艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第62話 ~謝罪と許し~

「只ノ駆逐艦ノ癖ニ!何故、強気デイラレル!?」

 

駆逐棲姫は、近づいてくる磯風や早霜を沈めようと、とにかく砲撃や雷撃を仕掛けてくる。

だが、2人はそう簡単にやられる程、甘い鍛え方をしてきたわけでは無い。

早霜は、ルーキーの時に、陽炎達の第十四駆逐隊にみっちりと鍛えられている。

磯風も、呉で修業に明け暮れていたし、何よりトラウマを振り切った事で、豪胆さを取り戻していた。

 

「早霜!夾叉弾による妨害は任せろ!奴の顔面に熱い鉛玉を直撃させてやれ!!」

「やっているわ。冷静さもしっかり持っているみたいで、安心するわね。」

 

面舵で敵の右側に回り込みながら、磯風は重装備の中にたっぷりと用意された砲弾や機銃を、惜しみなく敵艦に撃ち出していく。

出鱈目に撃っているようで、きっちりと左右ギリギリの所に着弾させて水柱を上げる姿は、深海棲艦にしてみても怖いだろう。

………というより、それ以前に相手からしてみれば、彼女の眼光と笑顔が怖くて、思わず震えあがってしまう。

その隙を、早霜が冷静に見極め、連装砲を直撃させていく。

 

「フ、フザケルナ!コッチニハ、傷ヲ癒ス力ガ………!」

「だったら、出来なくなるまで雷撃と砲撃を当てて行くだけだ!」

「ウグッ!?」

 

駆逐棲姫はとにかく距離を取り、北西に逃げながら雷撃を撃ち込んでくるが、その分、動きのパターンが単調になる。

磯風達からしてみれば、それぞれ残り4本ずつ残された魚雷を撃ち込む、絶好のチャンスであった。

 

「喰らえ!!」

 

機関一杯まで加速しながら撃ち込む、雷撃の嵐。

後退しか出来なかった故に、8本の魚雷を順番に直撃させられた駆逐棲姫は、また豪快な火柱に包まれ、悲鳴を上げる。

 

「ギョ、魚雷ヲ撃チ尽クセバ、火力ハ………!?ガハッ!?」

 

只、逃げるだけではどうしようもないと思った敵艦は、反転して攻勢を仕掛けようとするが、その身体がまた炎に包まれる。

いつの間にか磯風達の後ろまで回り込んでいた阿武隈が、甲標的を放っていたのだ。

 

「ク、クソッ!」

 

2発目は阻止しようと、何とか駆逐棲姫は砲撃で甲標的を破壊する。

しかし、その隙に阿武隈達は磯風達に合流出来た。

 

「どう、磯風ちゃん?あたし達と6人で単縦陣になる?」

「そうしたい所ですが、相手の雷撃が厄介ですので、各艦、自由行動で接近してください。………魚雷の残り本数は?」

「あたしが6本。レーベちゃんとマックスちゃんも6本。タシュケントちゃんが4本。」

「十分過ぎる量ですね。私が夾叉弾を放って、早霜に砲撃支援をさせます。各々が確実に撃ち込んで行って下さい。」

 

最後に、笑みを浮かべるとこう言ってのけた。

 

「丁度、秋刀魚漁の時期ですし、追い込み漁をしましょう!!」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

それから、10分位海戦が続いた。

駆逐棲姫は、とにかく逃げながら攻撃を当てようとする。

だが、距離を取れば自分の砲撃が当たらなくなるし、雷撃も躱されやすくなってしまう。

再生能力を備えているとはいえ、阿武隈を始めとした艦娘達の魚雷の雨にさらされると、いつ力尽きるか分からず、恐怖心が芽生えた。

 

「ダカラ………何デ、笑ッテラレルンダ!?」

 

それ以上に、敵艦にとって恐怖を煽ったのは、豪快な笑みを崩さない磯風の表情であった。

彼女のトラウマとその払拭の経緯を知らない深海棲艦にしてみれば、海戦に没頭している磯風は、駆逐艦なのに威圧感すら与える存在であった。

だから、姫クラスは次第に闘争心を失っていき、やがて混乱してしまう。

折角、強力な力を手に入れた自分が、失われることに。

 

「イ、嫌ダ!嫌ダーーーッ!!」

 

最後は意味も無く爆雷をばら撒いて、一直線に逃げていく。

あの磯風から逃れる為に。

あの駆逐艦の笑みから逃げる為に。

そして………。

 

「ア………。」

 

深海棲艦は絶望する。

逃げた先に待ち受けていたのは、更に強力な戦艦達だったのだから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

磯風達が南東に回り込み、駆逐棲姫を北西に逃がしたのは意味があった。

羅針盤に嫌われて、キス島近くに近づけない木曾やガングート達の所へ、追い込む為である。

まんまとその罠にはまってしまい呆然とする敵艦を見て、木曾は嘆息する。

 

「指揮官が無能だとどうしようもないが………、付いてきた駆逐古姫達が哀れだな。」

「シ、沈メ!」

 

思わず反射的に砲撃を仕掛ける敵艦であったが、距離感を間違えてしまい、砲撃が届かない。

 

「おい、届いてないぞ?」

「ウ、五月蠅イ!」

 

手に持ったキセルを回しながら煽って来るガングートの声を受け、姫クラスは、今度は魚雷を扇状に放って来る。

今度こそ避けられないと思ったが、その前に1人の艦娘が立ちはだかり、派手な水柱が起こる。

1人轟沈させたかと、一瞬駆逐棲姫に笑みが見えたが………。

 

「艦隊は………やらせませんよ?」

 

そこから出て来た、ほぼ無傷の艦娘の姿に、更なる絶望を味わう。

大型バルジを艤装に複数取り付ける事によって、要塞並の防御力を得た宗谷が、文字通り艦隊の盾となったのだ。

その未知なる力を前に、姫クラスはまた震えあがる。

 

「完全に呆然自失しているな。さて、まるゆ。雷撃の準備は出来ているな?」

「はい!まるゆもいつでも撃てます!」

「じゃあ………ガングート、ゴトランド。誰がアイツを沈めるか競争といこうか!」

「いいな。何処の国の力が一番か試してみるとしようか!」

「負けませんよ?攻撃機………発艦!」

 

ゴトランドがスウェーデン製の攻撃機をカタパルトから発艦させる。

更に、木曾が艤装を展開し、まるゆと一緒に大量の魚雷を放つ。

そして、ガングートが、戦艦の主砲を一斉に放った。

 

「ギャ、ギャアアアアアアアアッ!?」

 

爆撃、雷撃、砲撃。

凶悪過ぎる三重奏を一度に受けてしまった駆逐棲姫の傷は、もう回復しない。

大破状態の姫クラスは、反転して逃げていく。

 

「結果は引き分けか。」

「………みたいだな。まだまだ私達も精進が足りんか。」

「阿武隈、そっちに逃げたわよ。トドメお願い。」

 

駆逐棲姫の行方を見たゴトランドが、阿武隈に通信を送った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ゴトランドさんの言う通り、こっちに戻って来たけれど………。何か策でもあるのかしら?」

「ヤケクソなんでしょう。戦艦達よりはこちらの方が抜けられると判断したんでしょうね。」

 

鬼気迫る表情で、右手で魚雷を持ち、左手の連装砲を構えてこちらに迫る駆逐棲姫を見て、阿武隈と磯風は溜息を付く。

艦娘の能力を奪って進化した姫クラスとはいえ、仲間を失い、様々な攻撃を受けて、ボロボロにされて沈む運命だと考えると、哀れだと思えた。

 

「でも………容赦は出来ないけどね。魚雷、誰か持ってるかな?」

「私と早霜はもう使い切りました。」

「僕も無いよ。」

「私もよ。」

「あたしもだね。」

「どうする、磯風ちゃん?」

「仕方ないですね。ならば、砲撃の雨を浴びせて沈めて………。」

「おーい!漣達を忘れるんじゃないぞ!」

 

魚雷は使い果たした事を確認した一同であったが、そこに後方から駆逐古姫を仕留めた漣・電・如月・春風の4人がやって来る。

先頭に立つ漣には、まだ6本の魚雷がしっかりとあった。

 

「漣………介錯を任せる。」

「オッケー。じゃ、砲撃支援ヨロシク!」

 

漣はそう言うと、1人増速して磯風達を追い抜いていき、敵艦へと迫る。

駆逐棲姫は、砲撃や雷撃で迎撃しようとするが、一斉に飛来してきた磯風達の攻撃の前に怯み、魚雷を落とし、砲撃を外してしまう。

 

「コ、コンナ所デ!?ソンナ!?」

「悪いね!漣はしつこいから、逃がさないよ!」

 

改めて照準を定めようとする深海棲艦であったが、その前に漣の魚雷が発射される。

次々と炸裂した雷撃は駆逐棲姫を火柱に包む。

 

「アアアアアアアアアアアアッ!?」

 

遂に力を失った姫クラスは、がっくりと項垂れ力尽き、沈んでいく。

最後の敵艦の撃沈により、北方の海戦は終わりを告げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

同時刻………単冠湾泊地の桟橋では、車椅子に乗った春雨が、黒い雲に包まれた空を見上げていた。

その椅子を押しているのは、提督を務めている陽炎。

何故、2人がここにいるかというと、春雨が急に何かを感じ取ったかのように、桟橋に行きたくなったからである。

一応、何か危ない事が無いように、陽炎は艤装を付けている。

 

「春雨~。あんた、ここに何があるっていうの?私には、打ち寄せる荒波とどんよりした空しか見えないんだけれど。」

「ご、ごめんなさい。でも………何かあるような気がしたんです。」

「ああ、提督だからって、無理に敬語使わなくていいわよ。………って、何かって何?」

「えっと………何だろ?」

 

春雨曰く、とにかくここに来なくてはいけない気がしたらしい。

互いに首を傾げる中、急に波が静まり返った。

そして………。

 

ピチャッ!

 

『!?』

 

2人は驚く。

青白い腕が突如海から出現し、桟橋を掴んできたのだ。

 

「深海棲艦!?」

「ま、待って!?」

 

咄嗟にベルトで垂らしていた連装砲を構えて、迎撃しようとする陽炎であったが、春雨がそれを止める。

よく見ると、その手は半透明であり、今にも消えそうであったのだ。

その腕は桟橋を掴むと、姫クラスの上半身を起こしてくる。

春雨とよく似た姿である、駆逐棲姫の………。

 

「コイツ、春雨から能力を奪った………!」

「タス………ケテ………。」

「助けて?………何をふざけた事を言ってるのよ!あんたのせいで、春雨がどれだけ不自由な生活を強いられたか分かってるの!?」

「ウ………ウウ………。」

「さっさと消えなさい!怨念は!!」

 

艦娘の直感であろうか。

北方で磯風達に沈められて、思念だけが春雨に助けを求めに来たのだと悟った陽炎は、怒りの言葉を投げる。

それだけ、彼女は提督として、艦娘としての能力を奪われた後の春雨の絶望感等を知っていた。

立てなくなり、戦う力も自由も奪われた彼女の悲しみを………。

 

「ここに来た当初、春雨がどれだけ沈んでいたか………!どれだけ辛い思いを抱えていたか………!」

「待って!陽炎さん!お願い、怒らないであげて!」

「何言ってるのよ、春雨!あんたはコイツに………!」

「この子………泣いてる………。」

 

春雨の言葉に、陽炎はよく見る。

桟橋に這うようにしていた駆逐棲姫は、泣いていた。

両手を震わせ、涙を落としていた。

 

「ゴメン………ナサイ………。ユル………シテ………。」

「あんたね………世の中、謝罪で許されることと許されない事が………。」

「キエタクナイ………タスケテ………。」

「………はあ。」

 

陽炎は深く溜息を付くと、自分の連装砲を春雨に見せた。

 

「春雨………あんたに任せる。苦しんだのはあんたなんだから、あんたが決めなさい。」

「陽炎さん………。」

「撃って欲しいと言えば、私は躊躇いなく撃つわ。あんたの望む通りにやりなさい。」

「………もうちょっと、あの子に近づいて貰ってもいいですか?」

「……………。」

 

陽炎は、黙って………しかし、慎重に車椅子を深海棲艦に近づける。

もう、ほとんど消えかけていた駆逐棲姫は、弱々しかった。

春雨は、息を呑むと、思い切って右腕を伸ばす。

 

「おいで。」

「エ………。」

「貴女も辛いんだよね………?一緒に………行こう?」

「ア………ア………。」

 

駆逐棲姫は、ゆっくりと右腕を伸ばした。

春雨は、笑みを見せながらその手を取った。

深海棲艦も………涙ながらに笑みを見せた。

 

「アリガトウ………。」

 

そして、眩く輝き、春雨の右手の中に光が吸収されていく。

一連の流れを見た陽炎は、春雨に聞いた。

 

「春雨………どう?」

「……………。」

 

春雨は、静かに足を踏みしめると、立ち上がる。

そして、右、左と片足に力を入れながら、その感触を確かめていく。

 

「立てる!………治った!立てるよ!」

「悪いけど、あんたが「春雨」だって証拠は………?」

「えーっと、陽炎さんが最後に隠れてイチゴパフェを食べたのは、2日前の………。」

「OK、紛れもない春雨だわ。………おめでとう!」

 

陽炎は笑みを浮かべると、春雨の髪をわしゃわしゃと撫でる。

その感触を確かめながら、彼女は嬉し涙を流した。

 

「ありがとう、陽炎さん!………あ!」

 

春雨と陽炎は見た。

分厚い雲が風に流され、晴れていくのを。

単冠湾泊地に太陽が照り付け、1つの事件が解決した。




フィニッシャーは第1部であまり活躍出来て無かった、漣になりました。
第1部の由良や今回の阿武隈のように、甲標的を使ったギミックは結構好きです。
もしかしたら、私は搦め手が、好きな傾向があるのかもしれません。
また今回は、深海棲艦との共存の可能性を、描いてみました。
春雨の選んだ道も、また1つの艦娘としての道だと思いたいですね。
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