艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第69話 ~艤装の応用技術~

佐世保の工廠(こうしょう)の中は、所々熱気がこもっており、秋が暮れるこの時期は過ごしやすい場所だ。

夜更けにも関わらず、金属を叩く音が響き渡るのは、金剛や妙高を始めとした艦娘達が艤装をボロボロにして帰投していた為、作業員達が急ピッチで修理を進めていたからである。

その中を、巻波に左手を引っ張られながら(手袋越しとはいえ彼女は呪われた手を気にしてはいなかった)、如月は工廠(こうしょう)の中を進んでいく。

時々巻波が、作業員達に挨拶をするので、必然的に如月も頭を下げる事になった。

そして、奥にいる女性の所に到着する。

 

「あなたは………。」

 

その女性は、緑がかった銀髪で前髪ぱっつん、セミロングをポニーテールにして大きな緑のリボンで留めるというヘアスタイルをしている。

制服はへそ出し半袖の黒いセーラー服にオレンジのリボンと緑のミニスカートという専用の組み合わせであった。

そう、彼女は如月も知っている艦娘………兵装実験軽巡の夕張であった。

 

「夕張さーん!左腕、海戦でぶっ壊れちゃった!忙しい所悪いけど、予備のちょーだい!」

「んー?うわ、巻波ちゃん!?派手にやっちゃったわねー………。船渠(ドック)入りは?」

「順番待ち!だから、先にコッチ済ませようと思ったんだけど………。」

 

ここで巻波は、おどおどとしている如月を見る。

夕張は成程………と納得すると、巻波と一緒に、近くに置いてある椅子に座るように指示する。

 

「少し提督に伝えるのは、待ちましょうか。何か、困った事があるみたいだからね。」

「こ、困った事と言っても………。」

 

如月は迷いながらも、自分自身が呪われた存在故の化け物であり、それで巻波を含めた様々な艦娘達を不幸にしている事を告げた。

このままだと、故郷である佐世保の全ての艦娘や、自分を信頼してくれている磯風達も不幸にすると。

 

「それが逃走理由ってわけか。まあ自分だけ異端だと、周りの目は怖いよねー。」

「……………。」

 

軽い口調で言ってのける巻波であったが、機械化された左腕を持っている所を見ると、想像以上の苦労をしているのだろうか?と如月は思ってしまう。

その視線を感じとったのか、巻波は少しだけ笑みを見せながら如月を見る。

 

「少し………私の過去、話そっか。」

 

そう言うと、彼女は自身の生い立ちに付いて話し始めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夕雲型5番艦巻波は、元々は舞鶴で鍛えられた艦娘だ。

岸波が参入する前に、第三十一駆逐隊の旗艦を担った事があり、艦娘としては上々の滑り出しであった。

改二艦にはなれなかったが、仲間達と経験を積む事で、確かな経験を手に入れていたのだ。

だが………。

 

(ある遠征に行った日………だったかな。遭遇した姫クラスの深海棲艦の爆撃をまともに受けた影響で、左腕が吹き飛んだんだよね。)

(そんな………。)

 

応急処置と船渠(ドック)入りと高速修復材(バケツ)で何とか一命は取り留めたが、吹き飛んだ左腕は戻ってこなかった。

勿論、これを機に退役する事も考えた。

だが、巻波は、元々ストリートチルドレンだった所を、艦娘にスカウトされた経緯があったのだ。

その為、片腕だけで生活をしていく事も考えると、一般市民に戻るのは困難であった。

 

(結局は、艦娘として隻腕で過ごすしかなかったんだよね。夕雲型で利き腕は残ってたから、海戦にあまり支障は無かったけど、奇異の目で見られる事も多かったっけ。)

(あ………。)

(後は、日常生活で過ごしにくくてさー。大好きなカレーも満足に作れないし、趣味のF作業も出来ないのは苦痛だったなー………。)

(そう………なのね………。)

 

そんな折であった。

舞鶴の提督の推薦によって、佐世保へと転籍する事になったのは。

そして、そこで彼女は夕張を紹介して貰った。

 

(佐世保にいた如月は詳しいと思うけど、夕張さんは、呉の明石さんと仲が良くてさ………、よく艤装の改造とかで談義をしていたんだ。)

(そこで………その経験を活かして、義腕を作って貰ったの?)

(上からの実験も、兼ねてね。艤装なんだ………この左腕は。)

(艤装………?)

 

艦娘は、艤装を背負う事で、本来ならば有り得ない力を発揮する事が出来る。

例えば、魚雷発射管を自分の意志で操り、魚雷を自由なタイミングで放つ事が出来るのは、それが艤装だからである。

脳で考えた事が、そのまま体の一部のように動かせる仕組みを、何とか応用できないかと夕張達は考えたのである。

そして、苦心した結果、義腕を艤装の核となる缶と連動させる事で、艦娘の意志で自由に動かせるようにしたのだ。

 

(艤装を背負っている事前提だけど、まるで魔法が掛かったみたいだったよ。もう永遠に失われたと思っていた腕が、返ってきたんだからさ。)

(奇異の目で見られる事は………。)

(勿論、まだあるよ。でも………それでも腕が無い時に比べれば、100倍マシだって感じた。カレーも作れる!F作業も出来る!諦めていた事が出来るだけで、もう最高だからね!)

(……………。)

 

そして、新たな腕を手に入れた後は、恩を返す意味でも、この佐世保で奮闘しているのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「………とまあ、さらりと言うとこんな感じ。如月が感じたように、ちょっとは苦労してるかもね。」

「ちょっと………ってレベルじゃないわよ。そんな簡略化していい過去じゃないわ。」

 

飄々と語った巻波の姿を見て、如月は悲しみを覚える。

如月自身も、左手が呪われた当初は、上手く扱えず生活面で苦しんだ。

隻腕でずっと過ごしていた巻波は、それ以上の苦労をしていたのは明白だ。

周りからの奇異の目も、そうだ。

人は自分と違う存在に、様々な視線を投げかけてしまう。

好奇心、軽蔑、不憫………そんな色々な目で、ずっと見られていた巻波の精神が、どんな状態だったのか如月には想像が付かない。

いや、それは機械の義腕を手に入れた現在も、まだ続いているのかもしれないのだ。

 

「あなたは………強いのね。」

「いやー、ベテランの如月に言われるなんて、照れるなー。でもさ………私、こういう経緯あるから、夕張さんを始め、色んな人に迷惑掛けてきてんだよねー。」

「艤装としてのデータを取る為なんでしょ?だったら………。」

「それは、提督達にしてみれば建前なんだよ。ホントは、落ち込んでた私をどうにかする為に、頭を使ってくれてたんだ。だから………ね。」

 

巻波はここまで言うと、少しだけ困った顔をして、天井を見上げて言う。

 

「ある日、佐世保の提督に思い切って言った。提督の愛人になるって。」

「!?」

 

思わず如月は椅子から転げ落ちそうになり、慌ててバランスを取る。

佐世保の提督には、実は一般女性と結婚と離婚を繰り返すという、悪い一面がある。

艦娘に手を出すだけの度胸は無いらしいが、新しい女と出会う度に、色々とその事すら冗談として利用するだけの開き直りがあるらしい。

確か、如月が昔、重巡の那智に聞いた時は、その時点でも5回は離婚歴があったらしいが………。

 

「あ、あなた………。」

「本気だったよ。私にとっては恩人だし、何度も頭下げてくれたのは、分かっていたからね。」

「へ、返事はどうだったの!?」

「断られた。………珍しく真剣な顔で怒られたよ。「最前線で危険と戦う駆逐艦娘が、一々周りへの迷惑を気にするんじゃない!」………ってね。」

「っ!?………巻波ちゃん。」

「そーいう事!」

 

巻波の言いたい事を理解した如月は、思わず目を見開く。

彼女は如月に、鉄砲玉として奮闘する駆逐艦なのだから、その分、幾らでも迷惑を掛ければ良いと言いたかったのだ。

しかし、それで如月が納得出来るはずがない。

 

「でも、私が迷惑を掛けたら………。」

「仲間が沈む?佐世保が滅ぶ?………だったら、信頼無いなぁ。」

「う………。」

「いいんだって、迷惑掛けちゃったっても。納得いかないのならば、何処かで利子付きで、恩を返してくれればいいんだから。」

「あなたは………平気なの?」

「駆逐艦はいがみ合っていても、いざという時は団結するものじゃん!それに、私の舞鶴魂は、こんな所で燃え尽きないって。………如月の仲間だって、そうでしょ?」

 

右手をひらひらさせて………しかし、最後の部分は真面目に答えた巻波の様子に、嘘を付いている気配は無い。

如月の脳裏に、磯風や初風達の姿が浮かぶ。

彼女達は単冠湾泊地の地下室や、佐世保に来る電車内で、如月を受け入れてくれた。

しかし、それに対する安堵が、逆に今、如月を追い詰める事になってしまった。

だが………言い換えれば、勝手に豹変してしまったのは如月で、彼女達に変化は無いのだ。

 

「謝らないと………。」

「じゃあ、提督達を呼んでも大丈夫ね。」

「夕張さん………。」

 

恐らく、ずっと話を聞きながら整備をしていた夕張が、巻波の義腕を1本持ってくる。

そして、彼女の破損した義腕を外すと、新しいものを取り付けた。

 

「どう?巻波ちゃん、動く?」

「あまり動きは良くないですね。多分、海戦のダメージで、艤装の缶の調子が悪いんだと思います。」

「だったら、予備の艤装を渡すから、しばらくはそれを付けてね。」

 

左手の指を開いたり閉じたり、腕を上げたり下げたりして動きを確認する巻波の様子を見ていた如月は、目を伏せ頷き立ち上がる。

 

「夕張さん………お手数を掛けますが、お願いします。」

「ちょっと待っててね。」

 

如月の目に強さが戻るのを確認した夕張は、無線で執務室に連絡を取る。

秘書艦の菊月が対応してくれたので、間もなく提督達がやって来るだろう。

相対する事に対する恐怖心が無いと言えば、嘘になる。

それでも如月は、今の自分の素直な想いを伝えようと決めた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

工廠(こうしょう)の中を進んでいった磯風達は、巻波と夕張を連れ立った如月を見た。

彼女は前に出ると、全員に頭を下げた。

 

「まず………本当にごめんなさい。私の身勝手な行動で、みんなを心配させてしまって。」

 

そして、顔を上げると真剣な表情で告げる。

 

「深海如月は、間違いなく私の不注意で生まれた存在です。私に瓜二つの深海棲艦が、佐世保のみんなを苦しめている。私自身がみんなを不幸にする呪いその物だと思うと、それは正直、とても怖いんです。」

「如月………。」

「でも、私はもう逃げたくない!だから………皆さん、深海如月討伐に向けて、改めて協力して下さい!」

 

もう一度深々と頭を下げた如月。

例え、投げかけられたのが暴言だとしても、受け入れる覚悟でいた。

しかし、そうした所で、頭を撫でられるのを彼女は感じる。

見上げれば、金剛が如月に対して、笑みを浮かべていた。

 

「如月。磯風がユーに、言いたい事があるそうデース!」

「磯風ちゃんが………?」

 

如月は、いつの間にか提督よりも前に立っていた磯風を見る。

彼女は如月を見ながら、意を決した顔で言う。

 

「如月からの連絡を待っている間、卯月や春風達とも相談してな………。それで、決めた事があるんだ。」

「?」

「如月………私達の戦友として、正式に第二十五駆逐隊に入ってくれ!」

「え!?」

 

磯風がハッキリと告げた内容に、如月は流石に驚かされた。




「義腕艦娘」というのは、艦これの世界で一度出してみたかった要素です。
適正のある艦娘が、艤装を自由に操れるのならば、その技術の応用もあるのでは?
そう考えてみた結果思いついたのが、艤装と義腕の接続です。
艦これの世界は、どの年代のどの位の文明なのかは明らかになっていません。
しかし、少なくともこういう技術はあったのかな?と感じて描きました。
巻波を採用したのは、後の話の後書きでまた………。
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