艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

64 / 109
第64話 ~陸上戦闘~

「睦月ちゃん!?」

 

単冠湾泊地の船渠(ドック)も兼ねた病棟に、如月を筆頭に磯風達は走って来た。

そこには、茶髪のショートヘアーの髪の小柄な艦娘が眠るように横たわり、五月雨のサポートを受けた、夏雲の診察を受けていた。

彼女が、睦月型1番艦の睦月だ。

その横には、緋色のクセのある髪を、兎のアクセサリーで纏めた艦娘が、落ち込んだ顔で座り込んでいた。

 

「君は………4番艦の卯月か?」

「うーちゃんだぴょん………。宜しく頼むぴょん………。」

 

元々は独特の口調が自慢の、快活な娘なのだろう。

だが、今はネームシップである睦月の昏睡により、かなり精神的に参っているようであった。

 

「卯月ちゃん!誰がこんな事をしたの!?何で守ってあげなかったの!?」

「落ち着け、如月!今の卯月には酷だ!」

「で、でも………!?いえ、ごめんなさい………。私、動揺して………。」

 

アレだけ北方では余裕を持っていた如月が、冷静さを失うほど、睦月の存在は大事であるのだろう。

その如月を抑えると、磯風は冷静に卯月に問う。

 

「卯月。一体、何が起こった?説明してくれないか?」

「そ、その………宿毛湾泊地跡を航行している時に………深海棲艦に襲われて………それで………船でここまで………。」

 

歯切れの悪い言葉を受けて、磯風も如月も違和感を覚える。

真っ青な顔をする卯月は、明らかに様子がおかしい。

 

「教えてくれ。何者が睦月を昏倒させた?」

「そ、それは………っ!?」

 

何とか語ろうとした卯月であったが、その首根っこ突如掴まれ、思いっきりぶん投げられる。

壁に叩きつけられて座り込む卯月を、慌てて夏雲と五月雨が介抱しようとするが、彼女達は驚愕した。

投げ飛ばしたのは、さっきまで眠っていたはずの、睦月だったからだ。

 

「睦月ちゃん!目を覚まし………!?」

「如月!?」

 

如月が喜んで近づくが、思いっきり腹をぶん殴られて、卯月と同じように吹き飛ばされる。

胃の中の物を吐き出さずには済んだが、いきなりの睦月の行動に、更に動揺を隠せないでいた。

その如月の前に、庇うように立った磯風は見る。

睦月の瞳はぼんやりとしており、濁っている事に。

 

「これは………!?」

 

この現象を、彼女は横須賀で知っている。

岸波が来る前に、曙の部屋の前でよく見かけた………。

そう、深海千島棲姫に意識を乗っ取られた薄雲と、全く同じであったのだ。

 

「憑依(ポセッション)か!?深海棲艦に乗っ取られている!?不味いぞ!?」

 

睦月はぼんやりとした顔のまま、おもむろに自身の眠っていたベッドを持ち上げようとする。

その様子を見た磯風は、咄嗟に睦月に体当たりをした。

 

「陽炎!全員、部屋から避難させてくれ!今の睦月は深海棲艦の力で、艤装なしでも怪力を発揮できる!」

「不知火、高雄さん!如月をお願い!五月雨と夏雲は卯月を!」

 

陽炎の言葉に、部屋に入っていた面々は、倒れた卯月や如月を連れ、一斉に外に逃げる。

その間も、磯風は体格を生かし、睦月の動きを封じようとするが、彼女のパワーが尋常でない上に、激しく抵抗してきたので、腹を蹴り飛ばされる。

壁際に追い込まれた磯風は、見た。

濁った瞳を持つ睦月が、ニンマリと邪悪な笑みを浮かべながら、ベッドを持ち上げたのを。

 

(やられる………!?)

 

艤装を付けてない艦娘は、只の少女だ。

鍛えているとはいえ、一般の人間と変わらない。

一巻の終わりかもしれないと悟った瞬間、後ろから3人の艤装を付けていない艦娘が一斉に飛びかかった。

浜風・浦風・谷風の3人だ。

 

「避難したんじゃなかったのか!?」

「すみません、放っておけませんでした!」

「今までの分があるけぇな!」

「ちょっと第十七駆逐隊のイイ所、見せないと!………って、うわ!?」

 

比較的小柄な谷風が、真っ先に吹き飛ばされる。

尻餅を付いた彼女は、投げ出されたベッドの毛布を見つけると、それを後ろから睦月に被せる。

 

「今の内に!」

 

第十七駆逐隊の4人は睦月が怯んだ隙に、とりあえず部屋を出る。

病棟の廊下では、備えてあった無線を使って、陽炎が指示を出していた。

 

「浜波!春雨!艤装を付けて来て!択捉は、松輪達の避難を!急いで!」

 

あくまでこの病棟内で何とかしようと考えているのだろう。

次々と指示を出しながら、近くの部屋から机等を並べて出口から逃げないように、即席のバリケードを作っていた。

脱出した4人は急いでバリケードの内側に避難するが、後ろからベッドが飛んできて、派手な音を立てて壊れる。

睦月が部屋にあった物を、投げ飛ばしてきたのだ。

 

「陽炎!憑依(ポセッション)された艦娘を抑えるには、どうすればいい!?」

「気絶させるしか無いわね!」

「起きてないぞ!?」

「脳震盪を起こして身体を動かなくするのよ!だから、結局は近づくしかないんだけれど………。」

 

とにかく近くにある物をぶん投げてくる睦月の姿を見ながら、陽炎は歯ぎしりをする。

当たり前だが、憑依している相手は、睦月の体の事等、使い捨ての駒としか思っていない。

だからこそ、アレだけの力を発揮できるわけで………逆に言えば、あんまり睦月を暴れさせると彼女が壊れてしまう。

 

「時間が無いわね………っと来た!」

 

陽炎は、艤装を付けた浜波と春雨が来た事で、2人に何とか睦月を止めさせられないか、聞いてみる。

 

「や、やって………みる。」

 

何とか返事をしてバリケードから飛び出した浜波は、ペイント弾を撃って牽制しようとする。

だが、所詮操っている者からしたら、使い捨ての身体であるからか、睦月は避ける気配が無い。

 

「意味………無い………。こ、こうなったら………!」

 

浜波は突撃すると、左手の連装砲を小手に見立てて、腹に喰らわせて、睦月を昏倒させようとする。

春雨も同じように身を低くして、突進していく。

浜波の鉄の一撃が先に炸裂し、更に、春雨と2人掛かりで押さえ込む。

だが………。

 

「う………うあああああああああああああああ!?」

「う、うわ!?」

「きゃ!?」

 

いきなりの悲鳴と共に、睦月が更なる力を振るった。

艤装を付けているにも関わらず、浜波も春雨も吹き飛ばされてしまう。

 

「このままじゃ………。」

 

何とか春雨は起き上がれたが、浜波は打ちどころが悪かったのか、すぐには起き上がれそうになかった。

睦月は邪悪な笑みを浮かべながら、どんどん近づいてくる。

小柄な彼女の元々の体力も考えれば、このまま、長時間放っておいて良いとは思えなかった。

 

「春雨、浜波を連れて下がって!こうなったら、みんなで艤装を付けて外で………!」

「いえ………私が何とかする!」

「え………?」

「「あの子」に協力して貰えば、きっと………!お願い、力を貸して!」

 

最初、磯風達は、春雨の言っている事が分からなかった。

だが、彼女は黙って目を閉じた。

すると………桃色の髪が光り、白く変化していく。

それは、春雨の物でなく………。

 

「駆逐棲姫………?」

「行きます!」

 

睦月はまた、近くに置いてあった机を、思いっきり投げ飛ばしてくる。

しかし、春雨は質量弾とも言えたそれを、何と右手1つで掴んでみせる。

艤装を付けているとはいえ、片手である。

 

「春雨の力じゃない!?どういう事だ!?」

「成程ね………「一緒に行こう」ってそういう事か。」

「何?」

 

1人納得をする陽炎の態度を見て、首を捻る磯風であったが、今はそれどころではない。

春雨は机を置くと攻勢に出る。

鎖で艤装の左側に巻かれたドラム缶を取り出すと、それを右手で振り回し、遠心力を付けて思いっきり投げ飛ばしたのだ。

しかし、操り人形である睦月は回避をしない。

春雨もそれが分かっていたからなのか、ドラム缶は命中させず、睦月のすぐ手前に落下させる。

だが………そのドラム缶に気を取られている隙に、春雨は駆けた。

陸上なのに、それこそ駆逐艦が海の上を滑走する程のスピードで。

 

「たあああああああああ!」

「!?」

 

投げつけられて来たドラム缶に気を取られていた睦月は、その春雨の認識が遅れた。

僅かな隙を狙い、彼女は思いっきり飛び膝蹴りを腹に喰らわせる。

蹴り飛ばされる睦月は床を転がり、起き上がろうとするが、春雨が更に飛び掛かり押さえ込む。

 

「本当は………こんな事はしたくないけれど………ゴメン!」

 

相変わらず濁った眼で自身を見上げる睦月を見て、春雨は罪の意識を覚えながらも、その後頭部に、思いっきり手刀を叩き込む。

 

「う………あ………。」

 

与えられた衝撃によって、睦月は脳震盪を起こし気絶する。

静まり返った一同の目の前で、春雨の髪が元のピンク色に戻った。

 

「止まった………のか?春雨。」

「うん、大丈夫だと思う………。でも………。」

「陰湿な敵よね………。睦月に潜んで艦娘達の同士討ちを誘ってきたんだから。」

 

用心深く睦月の元に向かった磯風達は、彼女がしっかり呼吸をしているのを見て安心する。

その上で、陽炎達に説明を求める。

 

「さっきの春雨のアレは、何だったんだ?」

「私も初めて見るから何とも言えないけれど………多分、磯風達が幌筵で沈めた駆逐棲姫の力じゃないかしら?」

 

陽炎は沈んだ深海棲艦の怨念とも言える意識が、春雨に助けを求めに飛んできた事を語った。

勿論、陽炎は反対したのだが、春雨はその意識を受け入れたのだ。

一緒に生きようと。

 

「その力は気軽に使っても大丈夫なのか、春雨?」

「流石に何度も気軽には使えないけれど………副作用は特に何とも無いよ?」

「そうか………とにかく助かった以上は、文句は言えないな。それと………。」

 

磯風は後ろにいた浜風達に、頭を下げる。

 

「浜風、浦風、谷風………さっきは助かった。ありがとう。」

「いえ………その、繰り返しますが放っておけなかったんで。」

「さっきも言うたけど、今までの分があるけぇのぉ。」

「まずは、役に立てて何より何より。………とみんな、無事か?」

「な、何とか………。」

「うーちゃんも………。」

「……………。」

 

谷風の呼びかけに、起き上がった浜波と卯月が応える。

だが、如月だけは、黙って険しい顔で睦月の所にやって来ると、呪われた左手を出して、彼女の額に置いた。

睦月を昏倒させ、あまつさえ操った外道の深海棲艦の正体を、突き止めようとしているのだろう。

 

「あ、待つぴょん!如月、ダメ!?」

「待て、如月!私も見る!」

 

青ざめる卯月の表情から何かを悟った磯風が、慌てて如月の右手を掴み、目を閉じる。

最初に映ったのは、夜景であった。

その中で、睦月は両腕の砲門を構え………隣の卯月と共に、固まっていた。

何故ならば、目の前にいた敵は、肌とロングヘアが白く染まっていたからだ。

顔は左半分を中心に鱗のような浸食が進んでおり、左手は甲殻類のような硬い皮膚と爪に覆われていた。

額には白と黒の角が数本生えており、目は片方が紫で、もう片方が赤く染まっていた。

そう、その姿は………。

 

「如月………ちゃん!?」

 

睦月の声が聞こえる。

だが、その瞬間に如月を模した深海棲艦は邪悪な笑みを浮かべ、睦月に深海棲艦独特の顔を模した艤装による砲撃と雷撃を喰らわせる。

 

「む、睦月ちゃん!しっかりするぴょん!?」

「フフ、如月ニ伝エナサイ。」

「!?」

 

その深海棲艦は、如月の声で、卯月に言い聞かせる。

まるで、お前は伝達者として見逃してやると言わんばかりに。

 

「睦月ヲ目覚メサセタケレバ、私ノ所ニ来ル事ネ。フフ………アハハハハハ!!」

 

如月のものとは思えない笑い声と共に、如月の姿をした深海棲艦は、何処かに去って行く。

全ての記憶を読み取った途端、如月は力無くぺたんと座り込んだ。

 

「なに………これ………。」

「落ち着け、如月………!奴は………!」

「睦月ちゃんを撃ったのは、私?如月が、睦月ちゃんを………?」

「違う!アレはお前じゃなくて………!」

「そんな………!そんなーーーっ!?」

 

錯乱した如月は、涙を流して意識を失った睦月にしがみ付く。

わんわんと泣くその姿に、磯風はしばらく、声を掛けられなかった。




第1部では薄雲が一時期陥っていた、深海棲艦に操られる症状。
今回は、睦月がそれを担う形になってしまいました。
そして、それを押さえる為の、珍しい室内戦闘です。
第十七駆逐隊の絆が、少し回復したのは不幸中の幸いでしょうか。
ここから、また新しい物語が展開されますので、お待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。