艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第66話 ~目指すべきは………~

磯風が単冠湾泊地を去って数日間、如月はずっと睦月のいる部屋にいた。

満足のいくまで居させてやればいいという陽炎の方針があったので、食事などは春雨が用意してくれた。

その中で、壁際にある椅子に座りながら………如月はうとうとと仮眠を取っていた。

本当は布団でしっかりと寝なければならないのだが、睦月を昏睡させてしまったという罪悪感故に、とてもじゃないが潜れる気にはなれなかった。

そして………ある日の夜、彼女はふと目を覚ます。

 

「これって………。」

 

自分の脳裏に描かれた物を何度も確かめた如月は、意を決した表情で立ち上がると、神州丸から借りている外套を羽織って、傍に置いてある艤装を静かに装着する。

そして、睦月の元に行き、彼女の手を握って無事を祈る。

 

「………ゴメンね、睦月ちゃん。ちょっと行ってくるから。」

 

部屋の扉を慎重に開けて、廊下に出る。

この時間は、病棟でも流石に人通りは少なかった。

誰ともすれ違わないように気を配りながら、外に出る。

目指すべきは桟橋。

そう………如月は、抜錨しようとしていた。

提督である陽炎や、他の艦娘達に黙って。

脱走の罪状に問われる行為だが、それでも如月は我慢できなかった。

睦月は自分のせいで、今もまだ苦しんでいるのだから。

 

「ゴメンなさい、陽炎ちゃん………。睦月ちゃんや卯月ちゃんのケア、宜しく頼むわね。」

「うーちゃんが、どうしたんだぴょん。」

 

だからこそ、如月は固まった。

桟橋では、如月が罪悪感を抱いているもう1人の艦娘………卯月が、堂々と胡坐をかいて、串に刺して焼いた秋刀魚をかじりながら、座っていたからだ。

 

「う、卯月ちゃん………?」

「こんな時間に、堂々と脱走だぴょん?罰則で、泊地を何週する気だぴょん?」

「うぅ………お願い、卯月ちゃん!見逃して!」

 

流石に誤魔化せないと感じた如月は、卯月に対して思いっきり頭を下げる。

ここで、抜錨の邪魔をされてはいけない。

昏倒させて行こうにも、卯月も艤装を装着していた。

殴り合いになってしまっては、その間に他の艦娘に気付かれてしまうだろう。

だが………卯月の行動は、予想外のものであった。

彼女は静かに立ち上がると、右腕を腰に当てて如月に近づき、左手で鍵爪のように持っていた串付きの秋刀魚を1本、如月の口の中に突っ込んできたのだ。

 

「も、もごご!?(う、卯月ちゃん!?)」

「とりあえず、栄養補給をするぴょん。うーちゃんが何でここにいるか、説明をしないといけないぴょん。」

「もがが………。(はい………。)」

 

そう言えば、最近食事もまともに食べられて無かった事を思い出した如月は、言われた通りに秋刀魚を食べていく。

卯月は、その様子を仁王立ちになって見ながら、静かに聞く。

 

「まず、単刀直入に聞くぴょん。如月………あの「偽如月」の行方が分かったんだね。」

「え!?どうして………?」

「さっき「夢」を見たから。………あってるぴょん?」

「え、ええ………。」

 

睦月を昏倒させた上に、操って暴走させた原因である、如月を模した深海棲艦の行方。

実は、如月は仮眠を取っていた時に、夢でその深海棲艦の居場所を知ったのだ。

だから、抜錨して追いかけようとしたのだが………。

 

「な、何で卯月ちゃんが、そこまで詳しく………?」

「ここを去る時に磯風が、親切に教えてくれたんだぴょん。前例があるって。」

 

これは、薄雲と深海千島棲姫が、憑依(ポセッション)で繋がっていた時の事だ。

彼女は、深海千島棲姫とシンクロして、その行動を夢に見る事があった。

その為に、深海千島棲姫が大湊警備府の近くに出現した時に、いち早く察して、暴走する切っ掛けになってしまったのだ。

磯風はその時の話を、薄雲の探索に行った岸波から聞いていた為、それを卯月に伝えてくれていた。

 

「磯風は言っていたぴょん。うーちゃんをメッセンジャーに使い、睦月を操るような陰湿な深海棲艦ならば、夢で如月をおびき寄せるような真似をすると。」

「そう………ね。」

「敵艦の狙いは、如月を沈めて完璧に能力を吸収する事じゃないか………ぴょん?だったら、余計に1人での暴走は危険だぴょん。うーちゃんは、それを抑える為にここにいたぴょん。」

「ありがとう………、貴女の言う通りだわ………でも………。」

 

卯月の冷静な言葉により、勢いだけで突っ走ろうとした如月は、落ち着きを取り戻す。

しかし、それでも抜錨したい気持ちは消えなかった。

 

「卯月ちゃん。私、この泊地では呪われている存在だから、あまり表立って行動できないの。陽炎ちゃんは許してくれても、他の鎮守府とかの提督は許してくれないわ。」

「ケジメは………自分でつけたいのかぴょん?」

「ええ。深海棲艦如月は………私の不注意で生まれた存在だもの。」

 

せめて、偽如月を沈める為の海戦には参加したいと思った如月であったが、その為には自力でその地まで行かないといけない。

だが、ここで卯月は如月を睨みつけると、1つ質問を投げかけて来る。

 

「如月………ちなみにその偽如月のいる地は、どこだぴょん?」

「鹿屋基地(かのやきち)の近く。」

「………呆れたぴょん。南西の端っこだから、燃料が持たないぴょん。」

「あ………。」

 

嘆息する卯月を見て、如月は完全に失念していたことに気付く。

ここは、本土から北方に外れた場所にある泊地だ。

鹿屋基地は、本土の南西の端にある。

1人で行ったら、確かに途中で燃料が尽きてしまっていた。

 

「ど、どうすればいいかしら………。」

「まずは、横須賀の磯風の所に転がり込むぴょん。」

「え?」

「直接、言っていなかったぴょん?困った時には、力になるって。」

 

如月は思い出す。

磯風は確かに、自分にそう言ってくれた。

自分のトラウマを克服する手伝いをしてくれた如月を、今度は自分が助けるって。

それと同時に………。

 

「う、卯月ちゃん。私を………止めないの?」

「誰も最初からそんな事言ってないぴょん。只、出かけるなら、うーちゃんを置いていかないで欲しかっただけぴょん。コケにされて黙っている駆逐艦はいないからね!」

 

言葉と共に、仁王立ちで腰に手を当て、卯月はドヤ顔の笑みを浮かべる。

その頼もしい姿を見て………自分には味方がいるという事を再認識した如月は、思わず卯月に泣きついてしまう。

 

「本当にありがとう………卯月ちゃん………!」

 

卯月はひとしきり如月が泣いた後に、桟橋の端に置いてあった耐水性の荷袋から(最初如月は焦るあまり視界に入って無かった)、深い青色のTシャツを取り出す。

 

「それって………確か、毎年卯月ちゃんが秋刀魚漁に行く時に「さんま」って白のペンキで書いている物よね?」

「今年は行けなかったけれどね………ぴょん!」

 

実は、卯月も秋刀魚漁が大好きな艦娘の1人だ。

釣りスキルはあまり無いが、その代わりに両脚にダブル探照灯というスタイルで、漁船の最先端に立ち、漁師や艦娘達の援護をしていた。

その時に着ているのが、この深緑のTシャツである。

 

「流石にペンキは無いけれど、白ペンはあるぴょん。えっと………「かのやきち」………と。」

「置き手紙代わり?そんなので、分かるの?」

「高雄さんに、磯風とうーちゃんとの「世間話」を、聞き流して貰ったぴょん。これで、一発で分かるぴょん。」

「あらら………。」

 

どうやら、自分の知らない所で、様々な艦娘達が気を使ってくれていたらしい。

そのありがたみを感じながら、如月は一度だけ泊地に向けて頭を下げる。

そして、卯月を再び見ると、彼女は拳を突き上げ、音頭を取った。

 

「さあ、行くぴょん!睦月達をコケにした深海棲艦を、ギッタギタにしてやるぴょん!」

 

こうして北の泊地から、2人の駆逐艦娘がひっそりと抜錨していった。

横須賀に向けて………磯風に助けを求める為に。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………で、2人して彼女の所に行っちゃったんですね。」

「ごめんなさいね、黙ってて。」

 

単冠湾泊地の執務室では、陽炎が溜息を付きながら、高雄が桟橋から拾ってきた卯月のTシャツを眺めていた。

自分が把握していない所で、色々と事が運ぶのは困るが、如月1人で暴走されて沈まれるよりは、余程マシだろう。

 

「こう言ったら何ですけれど、高雄さんも丸くなりましたよね。」

「駆逐艦娘のやんちゃぶりには、ある程度は慣れたつもりよ。それに、この泊地にいれば、気持ちも変わるわ。」

「そうですね。さてと………。」

 

陽炎は、電話の受話器を取る。

まずは横須賀の提督に、事情を説明しないといけない。

きっと、話を聞いたら泡を吹くだろう。

以前、第二十六駆逐隊の転籍の件で、かなり参っている様子であったが、仕方ない。

 

「まあ………最悪、大淀さんが何とかしてくれるでしょうね。」

「セクハラをされない事を、願うばかりだわ。」

「あの人ならば、大丈夫だと思いますよ。んじゃ………。」

 

陽炎は密かに反応を楽しもうと、悪趣味な事を思いながら、各鎮守府の提督達に電話を掛け始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「磯風………お前には、陽炎や岸波の悪い所を真似ろとは言ってないぞ。危うく、大淀にまた倒れ込む所だった。」

「そこはまた、床に倒れ込んでいてください。」

 

翌日、横須賀鎮守府の執務室では、提督と秘書艦の大淀が、いつも通りの会話をしていた。

………といっても、横須賀の提督にしてみれば、波乱が転がり込んで来た事で、溜息を付きたくなる思いだったが。

部屋にはその原因を作った磯風と春風の第二十五駆逐隊の2人と、横須賀に無事に付いた如月と卯月が入っていた。

 

「まず、如月………夢の内容だけ伝えて、単冠湾泊地で待っている選択肢は無かったのか?」

「ごめんなさい、司令官。でも、これは如月が目を背けたらいけない問題だと思ったので。」

「そうか………。」

 

多分、怒鳴っても帰ってはくれないと感じたのだろう。

提督は、磯風の方を見る。

 

「磯風、お前は提督業の苦労を一度知るべきだ。脱走を出向に変える作業は、想像以上に大変なんだぞ?」

「申し訳ありません。ですが、これが現場の意向です。後で鎮守府何週でもしますから、今回は多めに見て下さい。」

「そうやって岸波も以前、俺に何度も言って来たんだがな………。しかし、仮に鹿屋基地周辺にその偽如月がいるとして、いつ襲撃をしてくるか………。」

「予測は出来ますよ?」

「何?」

 

磯風の言葉に、提督だけでなく、部屋にいた全ての人物が注目する。

彼女は一通り周りを見渡すと、話し始める。

 

「恐らくは、新月の夜です。この時間帯だけは、如月は呪いによって深海棲艦の姿になります。………つまり、艤装以外は偽如月と瓜二つになるんです。」

「成程………敵と味方の区別がつきにくくなるって事か。だが、それならば余計に如月は連れて行くべきでは無いのでは?」

「逆ですよ。如月が行かなければ、敵の襲撃タイミングが読めなくて、被害が出る可能性が一気に上がります。きちんと防衛準備を整えた上で、如月を交えた艦隊で迎撃すべきです。」

「お前………そんなに頭が良かったか?」

「私だって成長します。」

 

最後は少しだけ不機嫌そうに言った磯風は、提督の指示を仰ぐ。

勿論、彼女や春風は、如月達に協力するつもりであった。

それを踏まえた上で、提督は静かに告げる。

 

「結論から言おう。仮にそんな厄介な深海棲艦がいるのならば、下手に横須賀から艦隊を連れ出す事は出来ない。」

「駆逐隊でも、ダメですか?」

「遠征が可能で、小回りが利いて、夜戦で強力な一撃を叩き込める駆逐艦を、俺自身は侮ってはいないぞ?貴重な防衛戦力だ。」

「では、私達4人だけでも出撃命令を………。」

「待て。「横須賀から」と俺は言った。………愛宕、もう外にいるな。その3人を連れて、入って来い。」

 

提督が扉の外に指示を出す。

大淀が扉を開けると共に、重巡の愛宕が、3人の駆逐艦娘を連れて入って来た。




秋刀魚バルログ持ちクソダサTシャツダブル探照灯ガイナ立ちドヤ顔秋刀魚モード卯月。
個人的には、心の中でこう呼んでいますが、かなり好きな季節限定イラストです。
流石にそのまま海戦はさせられないので、悩んだ結果、こんな形での登場になりました。
皆様も、大好きな季節限定イラストはあるでしょうか?
私はF作業&秋刀魚系イラストが全体的に好印象です。
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