに話し出す。

 

「いいですか、沖波。眼鏡の種類が千差万別であるように、人の性格もまた千差万別。だからこそ、得意不得意が存在します。」

「だったら、不得意な事が多い私は………。」

「そう考えるのでしたら、得意な事を伸ばしてみて下さい。沖波にとって、いつも共に戦う私達は、どう映っていますか?」

「えっと………恥ずかしいけれど、家族かなって。」

 

沖波は、思わず赤面して俯いてしまう。

だが、磯風は中々良い言葉だと感じた。

同時に、沖波の優しさが顕著に表れているとも思えた。

 

「磯風達の事をそう認識して貰えるのは、非常に光栄だな。」

「はい、浜風もそう思います。………では、沖波。こう考えてみてはどうですか?貴女自身が弱虫だと感じるのは、治しようが無いでしょう。でも、家族への想いを強める事は、出来ると。」

「家族への………想い?」

「私達だけでなく、リンガや第三十一駆逐隊の大切な家族を守る為に、貴女は戦い続けようとしている。それを、誇りにするのです。家族を傷つける者は、絶対に許さないと。貴女には、その力があります。」

「家族を守る為に………それが、私の力………。」

 

浜風や磯風を交互に見ながら、何かを考える沖波を見て、2人は笑みを浮かべた。

だが、この時点では彼女達も想像できなかっただろう。

この家族を守る為の力が………、沖波最期の決死の海戦に繋がったのだから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

(そうだよな………。)

 

磯風は少しだけ目を閉じ、リンガで沖波の残留思念が見せてくれた光景を思い起こす。

命を賭けて第十七駆逐隊を守ってくれた、誇り高い艦娘。

自身しか満足に戦えない故に、捨て艦になる道を選びながらも、守り抜いた家族の事は最後まで否定しなかった優しすぎる艦娘。

その純粋な想いを裏切る事が、どれだけ重罪であるか………磯風は改めて認識した。

 

(沖波は片腕を失ってでも、南方棲戦姫に一撃を加えて皆を守ってくれた。それに比べれば………!)

 

磯風はもう一度、陣形変更の指示を叫ぼうとする。

だが、やはり胃の中からこみ上げる物があって上手く喋れない。

ならば………。

 

「電、頼みがある………!」

「何なのです?」

「私の腹を、思いっきりぶん殴ってくれ!」

『!?』

 

てっきり旗艦交代を頼むかと思っていた一同は、斜め上の願いを聞いて、思わず磯風の方を向く。

 

「い、磯風さん!いきなり何を………っ!?」

 

ドゴォッ!!

 

春風が驚きの声を上げたが、それより早く電の拳が、文字通り磯風の腹にめり込んだ。

問答無用で炸裂した衝撃が、磯風を痙攣させる。

 

「が………は………。」

 

痛烈な一撃により、胃の中の物が一気に吐き出される。

拳を叩き込んだ電の右腕にも掛かったが、彼女は気にしなかった。

その代わり、ずっと磯風を見ていた。

 

「ふ………ふふ………。」

 

思わずふらついた磯風は漣に後ろから支えられるが、その顔は笑っていた。

その様子に、早霜や春風は思わず引いてしまう。

 

「成程、確かにぶちまけてしまった方が、楽だな。感謝するぞ………電、タシュケント。」

「磯風ちゃん!」

「………ああ!」

 

電の言葉を受けて、磯風は大きく息を吸い込み、そして、今までにない威圧感を持って叫んだ。

 

「単縦陣だ!!この氷を吹き飛ばして、敵潜水艦に一泡吹かせてやる!!第二十五駆逐隊、付いてこい!!」

 

力強い言葉と共に先頭になった磯風は、氷と氷の境目に、右舷の艤装に備わった4連装の魚雷を1本ずつ叩き込んでいく。

魚雷は、迷いを吹き飛ばした磯風の意志を示すかのように、流氷を打ち砕いた。

その間に出来た隙間を、縦1列の艦隊が、両舷一杯で一気に通過し、氷の壁から脱出する事に成功する。

 

「次は、単横陣!ふざけた事をしてくれた潜水艦を、片っ端から片付ける!」

 

氷の檻から逃げられたヨ級達は、慌てて魚雷を撃って迎撃しようとする。

しかし、焦った分、自らが引っ張って来た流氷に当たり、上手く狙えていない。

磯風は、最初に目に入った潜水艦に、左舷のアームに繋がれた爆雷を落としていき、木っ端みじんにしていく。

仲間達も、それぞれ爆雷を使って、潜水艦達に反撃をしていった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「あははははは!………まさか、本当に全部吐いちゃうなんてね!最高だよ、磯風!」

「タシュケント………。貴女、何を吹き込んだのよ………。」

「一瞬、気が狂ったかと思ったよ。でも………。」

「うん!磯風ちゃんは、過去を乗り越えたね!」

 

後方支援艦隊の4人は、潜水艦達の迎撃が完了していた。

正直、磯風達の援護が間に合うか心配であったが、彼女自身が自分のトラウマを克服する事で、対処してくれた。

もう大丈夫であろう。

 

「それよりも………潜水艦達をここまで上手く率いるって事は、「親玉」は更に遠距離からあたし達の事、見ているって事だよ?」

「レーダー兵器を備えているって事ですね。………という事は、逆に言えば意外と近くにいるって事か。」

「磯風、聞こえる?その付近に貴女達の探している敵がいるわ。」

「電探で確認はできるかい?」

「ああ………。しっかりと見つけた!駆逐古姫と駆逐棲姫を!………逃すものか!!」

 

豪胆さを取り戻した磯風は叫ぶ。

潜水艦を全滅させた彼女達の視界に、左腕が巨大化した和装の駆逐古姫と、膝から下が無い小柄な駆逐棲姫が確認できた。




磯風のトラウマ克服回。
突破口になったのは、沖波の言葉と思い出でした。
この場面を描く為に、ずっと待っていたと言っても過言では無いです。
そして、磯風の回想で出て来た浜風が、本来の彼女でもあります。
浜風もまた、リンガでは磯風達との生活を楽しんでいました。
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