艦隊これくしょん ~受け継がれる想い~   作:擬態人形P

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第7話 ~実戦、そして………~

朝食を取った岸波は、装備品保管庫から艤装の準備を整え、桟橋へと向かう。

天候は曇り空であった。

天候と深海棲艦の関係は不思議なもので、天候が悪ければ悪いほど、強力な深海棲艦が出現する傾向がある。

念には念を入れる形で電探やソナーの調子を確認している所に、少し遅れて嵐、野分、舞風の第四駆逐隊がやってくる。

そして、更に遅れて曙が、黒髪の外はねのショートボブが印象的な艦娘を連れてきた。

 

「その人は………。」

「提督が呉からパクって来てる吹雪型4番艦の深雪よ。6人編成にしたかったから協力を求めたわ。」

「深雪先輩、宜しくお願いします。」

 

岸波と第四駆逐隊の面々が礼をした事で、深雪はニカニカと笑いながら手を横に振る。

 

「深雪でいいって。ま、この深雪さまがいれば百人力だから安心しな!」

「深雪………悪いけど、アンタはサポート。メインで鍛えるのはそこの4人よ?」

「分かってるって!………じゃ、お手並み拝見させて貰うぜ、旗艦岸波!」

「了解しました。」

 

岸波はもう一度礼をすると桟橋の端に立つ。

そこで、1つ疑問が浮かんだので無線のテストも兼ねて曙に問う。

 

「私は何処の艦隊を名乗ればいいのですか?」

「何言ってるの………。自分の艦隊開放して貰ったでしょ?」

「でも、ぼの先輩は第七駆逐隊ですし………。」

「今はアンタの艦隊に入ってるから遠慮しなくていいわよ。」

「そうですか、では………。」

 

岸波は息を吸うと、勇ましく声量を出して叫ぶ。

 

「第二十六駆逐!抜錨!!」

 

これが岸波の第二十六駆逐隊としての初めての号令になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

陣形はとりあえず複縦陣という形を取って航行を始めた。

左前から野分・舞風、岸波・曙、嵐・深雪の順番だ。

潜水艦や偵察機等に注意をしながらどんどん海域を進んでいく。

 

「近海警備だから海戦が起きない可能性もあるわね………。」

「ぼの先輩、深海棲艦と遭遇しないのが一番良い事なのでは?」

「それはそうだけど、逆に言えばあたし達が見逃す事で、別の艦隊に苦労を押し付ける可能性もあるわ。」

「成程、勉強になります。」

 

無線で流れてくる曙の言葉のうち、ためになる物は積極的に頭の中に刻みながらも、岸波は注意を欠かさない。

そんな岸波を横目で見ながら曙は静かに告げる。

 

「昨日、薄雲に会ったみたいね。サイダー美味しかったわ。」

「それは何よりです。お礼は鳳翔さんまでお願いします。」

「彼女の事、気になると思うけど今は頭の中から取り除いて貰えるかしら。」

「ぼの先輩がそう言うなら。」

 

深雪を含め他の4人が何も言わない所を見ると、曙が今の薄雲に対して何かを背負っているのは横須賀では周知の事実であるらしい。

昨日の墓地で出会った朧の事といい、曙は色々と背負い過ぎているな………と感じた岸波はここで、敵艦の気配を察知する。

それは、先頭の野分と舞風も察知したらしく無線で情報が伝わってくる。

 

「敵艦発見!エリート級重巡リ級1隻、エリート級雷巡チ級1隻、エリート級軽巡ト級1隻、駆逐艦ニ級改3隻!」

「単縦陣だよ!こっちに気づいて面舵を取り始めた!T字有利にするつもりかも!」

「魚雷を撃つ可能性が高い!複縦陣のまま取舵で同航戦に移行!敵の雷撃を回避後、こちらも魚雷を撃つ!」

 

岸波の指示で艦隊が左にカーブする。

敵影もこちらから見て左にカーブした事で並ぶ形になる。

 

 

「魚雷は誰に来る!?」

「分からないならば、囮を作ればいいわ!」

「囮!?」

 

驚く嵐に対し、岸波は敢えて陣形を無視して右方………つまり、敵から見て前方に飛び出す。

恰好の的の出現に敵6隻は全て岸波に対し魚雷を放つ。

だが………。

 

「対処方法は曙が教えてくれたわ!」

 

岸波は爆雷を取り出すとそれを魚雷に向けてばら撒く。

その爆雷は着水した途端に爆発を起こし、敵の魚雷を次々と誘爆させていく。

僅かだが、敵艦が驚きざわついた気がした。

 

「アンタ………あたしが決闘でやった時みたいに爆雷の水圧設定を変更していたの?」

「雷撃戦用意!野分と舞風と曙は雷巡チ級を!私と嵐と深雪はニ級改を1隻ずつ!味方同士で魚雷をぶつけないように1本ずつ撃って!」

 

すぐさま陣形の中に戻った岸波は、曙の呆れたような言葉を無視して指示を出す。

全員言われた通りに魚雷発射管を準備する。

 

「雷撃戦………開始っ!!」

 

岸波の指示で各々が魚雷を発射する。

敵が岸波の奇策で動揺していたのもあり、放たれた魚雷は回避する暇もなくチ級1隻とニ級改3隻に吸い込まれて行き、派手な爆発を起こして沈める。

 

「やったやった!大当たり~!」

「舞風!リ級に狙われている!深雪はト級に!回避行動!!」

「………って、うわ!?」

 

敵艦を撃沈して喜んでいた舞風は岸波の警告で慌てて身をよじるようにリ級の放った砲撃を回避する。

一方で深雪はベテランであるらしく、涼しい顔でト級の砲撃を回避していた。

 

「この隙に敵前方に回り込む!最大船速!」

 

更に岸波の指示が飛んできた事で、野分と舞風が先頭になってリ級の前に回り込む。

T字有利になった所で、今度は岸波達が主砲を構える。

 

「時間差砲撃!曙と深雪で敵の腕を弾け!確認後、すぐさま残りの4人でトドメを刺す!」

「考えてるわね………深雪!」

「おうよ!深雪スペシャル見せてやる!」

「砲撃………撃てーーーっ!!」

 

岸波の言葉で曙と深雪が先に撃つ。

その砲撃はリ級の堅い腕に阻まれるが、バランスを崩してしまう。

続けて岸波達4人が砲撃を放った事で左胸に砲が突き刺さり、黒い血をまき散らしながらリ級は沈んでいく。

残ったト級は思わず反転して逃げようとするが、その前に素早く反応した岸波が魚雷を1本発射し、命中させて沈めていく。

これで海戦はひとまず終了した。

 

「………各艦、損傷確認。周りへの警戒も怠らないで。」

「岸波………お前、いつもと海戦の時とテンションに差があり過ぎるな………。」

「嵐………それはどうでもいいでしょ?それより、1つ。舞風………敵艦撃沈後が一番危ないんだから油断しないで。」

「ご、ごめんなさい………。」

 

すぐさま今の海戦時の反省を促す岸波は、同時に自身も艦隊の損傷を確認する。

幸いどの艦も魚雷を消費した事を除けば無事であった。

只、ポツポツとであるが雨が降ってきたのが気がかりであった。

 

「………嫌な予感がするわね。ぼの先輩、帰還しましょうか?」

「妥当な判断ね。このまま無暗に消耗して集中力を切らしたら被害は出るでしょうし。」

「いや………その前に、何か来るぜ?」

 

深雪の言葉に電探が敵艦を捕捉している事に気づく。

 

「隊列変更。………いつでも逃げられる状態を作っておくわ。」

 

主に偵察を務める駆逐艦の役目として、敵艦の組み合わせだけは把握しておこうと、岸波は前に出る。

前から岸波・曙、深雪・嵐、舞風・野分という複縦陣だ。

ソナーに反応が無い事から潜水艦はいない。

偵察機が飛んでこない事から空母もいない。

只、岸波の直感で何かしら嫌な予感がした。

やがて、視界の向こうに敵艦が見えてくる。

重巡ネ級が2隻、エリート級戦艦ル級が2隻、エリート級軽巡ツ級が1隻、そして………。

 

「フフフ………アハハハハハ!!」

『!?』

 

まるで海の底から響き渡るような声と共に白いロングヘアの娘が登場する。

深海棲艦と分かる真っ白な肌を持っているが、一番異形であるのは背負っている艤装のような物から生えている巨大な腕。

右腕は手の甲に連装砲が付いており、左腕は指が魚雷になっている。

そして、生身の手には………何故かボロボロになった紫の紐が握られていた。

 

「新種?………岸波、意見具申するわ。撤退しましょ。」

「賛成です。取り巻きも厄介なのに、「姫」か「鬼」クラスがいたら………。」

「おい、どうした!?おい!?」

 

深雪の叫びに岸波は横目でちらりと背後を見て………そして驚愕する。

この状態の中、嵐が棒立ちになっていたのだ。

いや、嵐だけじゃない………野分も舞風も呆然としている。

 

「萩………なのか?」

「え?」

「萩なんだろ!?その姿、その髪留めのリボン!?」

「何言って………。」

「ヤット会エタ………。嵐、野分、舞風………。」

『!?』

 

今度こそ岸波も曙も深雪も驚愕する羽目になる。

敵の姫か鬼クラスの深海棲艦は、第四駆逐隊の事を知っている。

そして、嵐………いや、野分と舞風も含め、彼女達はその深海棲艦が萩………萩風だと特定している。

 

「やっぱり………!やっぱり萩は生きてたんだ!良かった、帰ろう萩!横須賀へ!さあ!!」

「ソウネ………オ前達ヲ沈メタ上デナァッ!!」

 

萩風と呼ばれた深海棲艦の目が怒りによって見開かれる。

それによって5隻の僚艦も不気味な笑みを浮かべ、それぞれの砲門を開く。

 

「は、萩………!?待ってくれ!俺達は………!」

「ちょっと、黙って貰うぜ!」

「ガ………ッ!?」

 

唖然とする嵐に対し、隣にいた深雪の判断は早かった。

彼女は嵐の腹に主砲を潜り込ませ、鉄による一撃を喰らわせると気絶させる。

そして、後ろで驚きの表情を浮かべた野分と舞風に嵐を渡す。

 

「横須賀まで曳航していってくれ。」

「で、でも………。」

「死にたいのかっ!?いいからさっさと連れてけっ!!」

「は、はい………!」

 

いきなり駆逐艦なのに軽巡クラスの眼光と怒声を放った深雪に、舞風と野分は、なすがままに嵐を連れて一目散に逃げていく。

 

「アンタ、今の怒声を「深雪スペシャル」って言った方がいいんじゃないの?」

「冗談はここまでにしてくれよ。………ここからどうする岸波?」

「どういう原理か知らないけれど、敵艦はあの旗艦に呼応しているわ。曙、爆雷の水圧設定は?」

 

先程の海戦で爆雷を使い切った岸波が曙に問う。

 

「2個だけ着水時に爆発するようにしているわ。………どこにぶつける?」

「投射機で旗艦が魚雷撃つ瞬間に当てて。………他の魚雷は各々が自力で回避して貰う事になるけれど。」

「分かったわ………任せなさい!」

 

曙が後ろに隠した連装砲の爆雷投射機に爆雷をセットする。

敵旗艦が巨大な艤装の左手をこちらに向けた。

その瞬間………。

 

「喰らいなさい!」

 

曙が素早く爆雷投射機を放つ。

それは、指から放たれた魚雷の傍に着水し爆発を起こし、艤装の左手を吹き飛ばす。

 

「アァァァァーーーッ!?」

 

焼けつくような痛みを感じたのだろう。

敵旗艦は絶叫して左腕を押さえる。

だが、その巨大な手が徐々に再生していくでは無いか。

 

「再生能力付き!?」

「魚雷来るぞ!!」

 

続けて重巡ネ級2隻と軽巡ツ級1隻から放たれた魚雷が3人を狙う。

陣形はもう作れない状態だったので、個々の能力で回避するしかない。

岸波は回避。

深雪も回避。

だが、敵旗艦を狙っていた曙だけ僅かに回避が遅れた。

 

「まずっ!?」

 

咄嗟に魚雷を破棄し爆雷の入ったポーチを捨てた曙のつま先に魚雷が命中し、彼女は派手な炎に包まれる。

ダメージはそこまででは無かったが、左脚の主機が吹っ飛び、思うように航行出来なくなった。

 

「深雪!魚雷残り全部!後、しんがりお願い!」

「任せな!」

 

岸波が残り6本の魚雷を敵旗艦に放ち、そのままバランスを保てなくなった曙を曳航していく。

更に時間差で深雪が残り5本の魚雷を纏めて敵旗艦に放つ。

最初の6本は艤装の巨大な右腕でガードされるが、それで連装砲ごと手の甲が吹き飛び、再び悲鳴が上がる。

続けて放たれた5本は軽巡ツ級が庇った。

 

「オノレ、オノレーーーッ!!」

 

痛みと庇ってくれた仲間を沈められた事で更に怒りに火がついたのか。

敵旗艦の命令で、戦艦や重巡から砲撃が残った深雪に飛んでくる。

 

「写真だけは頂いとくぜ。」

 

その砲撃を躱しながら、深雪は懐に仕舞っていた大型のカメラで敵旗艦の写真を撮ると、一目散に逃げだした。

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