艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第61話 ~反撃の狼煙~

潜水艦を使った氷の檻を破られた駆逐棲姫達であったが、その顔に焦りは無かった。

何故ならば、5隻の深海棲艦は、姫クラス。

駆逐艦如きの群れに敗れる程、甘くはないと自負しているのだろう。

だからこそ、接近する磯風は、漣に聞いた。

 

「漣。敵艦は、再生能力を備えていると思うか?」

「そーだね、駆逐棲姫はともかく、駆逐古姫は姫クラスになってから、時間が経って無い。可能性は低いだろうね。」

「ならば、あの見下した笑みを浮かべる深海棲艦共に、吠え面をかかせてやるか。………1対1で勝てる算段がある者はいるか?」

「吹っ切れてから、いきなり当然の如くとんでもねー事言うな。でも………。」

 

磯風の質問に、反応が来た。

算段があると具申したのは………4人。

 

「決まりだな!阿武隈さん達は南に回って甲標的等を駆使しながら追い込んで下さい!早霜、付いてこい!各艦、散開!」

 

磯風の強気の指示で、艦隊が分かれる。

彼女は早霜と共に、一番奥に鎮座している駆逐棲姫を狙いに行く。

 

「ヤラセル物カ!」

 

そこに、素早く駆逐古姫達4隻が道を塞ごうとするが、分散した漣・電・如月・春風がそれぞれマークしに向かう。

駆逐古姫の1隻が、それを見て思わず笑った。

 

「駆逐艦ガ、1対1デ勝テルトデモ!?」

「やってみなければ、分からないのね!」

 

しかし、それに負けない勝気な笑みを浮かべながら、漣が艦娘側を代表して答えて見せる。

春風、如月、電、漣………。

駆逐艦娘の意地を見せる戦いが各所で始まった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「先手………いただきます!」

 

駆逐古姫の1隻と相対した春風は、凹型フレーム両脇の単装砲と、左手に備えたピストル型の単装砲を、連射していく。

しかし、駆逐古姫にとっては急所に当たらなければ、豆鉄砲であるらしい。

気にせずに左手の口のような大型の艤装を開くと、禍々しい光を発する口内から魚雷を扇状に発射してくる。

 

(単艦で応戦する事を提案したメリットは、こういう事なのでしょうね………。)

 

磯風も勢いだけで1対1を命じたわけじゃない。

単縦陣等では、大量の魚雷を放たれた時に、全員が回避出来ないから、このような方法を取ったのだ。

実際に春風は、落ち着いて魚雷を回避して、駆逐古姫に近づいていく。

 

「チョット!避ケルナンテ、ヒドイジャナイノ!」

「その口調は朝風さんですね。………奪った艦娘の力だけでなく、言葉遣い等も真似ますか。」

 

春風は更に機銃も合わせて連射しながら距離を詰めていく。

だが、駆逐艦である春風が敵艦に命中させられるという事は、敵艦も狙いを定められるという事だ。

艤装上部と側面に備わった計4門の5inch連装砲を、春風に対して向けて放って来る。

春風は、今度は回避行動を取らない。

 

「終ワリヨ!沈ンデナサイ!」

 

放たれる砲撃。

4門の砲撃は春風の急所に向かって飛んで来るが………そこで、春風は基部ユニットの右側に備えられていた、お手製の傘を取り出し、開く。

 

カキィンッ!!

 

「………ハ?」

「申し訳ありません。この傘は弾避けとして使えるように、堅牢に作られているのです。姫クラスとはいえ、駆逐艦程度ならば弾けます。」

 

意外な秘密兵器で敵の砲弾を弾いて見せた春風は、そう言いながら反転し、後ろの左右の連装魚雷4本を全て発射していく。

 

「マ、マジ!?………ッテ、アアアアアア!?」

 

魚雷は隙だらけの駆逐古姫の脚に当たり、派手な炎を上げて全身を包み込む。

漣の予想通り、再生能力は備えていないらしく、火傷は回復しない。

慌てた姫クラスは、魚雷をもう一度撃とうとするが、その見え見えの行動を逃すほど、春風の練度は低くない。

今度は3つの単装砲を口内に全て撃ち込み、魚雷の信管を作動させて誘爆させる。

再び響き渡る、深海棲艦の悲鳴。

 

「その腕では………接近戦は苦手でしょう!」

「!?」

 

春風は更に傘を閉じて敵艦に向けると、機関一杯で突っ込んでいき、打突兵器として敵艦の顔面に炸裂させる。

傘は先端部が平たく、槍のような形状はしていない為、大したダメージにはならない。

しかし、押し倒すには十分だった。

倒れた駆逐古姫に馬乗りになり、その顔に春風は単装砲を向ける。

 

「チョ、マ!?」

「問答無用!返して貰いますよ!朝風さんから奪った力!」

「ウァアアアアアアアアアア!?」

 

そして、トリガーを引き、何度も乱射していく。

単装砲とはいえ、急所に何度も攻撃を受けた駆逐古姫は、黒い血を流しながら沈んでいく。

 

「思ったより時間が掛かりました………。他の皆さんは?」

 

立ち上がった春風は、意外なギミックで助けてくれた自身の傘に付いた氷を払いながら、周りを見渡した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「マ、守レナカッタ!?ソンナ!?」

「あらあら、春風ちゃんやるわねぇ。私もおしゃれを兼ねて、傘を持ってみようかしら?」

 

別の駆逐古姫と対峙する如月は、のんびりと言いながら、両腕の単装砲と連装砲を敵艦に向けて放っていた。

当然、姫クラスも魚雷や連装砲で反撃を試みるが、ベテランの如月には中々当たらない。

 

「ク………落チ着ケバ!」

「そうそう、ごめんなさい。貴女に謝らなければならない事があるの。」

「エ………?」

 

突如、困ったような顔をする如月に対し、敵深海棲艦は嫌な物を覚えたように顔が強張る。

彼女は呑気に呟くと、自身の艤装をポンポンと叩く。

 

「実はね、私、強化型艦本式缶を持っているの。」

「ダ、ダカラソレガ………?」

「それでね………出撃前に、タシュケントさんに予備でストックしている、改良型艦本式タービンを貰っちゃって。つ・ま・り………。」

 

そう笑顔で言った瞬間、如月の動きが変わった。

いきなり俊敏になり、敵艦から見れば、ようやく捕えようとしていた砲撃と雷撃が定まらなくなったのだ。

これは、岸波達第二十六駆逐隊の時もそうであったが、缶とタービンが強化された事で、速力が上昇したのである。

………いや、もっと的確な表現をするのならば、出撃前には既に上がっていた速力を、この場まで「隠していた」のだ。

 

「エエ!?速イ!?」

「うふふ、目が慣れた後だと、余計に速く感じるでしょ?」

 

素早く動き回る如月は夾叉弾を放ち、狼狽している敵艦の動きを更に制限すると、そのまま身を低くして至近距離まで突っ込む。

 

「如月が今、楽にして上げるわ!」

 

そして、左腕の連装砲を顔面に、右腕の単装砲を心臓に、それぞれ叩き込むとそのまま急停止。

最後にふとももの6本の魚雷を叩き込んで、悲鳴を上げる間も与えず片付けてしまう。

 

「ちょっと、過激だったかしら?」

 

右手で熱のこもった艤装をチェックしながら、如月は満足げに笑みを浮かべた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さて、電も続くのです。」

「ボクハ、簡単ニハ行カナイヨ!」

 

駆逐古姫は、暁型特有の前傾姿勢で近づいてくる電の動きを見ながら、下がっていく。

何をするかと思えば、近くにあった流氷の後ろに隠れて、それに向けて魚雷を発射したのだ。

 

「成程………有効手段なのです。」

「潰レテ貰ウヨ!」

 

魚雷の爆発で押し出された流氷が、巨大な質量兵器となって電に迫る。

しかし、彼女は左右への回避行動を取らず、むしろ自ら増速して突っ込んでいく。

そして、左手で錨を取り出すと、それを流れて来た氷の塊に叩きつけて支点とし、勢いを利用しつつ、自身の身体を腕の力だけで氷の上に持ち上げる。

 

「何!?」

 

流石に氷の上でバランスを取って、スケートのように滑る事は出来なかった為、左肩の装甲版を上手く使い、氷の上に右半身を上げた状態で、左半身を付けて横滑りするように滑走していく。

 

「クッ………!?」

 

これには、駆逐古姫も予想外であった為、慌てて連装砲を放とうとするが、その前に電が、横になりながら右肩の連装砲を撃ち出し、敵の連装砲を2門破壊。

それでも放たれた残り2門の砲は、右の装甲版を前にかざして受け流してしまう。

 

「電の本気を見るのです。」

 

氷の上を疾走し、上手く反対側に飛び降りた電は、バランスを取りながら再び砲撃。

残りの連装砲も、見事に破壊してしまう。

 

「ド、ドウイウ技術ヲシテイルンダイ!?」

「貴女達は、艦娘を侮り過ぎなのです。」

 

涼しい顔で腰の魚雷を5本撃った電は、駆逐古姫を豪快な炎に包む。

尚も魚雷を放とうとした姫クラスに対し、電は懐から何かを取り出す。

 

「響ちゃんから貰った物ですが………。」

 

取り出したのは、ウイスキーとライター。

彼女はアルコール濃度の高いウイスキーを口に含むと、ライターの火に吹きかける。

たちまち、簡易の火炎放射となり、敵の駆逐古姫の魚雷発射管を起爆させて、左腕を破壊する。

 

「本来はここで降参して貰いたい所ですが………、素直に奪った物を返してはくれませんよね。」

「ヒ、ヒイ!?」

 

完全に武装を無力化してきた電の圧倒的な力に、恐怖心を覚えた駆逐古姫は、尻尾を巻いて逃げ出そうとする。

だが、電は溜息を付くと、最後の魚雷を撃ち出して沈めていく。

 

「長い事海戦をしていると………本音を言えば、沈んだ敵にも情は移るのです。」

 

最後に本音を呟くと、こっそりと沈んだ敵に対し敬礼をした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「さあて、漣も仕上げと行きますか!」

「シ、沈ムモンカ!」

 

漣は、フリルのメイド服に改造した制服を煌びやかに見せながら………しかし、その顔は、飢えた獣のように野性味あふれる笑みを浮かべていた。

最後の駆逐古姫は、慌てながらも魚雷を扇状に放ってくる。

 

「駆逐艦ノ実力ハ、スペックジャナイノヨ!」

「ほいさっさ………っと!」

 

漣にしてみれば、目をつぶっていても簡単に避けられる雷撃。

しかし、駆逐古姫は、敢えて回避コースを予測する事で、次の手を用意していた。

巨大な左腕を掲げ、上部と側面の5inch連装砲を放つ。

だが、全部を直撃弾にするつもりでは無かった。

側面から放たれた2門を夾叉弾として漣の横に着弾させる事で、上部から放たれた残り2門の砲撃を回避する手段を封じて来たのだ。

 

「……………。」

「終ワリヨ!何ノ特徴モ無イ癖ニ!」

 

勝ち誇ったように叫ぶ、深海棲艦。

 

(4隻の中では一番、総合的な実力が高いのかもしれないわね………。)

 

真顔になった漣は、心の中で悟る。

実際、彼女には、春風の傘や電の装甲版のような防御手段は無い。

如月のように缶やタービンを、強化しているわけでも無い。

他の3人のような戦い方は出来ないのだ。

だから………漣は手に構えていた連装砲を何気ない顔で撃った。

………飛来してきた5inch連装砲の弾丸に向けて。

 

バゴンッ!

 

「………エ?」

 

姫クラスとは思えない程の、素っ頓狂な声が聞こえてくる。

それは、そうだろう。

飛来する弾丸を、「自身の主砲の弾丸で撃ち落とした」のだから。

漣は、涼しい顔で更に連装砲を連射。

2発目と3発目で、側面の連装砲を。

4発目と5発目で、上部の連装砲を。

6発目で禍々しい光を放つ左腕の中心部に命中させて、中の魚雷ごと起爆させる。

 

「ド、ドウシテ………?」

「艦娘の事を、どう思っているか知らないけど………。」

 

一番手練れの駆逐古姫に対し、雷撃を一切使わず、最低限の砲撃だけで無力化させた漣は、呆然とする敵深海棲艦に何食わぬ顔で零距離まで近づき、心臓に連装砲を突き付ける。

そして、一転、獣のような笑みを浮かべながら、ヘビすら竦んでしまうような鋭い眼光で、敵艦を射抜く。

 

「初期艦っていうのを………舐めるなよっ!」

「ア………アア………!?」

「沈むのね!!」

 

もしかしたら、この駆逐古姫は一番不幸だったのかもしれない。

一番、慈悲も容赦も無い、無敵とも思えた相手と対峙してしまったのだから。

その猛者の砲撃を至近距離から受けた事で、最後の神風型から能力を奪った敵艦も撃沈する。

 

「ふー、久しぶりに本性見せちゃったかも。………漣の目、誰も見てないよね?」

 

普段演じているメイドの姿(と本人は思っている)から、掛け離れた眼光を見せた初期艦は、慎重に周りをキョロキョロと見渡していた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ア、 有リ得ナイ!?私ノ仲間達ガ、ドウシテ簡単ニ!?」

「即席とはいえ、第二十五駆逐隊に入ってくれた仲間達を侮り過ぎたな!最後に春雨から奪った力も返して貰うぞ!」

 

4人の艦娘達が駆逐古姫を相手にしてくれた事で、早霜と共に駆逐棲姫に近づく事が出来た磯風は、豪胆な笑みを見せる。

 

「ク………沈メ!沈メ!」

 

敵艦は、左手の5inch連装砲と膝の艤装の5inch連装砲の計4門による砲撃を、磯風に向けて放つ。

だが、彼女は機関一杯まで主機を加速させて、砲撃を潜り抜けると、お返しに両手と艤装に備わった連装砲と機銃を撃ち出していく。

 

「どうした?磯風を沈めたいのではないのか!?」

「ウッ………!?」

 

距離を取りながら、今度はバラバラに魚雷を放つ駆逐棲姫。

しかし、磯風と早霜は、これも蛇行する事で回避してしまう。

 

「磯風。魚雷はこっちの方が多いから、先に放つわ!」

「頼むぞ!砲撃支援は任せろ!」

 

夾叉弾を撃って敵の気を引いた磯風の隣から、早霜が両太ももの計8発の魚雷の内、4発を敵艦に放つ。

 

「ウァ………!?」

 

足が無い分、簡単に全身が炎に包まれる敵艦であったが、叫びと共に回転して炎を振り払う。

かなり酷い火傷を負わせたはずが、傷が癒えてしまっていた。

 

「再生能力付き………。厄介そうね。」

「ふ………でなければ、やりがいが無い!私のトラウマを吹き飛ばしてくれた礼は、たっぷりしないとな!!」

「ナ………何デ笑ッテラレル!?」

「磯風………貴女、テンションが振り切れているわよ?」

 

思わず苦笑する早霜に対し、磯風は相手の艦が気圧される程度には、強気の表情を保っていた。

不謹慎かもしれないが、磯風は久々に心の底から海戦に没頭できていた。

それだけ過去のトラウマから解き放たれた感覚は、痛快なのだ。

 

「さあ、駆逐艦達による反撃の砲火………たっぷりと味わって貰おう!!」

 

彼女は、北の海の寒さを吹き飛ばす程の熱さを持って、深海棲艦に向けて叫んだ。




トラウマを吹っ切った、本来の磯風の豪胆さ爆発の回。
それに呼応して、各艦娘達が様々な海戦を見せてくれる回でもあります。
特に春風は、日傘を利用したトリックを披露してくれました。
アーケードで伊達や酔狂で持っているとは思えなかったので、防弾性能を備えました。
こういう細かい設定の付加は、結構楽しいです。
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