艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第65話 ~帰投命令~

その日の夜更けに磯風は、病棟の中にある睦月の眠っている部屋へと、足を踏み入れる事になる。

彼女は如月を模した深海棲艦の憑依(ポセッション)により操られた為、やむを得ず、布団に縛り付けられていた。

その様子が、とても痛々しく、磯風は思わず目を背けそうになった。

そして………そのベッドに縋りつくように、如月が座り込んでいた。

 

「如月………いい加減に眠らないとダメだぞ?」

「……………。」

 

黙っている彼女を見て、梃子でも動かないと思った磯風は、持って来た物を置く。

それは、如月の艤装であった。

 

「陽炎から伝達だ。………次に何かあった時にすぐ止められるように、全員艤装を装着しておいてくれと。」

「……………。」

 

艦娘は艤装を付ける事で、見かけの少女からはあり得ない力を発揮する事が出来る。

耐久力等も向上する為、緊急時は提督権限で、常時の装着が認められていた。

実際、磯風も自身の艤装を装着する事で、重い如月の艤装をこの病棟に持ってこられたのだ。

 

「それと如月………これは、私個人の言葉だ。」

「……………。」

 

ずっと黙っている如月の事は気にせず、磯風は告げる。

彼女を労わるように、優しい言葉で。

 

「私にとって、君は戦友だ。トラウマを克服する手伝いをしてくれた、大切な。だから………何かあったら、私に頼ってくれ。」

「……………。」

「失礼する。繰り返しになるが、しっかり眠るんだぞ。」

 

磯風はそれだけを言うと、部屋を出る。

如月に艤装を届けた事を、庁舎の執務室にいる陽炎達に伝えなければならない。

彼女は、後ろ髪を引かれる思いであったが、敢えて前を向き、しっかりと廊下を歩き出した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「横須賀への帰投命令だと!?」

 

執務室に報告をしに行った磯風が陽炎から聞いたのは、単冠湾泊地から横須賀鎮守府に戻れという、横須賀の提督からの命令であった。

部屋には同じく横須賀に帰投命令が出た、電・漣・早霜・夏雲がいる。

他には、提督の陽炎、秘書艦の高雄、そして、睦月の事情を彼女達に教えていた卯月がいた。

 

「ふざけるな!如月を放って、ここを離れろというのか!?」

「こちらの事情は、伝えたわよ。でも………貴女達がここに派遣されたのは、春風の件があったからでしょ?それが解決した以上、ここにいる必要は無いって言っていたわ。」

「どうにか、延長は出来ないのか!?」

「交渉はしてみたけれど………磯風、今のあんたの第二十五駆逐隊は、他の駆逐隊から借りている艦娘達ばかりじゃないの。いい加減、元の駆逐隊に戻して欲しいってさ。」

「くっ………。」

 

陽炎に当たった所でどうしようもないのは、磯風も分かる。

横須賀の提督が、今まで最大限譲歩してくれていたのも分かる。

だが………それでも、今の如月や睦月の問題を見ていると、まだ問題が解決したとは到底思えなかった。

 

「如月は………大切な戦友なのに。」

「………ありがとね、ここにいる仲間の事を考えてくれて。でも、とりあえずは横須賀に帰投して頂戴。あの深海棲艦に付いては、こっちでも色々と調べているから。」

「分かった………。」

 

本当は納得出来ていなかったが、駄々をこねた所でどうしようもないのも分かっていた。

だから、磯風は大人しく引く事にする。

陽炎は、申し訳なさそうに彼女を見た。

 

「繰り返しになるけれど、今まで本当にありがとう。横須賀でも頑張ってね。………高雄さん、桟橋まで案内してくれませんか?」

「いいわよ。さあ、行きましょうか。」

「陽炎………悪いが、外で卯月とも会話をしてもいいか?」

「ええ。卯月………あんたも磯風と話したら、休みなさい。」

「感謝する。」

 

卯月を連れたって執務室を出た磯風達は、部屋の外で彼女と相対する。

そして、横を見て高雄に言った。

 

「高雄さん。申し訳ありませんが………今から話す内容は、只の世間話という事で流してくれませんか?」

「………駄々をこねられなかったから、悪だくみか入れ知恵をするの?あんまり、陽炎ちゃんを困らせないで欲しいわね。」

「お願いします………「その時が来たら」、陽炎に伝えてもいいですから。」

「はあ………分かったわ。」

 

磯風の意志が固いと思った高雄は、溜息を付きながらも容認してくれる。

静かに礼をして感謝をした磯風は、首を傾げる卯月に対しある事を告げる。

 

「………そんな事が、ある………ぴょん。でも、可能性は………。」

「睦月を操って同士討ちを狙うような深海棲艦だ。私の勘だと、十中八九有り得ると思う。悪いが、注視してやってくれ。」

「OKだぴょん。旅の無事を祈るぴょん!」

 

敬礼をした卯月に対し、答礼をする磯風達。

そして、彼女と別れて、高雄に案内されて月の出ている桟橋へと向かったが………。

 

「ん?」

 

そこには、単冠湾泊地の艦娘達が集まっていた。

何事かと見てみたら、春風が神風達や五月雨達と、抱擁をしたり、握手をしたりしていた。

 

「あ………来て下さったのですね、磯風さん!」

「ああ、今から横須賀に帰投する予定だが………これは一体?」

「わたくし………色々と悩みましたが、1つ決断しました。」

「決断?」

「はい………わたくしの大切な姉妹を救ってくれた磯風さんに、付いていく事にしました!」

「………え?」

 

驚いた磯風は、高雄を見る。

彼女は少し笑みを浮かべると、彼女に告げた。

 

「陽炎ちゃん………提督は、もう了承しているわ。春風ちゃんは、今この時より、第二十五駆逐隊に転属よ。」

「い、いいのか!?まだ、正規メンバーは私しかいないんだぞ!?」

 

磯風と同じ、欠番の駆逐隊に入ると決めた春風に対し、彼女は思わず動揺してしまう。

しかし、春風の覚悟は本物であった。

 

「本当は、神風型全員で加勢したい所ですが、昏睡していた神風御姉様達には、リハビリ期間が必要です。ですから、わたくしだけでも、一緒に行かせて欲しいのです。」

「しかし………何故、姉妹の元を離れて、私の駆逐隊に?」

「わたくし達は………戦友でしょう?」

「春風………。」

 

春風は、もう荷物も纏めており、いつでも単冠湾泊地を出られる準備を整えていた。

磯風は、静かに目を伏せると顔を上げ、彼女の元へと歩いた。

そして、右手を出して握手をする。

 

「根負けだな。宜しく頼む、春風!」

「はい。宜しくお願いします、磯風さん。」

 

そして、磯風は集まった面々の中から、浜風と浦風と谷風を見つける。

彼女達にも、同じように握手を求めた。

 

「浜風………PTSDの克服、辛いと思うが乗り越えてくれ。」

「はい………!沖波達の戦いを無駄にしない為にも!」

「ああ。浦風、谷風………これからも、支えてやってくれ。」

「ええよ!」

「任せとけって!」

 

再会した時のぎこちなさが、幾分かは晴れた3人は、しっかりと磯風の握手に応じてくれる。

そして、また会う事を誓うと、磯風は抜錨していく。

その後を、春風・早霜・夏雲・電・漣と単縦陣で続いていった。

彼女達は、横須賀に戻る為に南西へと航行していく。

新たなる仲間を得て………更なる試練へと向かって行くために。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その頃、執務室の椅子にもたれかかっていた陽炎は、書類の束を見る。

今回の如月を模した深海棲艦の情報を、各鎮守府や警備府、泊地や基地に、共有しなければならなかったからだ。

提督業は、想像以上に難しい。

基本、上の方針には逆らえないのだから、現場の艦娘達の怒りを買う事だって少なくは無い。

勿論、武装の開発に必要だとはいえ、地下室に深海棲艦を飼うなんて、もってのほかだ。

 

(昔は提督って、雲の上の存在だと思ってたんだけれどね………。)

 

実際になってみれば、板挟みの中間管理職だ。

栄養と休養をしっかり取らないと、精神的におかしくなってしまう。

 

(リンガの老提督は、普通の精神で提督業は行えないと言っていたっけ。)

 

今ならば、その気持ちはハッキリと分かる。

自分も、高雄や不知火を始めとした艦娘がサポートしてくれなかったら、とっくの昔に潰れていただろう。

………と、ここで磯風達を見送った彼女達が執務室に戻って来る。

 

「無事に出発しましたか?」

「………したわよ、春風ちゃんと一緒に。」

「卯月とは、どんな会話をしていましたか?」

「悪だくみ。」

「そうですか。」

 

真顔で言ってのけた高雄を見て、陽炎は無理に詮索しなかった。

ネームシップである自分だって、提督になる前は色々とやんちゃだったのだから、磯風の事をとやかく言う権利は無いと思ったのだ。

その様子を見て、不知火が声を掛けてくる。

 

「陽炎………何故、もっと怒らなかったのですか?貴女は、提督なのです。もっと厳しい態度で接してもよかった。」

「ふんぞり返った所で、得られる物は何も無いわよ。それに私、磯風には期待しているの。」

「期待………ですか。それは、貴女と同じ欠番の駆逐隊を率いようとしている所からですか?」

「そうそう………岸波の事も合わせてね。」

 

嘗て、欠番の第十四駆逐隊の嚮導艦を担当した陽炎だからこそ、分かる物がある。

第二十六駆逐隊の嚮導艦になった岸波は、過去を乗り越え、新たな家族を手に入れた。

そして、第二十五駆逐隊の嚮導艦になった磯風は、トラウマを克服し、戦友を得ている。

みんな、マイナスからのスタートをプラスに変えていっているのだ。

 

「私は欠番の駆逐隊を解放して、嚮導艦の経験を積ませようとしている横須賀の提督の考えを尊重するわ。流石に、靴下の匂いは嗅がせられないけれど。」

「そうですね。でも………そうした経験を積んだ貴女でも、今は、辛そうに見える事があります。」

「……………。」

 

笑みを浮かべていた陽炎は、不知火の言葉に俯く。

もしかしたら、自分もそろそろ感覚がマヒして、狂いだしているのかもしれない。

 

「神州丸さんに守らせている地下室の件もあるとは思いますが、この特殊な泊地を守るには、正直、荷が重すぎます。」

「………上に抗議したって、次の提督になった別の艦娘が、被害を被ってしまうだけだから、仕方ないわよ。」

「貴女が本気でおかしくなったら、不知火は、曙を始めとした第十四駆逐隊の面々を連れて、上に砲撃しに行きます。」

「物騒な冗談はやめなさいって。………でも、ありがとね。」

 

多分、冗談ではなく本気で言ってくれているのだろうと思った陽炎は、敢えてそう答える事で、不知火に自制を求める。

そして、なるべく睡眠時間を確保するために、再び書類と格闘する作業に戻る。

一方で不知火は、高雄と顔を見合わせると、黙ってその手伝いに入った。




というわけで、正式に春風が第二十五駆逐隊に加入です。
ここまでかなり長かったと、自分でも思っています。
一方で、陽炎の心労も語られる回でもありました。
不知火の最後の言葉は、勿論冗談では無いです。
それでも上には逆らえないのが、提督の辛い所だと思っています。
勿論、陽炎にも今後活躍の場面はあるので、お待ちください。
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